和風ファンタジー世界にて、最強の武士団の一員になる!

烏丸英

文字の大きさ
11 / 127
第一章・はじまりの物語

燈の才覚

しおりを挟む

「俺の、秘められた力……? なんだよそれ? どういうことだよ?」

「うだうだと口で説明するより……ほれ、こいつを引き抜いてみろ」

 そう言うと宗正は手にした白い刀を燈へと差し出す。
 師匠となった男の手からその刀を受け取った燈が、訝し気な表情を浮かべながら言われたとおりに刀を鞘から引き抜いてみると……。

「う、おぉぉぉぉっっ!? な、なんじゃこりゃあっ!?」

 なんと、引き抜いた刀の刀身が眩い光を発し始めたではないか。
 濃い紅の色をした、強く猛々しい光を放つ刀の様子に驚いた燈は即座に刀を鞘に戻すと、突然の出来事に跳ね上がった心臓の鼓動を元に戻すべく深呼吸を続けて――

「……あん? な~んか今の、見覚えがあるような……? ああ、そうだ! あれじゃねえか!」

 そこで、今しがた自分が目の当たりにした光景が、一週間前に2-Aの教室で行われた試し刀を用いた気力測定に酷似していることに気が付く。

 気力の量を光量で、属性を光の色で判別するためのあの儀式と良く似た今の行為だが、違っている部分も幾つかある。
 花織が用意した試し刀は短刀であったが、正宗が用意したのは普通の太刀よりもやや大き目の刀と言って差し支えない代物だ。

 何より、気力が存在していないはずの燈が同じように刀を引き抜いたというのに、短刀の方は反応がなく、太刀の方は驚くくらいの光を放った。
 この差は何なのかと燈が視線で正宗に尋ねてみれば、彼は小さく笑ってからその答えを口にする。

「なに、単純な話だ。お前さんが一週間前に使った試し刀は一から九九九九までの気力量を計る代物で、この試し刀は一〇〇〇〇からそれ以上の気力を図るための代物ってだけさ」

「え、っと……? つまり、どういうことすか?」

「大和国の巫女は試し刀が反応しなかったことを見て、お前の気力が零だと判断したみたいだが……それが間違ってたってことだ。お前さんの気力は上に振り切れてた。大和国の用意した試し刀じゃあ計り切れないくらいの途轍もない気力持ちだったってことだよ」

「は、はあぁぁぁぁぁっっ!?」

 そんな、馬鹿みたいな理由があって堪るものかと大声で叫ぶ燈であったが、そんな彼に対して正宗は飄々とした態度でこう話を続ける。

「仕方ないことなんだよ。お前にもわかりやすく数字で言えば、この国の人間の平均的な気力量はせいぜい百程度。強者と呼ばれる人間が三百から五百だ。そんなところに一万だなんて膨大な気力の持ち主が現れるわけがねえと、そう思ってやがるのさ。お前たちが使った試し刀も、異世界からやって来る英雄様用に拵えた特注品ってところだろうぜ」

「嘘だろ……? ってことは、俺はあの中の誰よりも気力が多かったってことっすか!?」

「そういうことだ。わしの見立てでは、神賀とかいう七色の気力を持つ男の気力は三千ほど、他の目立った奴らの気力もそれより少し低い程度だろう。対して、お前さんの気力は恐らく五万を超えておる。化物じみた逸材だな」

「……ってことは、俺ってこの国の強い奴の百倍強いってことじゃないっすか。いやでも、いきなりんなこと言われても実感が湧かねえっつーか、俺って本当にそんなに強いんすか?」

 気力が無いと言われていた自分が、本当は計り知れない量の気力を有していた。
 本当だとすればこの上ない朗報だが、実際に感じたり目に見えたりしない物があると言われてもすぐには信じられないのが人間だ。

 もしかしたら、今の刀に何か細工がしてあって……という可能性へと思い至る燈であったが、正宗はそんな彼に様々な事実を指摘していった。

「いいや、お前さんには本当に途轍もない量の気力が存在している。普通の人間ならば死んでもおかしくない状況から生き延び、全身の怪我が癒えていることがその証拠だ」

「ど、どういうことっすか?」

「気力は人間の内側に眠る、生命力の結晶だ。それを上手く操れれば、そいつ自身の身体能力を大きく向上させることも出来る。燈、お前さんは無意識の内にお前の内側に眠る気力を操り、危機的状況から生き延びるために力を行使していたんだ。肉体の頑健さを向上させて落下の負傷を防ぎ、自然治癒能力を上昇させて傷を塞いだ。死にたくないという生存本能が、お前自身の力を引き出した。だからお前はこうして今もピンピンしてるってわけさ」

 正宗の説明を受けた燈は、一週間前に花織が話していた気力についての内容を思い出す。
 確かに彼女も今、正宗が語っているようなことを言っていた気がする。気力は治療行為にも使われるだとか、自在に操れるようになれば身体能力も向上するだとか、うすぼんやりとした記憶ではあるが、そう言っていたことは確かだ。

 そうして、ここまでの説明と状況の把握を完了した燈は、はたとあることに気が付いて顔を上げた。

「ってことは……もう今の時点で俺は竹内よりも強いってことじゃ……痛ったぁ!?」

 単純なステータスでは十分に竹内にマウントを取れていることを悟った燈がそのことを口にしてみれば、雷の如き速度で振り下ろされた正宗の鉄拳が彼の頭頂部に炸裂した。
 師匠になった男からの鉄拳制裁に涙目になる燈に対して、口の端を吊り上げた正宗は言い聞かせるようにして口を開く。

「調子に乗るな、若造が。お前さんには確かに莫大な量の気力がある。だが、それの使い方もわかっちゃいねえだろうが。おまけに向こうは武神刀を持ってる。素手で武神刀持ちと戦うなんざ、どんだけ気力の差があっても無謀っちゅうもんだ。そもそも、お前は直接そいつらを叩きのめすための力は必要ないって言ったばかりだろうが」

「わ、わかってるっすよ……ただ、純粋な能力値で言えば、俺の方に分があるって言っただけじゃないっすか……」

「ふん……まずはその驕りを捨てろ。お前さんには素質があるが、それを活かす方法はわかってない。武器も無ければ知識もなく、戦いの経験もありゃしねえ。そして何より大事な、使? っていう目標すらないんだからな」

「……うっす」

 正宗から自分に足りない物を指摘された燈は、素直にその忠告を聞き入れる。
 確かに自分は今、膨大な量の気力を有していることを知って舞い上がっていた。憎き竹内よりも強い存在であることを知り、優越感を得ていた。
 だが、それではその竹内と同じではないか。力があるから自分の方が偉いなどと考えていては、自分を陥れた奴らと何ら変わらない人間になってしまう。

 師匠の言う通り、自分の中の驕りを捨てよう……そう、自分自身に言い聞かせて真摯な表情に戻った燈を見て、正宗は小さく微笑みながら頷いた。

「……目上の立場の人間の忠告を聞き入れる素直さはあるようだな。結構なことだ。安心しろ、お前に足りない物はわしがみっちりと仕込んでやる。気力の扱い方、戦いのいろは、お前さん専用の武神刀に……強くなる理由もな」

 優しくも厳しそうな正宗の視線を受けた燈の背筋がびくりと震えた。しかし、その震えは恐怖から来るものではなく、興奮にも近しい感情から生まれたものだ。
 この老人がどれだけ凄い人間なのかはわからない。だが、漂わせている雰囲気や家中に飾られている名刀と思わしき武神刀の数々を目にすれば、自ずと只者ではないことは理解出来るだろう。
 そんな人物に師事出来るというのはもしかしなくても物凄く名誉なことであり、その上、彼から復讐以外の力の使い道を教えてもらえるというのは、願ってもない好条件であった。

「それで、俺は何をすればいいんですか? 教えてください、師匠!」

 真剣に、本気で……燈は身を乗り出し、正宗へと教えを乞う。
 正宗がそんな彼の態度に小さく頷き、答えを返そうとしたその時、燈の背後にある扉がガラリと音を立てて開き、そこから第三の人物の声が発せられた。

「師匠、ただいま戻りました……って、あれ? 君は……!」

 まだ幼さの残る、若い男の声に燈が振り向いてみれば、そこには自分とそう歳の変わらなそうな青年が立っていた。
 あどけなく、人の好さそうな顔立ちをした黒髪の青年は、嬉しそうに燈に近づくと破顔してその無事を喜ぶ。

「よかった、目が覚めたんだね! ボロボロだった君を見つけた時は本当に驚いたけど、元気そうでよかった!」

「俺を見つけたってことは……あんたが、俺をここに運んでくれたのか?」

 青年の言葉から彼が自分をこの家に運んでくれたのだと知った燈は、やや驚きながら胸の内に感謝の想いを抱いた。
 彼が自分を見つけてくれていなかったら、傷が治癒出来ていたとしてもその後にどうなっていたかわからない。こうして正宗に出会えたのもこの青年のお陰だと頭を下げようとした燈に対して、正宗が彼の紹介を行う。

「燈、紹介しよう。わしの一番弟子のそうだ。蒼、こいつはお前の弟弟子になった燈、今後も面倒を見てやれ」

「弟弟子……? ということは、彼もあの計画に加えるということですか?」

「そうだ。期限ぎりぎりだが、これでわしも既定の弟子を集めることが出来た。他の二人にも面目が立つ」

「あ、あの……すんません、あの計画って何なんすか?」

 突如として話に参加した蒼の発した、『あの計画』という単語に引っかかりを覚えた燈は、単刀直入に二人へとそのことを尋ねてみた。
 そうすれば、ごほんと咳払いした正宗が真剣な表情を作り、改めて燈と蒼の二人へと向き直ってから、こう話を切り出す。

「なに、そんな壮大なもんじゃあないさ。ただこの大和国を救い、妖に苦しむ人々を助けるための計画ってことだ」

「いや、十分に壮大な計画じゃないっすか!? 何なんですか、その計画ってのは!?」

 謙遜する風に見せて、実は燈を揶揄うためにそう言ってみせた正宗は、彼が見せてくれたいい反応に満足気に微笑んだ後、その答えを述べた。

「わしらの立てた大和国を救うための計画、それは……ことだ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...