忍者と姫はVtuber!~助けたぼくっ子不思議ちゃん系美少女にめちゃくちゃ懐かれてる件について~

烏丸英

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プロローグ・嵐魔琥太郎と茶緑ガラシャ

初コラボ前、忍者と姫

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「うぅぅ……! 始まる、始まってしまう……! 心臓が、心臓がぁ……っ!!」

 ここに、PCの前で左胸を抑えて悶える青年がいる。
 彼の名前は風祭明影かざまつり あきかげ。年齢は十九歳、特徴がないことが特徴のどこにでもいる男だ。

 ――職業がVtuberだということを除けば、の話だが。

 嵐魔琥太郎らんま こたろう、それが明影が持つもう一つの名前。
 Vtuber事務所【戦極Voyzせんごくボーイズ】に所属する忍者系Vtuberという、どう考えても色物としか思えない存在ではあるが、その色物感に反して真面目で純朴な性格をしているというギャップが受けたのか、事務所内ではトップクラスの人気を誇っていた。

 ……まあ、事務所内ではトップクラスといっても、肝心のチャンネル登録者はせいぜい数千人といった感じで、界隈全体で見たらかなり少ない方だ。
 【戦極Voyz】自体の知名度が低いこともあって、デビューから数か月経った今でも熱心なVtuberファンでもない限りは彼の存在すら知らないといった有様である。

 そんな彼は今、約二週間ぶりの配信に臨もうとしていた。
 彼が長い休みを取っていたのには理由があるのだが……今は一旦、それは置いておこう。

 問題は、この配信が彼単独ではなくとある人物とのコラボ配信だということだった。

 本当に珍しいことに、明影はまだ嵐魔琥太郎として自分のチャンネルで復帰配信を行っていない。
 琥太郎の復帰後初の配信は、今回のコラボ相手のチャンネルで行われようとしている。

 ぶっちゃけた話、明影はこの配信に不安しか感じていなかった。
 先に挙げたような事情もあるのだが、彼が一番心配している部分は実にシンプルで、相手が女性という点だ。

 このVtuber業界には男女のコラボを真剣に嫌がるファンがそこそこ存在している。
 今回のコラボ相手にもそういった層のファンが間違いなくいるわけで、そんな人間たちがああだこうだと文句をつけてくるのではという不安が、明影が心臓を破裂させんばかりに緊張している原因であった。

(どうしてこうなったんだ? 僕は、ただ……)

 今考えても、どうしてこんなことになったのかがわからない。
 たった一つ心当たりがあるとすれば、と出会ってしまったということだろう。

 それを悪いことだとは思ってなんかいない。ただ、あまりにも劇的に変化してしまった状況についていけていないだけなのだ。
 と……明影が本番開始直前に緊張のピークを迎えていると……?

「うぉ~い、だいじょぶか~?」

 実に気の抜けた、活舌弱めの緩い声が明影の耳に響く。
 はっとして顔を上げた彼は、緊張で声がひっくり返らないようにしながらその声の主に返事をした。

「だ、大丈夫です。ただちょっと、緊張しちゃって……!」
 
「あはは、だいじょぶだって~! ウチの事務所はそこそこ男女コラボやってるし、やってることがやってることだからガチ恋勢なんてほぼほぼ死滅してるしさ~! そんな緊張すんな~! 忍者なんだから、堂々としていけ~!」

「……忍者は堂々とせず、陰に潜む者でござるよ」

「お~! なんだ、軽口叩けるんじゃん。なら安心だな~。ま、とりあえずさ、そんな心配すんなって~!」

 ふわふわしている、いまいち捉えどころのない女性の声を耳にしながら、PC画面に映るキャラクターの立ち絵を見つめる明影。

 緩くウェーブがかかった黄緑色のショートボブヘア。白を基調にして所々に髪と同じ色を含ませた萌え袖の上着と黒のミニスカートは、和風メイドの代名詞とでもいうべき着物ドレスと酷似していた。
 首元の大きな鈴と、そのすぐ下にある更に大きな二つの胸を楽し気に揺らしながら、猫を思わせる笑みを浮かべながら……配信直前に2Dモデルの動作チェックを行った彼女は、ふんすと鼻を鳴らしながら自信たっぷりのドヤ顔になって言う。

「このぼく、茶緑さよりガラシャ様に任せておけば何も問題なしよ! 大船に乗ったつもりで安心してけ~! にゃっはっはっはっは!!」

 任せてるから不安なんだよな……とは口が裂けても言えない明影は、マイクに拾われないようにしながら深いため息を吐く。
 そうした後で顔を上げた彼は、つい二週間ほど前に起きたとある出来事と、彼女との出会いを思い返していった。
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