和風ファンタジー世界にて、最強の武士団の一員になる!

烏丸英

文字の大きさ
28 / 127
第一章・はじまりの物語

足元の不穏

しおりを挟む

 楽な戦いだと、王毅は思った。
 いや、正確には思ったよりも楽な戦いだ、といった方が正しいだろうか?

 命のやり取りは、絶えることなく続く戦いは、苦しいものであることに変わりはない。だが、それでも王毅が予想していたよりも随分と楽に戦いが進んでいることは確かだ。

 第一陣、その後に控えていた二陣と、瞬く間に壊滅状態に陥った狒々たちと比べ、王毅たち人間軍の被害は本当に微々たるものである。
 今、こうして、王毅たち主力部隊が敵の防衛線を突破し、山頂にて待ち受けているであろう狒々軍の総大将の下へとほぼ無傷で進軍出来ているくらいには、楽な戦いであった。

 何がこの戦況を作り上げたかと聞かれたら、即座に最初の一撃だと誰もが答えるだろう。疑いようがないほどに、あの火柱での初撃は狒々たちを壊滅状態に追いやるに十分な働きをしてくれた。
 最初の防衛線の突破口を作り出し、敵を恐慌状態に陥れ、味方軍の士気を大いに高揚させる。味方の軍は、あの攻撃が作り出した勝利の流れに乗っただけに過ぎないのだ。

 後方に控えていた王毅たちは、てっきりあの攻撃は先陣を切った順平が繰り出したものだと思っていたが……憮然とした表情で本陣に帰還した順平の様子を確認し、また物身として前線の様子を伺っていた兵士からの報告を受けたことで、あの火柱を作り出したのは志願兵として参加した包帯づくめの男だということを知った彼らは、自分たち以外にもあれだけの攻撃を繰り出せる武士がいたことに驚いたものだ。

 しかして、あの威力の攻撃を放てば、当然ながら気力が枯渇してしまうだろう。
 夜空に上がった花火の如く、一瞬の輝きを見せた謎の包帯づくめの武士の活躍に心の中で感謝と苦笑を送りながら、それでも自分たちの戦いが楽に進んでいることを王毅は幸運に思っていた。

「あともう少しだな、慎吾。山頂には敵の総大将がいる。そいつを倒せば、この戦も終わりだ」

「ああ……敵のボスは、お前が仕留めるんだ。俺たちのリーダーであるお前が、この戦を終わらせた。その事実が幕府の連中が欲しがっていることでもあるし、俺たちの望みでもある。大和国の人間も英雄として君臨するお前の姿を頼もしく思うだろう」

「英雄だなんて、そんな呼び方は止めてくれ。お前にまでそんな風に言われたら、どう返せばいいのかわからないじゃないか」

 親友からの返答に照れくささを感じながら、同時に胸が湧き立つような興奮を感じる王毅。
 英雄、その呼び名に相応しい活躍を見せることが出来れば、大和国の人々も一緒に転移してきた仲間たちも、きっと安堵してくれるだろう。

 何より、王毅自身がこの戦における敵の最大戦力を仕留めたという経験があれば、自信を持つことが出来る。
 これから仲間たちを率いて、大和国を救う英雄としての自信を得ることが出来るこの機会は、何としてもものにしなくてはいけない。

 慎吾はそんな親友の胸の内を見抜いているかのように、気合を入れる彼の傍でニヒルに笑いながらこう告げた。

「お前の実力なら、狒々たちのボスとの戦いも問題無いだろう。雑魚の相手は俺たちに任せろ。お前は、一騎打ちで総大将を仕留めるんだ。ぬかるなよ、王毅」

「ああ! この勢いのまま、戦いを終わらせよう!!」

 慎吾が選抜したクラスメイトたちと、それを守る幕府の精兵たち。およそ五十名程度の精鋭部隊は、一直線に山頂を目指して傾斜を駆け上がる。
 自分たちのリーダーに総大将を討ち取らせ、英雄としてこの大和国に名を轟かせるために……彼らは一丸となって、この戦いに終止符を打つために団結していた。

 確かに、その考えは間違いではない。目指すべき場所も、間違ってはいない。
 この山の頂には狒々たちの王がいるし、そいつを倒せば戦は実質的に終わる。敵の総大将を討ち取った王毅の名は大和国に響き渡るだろうし、そうなれば彼は英雄として人々に周知されるであろう。

 しかし、そんな彼らの考えの中にある間違いを一つだけ指摘するとすれば、敵の総大将がイコールとして最大戦力になるとは限らないということだ。

 そして、彼らが考えもしていない部分における問題として、一見順調に思えるこの戦いの流れを変えかねない衝撃的な出来事が、経った今から彼らの後方である山の麓で起きようとしていることに気が付く者は、この中には誰も存在しなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...