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第二章・少女剣士たちとの出会い
喧嘩終了
しおりを挟む剣劇。乱戦。暴走。
風靡な庭園に響くのは、二つの戦いが巻き起こす激しい戦いの音。怒声に鍔迫り合い、金属音に爆発音と大きくけたたましい音が鳴り止まないでいる。
「どうした!? お前の実力はその程度かっ!?」
「あぁ!? 舐めんじゃねえ!! まだまだこっからに決まってんだろうがっ!!」
咆哮にも近しい叫びを上げ、感情を剥き出しにして戦う燈と栞桜。
火力に自信がある二人の戦いの余波は激しく、その周囲の庭園は見る影もないほどに荒れ果てている。
「くっ!? どうにも、やりにくい……っ!」
「どうしたの~? 女の子相手は戦いにくい? ……そんな甘っちょろい性格で、本当に大和国で一番の武士団を作れると思ってる?」
予想のつかない戦法と言葉での攻めで蒼の精神を揺さぶるやよい。
燈たちと比べれば静かな戦いではあるが、肉体ではなく心を削る彼女の戦い方に蒼は見事に翻弄されてしまっていた。
「あわわ、あわわわわわわ……! も、もう、止めてーーっ! こんなこと、何の意味もないじゃない!!」
そして、そんな激闘が繰り広げられる庭園の中でただ一人放置されているこころは、無意味としか思えない燈たちのぶつかり合いに我慢出来ず、大声で叫んだ。
これが親善試合のような、あくまで互いの実力を確かめ合うための戦いならば良い。だが、今、自分の目の前で起きている戦いは、そういったものの範囲を超えている。
正直にいって、戦争と何も変わらないとしか思えないぶつかり合い。綺麗だった庭園は無残に荒廃し、地面もあちらこちらが抉れている有様だ。
これから仲間になるはずの両者が、どうしてこんな無意味な争いをしなくてはならないのか? 最初は翻弄されていただけのこころであったが、徐々に抱いていた疑問が憤りの感情へと変化していくにあたって、ついつい燈たちに向けて叫びを上げてしまう。
しかして、真剣勝負に没頭する四人にはその声は届かず、むしろ彼らの戦いは激しさを増していくばかりだ。
「もーうーやーめーてー!! こんなの、何の意味も無いじゃない!!」
息を深く吸い、顔を真っ赤にして、滅多に出さない大声で四人へと呼びかけるこころ。
だが、やはり彼女の声は誰にも届かず、虚しく戦いの喧騒に掻き消されてしまう。
こうなったら意地だ、とこころは思った。
この声が四人に届くまで、喉が潰れることも厭わず叫び続けてやると、そう心に決めた彼女が目一杯肺に空気を送り込み、再度声を出そうとした時だった。
「この娘の言う通りだ! とっとと馬鹿騒ぎを止めな!!」
空気が、爆発したかのような衝撃が庭園に走った。
声の出所に最も近い場所にいたこころは、その声量に耳鳴りを起こし、慌てた表情で両耳を手で塞ぐ。
燈も、蒼も、自分たちに投げかけられたその言葉を耳にしてはっとし、ようやっと戦いの手を緩めた。
「まったく……! この馬鹿弟子共が! なに勝手に喧嘩を吹っかけてるんだい!」
屋敷の縁側、こころの背後から姿を現したその女性は、怒り心頭といった様子で自分の弟子である栞桜とやよいを叱りつける。
先ほどまで凛々しい表情を浮かべて燈と戦っていた栞桜はそんな彼女の姿に完全に面食らい、悪戯がバレた子供のように大慌てで言い訳を口にした。
「ち、違うんだ、おばば様! こいつらが最強の武士団の一員として相応しいか、ちょっと確かめてやろうと思っただけで――」
「ちょっと? こんなに庭をズタボロにしておいて、何がちょっとだい!? 武神刀の能力も使っておきながら、この戦いが腕試しだとでもお前は言うのかい!?」
「うぐぅ……!」
「やよい! あんたも何で栞桜の馬鹿を止めなかった!? この子が熱くなったら見境がなくなるのはお前もよくわかってるだろうに!」
「ごめんなさ~い! 予想以上にこの人が強くて、そこまで余裕がなかったんだよ~!」
「うへぇっ!?」
刀を鞘に納め、可愛らしく舌を出しながら、やよいは蒼の背に隠れるようにしながら言い訳を口にした。
むにゅりと自分の腰の辺りに当たる柔らかい感触と、それの生々しさを知っている蒼は、一瞬にして顔を真っ赤にして体を強張らせる。
「はぁ~……本当に、あんたたちは……! 我が弟子ながら、恥ずかしくてしょうがないよ」
「うぅぅ……ごめんなさい、おばば様……」
母親に叱られた子供のようにしゅるしゅると小さくなっていく栞桜の姿には、先の立ち合いの際に見せていた圧倒的な気迫がない。
あの怒涛の攻めを見せていた彼女をここまで鎮静化させられる女性の剣幕に圧倒されながら、燈は固まっている蒼に代わり、宗正の弟子として彼女に挨拶をした。
「う、うっす! 自分、天元三刀匠宗正の二番弟子、虎藤燈っす! あ、あなたさまが、師匠と同じ天元三刀匠である、桔梗さんでよろしかったでありましょうか?」
「ん? ああ、如何にも。この私が天元三刀匠が一人、桔梗さ。一応、仕事用の姓として西園寺を名乗ってる。わざわざ遠くから来てくれたってのに、この馬鹿達がわるかったね」
「い、いえ! お気になさらずにいてください! 俺たちは、全くもって気にしておりませんので!!」
目上の相手との会話に慣れてないことや、栞桜たちに向けた迫力ある怒りのせいで口調が怪しくなる燈。
だが、それ以上に彼を緊張させていたのは、桔梗が信じられないくらいに美しい女性であったことだ。
正確な年齢は知らないが、燈は桔梗もまた老人である宗正と同世代だと思っていた。
が、しかし、今、目の前に立つ桔梗はというと、何処からどう見ても老人という雰囲気がまるでない。二十代後半くらいの女性としか思えないのだ。
美しい金色の頭髪を靡かせ、優美な着物に身を包み、軽い化粧だけを施した顔もまた、美女というに相応しい美貌を誇っている。
それでいてスタイルも抜群。すらりとした高い背丈と出るところは出て、引っ込むところは引っ込むというメリハリの利いた肉体をしている桔梗の容姿に、女性慣れしていない燈は柄にもなくドギマギしてしまっていた。
(うぉぇ、めっちゃ美人……! さっきの迫力も合わせて、ヤンママとしか思えね~……)
宗正も老人にしてはかなり若々しいが、桔梗はそれに輪を掛けて若い。やはり女は美貌を保つために全力を尽くすものなのだろうかと考えた燈の桔梗への第一印象は『綺麗で気の強いヤンママ』であった。
酷い有様になっている庭とその元凶である弟子たちを交互に見比べ、大きく溜息をついた桔梗は、うんざりとしながらも起きてしまったものは仕方がないとばかりに気持ちを切り替え、燈へと口を開く。
「兎にも角にも、私の屋敷へようこそ。この馬鹿弟子たちはきっちり締め上げておくから、まずは旅の疲れを癒すために中で休んでおくれ。すぐに食事を運ばせる」
「あ! わ、私、手伝います! お料理とか、配膳とか、何か出来ることはありますか?」
「ああ、ああ! 大丈夫だよ! うちの屋敷では、面倒な家事は全部からくり人形にやらせてるからね。お前さんも疲れただろう、ゆっくり休みな」
先ほどまでとは打って変わって、面倒見の良い顔を見せる桔梗。その変わり身の早さに若干の怖れを感じつつ、燈たちはありがたく申し出を受けることにした。
家事の手伝いを申し出たこころも、温かい母のような表情を浮かべる桔梗の姿に少し驚いているようだ。これが、ついさっき空気を震わせる大声を出した女性と同一人物なのかと疑っている様子でもある。
「私たちは庭を軽く片付けるから、先に屋敷に入っていておくれ。からくりが中を案内してくれるだろうさ」
「う、うっす。ありがたく、休ませていただきます」
「うんうん、しっかり体を休めておくれ。……あんたたちは私を手伝いな! この馬鹿騒ぎの不始末をつけるんだよ!」
「は~い……」
燈たちから視線を外し、豹変。途端に鬼の形相になった桔梗は、小さくなっている弟子たちに怒りながら罰を言いつける。
やっぱり外向きの顔と家族のような仲の人間に見せる表情は違うのだな、だとか、宗正も自分たちとこころとでは態度があんな感じに変わるよな、だとか、やっぱり桔梗にも師と似ているところがあるんだな、などと考えていた燈は、桔梗の勧めに従ってこころと共に屋敷の中に入ろうとして……
「山が、山が二つ……大きくて、丸い山が……っ!!」
「……何やってんだ、蒼の奴?」
未だに直立不動の体勢から微動だにせず、ぶつぶつと何かを言い続ける兄弟子の姿に首をかしげるのであった。
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