上 下
6 / 54

男装。

しおりを挟む
私が何に出ようか、どうやって出場しようか考えていると、ビアンカが男装してみたらどうかという案をくれた。
確かにお兄様やお祖父様たちに鍛えられてている分、その辺の男の人たちには負けない自信があるけれど、勝ち抜けるかと言われたらわからない…でも自分がどこまでできるか力比べができると思うと心が躍る。

「今回のために運動祭までお父様に特訓してもらうのもありかもしれないわね!」
学院からの帰り道、馬車から外を眺めながら運動祭までのことを考えているとあっという間に自宅に着いた。
自宅は王都と辺境伯領に2つある。貴族院に通っている間は王都にある自宅から通って休暇中は辺境伯領に戻ることが多い。今は貴族院を卒業しているお兄様たちと、お祖父様が辺境伯領にいるため、お母様やお父様は辺境伯領を任せて私と一緒に王都に来ている。

自宅の中に入るとお父様とお母様が出迎えてくれた。

「ティア、おかえりなさい。」
「お父様、お母様ただいま戻りました。」挨拶をして取り敢えず一度部屋に戻る。お母様たちに予定がない時は大抵帰ってきたあと挨拶をして部屋に戻って着替えてからご飯というのがルーティンだ。


部屋につくと三つ編みを解きメガネを外していつも通りの自分に戻る。最近やっと三つ編み姿に慣れてきたけれどやっぱりこっちの姿の方が落ち着く。
シンプルなAラインのワンピースに着替えてダイニングルームに向かった。

「お父様、お母様お待たせいたしました。」軽く一礼をしてから席に着く。

「最近ティアは学院が楽しそうね。」

「はい!クラスの皆もとても優しい方々ばかりでいつも助けられてるんです。」
そう言って今日あった話をした。


「それで、次の運動祭なんですけど男装して男子の部の剣術、馬術に出たいと思っているんですがいいでしょうか?」

お母様は目をぱちぱちさせながら、
「あら、面白そうじゃない!早速準備しないといけないわね。」とすごい乗り気なひと言をくれる。
お父様はお父様で、「その辺の男どもには負けるわけにはいかんな。運動祭まで特訓しよう。」
今にもダイニングルームから出ていきそうな勢いだったので慌てて「明日からお願いいたします。」とその場を落ち着かせた。
2人とも反対しないでくれてよかったなとホッとした気持ちでいっぱいだ。

運動祭までの間、男装についてはビアンカやお母様にお願いしておけばなんとでもなりそうだし、私はお父様と一緒に稽古に励んだ。

⟡.·*.··············································⟡.·*.

お父様と稽古を始めて3週間が経ち、あっという間に運動祭が明日へと迫っていた。
辺境伯家領主ということもあり、やはりお父様はすごく強い。

「ティアナ。いいかい、明日の試合についてだが、剣術で勝つにはなかなか難しいぞ。でもお前は辺境伯家の娘だ。そう簡単には負けてはならぬ。どう足掻いても力では勝てないからな、どうやって戦うか工夫をしなければならない。」

「はい!お父様。」剣を振り合いながら話し続ける。

「まずティアナが勝つためにどうするべきか。一つ一つの技で戦うんだ。そのために力技に持っていかれないように気をつけるんだぞ。」

力技にもったいかれたら下手したら一撃で負ける可能性もあるだろう。特に自分より体のの大きい方のほうが多いはず…お父様の話に相鎚をうち、明日の剣術に向けて稽古を続けた。

馬術は馬の障害競技だし、自分の馬に乗っていいとのことだったので、自分の慣れた馬に乗って走る予定だ。
目標は優勝じゃなくてもいいけどできれば3位以内に入りたいところ。せっかくみんなが男装でいいって言ってくれたから、気持ちに応えられるように頑張るだけだ。


そして当日になり、メイドに連れられて応接室に行くとお母様だけでなく、なぜか、ビアンカとヘレナが来てみんなで楽しそうに会話をしていた。正直結構遅くまで起きていたので眠いのだけど…大きなあくびをしながら3人の元に向かう。

「おはようございます。お母様。ビアンカ、ヘレナが来ていることにもびっくりしたけれどとても楽しそうね。」

ヘレナとお母様はいつも通り「おはよう」と返してくれたけれどビアンカからなんの反応もなかった。ビアンカを見て不思議に思っていると、
「ビアンカはティアの普通の姿を始めてみるからびっくりしたんじゃないかしら?」

「アナ。おはようございます!すみません。あまりにも美しくてびっくりしてしまいました。」ビアンカは少し照れながら私に話しかけてきた。同性でも異性でも美しいと言ってもらえるだけですごく嬉しい。

私も「ありがとう。」と返事をし早速今日の変装を始めていく。

「いつもおさげにメガネだから今回はイケメンな男装にしましょう!」というテーマらしい。私は3人に任せて人形になりきった。

今回、担任の先生からの力添えもあり男装として参加できることになったけれど、一つだけ条件が名前を変えて出場するということだったので、皆んなが色々準備してくれている間に私は名前を考えることにした。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

モブですが、婚約者は私です。

伊月 慧
恋愛
 声高々に私の婚約者であられる王子様が婚約破棄を叫ぶ。隣に震える男爵令嬢を抱き寄せて。  婚約破棄されたのは同年代の令嬢をまとめる、アスラーナ。私の親友でもある。そんな彼女が目を丸めるのと同時に、私も目を丸めた。  待ってください。貴方の婚約者はアスラーナではなく、貴方がモブ認定している私です。 新しい風を吹かせてみたくなりました。 なんかよく有りそうな感じの話で申し訳ございません。

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。 でも、なんだか周りの人間がおかしい。 どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。 これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...