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あの方

婚約者

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図書室で本を読んでいると外から聞いたことのある声が聞こえた。

「ドロシー、早く街へいこう。今日はどこに寄っていこうか?」

「トーマス様。最近はやっている歌劇場で演劇を見るのはいかがでしょうか?」

窓から外を見てみると、婚約者様と知らない女性の方が手を組みながら歩いている。それを見ている周りの目がまた痛い。当たり前だ、そもそも婚約者がいて別の女性と歩くというのはあまりいいことではない。それにしても、ドロシーという名前。どこかで聞いた気がしたんだけどどこで聞いたんだっけ。私は全然思い出すことができなかった。

「ディーダ。そろそろ休憩にしましょう。お茶を入れてくれるかしら。」2時間くらい本を読んだところで一旦休憩にすることにした。

ディーダと少し会話をしながらお茶を飲む。
「先ほど外にトーマス様がいらっしゃいましたが、よかったんですか?」一応婚約者でもあるし注意くらいはしないといけないかなと思いながらも、今に始まったことではないし、今まで何を言っても無駄だったので何も言う気にならなかった。
「いいのよ。いままで何を言っても変わらなかったし...いつかきっと痛い目見るでしょう。」ディーダの淹れてくれた紅茶を飲みながらため息をつく。

トーマス様と婚約したのは、12歳の時だった。トーマス様のほうが1つ年上だったこともあり先に貴族院に通い始めた。貴族院に通い始める前までは手紙を送りあったり、トーマス様がこちらの家に遊びに来てくださったりしていたけど、通い始めてからは全く連絡が来なくなった。はじめは貴族院の勉強が忙しいのかなとも思っていたけど、通い始めてみたらそんなことはなく、女性と楽しそうに話している姿をたびたび見かけるようになった。何度か声をかけてみたら「今日は幼馴染と出かけるんだ。」「今日は幼馴染が体調崩しているから早く帰らないと」などばかり言われて断られることが増えた。断られすぎると誘う気もなくなっていくということをこの時初めて知った。

お父様とお母様はトーマス様に他の女性がいることは気づいていないだろう。できれば伝えたいと思っているものの、お父様とお母様と皆でお食事をしましょうと誘った時だけは必ずトーマス様がくるのだ。
別の日に話そうと思っていてもお父様もお母さまも普段は領地にいるため貴族院に通い始めてからはなかなか会うことができない。

「貴族院を卒業する前までには、トーマス様のことをお父様たちに伝えないないといけないわね」

お父様やお母さまに伝えるということは婚約破棄になる可能性もないわけではないし、私以外に跡取りがいないから早く結婚してほしいと思っているだろう。

残り2年の間にやらないといけないことがあると思うと少しだけ気持ちが重くなった。



「ま、今は気にしても仕方ないわね!本を読んですべて忘れましょう!」

私は再び本を読み始めた。今日中に今の本が読み切れればいいなと思いながら。


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