今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう

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今。

さよならニコラウス。

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「やぁ、ニコラウス殿。元妻が大変お世話になったね。」

そう言って近寄ってきたのは、オリエンス領の隣に位置する東の国の方だ。
10年近く東の国とは絹織物を含めた貿易でお世話になっているから間違えるはずがない。

着物をすこし着崩している感じがとてもかっこいい。

ニコラウス様は思い出せないのか、誰だというような顔をしている。

「あぁ、元奥様をこちらに連れてきた方がよろしいですかね。こちらの方ですよ。」
セレスが連れてきたのは真っ黒い髪に赤い口紅。そして着物がよく似合う女性だった。


「マーヤ…」


「お久しぶりですね。ニコラウス様…」
ニコラウス様を見る目がまるで汚いものを見るような目つきだ。

「あなたが、一緒になろうと言って下さったので。旦那様と別れる決意をしたのですが。まさか婚約者がいるなんて知りませんでした。しかも別の国にもいたんですね…」

とてもお淑やかそうな女性の目が急に変わる。

「こんのクソ野郎が!ふざけんじゃねぇぞ。女をなんだと思っとるんじゃ。こんな綺麗な子を騙すなんて恥を知れ!」

パチーンとニコラウス様の頬を勢いよく叩く。

「マーヤ様…。」


「元々ニコラウスのことはどこかおかしいと思っていたのです。それでも恋は盲目というでしょう。目が覚めた時には全てが遅かった…」

そもそも騙されたのは自分の自業自得だと言うこと。まさかここまで女癖が悪いと思っていなかったそうだ。

それにしても本当に潔過ぎてかっこいい。

「マーヤ様。色々とすっきりしました。ありがとうございます。」

マーヤ様はウインクをしてこちらこそごめんなさいね。とひと言言って去って行った。

ニコラウス様が「待ってくれ…置いてかないでくれ…」と言っていたけどマーヤ様は見向きもしなかった。


「さて、ニコラウス。君にはこちらの方から慰謝料が請求されているんだ。」

お兄様が連れてきたのはマーヤ様の元旦那様だ。

「こちらのお方は東の国の大名…つまり、この国でいう公爵だ。」

まさかのすごい方の奥様に手を出しているとは皆空いた口が塞がらない。ここまで愚かな奴だったとは…

「ちなみに今の話で君が他の女性と関係を持っていたのを知ったからな。勿論オリエンス家からも慰謝料を請求する。」
冷ややかな目をニコラウスに向け、書類を突き出すお兄様…。


「し、しかし…通常であれば婚約破棄の場合婚約破棄した方が払わなければならないのでは…」
必死の抵抗もお兄様を前にしては呆気なく撃沈である…

「あぁ…そこは…大丈夫だ。安心していい。」

そう言ってニコニコするお兄様。何が安心していいのだろうか…

「証拠が揃っていなければ確かにこちらが払わなければならない…だが…」

お兄様がニコラウス様と目を合わせて言い放った。

「俺がそんな調べかたをすると思ったか…?それはそれは舐められたものだな…。」

そこからはお兄様の独壇場だった。

まずここに集めてきた人たちはこの15年でニコラウス様に騙されてきた人たちらしい。
女性だけに関わらず、お金を貸してそのまま音信不通になったり、詐欺まがいのことをされた人もいるようだ。

「いやぁ、まさかこんなに集まるとは思っていなかったんだが…。それだけお前は恨まられていたという事だよ。ニコラウス。どうせ、逃げるところがなくなったからアメリアのところに来たんだろう?」

「そ、そんなことありません。本当にアメリアのことを愛しているんです…」

私に縋ろうとしているニコラウス様に小さい子供が寄っていく。

「パパァァァ!!ママのこと好きって言ってたのになんでほかのひとをすきっていってるのぉ?このおねえちゃんだれぇ?」


子供は正直である…。急いで子供を連れて下がる女性。この人も黒髪ロングだ…

少しニコラウス様の好みがわかってきた気がした。

「15年だ。15年お前は可愛いリアを1人にしていた。それだけではない…おまえは私の可愛い妹の悪口を言ったそうじゃないか…」

周りの女性たちが私のことを悪く言っていたと聞いてきたらしく何を話してくれたか教えてくれた。
年下の婚約者なんてありえないだの
体も貧相で女として見れないだの…
お金を持っていなきゃ婚約者になっていないだの…散々なことを言っていたそうだ。


私がため息をつくと、ティオ様が何を思ったか話し始めた。

「ニコラウスと言ったかな?君、覚えてないのかい?10年前の夜会の日。婚約者と知らずに君は…リアをナンパしていたんだよ…本当に情けない。自分の婚約者の夜会デビューの日も知らなかっただけでなく、ナンパするなんて初めて聞いたよ。」


「え!?あの時の人がこの人だったのですか!?」
まだあの時は貴族らしさがあったが今は良いとこ、商家のお坊ちゃんくらいにしか見えない。


「あ、あの時はそう、アメリアに久しぶりに会うからなんで声をかけて良いかわからなかったんです。」

「…え?」
何を言い出すんだ。おの時は本気で怖かったというのに…。


「ニコラウス。もう逃げられないからな。リアだけに関わらず、これだけの人たちを敵に回したんだ。もうこの国にもいれないと思えよ。」
お兄様のこめかみが動いている。だいぶこれでも我慢しているようだ…。


「父上や母上は…」


そう話すと今まで黙っていた国王陛下が口を開いた。

「ああ、イグナ家は取り壊しが決まったよ。まぁ、君が理由の一つでもあるが…謝るばかりで自分たちで動こうとする気がなかったからな。ニコラウスはイグナ家が破産していることすら教えられていなかったんだろう。」

イグナ家とオリエンス家の婚約にはお金が絡んでいた。
そして成婚するまでに支払いを完了する。もしくは完了させるための算段がつかない場合は取り壊しとなる決まりだったそうだ。そしてもし成婚までに何も動かなければこの婚約は白紙になるはずだった。
何もしなくても白紙になっていたというのにニコラウスはそれを知らずに色々やらかしたということだ。

「君の父上は、きちんとこの話を飲んだよ。君の弟も君と違っていい子だった。今回の話に対して償っていくといっていた。」
国王陛下が話すと空気が変わった。

「本当に君の弟が当主だったらイグナ家も残っていたかもしれないな…愚かな息子を信じた慣れの果てがこれだよ。」

そしてもう一つ。君の父上からと言って話し出す

「お前の戻ってくるところはどこにもない。どこへでも言ってしまえ。とのことだ。良かったなこれでお前は自由だ…まっ、羽はもがれてるけどな…」
ニコラウス様の肩を叩きながら話すお兄様。
ここまで言われて心が生きている人はいないだろう。

「この国の王オクタビオ・ジェネシス立ち合いの元、ニコラウス・イグナと、アメリア・オリエンスの婚約破棄の、成立を許可する。また、ニコラウスについては貴族の爵位取上げ、慰謝料を払い切るまではこの国を出る事を禁ずる。もし出たことがわかればその時は首と胴体が離れると思っているように。」

お兄様も怖いと思っていたが国王様も負けずと怖かった…



「貴族ではなくなったニコラウス殿に。私から最後に一言。慰謝料払い終わるまでどこまでも追いかけるからな。逃げられると思うなよ。」

この15年の中で一番綺麗な笑顔をしたお兄様を見て、こういう仕事がお兄様に向いているんだなと思った瞬間だった。

そしてやっぱり私のお兄様は誰よりもかっこよかった。



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