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プロローグ・嵐魔琥太郎と茶緑ガラシャ
配信前の忍と姫
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(……って言ってたけど、そのパーフェクトなプランについて一切説明してもらってないんだよなぁ。本当に大丈夫か、この人……?)
全部がひらがなで構成されていたような環の言葉を思い返しながら、あの時と同じように笑う彼女の反応に不安を募らせる明影。
いまいち頼りにならないというか、常人とは思考が違い過ぎる環のことを信用しきれていない部分はあるが、決して彼女がふざけているとも思ってはいない。
この二週間、彼女は茶緑ガラシャとして自分の配信の中でちょくちょく嵐魔琥太郎の名前を出してくれていたし、恩を感じていると言ってくれていたことも確かだ。
その恩を配信上で返したいという彼女の発言には、抹茶兵と呼ばれる茶緑ガラシャのファンたちも概ね同意してくれていた。
明影の退院、および嵐魔琥太郎の復帰に際して、彼女は最大限のサポートをしてくれようとしている。
これまでの積み重ねのお陰で待機中のリスナーたちのコメントも非常に穏やかであるし、琥太郎のことを悪く言う者は一人もいないように見えた。
「へっへっへ~……! 見てよ、この同接数! 二千人とか、普段の倍以上いるじゃん! ぼくが地道に宣伝したお陰で注目が集まってるんだろうな~! まあ、そっちのファンが集まってくれてることもあるんだろうけどね!」
「そ、そうなんですか……? 普段からこのくらいは普通にいってるのかと思ってました」
「いやいや、Vtuber界隈舐めんなって。安定して四桁の同接叩き出すのがどれだけ難しいか……言っとくけどぼくら、そこまで人気でも大手でもないからね? そんなに買い被られると逆に困るから、そのつもりでいてよ?」
「ぎょ、御意……!」
何故だか偉そうに自分を卑下する環の言葉に、困惑しながら了解する明影。
しかし、今度はそんな彼の返事を聞いた環が困惑したように噴き出しながら彼へと問いかける。
「ぷっ……! 御意って、なにそれ? 普通にうん、とかはい、でいいじゃん! 変なの~!」
「あっ、いや……拙者、忍者系Vtuberとしてやってるんで、素を出さないためにも配信を始める前からこういうふうにスイッチを入れるようにしてるんでござるよ」
「あはははは! 拙者! ござる!! いいね、いいね~! 感じ出てるよ~!!」
「……言いたくないでござるが、絶対に拙者のこと馬鹿にしてますよね? ニュアンスが完璧に嘲笑でござったが!?」
「してないって~! ただちょっと、変わり種のキャラとして頑張ってるんだな~! って、そう思っただけ!」
それを馬鹿にしているんだと、明影は無邪気に笑う環へと心の中でツッコむ。
自分だってこれを恥ずかしいと思っているし、柄じゃないことはわかっているが、そういうキャラでやっているんだから仕方がないではないか。
それに、たとえどんなに面白くったって、本人の前でそんなふうに爆笑するだなんて失礼だろうと、明影が環の反応にちょっとだけ反感を抱く。
やっぱり彼女のことはよくわからない。こんな計画を立てたりすることもそうだが、何を考えているのかが全く理解できない人間だなと、そう思っていると――
「相性バッチリだね、ぼくら! こりゃあ、いいコンビになりそうだぞ~!」
「……は? 急に何を……?」
とても楽しそうにそう言った環へと、それはどういう意味だと問いかける明影。
そうすれば、彼女は更に声を弾ませながらこう答えてみせた。
「ぼくは日本のお姫様で、あなたは忍者! いい感じにシナジーがある、主従関係コンビになってるでしょ!? これが西洋の騎士とファラオとかだったりしたら、なんかちぐはぐじゃん! 同じ和風なガワで良かった、良かった!」
「……一人称がぼくのお姫様を和風と呼んでいいんでござるか?」
「気~に~し~な~い~! ささっ、忍者スイッチも入ったみたいだし、早速配信始めるよ! 気合入れていこう!」
「わっ、ちょっ!? まだ拙者、この配信で何をするか詳しく聞いてないんでござるけど!?」
「ん? ああ、大丈夫! 全部このぶぉくに任せなさ~い!」
着々と待機画面の裏で配信の準備を進めていた環が戸惑う明影へと自信たっぷりにそう答える。
どうやら彼女は自分に何をするか話すつもりはなさそうだと、そう判断した明影はため息を吐いた後で覚悟を決め、前を向いた。
(こうなったらもうやり切るしかない! やれることを全力でやれ、僕!!)
指示待ち人間の自分はこういう自由過ぎる形式の配信は苦手だが、それでもやるしかない。
そう自分自身に言い聞かせた明影へと、環が明るく声をかける。
「準備はいい? じゃあ、行くよ~! 出陣だ~っ!!」
和風の姫らしく、配信の始まりを開戦になぞらえた彼女の叫びが明影の耳に響く。
カチッ、というクリック音を鳴らしながら『配信開始』のボタンを押した環は、明影と違って左程雰囲気を変えたりしないまま……Vtuber、茶緑ガラシャとしての振る舞いを見せつつ、元気よく抹茶兵へと挨拶をしていった。
全部がひらがなで構成されていたような環の言葉を思い返しながら、あの時と同じように笑う彼女の反応に不安を募らせる明影。
いまいち頼りにならないというか、常人とは思考が違い過ぎる環のことを信用しきれていない部分はあるが、決して彼女がふざけているとも思ってはいない。
この二週間、彼女は茶緑ガラシャとして自分の配信の中でちょくちょく嵐魔琥太郎の名前を出してくれていたし、恩を感じていると言ってくれていたことも確かだ。
その恩を配信上で返したいという彼女の発言には、抹茶兵と呼ばれる茶緑ガラシャのファンたちも概ね同意してくれていた。
明影の退院、および嵐魔琥太郎の復帰に際して、彼女は最大限のサポートをしてくれようとしている。
これまでの積み重ねのお陰で待機中のリスナーたちのコメントも非常に穏やかであるし、琥太郎のことを悪く言う者は一人もいないように見えた。
「へっへっへ~……! 見てよ、この同接数! 二千人とか、普段の倍以上いるじゃん! ぼくが地道に宣伝したお陰で注目が集まってるんだろうな~! まあ、そっちのファンが集まってくれてることもあるんだろうけどね!」
「そ、そうなんですか……? 普段からこのくらいは普通にいってるのかと思ってました」
「いやいや、Vtuber界隈舐めんなって。安定して四桁の同接叩き出すのがどれだけ難しいか……言っとくけどぼくら、そこまで人気でも大手でもないからね? そんなに買い被られると逆に困るから、そのつもりでいてよ?」
「ぎょ、御意……!」
何故だか偉そうに自分を卑下する環の言葉に、困惑しながら了解する明影。
しかし、今度はそんな彼の返事を聞いた環が困惑したように噴き出しながら彼へと問いかける。
「ぷっ……! 御意って、なにそれ? 普通にうん、とかはい、でいいじゃん! 変なの~!」
「あっ、いや……拙者、忍者系Vtuberとしてやってるんで、素を出さないためにも配信を始める前からこういうふうにスイッチを入れるようにしてるんでござるよ」
「あはははは! 拙者! ござる!! いいね、いいね~! 感じ出てるよ~!!」
「……言いたくないでござるが、絶対に拙者のこと馬鹿にしてますよね? ニュアンスが完璧に嘲笑でござったが!?」
「してないって~! ただちょっと、変わり種のキャラとして頑張ってるんだな~! って、そう思っただけ!」
それを馬鹿にしているんだと、明影は無邪気に笑う環へと心の中でツッコむ。
自分だってこれを恥ずかしいと思っているし、柄じゃないことはわかっているが、そういうキャラでやっているんだから仕方がないではないか。
それに、たとえどんなに面白くったって、本人の前でそんなふうに爆笑するだなんて失礼だろうと、明影が環の反応にちょっとだけ反感を抱く。
やっぱり彼女のことはよくわからない。こんな計画を立てたりすることもそうだが、何を考えているのかが全く理解できない人間だなと、そう思っていると――
「相性バッチリだね、ぼくら! こりゃあ、いいコンビになりそうだぞ~!」
「……は? 急に何を……?」
とても楽しそうにそう言った環へと、それはどういう意味だと問いかける明影。
そうすれば、彼女は更に声を弾ませながらこう答えてみせた。
「ぼくは日本のお姫様で、あなたは忍者! いい感じにシナジーがある、主従関係コンビになってるでしょ!? これが西洋の騎士とファラオとかだったりしたら、なんかちぐはぐじゃん! 同じ和風なガワで良かった、良かった!」
「……一人称がぼくのお姫様を和風と呼んでいいんでござるか?」
「気~に~し~な~い~! ささっ、忍者スイッチも入ったみたいだし、早速配信始めるよ! 気合入れていこう!」
「わっ、ちょっ!? まだ拙者、この配信で何をするか詳しく聞いてないんでござるけど!?」
「ん? ああ、大丈夫! 全部このぶぉくに任せなさ~い!」
着々と待機画面の裏で配信の準備を進めていた環が戸惑う明影へと自信たっぷりにそう答える。
どうやら彼女は自分に何をするか話すつもりはなさそうだと、そう判断した明影はため息を吐いた後で覚悟を決め、前を向いた。
(こうなったらもうやり切るしかない! やれることを全力でやれ、僕!!)
指示待ち人間の自分はこういう自由過ぎる形式の配信は苦手だが、それでもやるしかない。
そう自分自身に言い聞かせた明影へと、環が明るく声をかける。
「準備はいい? じゃあ、行くよ~! 出陣だ~っ!!」
和風の姫らしく、配信の始まりを開戦になぞらえた彼女の叫びが明影の耳に響く。
カチッ、というクリック音を鳴らしながら『配信開始』のボタンを押した環は、明影と違って左程雰囲気を変えたりしないまま……Vtuber、茶緑ガラシャとしての振る舞いを見せつつ、元気よく抹茶兵へと挨拶をしていった。
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