和風ファンタジー世界にて、最強の武士団の一員になる!

烏丸英

文字の大きさ
上 下
127 / 127
第三章 妖刀と姉と弟

追走

しおりを挟む
「七瀬の容態はどうなんだ、蒼?」

「峠は越えた、かな。でも、あくまで応急処置が済んだに過ぎない。失った血を輸血してもらわない限り、命の危機は去らないね」

 冬美に気力による治癒能力の活性化を促し続けていた蒼は、止血処理を終えると共に燈へとそう答えた。
 内臓まで達した傷を塞ぐ際、水の気力の特性である祓いの力で血の腐敗や淀みを防ぎ、流れを操って出来る限りの血を体内に残すことには成功したようだが、それでもやはり彼女が受けた傷は大きく深いようだ。

 このままここに放置していては冬美の命はない。
 きちんとした処置と輸血を受けさせるためにも、彼女は病院に連れて行くべきだろう。

「くそっ……! 七瀬の血液型もわかんねえってのに、輸血なんて上手くいくのかよ? そもそも、大和国に血液型の概念なんてあんのか?」

「そっちの世界と全く同じ情報が伝わってるとは考えにくいね。でも、大和国の医者だって彼女の命を救えないほど無能じゃあないさ」

 燈の疑念に対する答えを口にした蒼は、そのまま冬美を抱えて立ち上がった。

「燈、僕は七瀬さんを安全な場所に連れていって、治療を受けさせる。彼女の容態が急変した時に対応出来るのは、おそらく僕だけだ。嵐と彼を追う王毅くんたちを止める役目は、君と涼音さんに任せたよ」

「ああ、わかった。七瀬のことを頼むぜ、蒼」

 王毅との対話を望む燈と、嵐との決着を望む涼音。
 二人の想いを汲んだ蒼は、自分が冬美を運ぶ役目を請け負う。

 自分たちのことを信じてくれたクラスメイトの命を彼に預け、頭を下げた燈は、顔を上げるとこころへと視線を向けた。

「椿、お前も蒼と一緒に行った方がいいんじゃないか? ここから先は、お前が思っている以上の危険が待ち受けてるかもしれねえ。ここらで引き返した方が、お前のためじゃあ……」

「そうかもしれない。でも……私は、神賀くんと話したい。私たちを信じてくれた七瀬さんのためにも、ここで退くわけにはいかないと思うから……!」

「椿……」

 冬美の血に染まった自身の手を見つめてから、こころは燈へと自分自身の意思を伝える。
 その瞳に迷いはなく、これから先の過酷な戦いにも怯まないという強い想いを感じ取った燈は、同行者である涼音の意見を伺うべく視線を横に向けた。

「……そうね。嵐の他にも、もう一人の妖刀使いがいる。彼が怪我人を運んでいる最中にそいつと出くわした時、守るべき人間を二人も抱えたまま戦うというのは難しいと思うわ。それなら、まだ私たちと一緒にいた方が安全かもしれないわね」

「いいのか? 全速力で嵐を追う、ってことは出来ないままになっちまうぞ?」

「覚悟があるのなら、私は止めはしない……ただ、私はあなたのことを守ることは出来ないわ。嵐との戦いに全てを注ぐ以上、他のものに意識を傾ける余裕はない。私たちの戦いに巻き込まれて、怪我じゃ済まない事態になっても構わないというのなら……好きに、ついてきなさい」

「大丈夫です、それで……足手纏いになっちゃうけど、宜しくお願い致します」

 若干、脅しにも近い涼音の言葉にも恐怖を見せず、こころが即座に決断を下す。
 どうやら、彼女の決意は本物のようだと感じ取った涼音は、それ以上は何も言わずに小さく頷くと、妖気が発せられている方向へと顔を向けた。

「急ぎましょう。そちらの彼女も、私たちも、時間がないのは同じこと……いつまでもお喋りしている暇はないわ」

「だな……よし、行くか。蒼、何度も悪いが、七瀬のことを頼んだぜ」

「ああ。そっちも気を付けて……!!」

 燈がこころを背負い、蒼が冬美を背負って、お互いがお互いの目的地へと全速力で駆けていく。
 弟との決着と、かつての仲間との対面を果たすため、涼音と燈、こころは嵐が待つ羽生の村へと急ぎ足を進めるのであった。










「……あらあら、どうしましょうかねぇ? 、そこまで役に立つとは思えないんですけど、このままにしておくのも勿体ない気がするんですよね……」

 くすくすと含みのある笑いを浮かべながら、自分の足元に転がるものを見つめる人影が一つ。
 艶やかな長髪を湛えたその人物は、鼓太郎に『泥蛙』を渡したあの女だ。

「このまま放置しても廃棄処分は決定的でしょうし、同じ廃棄なら、少しでも我々の目的に役立てた方が有効的ですよね? うふふ……! それじゃあ、取り合えずですけど、連れ帰ってあげましょうか」

 そう、独り言を呟きながら結論を出した彼女は、自分の足元に転がるものを軽く蹴飛ばす。
 血と泥に塗れたぼろぼろのそれは、苦し気な呻き声を上げ続けていた。

「うぐぅ……あ、ぐぅ……っ」

「ふふふ……! こんなに手ひどくやられて、可哀想に……。あんまりにも哀れで見ていられないから、私たちが助けてあげましょうね、竹元順平さん……!」

 その言葉とは裏腹に、一切の慈悲や温情を感じさせない笑みを浮かべる女性は、燈に叩きのめされて蹲る順平へとそう声をかけるのであった。

しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

Cafemocca
2021.05.28 Cafemocca

とても楽しく拝見させて頂いております。
一気に半分以上読み進めてしまいました。

第二章: 仕組まれた勝負と迫る糸
こちらが重複されておりましたので、念の為お知らせ致したく参りました。

これからも楽しみにしております。

解除
伊予二名
2021.03.18 伊予二名

殺人計画練ったり、遊女に落としたり、これザマァ対象は相当なエグい目に合わないとザマァとして釣り合わないですね。楽しみなこと

烏丸英
2021.03.18 烏丸英

相当な悪人を相手にしているので、出来る限りエグい目に遭わせたいところ。
何度かジャブを挟みつつ最終的なオチまで進めていくつもりですので、気長にお待ちください。

解除

あなたにおすすめの小説

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。 戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。 で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

惰眠童子と呼ばれた鬼

那月
ファンタジー
酒呑童子が酒を飲んでばかりいる鬼なら、惰眠童子は寝てばかりいる鬼だ。 深い深い眠りの中に心を沈めていた惰眠童子は突如として、人間の少女に叩き起こされた。 「あたしの守護神になって、あたしを守って頂戴」 何度も死にかけた。その代わり、家族が代わりに死んだ。 もう身代わりになる人はいない。だから、今度はあたしが死ぬ。 それでもいい。 ただ、高校を卒業するまでの1週間。何が何でも守ってほしい。 惰眠童子はただならぬ雰囲気をまとう少女に仕方なく、とっても嫌々、承諾。 少女を狙う数々の不幸。巻き込まれる惰眠童子。 人為的な不幸。災い。とても、人間が成せるものではない。 人外には人外を 惰眠童子は大昔馴染みを頼り、力を借りる。 やがて少女がなぜ何度も死にかけるのか、なぜ集中的に災いが起こるのかを知る。 その意味を知った時が、少女の終わりと惰眠童子の始まりである。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ダンジョン受付担当の俺は、夜中こっそりダンジョンに潜る 〜史上最強の受付が誕生するまで〜

長谷川 心
ファンタジー
ダンジョンーーそれは、人々の畏怖と憧憬たる存在である。 その最下層には何があるのか、人々はロマンを追い求めてきた。 「はあ、俺も行きたいな……そっち側に」 ダンジョン受付担当のゼンもその一人だった。 ダンジョンに阻まれた者ーー世界に嫌われた者とされるのがゼンであった。 育ての親であるロディから受け継いだダンジョン受付の仕事を10年間続けていたゼンは、ある日、実家の地下室を偶然発見する。 そこには、冒険者のものと思われる武器や装備が置いてあった。 好奇心のまま円形の立体物に触れたゼンは、眩ゆい光に包まれーー ーー次の瞬間、目を開けると・・・ダンジョンに転移をしていた。 人々がダンジョンに潜る日中、受付のゼンはダンジョンが静まる夜中、こっそりとダンジョンに潜る!! これは、やがて史上最強の受付が誕生するまでの物語である。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。