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10年前。
お兄様に、隠し事は通用しないようです。
しおりを挟む「アメリアお嬢様、夕食の時間です。」
少し部屋で休んでいると扉をノックする音が聞こえ、それに続いてセレスが声をかけてきた。
領地にいると1人で食事をすることがほとんどなので、誰かと食事をするのは久しぶりだ。
扉を開きお兄様の待っているダイニングルームに向かう。
「アメリアお嬢様、セデスは元気でやっていますか?その…エルベルト様には内緒で商会を立ち上げたと聞いておりますが…」
こそこそ聞いてきているつもりのようだが、声が大きく響きセレスの声が響き渡っている。
商会を立ち上げたのは婚約者と会うこともなく1人の時間が多かったので暇だったから始めたのが大きい。勿論それで領地が潤えばいいなと思っていたけれど…
だからお兄様には内緒にしていたのだ。
「セ、セレス?!声が大きいわ…商会についてはお兄様に内…「誰が誰に内緒なのかな…?」」
セレスに声のトーンを下げるように伝えようとしていたらダイニングルームの扉が少しずつ開き、鬼い様が出てきた。しかもこめかみがヒクヒクしているのが見える。
「お、おにいさま…に秘密なんてございませんわ…ね、ねぇ?セレス?」
「そそそそうです。け、決してお嬢様が商会を立ち上げたなんて秘密ございません!!」
「そうよ。だから落ち着いて…お兄様…」
お兄様はため息をつきながら
「なるほど、商会を始めたのか。なぜ私に言わなかったんだ?秘密はなしという、約束だっただろう?」
「え…?」
「今セレスが全部話したぞ。ダメじゃないか。セレスはなんでも話してくれる優秀な執事なんだから…な?セレス。」
セレスの肩を叩きながらセレスを見るお兄様は明らかに怒っている。顔が整いすぎているお兄様が怒ると本当に怖い…まるで鬼い様だ…
「ひゃ、ひゃい…!!」
ここまで話してしまったらお兄様に話さないわけにはいかないだろう…
「お、お兄様、この話はまた後でさせていただきますので…まずはお、お食事にしませんか…。」
領地に残ると決めた時、何かあったらお兄様に報告すると言う約束になっていて、もし守らなければ王都に連れてくるとまで言われていた…
本当は子供1人残すことにお兄様も心配が大きかったのだと思う。でも無理してこちらに連れてこなかったのはお父様とお母様のことがあったからだろう。
馬車の事故があった時、私もお父様、お母様と一緒に馬車に乗っていた…ただその時の記憶覚えていなく、気づいた時にはお父様とお母様が亡くなったと言う事実を知らされただけだった。
お父様とお母様は私を守るように横たわっていたそうだ。そのおかげか殆ど怪我はなく、ただ記憶だけがなかったのだ。
その後からだろうか…色々な発想が出てくるようになったのは…断片的だけど色々なことが思い浮かぶようになった。
記憶は今もまだ思い出していない。
お兄様もたまたま街道を通った人が助けてくれたとだけ教えてくれてそれ以上のことは教えてくれなかった。記憶を思い出して私が取り乱すことがないようにしてくれたんだと思う。
「仕方ないな。リアもお腹すいただろうし食事にしようか。」
なんだかんだ私に甘いお兄様がダイニングルームに戻っていったので、セレスと顔を合わせてお互いホッとした顔をした。
⟡.·*.··············································⟡.·*.
食事の時間は先ほどのことなどなかったかのようにゆっくりと進んだ。
2人で会っていなかった時間を埋めるように何をしていたか話す。基本は他愛のない話が殆どだ。
幼馴染とお茶会を楽しんだり、領地を視察したりそう言った話した。
「領地は今のところ問題ないか?」
「そうですね。今年は大きな災害もなかったですし、今のところは大丈夫かと思います。ただ、これからの季節は、雪が結構降るので…特に領地の北側は怖いですね。」
東側に位置をすると言っても雪が降らないという地域ではないためどうしても積雪が多いと事故が多発したりする。
「ただ、今回はその雪を利用して新たな試みを始めてみました。」
雪が多いことでなかなか冬の季節は農家の方々の仕事がなく大変だったりする。そこで考えたのは雪があっても野菜がおいしくならないか…ということだった。
「今までは暖かい季節だけ収穫をして、冬は皆さん出稼ぎに出ている方が多かったですが、今回は年に2回収穫できるように試してみようということになりました。」
キャベリやコダイコ、サイハクなどの野菜は雪の下でも育つ野菜ということを調べて試しに育ててみようということになった話をした。
「なるほど。うまくいけば今後も冬に収穫できるというということだな。そうすれば領民も少し楽になるということか…」
お兄様は少し考えた後、
「試してみないとうまくいくかはわからないし、2~3年は様子を見てみなさい。ただ、その分2~3年は領民が出稼ぎに行けない分、困窮してしまう可能性があるが大丈夫なのか?」
今までは冬は出稼ぎでなんとか収入を得ていた人たちが急に仕事がなくなるわけだ。税金なども払えない可能性だって出てくる。ただ、そこについてはきちんと考えてある。
「はい。今回この試みに賛同してくださった方々には野菜がうまく育ち出荷までいけばそのまま。もし育たなくうまくいかなければ税金の支払いは免除にするというお話をしております。」
そのために商会の資金を回すようセデスにお願いしてある。
「なるほど…それにはリアの商会が関係しているのかな…?ん…?」
黒い笑みを浮かべてこちらを見る鬼い様降臨である。
「あぁ、「リアはうまく話反らせたわ!」と思っていたのだろうが、そんなわけがないだろう?さぁ、その話をしようか。勿論セレスも一緒にだ。」
いすから立ち上がりセレスの首根っこを掴みながら執務室へ向かうお兄様。
セレスは「おじょうさまぁぁぁ!!」と叫んでいたが、私はあえて見ないふりをして大人しく2人の後を付いていった。
「セレス…ごめんなさい。そうなったお兄様は止められないわ…」
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