2 / 29
10年前。
顔も覚えていない婚約者。
しおりを挟む「アメリアお嬢様。お手紙が届いております。」
紅茶を飲みながら庭のお花を見ていると執事長が手紙を持ってきた。
その手紙の相手は一応婚約者であるニコラウス・イデア様だ。
「ありがとう。セデス。」
手紙をもらいながらため息をつく私を見てセデスも申し訳なさそうな顔をしながら室内に戻った。セデスが悪いわけではないのにこんな顔をさせてしまって申し訳ない…
手紙を開けるとそこにはいつものように一言だけ…
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
「またなのね…」
一言だけの手紙のやり取りは今に始まった事ではない。
婚約してすぐの頃だったから、もう5年になるだろうか…3歳年上のニコラウス様と婚約したのは私が10歳でニコラウス様が13歳の時だった。
貴族同士の婚約だから、親同士が決めた婚約で子供の意思が尊重されることは殆どなかっただろう。
正直言って初めてお会いしてから一度も顔を合わせていないので、ニコラウス様の顔をあまり覚えていない。
婚約したばかりの頃は隣国に留学すると言って1年くらい音沙汰がなくなり、帰ってきたかと思えばこんどは別の国に留学すると書いてあった。
その後も一時帰国はしているようだが帰国した連絡はなく、いつもこの国を出る時にだけ手紙が来る。
そんなこんなでいつの間にか5年が経っていた。
「お嬢様…」
近くに控えていたメイドのベルタが声をかけてきた。
「ベルタ。ニコラウス様はまた5年この国を離れるそうよ。婚約する時に顔を合わせただけでそれから一度も会っていないし、もう顔すら覚えていないのよね…社交界デビューの夜会は1人で行くことになりそうだわ。」
私は庭の花達を見ながら心を落ち着かせる。
「5年は長いわね…もしかして今までで1番長いのではないかしら…」
5年後と言うことはあっという間に20歳だ。
この国の結婚適齢期は大体16~18歳前後。婚約者がいる人ほど結婚は早い。
ニコラウス様のことを考えると頭が痛くなりそうなので、私は来月の楽しみである社交界デビューのことを考えることにした。
「ベルタ。今は楽しいことを考えましょう。来月の夜会に向けてお兄様に手紙を送るわ。王都の屋敷にもそろそろ移動しなくてはならないしやることがいっぱいね!」
ベルタに手紙一式を持ってきてもらい早速私はお兄様に手紙を書いた。
⟡.·*.··············································⟡.·*.
お兄様視点
「エルベルト様。アメリアお嬢様からお手紙が届いております。」
執務室に駆け寄ってくるのは俺の従者であるセレスだ。
「セレス。騒がしいぞ。焦らなくても手紙は逃げないから歩いてこい。」
手紙をもらいながら注意すると少し涙目になりながらすみませんと返してくる。
手紙を開けるとそこにはリアの婚約者のこと、近々王都に行くと言うことが書かれていた。
「そうか。もうリアも15歳か。リアの成人をできれば父上達にも見せたかったものだな…」
3年前、父上と母上が馬車の事故に遭ってからというもの、なかなかリアに合う時間がとれないでいた。
たった1人の家族だからこそ本当は王都に連れてこようと思っていたが、リアが領地に残りたいと言った手前連れてくることができず会えたとしても1年に2回くらいだ。
この時ばかりは王弟殿下の側近になってしまったことを恨んだ…
「それにしてもニコラウスは何をしているんだ。婚約してから5年が経つと言うのに…」
まさか、婚約してから5年間一度も会っていないとは思いもしなかった。それに、社交界ではよくニコラウスを見ていたし、その度に俺に挨拶に来ていたから普通に仲良く言っているものだと思っていた。
「もっとリアとの時間を取るべきだったな…」
父上達が亡くなって貴族としての責務を果たそうと忙しさにかまけて妹の話を全く聞けていなかった。
「セレス頼みがあるのだが、ニコラウスについて調べてみてくれないか?リアと婚約してから一度もリアに会いにきていないらしいんだ。」
セレスもあっていないと言うことに吃驚したのか急いで「そ、早急におしやべいたします!」と執務室を飛び出していく。
その様子を見ながら俺は冷めた紅茶に手を伸ばした。
「また最後噛んでいたな。」
セレスが近くにいると鬱々とした雰囲気も明るくなることが多い。こればかりはセレスの性格に感謝しなくてはならない。ニコラウスの行動や自分の行動に少しイライラしていたので助かった。
セレスにニコラウスの件は頼んだので、俺は早速二通手紙を書いた。
一通はリアに、夜会に向けて少し早めに王都に来てもらうことと、今後について話すために…
そしてもう一通は王弟殿下に向けて、休む旨の手紙を送った。
1,240
お気に入りに追加
2,115
あなたにおすすめの小説

【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?
なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」
顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される
大きな傷跡は残るだろう
キズモノのとなった私はもう要らないようだ
そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ
そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった
このキズの謎を知ったとき
アルベルト王子は永遠に後悔する事となる
永遠の後悔と
永遠の愛が生まれた日の物語

身勝手な婚約者のために頑張ることはやめました!
風見ゆうみ
恋愛
ロイロン王国の第二王女だった私、セリスティーナが政略結婚することになったのはワガママな第二王子。
彼には前々から愛する人、フェイアンナ様がいて、仕事もせずに彼女と遊んでばかり。
あまりの酷さに怒りをぶつけた次の日のパーティーで、私は彼とフェイアンナ様に殺された……はずなのに、パーティー当日の朝に戻っていました。
政略結婚ではあるけれど、立場は私の国のほうが立場は強いので、お父様とお母様はいつでも戻って来て良いと言ってくれていました。
どうして、あんな人のために私が死ななくちゃならないの?
そう思った私は、王子を野放しにしている両陛下にパーティー会場で失礼な発言をしても良いという承諾を得てから聞いてみた。
「婚約破棄させていただこうと思います」
私の発言に、騒がしかったパーティー会場は一瞬にして静まり返った。

婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました
Kouei
恋愛
とある夜会での出来事。
月明りに照らされた庭園で、女性が男性に抱きつき愛を囁いています。
ところが相手の男性は、私リュシュエンヌ・トルディの婚約者オスカー・ノルマンディ伯爵令息でした。
けれど私、お二人が恋人同士という事は婚約する前から存じておりましたの。
ですからオスカー様にその女性を第二夫人として迎えるようにお薦め致しました。
愛する方と過ごすことがオスカー様の幸せ。
オスカー様の幸せが私の幸せですもの。
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

【完結】で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?
Debby
恋愛
キャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢とクラレット・メイズ伯爵令嬢は困惑していた。
最近何故か良く目にする平民の生徒──エボニーがいる。
とても可愛らしい女子生徒であるが視界の隅をウロウロしていたりジッと見られたりするため嫌でも目に入る。立場的に視線を集めることも多いため、わざわざ声をかけることでも無いと放置していた。
クラレットから自分に任せて欲しいと言われたことも理由のひとつだ。
しかし一度だけ声をかけたことを皮切りに身に覚えの無い噂が学園内を駆け巡る。
次期フロスティ公爵夫人として日頃から所作にも気を付けているキャナリィはそのような噂を信じられてしまうなんてと反省するが、それはキャナリィが婚約者であるフロスティ公爵令息のジェードと仲の良いエボニーに嫉妬しての所業だと言われ──
「私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
そう問うたキャナリィは
「それはこちらの台詞だ。どうしてエボニーを執拗に苛めるのだ」
逆にジェードに問い返されたのだった。
★★★★★★
覗いて下さりありがとうございます。
女性向けHOTランキングで最高20位までいくことができました。(本編)
沢山の方に読んでいただけて嬉しかったので、続き?を書きました(*^^*)
★花言葉は「恋の勝利」
本編より過去→未来
ジェードとクラレットのお話
★ジェード様の憂鬱【読み切り】
ジェードの暗躍?(エボニーのお相手)のお話

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

地味令嬢を馬鹿にした婚約者が、私の正体を知って土下座してきました
くも
恋愛
王都の社交界で、ひとつの事件が起こった。
貴族令嬢たちが集う華やかな夜会の最中、私――セシリア・エヴァンストンは、婚約者であるエドワード・グラハム侯爵に、皆の前で婚約破棄を告げられたのだ。
「セシリア、お前との婚約は破棄する。お前のような地味でつまらない女と結婚するのはごめんだ」
会場がざわめく。貴族たちは興味深そうにこちらを見ていた。私が普段から控えめな性格だったせいか、同情する者は少ない。むしろ、面白がっている者ばかりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる