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第三章 妖刀と姉と弟
絶望的に頭が悪い
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闇をつんざくその叫びを耳にした者は、一様に揃って声の主へと視線を向ける。
一同の視線を一身に浴びるのは、先ほどの戦いの傷で今の今まで気を失っていた男、竹元順平。
必死の形相を浮かべる彼は、これまた必死の叫びを自分たちのリーダーである王毅へと投げかけ続けている。
「王毅! 虎藤の話を聞くな! そいつは、そいつは偽物だっ!!」
「おいおい、感動の再会だっつーのに随分な言い草じゃあねえか。まあ、お前の立場ならそう言わざるを得ねえだろうがな」
「どういうことだ? 虎藤くん、順平はどうしてあんなに焦って……」
「話をするなって言ってるだろ! 王毅、虎藤は俺の目の前で死んだんだ! 今、そこにいるそいつは、妖が化けた偽物かなにかなんだよっ!!」
燈から詳しく事情を聞き出そうとする度に、順平の金切り声がそれを遮る。
流石にその声を耳障りに思い始めた王毅は、燈を待たせることを申し訳なく思いながらも順平へと説得の言葉を口にした。
「順平、お前の目の前で妖に殺されたはずの虎藤くんが生きていることが信じられないっていう気持ちもわかる。けど、彼はこうして無事な姿で俺たちの前に姿を現してくれたじゃないか。俺たちと離れている間に何が起きたのかを知る為にも、まずは彼の話を聞いた方が――」
そんな風に、順平のしたことを知らない王毅が彼を説得する様を目にしながら、燈はこのお人好しのリーダーに真実を告げることを心苦しく思った。
学校の生徒たちを纏めるリーダーとして必要以上の気苦労を背負う王毅に、私情で仲間を陥れ、成り上がりを果たそうとした男がいることを伝えれば、彼は相当なショックを受けるだろう。
しかし、こうなった以上は全てを告げなければならない。
燈が生きていることが順平に知られた以上、彼が暴走しないとも限らないのだ。
自分やこころのような、順平の野望のために犠牲になる人間をこれ以上生み出さないためにも、彼には断罪が必要だ。
そのためには、学校での実権を握っている王毅に全てを伝えるしかない。
王毅だけでなく、他の仲間たちも真実を知って動揺するかもしれないが、何も知らないまま順平に利用され続けるよりかはましだ。
とにかく、この場で全てを明らかにして、王毅たちとの協力関係を結ぶことが何よりも優先すべきことで――
「極光・太陽拳!!」
「えっ? うおああっっ!?」
――そんな、今後の展開も含めて自分の取るべき行動を熟考していた燈の思考は、突如として繰り出された自分への攻撃で強引に中断させられてしまった。
気力を陽光の塊へと変換し、サッカーのパンチングの要領でそれを敵へと叩き付ける慎吾の技を不意打ちで喰らった燈は、防御も出来ないまま吹き飛ばされてしまう。
「燈っ! 大丈夫かっ!?」
「がっ! ……ああ、屁でもねえよ。いきなりでちょっと驚いただけだ」
幸い、気力による身体強化が間に合ったことで大ダメージは受けなかったものの、クラスメイトであるはずの慎吾からの突然の攻撃に動揺を隠せない燈。
吹き飛ぶ自分の体を受け止めてくれた蒼に支えられながら、荒い呼吸を繰り返す彼に対して、慎吾の容赦の無い追撃が繰り出される。
「極光・太陽拳っっ!!」
「ちっ! この、大馬鹿者がっ!!」
体勢を崩している燈への二発目の攻撃は、『金剛』を大剣に変化させた栞桜が間に入り、その分厚い刀身を盾として防いだことで僅かな爆発を残して消滅する。
追撃を庇われたことに舌打ちを鳴らす慎吾に対して、怒りを剥き出しにした栞桜が『金剛』を持ち上げながらその馬鹿な行動の真意を尋ねた。
「いきなり何をする!? 燈はお前たちの仲間ではないのか!?」
「仲間? 仲間だって? ……へっ、俺たちを騙そうとした癖に、よくもまあぬけぬけとそんなことが言えたな!」
「騙す? 騙すだと!? どういう意味だ!?」
慎吾の攻撃は、明らかに敵意が込められたものであった。
何かの手違いや、腕試しのために繰り出されたものではない。純粋に燈を殺そうとして攻撃を放った親友に対して信じられないといった表情を向ける王毅であったが、慎吾は逆に彼に対して驚くべきことを言ってのけたのである。
「王毅! 竹元の言う通りだ! こいつは偽物だ。本物の虎藤じゃねえ!!」
「な、何を言っているんだ、慎吾? 彼はどこからどう見ても、虎藤くんじゃあないか!? 俺たちのことも知ってて、助けてくれた! 妖の変装だとしたら、そんなことをする理由なんてどこにもないだろう!?」
「それこそがこいつの狙いなんだよ! 虎藤の姿に化けて、俺たちの内部に潜り込む! 内側から俺たちを崩壊させるために、わざわざこんな回りくどいことをしてるんだ!」
「何を証拠にそこまで言うんだ!? 慎吾、事と次第によっては、お前だとしても俺は……!!」
順平の言い分を信じたわけではないだろうが、一方的に燈を嬲るような真似をする親友に対して怒りを露わにした王毅は、拳を震わせながら慎吾に迫る。
対して、慎吾の方は努めて冷静に、彼の中にある答えを口にした。
「証拠? 証拠だって? ……んなもん、今までの戦いを見れば明らかじゃねえか。忘れたのかよ、王毅? 虎藤には、気力がなかったんだぜ?」
「あっ……!?」
その一言に、王毅が目を丸くする。
何かに気が付いたように呆然とする王毅を自分から引き剥がした慎吾は、彼と仲間に言い聞かせるようにして自分の考えを告げた。
「虎藤は気力を持たない、落ちこぼれだったはずだ。だが、今のあいつは武神刀を操り、俺たちが苦戦した妖刀使い相手に互角の立ち回りを見せた。気力を持たないはずの虎藤が、そんな真似を出来るはずがねえ! つまりそいつは虎藤の姿をした偽物ってことだ!!」
「おいおい、おいおいおいおいおい……! いきなりぶん殴ってきたかと思えば、随分と好き勝手言ってくれるじゃねえか。俺は正真正銘、本物の虎藤燈だ! 俺が何で武神刀を使えるのか、その辺の説明もすっからとりあえず話を聞けって!!」
「そ、そうですよ! 先輩の話を聞けば、全ての疑問が解決されるかもしれないじゃないですか! 神賀先輩、お願いです! 皆さんを落ち着かせて、先輩の話を聞いてください! 情報も不透明な今の状態で一方的に先輩を攻撃するなんて、どう考えてもおかしいですよ!」
「あ、ああ……そう、だよね……」
慎吾の指摘を受け、目の前の燈が本物ではないのかもしれないという疑念を抱いてしまった王毅であったが、自分に必死になって訴えかけてくる正弘の言葉に少しだけ冷静さを取り戻し、その言葉に小さく頷いた。
今、燈を偽物と断定している面々がその証拠として挙げているのは、不透明な情報と状況証拠のみ。燈が偽物であるという決定的な証拠は出て来ていない。
燈から話を聞けば、仲間たちの疑念を晴らす説明が聞けるかもしれないし、逆に詳しく突っ込みを入れることでボロを出す可能性もある。
ここはやはり、燈から話を聞くべきだ。
そう結論付け、再び燈へと向き直った王毅が口を開こうとしたその時だった。
「……ます」
「え……?」
か細く、震える声が彼の耳に届く。
その声に振り向いた王毅が見たのは、わなわなと唇を震わせながら自分に何かを訴えかける花織の姿だった。
「ど、どうしたんだい、花織? 俺に、何か言いたいことがあるのか?」
彼女は、自分に何かを伝えたがっている。
そのことを察した王毅は花織に言葉を促し、彼女が何かを口にするのを待った。
ぶるぶると体を震わせ、王毅の眼差しを受ける花織は、蒼白に染まった顔を浮かべたまま、ゆっくりと視線を燈へと移し、そして――
「……あの方の持つ刀から、妖気を感じます。あの方が持っている刀は……妖刀です」
「……は?」
一同の視線を一身に浴びるのは、先ほどの戦いの傷で今の今まで気を失っていた男、竹元順平。
必死の形相を浮かべる彼は、これまた必死の叫びを自分たちのリーダーである王毅へと投げかけ続けている。
「王毅! 虎藤の話を聞くな! そいつは、そいつは偽物だっ!!」
「おいおい、感動の再会だっつーのに随分な言い草じゃあねえか。まあ、お前の立場ならそう言わざるを得ねえだろうがな」
「どういうことだ? 虎藤くん、順平はどうしてあんなに焦って……」
「話をするなって言ってるだろ! 王毅、虎藤は俺の目の前で死んだんだ! 今、そこにいるそいつは、妖が化けた偽物かなにかなんだよっ!!」
燈から詳しく事情を聞き出そうとする度に、順平の金切り声がそれを遮る。
流石にその声を耳障りに思い始めた王毅は、燈を待たせることを申し訳なく思いながらも順平へと説得の言葉を口にした。
「順平、お前の目の前で妖に殺されたはずの虎藤くんが生きていることが信じられないっていう気持ちもわかる。けど、彼はこうして無事な姿で俺たちの前に姿を現してくれたじゃないか。俺たちと離れている間に何が起きたのかを知る為にも、まずは彼の話を聞いた方が――」
そんな風に、順平のしたことを知らない王毅が彼を説得する様を目にしながら、燈はこのお人好しのリーダーに真実を告げることを心苦しく思った。
学校の生徒たちを纏めるリーダーとして必要以上の気苦労を背負う王毅に、私情で仲間を陥れ、成り上がりを果たそうとした男がいることを伝えれば、彼は相当なショックを受けるだろう。
しかし、こうなった以上は全てを告げなければならない。
燈が生きていることが順平に知られた以上、彼が暴走しないとも限らないのだ。
自分やこころのような、順平の野望のために犠牲になる人間をこれ以上生み出さないためにも、彼には断罪が必要だ。
そのためには、学校での実権を握っている王毅に全てを伝えるしかない。
王毅だけでなく、他の仲間たちも真実を知って動揺するかもしれないが、何も知らないまま順平に利用され続けるよりかはましだ。
とにかく、この場で全てを明らかにして、王毅たちとの協力関係を結ぶことが何よりも優先すべきことで――
「極光・太陽拳!!」
「えっ? うおああっっ!?」
――そんな、今後の展開も含めて自分の取るべき行動を熟考していた燈の思考は、突如として繰り出された自分への攻撃で強引に中断させられてしまった。
気力を陽光の塊へと変換し、サッカーのパンチングの要領でそれを敵へと叩き付ける慎吾の技を不意打ちで喰らった燈は、防御も出来ないまま吹き飛ばされてしまう。
「燈っ! 大丈夫かっ!?」
「がっ! ……ああ、屁でもねえよ。いきなりでちょっと驚いただけだ」
幸い、気力による身体強化が間に合ったことで大ダメージは受けなかったものの、クラスメイトであるはずの慎吾からの突然の攻撃に動揺を隠せない燈。
吹き飛ぶ自分の体を受け止めてくれた蒼に支えられながら、荒い呼吸を繰り返す彼に対して、慎吾の容赦の無い追撃が繰り出される。
「極光・太陽拳っっ!!」
「ちっ! この、大馬鹿者がっ!!」
体勢を崩している燈への二発目の攻撃は、『金剛』を大剣に変化させた栞桜が間に入り、その分厚い刀身を盾として防いだことで僅かな爆発を残して消滅する。
追撃を庇われたことに舌打ちを鳴らす慎吾に対して、怒りを剥き出しにした栞桜が『金剛』を持ち上げながらその馬鹿な行動の真意を尋ねた。
「いきなり何をする!? 燈はお前たちの仲間ではないのか!?」
「仲間? 仲間だって? ……へっ、俺たちを騙そうとした癖に、よくもまあぬけぬけとそんなことが言えたな!」
「騙す? 騙すだと!? どういう意味だ!?」
慎吾の攻撃は、明らかに敵意が込められたものであった。
何かの手違いや、腕試しのために繰り出されたものではない。純粋に燈を殺そうとして攻撃を放った親友に対して信じられないといった表情を向ける王毅であったが、慎吾は逆に彼に対して驚くべきことを言ってのけたのである。
「王毅! 竹元の言う通りだ! こいつは偽物だ。本物の虎藤じゃねえ!!」
「な、何を言っているんだ、慎吾? 彼はどこからどう見ても、虎藤くんじゃあないか!? 俺たちのことも知ってて、助けてくれた! 妖の変装だとしたら、そんなことをする理由なんてどこにもないだろう!?」
「それこそがこいつの狙いなんだよ! 虎藤の姿に化けて、俺たちの内部に潜り込む! 内側から俺たちを崩壊させるために、わざわざこんな回りくどいことをしてるんだ!」
「何を証拠にそこまで言うんだ!? 慎吾、事と次第によっては、お前だとしても俺は……!!」
順平の言い分を信じたわけではないだろうが、一方的に燈を嬲るような真似をする親友に対して怒りを露わにした王毅は、拳を震わせながら慎吾に迫る。
対して、慎吾の方は努めて冷静に、彼の中にある答えを口にした。
「証拠? 証拠だって? ……んなもん、今までの戦いを見れば明らかじゃねえか。忘れたのかよ、王毅? 虎藤には、気力がなかったんだぜ?」
「あっ……!?」
その一言に、王毅が目を丸くする。
何かに気が付いたように呆然とする王毅を自分から引き剥がした慎吾は、彼と仲間に言い聞かせるようにして自分の考えを告げた。
「虎藤は気力を持たない、落ちこぼれだったはずだ。だが、今のあいつは武神刀を操り、俺たちが苦戦した妖刀使い相手に互角の立ち回りを見せた。気力を持たないはずの虎藤が、そんな真似を出来るはずがねえ! つまりそいつは虎藤の姿をした偽物ってことだ!!」
「おいおい、おいおいおいおいおい……! いきなりぶん殴ってきたかと思えば、随分と好き勝手言ってくれるじゃねえか。俺は正真正銘、本物の虎藤燈だ! 俺が何で武神刀を使えるのか、その辺の説明もすっからとりあえず話を聞けって!!」
「そ、そうですよ! 先輩の話を聞けば、全ての疑問が解決されるかもしれないじゃないですか! 神賀先輩、お願いです! 皆さんを落ち着かせて、先輩の話を聞いてください! 情報も不透明な今の状態で一方的に先輩を攻撃するなんて、どう考えてもおかしいですよ!」
「あ、ああ……そう、だよね……」
慎吾の指摘を受け、目の前の燈が本物ではないのかもしれないという疑念を抱いてしまった王毅であったが、自分に必死になって訴えかけてくる正弘の言葉に少しだけ冷静さを取り戻し、その言葉に小さく頷いた。
今、燈を偽物と断定している面々がその証拠として挙げているのは、不透明な情報と状況証拠のみ。燈が偽物であるという決定的な証拠は出て来ていない。
燈から話を聞けば、仲間たちの疑念を晴らす説明が聞けるかもしれないし、逆に詳しく突っ込みを入れることでボロを出す可能性もある。
ここはやはり、燈から話を聞くべきだ。
そう結論付け、再び燈へと向き直った王毅が口を開こうとしたその時だった。
「……ます」
「え……?」
か細く、震える声が彼の耳に届く。
その声に振り向いた王毅が見たのは、わなわなと唇を震わせながら自分に何かを訴えかける花織の姿だった。
「ど、どうしたんだい、花織? 俺に、何か言いたいことがあるのか?」
彼女は、自分に何かを伝えたがっている。
そのことを察した王毅は花織に言葉を促し、彼女が何かを口にするのを待った。
ぶるぶると体を震わせ、王毅の眼差しを受ける花織は、蒼白に染まった顔を浮かべたまま、ゆっくりと視線を燈へと移し、そして――
「……あの方の持つ刀から、妖気を感じます。あの方が持っている刀は……妖刀です」
「……は?」
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