今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう

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10年前。

お買い物。

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「アメリアお嬢様、朝です。起きてください。」

ベルタがカーテンを開けると外から日差しが入ってくる。

「ベルタ…もう少しだけ寝かせてちょうだい…」

「ダメですよ。もう9時近いのです。起きてくださいませ。」
ベルタに布団を剥がされて無理やり起こされる。朝の弱い私にとってはこの時間が1番辛い…

「起きるから後5分だけ…寝かせて…」

「アメリアお嬢様の5分は1時間なのでダメです。顔を洗ったら少しスッキリしますから。それにエルベルト様が朝ごはんを食べずに待っていますよ。」

ベルタがお兄様の名前を出した瞬間、昨日のことを思い出し、勢いよく布団から飛び出た。

「ベルタ、それを先に行ってちょうだい。」
領地にいるといつも1人だからいつも時間を気にすることがなかったのでその気分がすっかり抜けずにいた。

私は急いで顔を洗ってロングワンピースに着替えダイニングルームに向かう。

「お兄様。おはようございます。遅くなってしまい申し訳ございません。」


「リア、おはよう。いや、もうおはようの時間は過ぎているし、おそようございますかな…」

ニコニコしながら揶揄ってくるお兄様をみて思わず私も笑顔で返す。

「お兄様と昨日遅くまでお話していたのでなかなか起きれなかったのです。」

「冗談だよ。さっ、ご飯にしよう。」

朝ごはんはパンとスープにサラダ、ハムステーキにスクランブルエッグ、そしてオレンジジュースだった。

「はい、いただきます。」

手を合わせてから食べはじめる。

お兄様はコーヒーを飲むみたいだけれど…よくあの苦い飲み物が飲めるなと思いながらちびちびオレンジジュースを飲む。

「お兄様、今日のご予定は何かあるのですか?」

お兄様の予定に合わせて今日は動いていこうとお兄様の予定を聞くと、

「そうだね。数日間は王弟殿下に手紙を送って休みをもらっているんだ。まずはリアの夜会のドレスを選びに王都に行こうと思っているが…どうだい?」

ドレス…パートナーがいればパートナーに合わせたドレスにするが、私は婚約者と一緒に参加する予定はないので、今回好きなものを作る予定だった。ちなみにうちの商会のデザイナーにもう頼んである。

「お兄様にお話ししづらいのですが、ニコラウス様と参加できないとわかった時点でリアルディア商会のデザイナーに頼んでしまったのです…あとでどのようなデザインかお見せいたしますね。」

ドレスを作ることを楽しみにしていたのか声が少し落ち込んでいる。案の定あまり顔に変化はないが…

「そ、その代わりドレスに似合うジュエリーを選んでくださいませんか?ジュエリーばかりは中々作成が難しくて…」


「そうか…今日はジュエリーを選びに行こう。あとは少し王都を見ながら他に欲しいものがないか見に行こうか。」


お兄様の声が少し戻ってきたようで良かった。中々他の方が見るとわからない変化かもしれないけど、ちょっとした変化に気づけるのは家族の特権なのかもしれないなと思いつつ、お兄様を見つめた。

「はい!そうしましょう。」

お兄様に返事をしてから途中で止まっていた朝ごはんを食べ始めた。


⟡.·*.··············································⟡.·*.

王弟殿下視点。

「ティオドール殿下。エルベルトから手紙が届いております。」

数日前、側近の1人でもあるナルシスが手紙を持ってきた。

「ありがとう。それにしても、エルベルトから手紙なんて珍しいな。何かあったんだろうか。」

手紙を開けて読んでみるとたった一言だけ。

「ティオドール王弟殿下。少しの間、暇をいただきます。」

私は手紙を読んだ瞬間、一体何が起きたのだろうかと考えを巡らせる。
今まで休んだことのないエルベルトだ。きっと何かあって休みたいということだということは思うが、あまりにも簡潔に書き過ぎている。

「まぁ、取り敢えず何かあったんだろうな。そういうことにしておこう。あいつのことは信用しているし、落ち着けば顔を出すだろう。」

一人で手紙の内容に納得し、「わかった」とだけ返事を書く。

手紙を書いていてこんなにも簡潔な手紙を書いたのももらったのも初めてだ。

エルベルトから手紙をもらった後、全く音沙汰がなく心配をしていたが、そんな時にナルシスが声をかけてきた。

「ティオ。今日珍しいことにエルが女性と歩いているのを見かけたんだ。すごい綺麗な女性でさぁ。あいついつの間にかそういう間柄の人見つけてたんだな。先越された感じがするよ。」

ナルシス、エルベルトとは男性貴族が通う男学院で出会ってからの仲だから10年以上の付き合いだ。この国は男性貴族は必ず学院に通う必要がある。
女性は女学院に通うか通わないかどちらでもいいのだが…


「そんな話聞いたこともないけどな。ただ、一緒に歩いている女性には興味があるな。あいつの選ぶやつだし、とても良い女性だと思うが、俺も視察と称して王都に行ってくるか。」

エルベルトのことだ。もし相手ができたらすぐに教えてくれるような気もする。
それにそれを理由に休むだろうか…少しナルシスの話に疑問を思いながら私はナルシスと一緒に王都に視察に出た。


視察の時はあまり目立たないようにウィッグを被り髪の色を変えていくことが多い。王族特有の白銀の髪色はすごく目立つので仕方がない。目の色だけは他の人と変わらない色なので、ウィッグがあるだけで、ある程度は誤魔化せる。


「ナル。どの辺でエルを見たんだ?」

「確かジュエリーショップの近くだったかな。もし可視化したらもう移動しているかもだけどね。」

エルとナルは正反対と言ってもいいほど性格が真逆だ。真面目なエルに対し、ナルは軽い。見た目も軽く見えるけど意外に硬派ないい男だ。

「じゃあこのあたりにいるかもしれないな。」


辺りを見渡しながらゆっくり歩いていると、丁度2人がジュエリーショップから出てくるところだった。

「ティオ。いたいた。あそこだよ。」

「本当だな。すごい綺麗な女性じゃないか?」

「でしょ?僕もびっくりしたんだよね。すごい綺麗でさ!」

あまりジロジロみすぎると視線でエルが気づきそうなので、見過ぎないように気をつける。
それにしてもあの2人なんか雰囲気が似ているような気がするが…本当に恋人なのだろうか。

取り敢えずナルがついてこうと言うので仕方なく私はなるの後を追った。


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