上 下
7 / 54

その名はルネ・アズーロ。

しおりを挟む
名前を考えている間に支度ができたようで、あっという間に男らしくなっていた。
それでも他の男性に比べると線が細い…こればかりは仕方がないことだけれど。

「胸の辺りがどうしても苦しいわね。」

「そればかりは仕方ないわ。緩めてしまうと女性だとバレてしまうもの。」

「そうね。今回はビアンカの言う通りよ。勝つために特訓してきたんだから今日くらいは我慢してちょうだい。」
確かにこの3週間の特訓は結構ハードだった。お父様の熱が入りすぎていて寝る頃にはクタクタになっていた気がする。でもその甲斐があって少し戦い方のコツも掴めてきた。

今回はあえて髪を隠さず後ろの低い位置で一本に結んでもらった。
服装は正装ではなく少し動きやすいスタイルだ。

「アナは女性の中だと身長も高めだし、自然体のまま参加できそうね。」
確かに男性の中だと小柄になるだろうけど168cmなので、そのままでも問題なく出れるだろう。今回は靴底を上げてもらったブーツに黒のパンツ。ホワイトシャツにクラバットタイをつけて、ベストを羽織った。ベストはパンツと同じ色の黒だ。
顔も少し男性っぽく見えるように化粧をしてもらう。目はいつもより切れ長に見えるように。少し輪郭のあたりに影を落としてもらい、女性のような顔つきから少しシャープな顔つきにして貰う。

鏡を見てみるといつもの自分とは別人の自分が写っていた。

「なんか、お兄様たちに似てるかもしれないわ!」
お兄様たちはお父様の髪色を受け継いでいるので髪の色や目の色が違う。
「確かに、アレクお兄様達に似てるわね。まぁ兄妹だから似てるのは当たり前な気もしなくもないけれど。」ヘレナは私の顔をジロジロ見ながら小さい声で「本当にこの兄妹、顔がいいのよね…」と言う声が聞こえた。

「まぁ、ニーナは夢見る自称ヒロインだし、あなたのことには気づかないと思うわ。何か聞かれても遠い血縁とでも言っておけばそれ以上突っ込んでこないわよ。それにアレク兄様達に会ったことないとおもうから大丈夫。」

私の肩に軽く手を置きながら頷いた。

「そう言えば、支度手伝ってくれている間に名前考えたのだけどルネ・アズーロはどうかしら?」

アズーロはネイビーの意味もあり、自分の髪の色に合わせてみた。アズーロに合う、名前を考えて、短くて呼びやすい名前がいいのと語呂がいいなと思って「ルネ」にしたのだけど。

「いいじゃない!私は賛成よ!ルネだったら応援もしやすいし。」ビアンカに続いて、お母様やヘレナも賛成してくれた。

準備している間にあっという間に登校の時間になり、ここからは皆バラバラに学院に行くことになった。ニーナにバレないようにするためでもある。ヘレナやビアンカは先に出たので1番最後にお父様とお母様に挨拶をしてから出ることにした。
「お父様、お母様行ってまいります。」

「あぁ、行ってらっしゃい。私たちも今日は応援に行くからね。アレクとアランが来れないことを悔しがったいたよ。なんでも父上と試合をして勝った方が応援に行くことになったらしいんだが、父上が本気で戦ってきたらしくてね。だから今回は父上と私、メイシーの3人でみに行くからね。頑張ったおいで。」
お兄様達がきてくれないのは少し残念だったけれど、代わりにお祖父様がきてくれると聞いて俄然やる気が出てきた。

お父様に頭を撫でられて「はい!お父様の娘として恥じないよう精一杯頑張って参ります。」

そう言って家を出た。


⟡.·*.··············································⟡.·*.


ハリソン視点。

メイシーと2人でティアナを見送る。

我が娘ながら男らしい背中に頼もしさを覚える反面、もう少し女の子らしく育てるべきだったかと後悔した。

「本当にティアナに婚約者ができるのか心配になってきたよ。」可愛い娘を嫁にやるのも気持ち的には複雑だが…

「大丈夫ですよ。ティアナの色々なところを知っていただいたほうが、ティアナをきちんと愛してくれる人に出会えると思います。それにきっとティアナを好きになってくれる人は近くにいるかもしれませんわ。私たちは見守りましょう!」


「そうだね。」

馬車が見えなくなり私たちも屋敷の中に入って運動祭に行く支度を始める。父上が来る前に支度を済ませないと、忙しくなるからだ。きっと父上が来ると言うことは母上も一緒に来るだろう。

「今日の夜は賑やかになりそうだな…」

少しため息をつきながら部屋を出る。今日の運動祭で大きな声で応援できないのはつらいが…父上達が変わりに応援してくれるだろう。そのためにも名前を間違いないように言い聞かせなければ…声が大きいし、やたらと響くので間違えられたら最悪だ。
父上達がついたと報告があったので急いでエントランスに向かった。



しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

モブですが、婚約者は私です。

伊月 慧
恋愛
 声高々に私の婚約者であられる王子様が婚約破棄を叫ぶ。隣に震える男爵令嬢を抱き寄せて。  婚約破棄されたのは同年代の令嬢をまとめる、アスラーナ。私の親友でもある。そんな彼女が目を丸めるのと同時に、私も目を丸めた。  待ってください。貴方の婚約者はアスラーナではなく、貴方がモブ認定している私です。 新しい風を吹かせてみたくなりました。 なんかよく有りそうな感じの話で申し訳ございません。

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。 でも、なんだか周りの人間がおかしい。 どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。 これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

処理中です...