幸せはあなたと

ヒイロ

文字の大きさ
上 下
29 / 60
2章.転生

4.

しおりを挟む
『は…とり…はとり。』

どこかで僕を呼ぶ声がする。羽鳥?僕の名字?懐かしい。羽鳥って呼ばれるのは何年くらいぶりだろう。でも、誰が呼んでるの?

目を開ける。久しぶりに光が見える。目が見えてる?

しかも見覚えある人が立っている。藤崎くん?

「羽鳥…久しぶりだな。」

「藤崎くん?」

死んでから何年経っているか分からないけど、高校時代と変わらない藤崎くんが僕の前に立っていた。

「時間がないから手短に言う。お前は転生した。その世界にお前の命を狙ってる人がいる…。お前を手に入れようと…ゆがんでしまったんだ…お前が死んだことで。気をつけてくれ。周りに絶対お前を守ってくれる人がいる。今度は絶対幸せになってほしい。」

早口で言われて理解が出来ない。

「待ってよ。何を言ってるの?僕を殺そうとしてる人?藤崎くんが何でそんなこと知ってるの?」

「俺も死んだんだ。俺はちゃんと寿命で。お前が何で死んだかも誰も教えてくれなかった…お前の苦しみも知らないで…俺はお前が与えられるはずだった幸せを奪ったんだ。すまない…。」

「もう、終わったことだよ。今、僕幸せだよ。」

「いや、そっちに…あの人が…くそっ、あの人が邪魔しやがる。女神に俺が転生する前に会わせてくれとお願いしたんだ。謝りたかった。本当にすまなかった。ごめんな。羽鳥…お前に…ヤバいそろそろ…絶対今度こそ幸せになってくれ…諦めないで…その目も傷付いてるだけだ。傷が癒えれば見える…今度こそ…おに…ちゃん…幸せになっ…て…」

消えてしまった。消えると同時に光が消える。また真っ暗になる。すると声が聞こえる。藤崎くんとは違う声…聞いたことがあるような。

「ゆ…う。ゆう…ここにおいで…」

怖い。誰?腕を掴まれる。この人なの僕の命を狙ってる人?川で溺れた時と同じような気がした。腕を振り払ってるのに振りほどけない。パパ、ママ、助けて…晴一…。

するとあの匂いがした。この人の元に行きたい。この匂いの近くに。匂いの方に掴まれてない手を伸ばす。

「大丈夫か。」

目が覚めるとラウルさんの声がした。何でラウルさんがいるの?ピクニックから会ったことがなかった。

「ユウ君大丈夫か?メーレンさんもすぐ来るから。」

僕は窓ガラスにぶつかって、頭から血を流して倒れたらしい。しかもその時、たまたま近くを歩いていたラウルさんが、ガラスの割れる音に気づいて入ってきたみたいで。ラウルさんは家にパパの伝言を伝えに行く途中だったらしい。

「団長の子供、お前から魔物の気配がした。何かあったか?」

魔物の気配。あの声に掴まれた右手が震える。
藤崎くんが言ってた僕を手に入れようとするあの人って。でも、いきなり女神にとか言われても信じられない。あれは僕が見た前世の夢なのかもしれない。藤崎くんが出てくる幻なのかも。現実と夢かわからなくなる。まるで本の中の世界。転生、魔法、魔物。もしかしてこの世界も僕の見ている夢の中だったりする?

「おい、聞いてるのか?何を震えてるんだ。寒いのか?」

ラウルさんが寝ている僕を抱き抱えた。

「冷えてるじゃないか。おい、毛布とかないのか?」

マッテイスさんが持ってきますと出ていった。あの匂いに包まれる。やっぱり僕はこの人のそばにいたい。胸の中に顔を埋める。離れたくない。

「おい、お前のお母さんじゃないぞ。そんなに引っ付くな。お…い。」

引き離されそうになってしがみつく。慌ててるラウルさんがちょっと可愛い。

「ユウ!!」

ママの声が聞こえた。離れたくなかったけどママに手を伸ばす。

「怪我したってユウ…。どうしてこんなことに?」

「ママ…。」

額が痛い。きっと怪我してる。周りに迷惑かけて何をやってるんだ僕は。身体が温かくなる。ママの治癒魔法だ。

「ユウその右手首は?ラウルくん家の子をこんなに強く握ったんですか?」

ママが怒ってる。指痕まで付いてるとラウルさんに詰めよってる。手首に指痕?あれは夢じゃない?

「俺は寒そうにしていたから、抱き抱えただけだ。手首なんて触ってない。」

ゾクッとした。藤崎くんが言ってたあの人って…あの人のことだろう。僕を殺そうとしている?僕が本当に憎いんだろう。虐待を受けていた過去を思い出す。また閉じ込める気なんだ。藤崎くんが言ってた、手に入れるって。昔の癖で丸くなる。身体を小さく、蹴られる範囲を小さくして顔を守って。身体が震える。

「どうした?寒いのか。」

「ユウ、ママが抱っこするからこっちにおいで。」

周りの声も聞こえないように耳を塞ぐ。聞きたくないなのに、頭の中にあの人の声が聞こえる。『お前の幸せだと思うことは絶対与えない』

やっと幸せに過ごせると思ったのに。

「…たすけて…」

ずっと言いたかった言葉。叶わない言葉。

「ユウ助けるよ。誰からも。ユウを傷つけさせたりはしない!!ママが守る。」

「お前みたいな小さなガキくらい俺が守ってやるから。大丈夫だ。」

二人の温かい手が頭に乗せられる。

「ママぁ~怖いんだ。僕…ずっとずっと…。」

わんわん泣き出した僕を二人は泣き止むまでずっと待っててくれた。守ってくれる人がこの世界にはいるよ。僕の弟…藤崎くん…
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧
BL
「綺麗な息子が欲しい」という実母の無茶な要求で、ランバートは女人禁制、男性結婚可の騎士団に入団する。 そこで出会った騎兵府団長ファウストと、部下より少し深く、けれども恋人ではない微妙な距離感での心地よい関係を築いていく。 友人とも違う、部下としては近い、けれど恋人ほど踏み込めない。そんなもどかしい二人が、沢山の事件を通してゆっくりと信頼と気持ちを育て、やがて恋人になるまでの物語。 メインCP以外にも、個性的で楽しい仲間や上司達の複数CPの物語もあります。活き活きと生きるキャラ達も一緒に楽しんで頂けると嬉しいです。 ー!注意!ー *複数のCPがおります。メインCPだけを追いたい方には不向きな作品かと思います。

あまく、とろけて、開くオメガ

藍沢真啓/庚あき
BL
オメガの市居憂璃は同じオメガの実母に売られた。 北関東圏を支配するアルファの男、玉之浦椿に。 ガリガリに痩せた子は売れないと、男の眼で商品として価値があがるように教育される。 出会ってから三年。その流れゆく時間の中で、男の態度が商品と管理する関係とは違うと感じるようになる憂璃。 優しく、大切に扱ってくれるのは、自分が商品だから。 勘違いしてはいけないと律する憂璃の前に、自分を売った母が現れ── はぴまり~薄幸オメガは溺愛アルファ~等のオメガバースシリーズと同じ世界線。 秘密のあるスパダリ若頭アルファ×不憫アルビノオメガの両片想いラブ。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...