当たり前の幸せ

ヒイロ

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5月に入りそろそろ拓が発情期になる。

「そろそろ発情期じゃない?」

「うん。僕のためなんかの為にごめんね。」

毎日愛してると言い続けても拓には伝わらない。この間の発情期で話し合いをした。子供の話を持ち出した途端待ってと言われた。結局子供に嫉妬すると言う話しも出来なかった。拓も子供が欲しかったと思っていたのだが違うのかもしれない。どんどん拓が遠くに行ってしまいそうで怖かった。


「はぁ~。」

ため息をつくと嫌そうな顔で三人が見る。

「辛気臭い。やめてため息。もうすぐでこの仕事終わるのにさぁ~」

「すまない。」

素直に謝ると気持ち悪ぅ~と言われた。理不尽だ。

電話がなる。中谷が取ると明らかにいい内容の話ではないことが分かる。

「はい。そうですねわかりました。明日向かわせます。」

電話を切った中谷が申し訳なさそうに

「明日北海道に飛んでくれ。」

と言い出した。拓の発情期が近いので出張は当分控えるように言っていたので余程のことだろう。

「明日で絶対終わる話か?」

「ああ。会場の不備だ。お前じゃなきゃわからん。山中も付いていってくれ。」

わかったと頷き俺と山中は早く帰ることになった。

「拓明日出張になった。次の日には戻るから。まだ大丈夫そう?」

「大丈夫。出張の準備するね。一泊ね。」

よろしく~とお願いした。明後日は早い便が埋まっていて空港に15時着だ。きっと発情期始まるギリギリの日だ。

北海道の会場に着くとあり得ないことにあんなに変更しないでくれとお願いしていた照明の位置が変わっていた。

「相野さんの言われた通りにしたんですが昨日いきなり国のお偉いさんが来て位置を変えたんですわ。相野さんに言わなくていいのかと聞いたんです。そしたら言わなくていいと言ってたんでどうしようかとは思ったんだけど一緒にやって来て相野さんの強いこだわりも分かってるから黙ってるの無理だった。」

北海道の会場をずっと一緒にやってきた建築業の志賀さんだ。自分の信念があり結構意見がぶつかったりしたがお互いやりたいことが一緒なのでいい結果になった。

「ありがとうございます。ありえないですねこのままでは照明が近すぎて選手たちの障害になるでしょう。眩しすぎます。それに照明で熱くなるでしょう。国の方には私の方から言っておきます。元の位置に戻してもらえますか?」

「わかった任せとけ。今度こういうことがあっても相野さんの許可ないと出来ないと言うよ。わざわざこんなことくらいですまなかったな。」

いえ大丈夫ですよ。と言って北海道の責任者に電話をかけた。基本国と話す時は録音をする。

「今北海道にいるんですがどういうことでしょう照明の位置が変わっているんですが。」

「えっ、北海道にいるんですか?あー照明ね。あれ駄目だよ選手が主役なんだから照明あんな位置じゃ。暗すぎる。選手に当たるように考えてくれないと。昨日視察にきた人たちからも意見が出たんだ。」

はぁー。何言ってんだ。

「あれじゃリンクに反射して選手が滑りにくくなる。開催してからじゃ大変なことになりますよ。」

「いいんだよ。こっちが言ってるんだからその通りにすれば。」

「責任者として私は許可できません。明日つけ直します。これは譲れませんよ。こっちは設計士として言っているんだ。建物に関しては口を出さないで下さい。」

「偉そうに。まぁ、いいですよ。またつけ直せばいいんだ。」

こいつは~。

「誰もつけ直してくれないと思いますがね。では。」

本当やってられない。

「クソだねー。どうする?」

「明日また会場行ってから帰るよ。」

13時までに空港に行けば帰れる。空港まで30分の位置に会場があるから余裕を持って12時には会場を出ればいいだろう。

夜に拓に電話をする。

「拓明日帰るから。体調どう?」

「まだ大丈夫。明日家で待ってる。」

「愛してる。」

「僕も」


そして火災が起きた。

会場に向かうと志賀さんがいて後でお役所の人が来るという。やっぱりと思った。昨日の話をすると何と言われようとやらないことを約束してくれた。

今照明を朝から直してくれてるそうだ。志賀さんと中に入る。

「あの照明点けてると暑いんですよね。照明同士が近すぎるし。」

と話していると焦げ臭いがしてきた。

「何か変だな。」

天井に着くと火か見えた。

照明同士が近すぎて周りの温度が高くなり近くに置いていた設計図の紙が燃えた。

「志賀さんみんなを避難させて。急いで。」

俺はすぐに119に電話をする。そして近くの消火器で初期消火に努める。しかし火の回りが早く無理だと思い消火しながら入り口に向かう。その時天井から手が見えた。人がいる。

「おーい。大丈夫か?」

早くしなければヤバい。もう一回天井に登ると倒れてる人が見えた。煙を吸い込んだのかもしれない。急がないとこの人も助からない。担ぎ上げ降りきり入り口に向おうとしたとき上から照明が落ちてきた。直接当たらなかったが火が飛び散り肩が燃える。

「くそっ。」

担いでいるので叩くのが遅れ焼けた服が張り付いて痛い。それでも入り口に着くと消防車がきていた。

俺救急車に乗せられて火傷の治療をされた。

「山中被害は?」

「初期消火のお陰ですね天井部分だけでした。しかし何人かの作業者が火傷や煙を吸ってしまい今処置中です。幸いなことに死者はいません。」

「わかった。ちょっと拓に電話をするから。」

携帯が無いことに気づく。中谷が会場の近くで落ちてたそうですと渡してきた。画面が割れてる。しかし使えそうだ。中谷に新しい携帯の手に入れてくれと伝え拓の電話番号を履歴から探す。

拓ごめん。ごめんな帰れそうにない。

何度か掛けるが電話に出ない。もしかしてもうヒートになってて出れない?それからも何度も掛け続けた。
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