今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう

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10年前。

顔も覚えていない婚約者。

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「アメリアお嬢様。お手紙が届いております。」
紅茶を飲みながら庭のお花を見ていると執事長が手紙を持ってきた。

その手紙の相手は一応婚約者であるニコラウス・イデア様だ。

「ありがとう。セデス。」
手紙をもらいながらため息をつく私を見てセデスも申し訳なさそうな顔をしながら室内に戻った。セデスが悪いわけではないのにこんな顔をさせてしまって申し訳ない…

手紙を開けるとそこにはいつものように一言だけ…

「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」


「またなのね…」

一言だけの手紙のやり取りは今に始まった事ではない。
婚約してすぐの頃だったから、もう5年になるだろうか…3歳年上のニコラウス様と婚約したのは私が10歳でニコラウス様が13歳の時だった。
貴族同士の婚約だから、親同士が決めた婚約で子供の意思が尊重されることは殆どなかっただろう。

正直言って初めてお会いしてから一度も顔を合わせていないので、ニコラウス様の顔をあまり覚えていない。
婚約したばかりの頃は隣国に留学すると言って1年くらい音沙汰がなくなり、帰ってきたかと思えばこんどは別の国に留学すると書いてあった。
その後も一時帰国はしているようだが帰国した連絡はなく、いつもこの国を出る時にだけ手紙が来る。

そんなこんなでいつの間にか5年が経っていた。

「お嬢様…」
近くに控えていたメイドのベルタが声をかけてきた。

「ベルタ。ニコラウス様はまた5年この国を離れるそうよ。婚約する時に顔を合わせただけでそれから一度も会っていないし、もう顔すら覚えていないのよね…社交界デビューの夜会は1人で行くことになりそうだわ。」
私は庭の花達を見ながら心を落ち着かせる。

「5年は長いわね…もしかして今までで1番長いのではないかしら…」

5年後と言うことはあっという間に20歳だ。
この国の結婚適齢期は大体16~18歳前後。婚約者がいる人ほど結婚は早い。

ニコラウス様のことを考えると頭が痛くなりそうなので、私は来月の楽しみである社交界デビューのことを考えることにした。

「ベルタ。今は楽しいことを考えましょう。来月の夜会に向けてお兄様に手紙を送るわ。王都の屋敷にもそろそろ移動しなくてはならないしやることがいっぱいね!」

ベルタに手紙一式を持ってきてもらい早速私はお兄様に手紙を書いた。


⟡.·*.··············································⟡.·*.

お兄様視点

「エルベルト様。アメリアお嬢様からお手紙が届いております。」
執務室に駆け寄ってくるのは俺の従者であるセレスだ。

「セレス。騒がしいぞ。焦らなくても手紙は逃げないから歩いてこい。」
手紙をもらいながら注意すると少し涙目になりながらすみませんと返してくる。

手紙を開けるとそこにはリアの婚約者のこと、近々王都に行くと言うことが書かれていた。

「そうか。もうリアも15歳か。リアの成人をできれば父上達にも見せたかったものだな…」

3年前、父上と母上が馬車の事故に遭ってからというもの、なかなかリアに合う時間がとれないでいた。
たった1人の家族だからこそ本当は王都に連れてこようと思っていたが、リアが領地に残りたいと言った手前連れてくることができず会えたとしても1年に2回くらいだ。

この時ばかりは王弟殿下の側近になってしまったことを恨んだ…

「それにしてもニコラウスは何をしているんだ。婚約してから5年が経つと言うのに…」

まさか、婚約してから5年間一度も会っていないとは思いもしなかった。それに、社交界ではよくニコラウスを見ていたし、その度に俺に挨拶に来ていたから普通に仲良く言っているものだと思っていた。

「もっとリアとの時間を取るべきだったな…」
父上達が亡くなって貴族としての責務を果たそうと忙しさにかまけて妹の話を全く聞けていなかった。

「セレス頼みがあるのだが、ニコラウスについて調べてみてくれないか?リアと婚約してから一度もリアに会いにきていないらしいんだ。」

セレスもあっていないと言うことに吃驚したのか急いで「そ、早急におしやべいたします!」と執務室を飛び出していく。

その様子を見ながら俺は冷めた紅茶に手を伸ばした。
「また最後噛んでいたな。」

セレスが近くにいると鬱々とした雰囲気も明るくなることが多い。こればかりはセレスの性格に感謝しなくてはならない。ニコラウスの行動や自分の行動に少しイライラしていたので助かった。

セレスにニコラウスの件は頼んだので、俺は早速二通手紙を書いた。
一通はリアに、夜会に向けて少し早めに王都に来てもらうことと、今後について話すために…


そしてもう一通は王弟殿下に向けて、休む旨の手紙を送った。


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