当たり前の幸せ

ヒイロ

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うー。気持ち悪い。スニーカーどころか靴下までびしょびしょだ。
鍵を開け家に入る。この家は煇が初めて設計して建てた家である。僕の意見を聞き話し合ってこだわりにこだわって建てた自慢の家だ。家は煌々と電気が点いている。誰もいなくても電気は基本点けっぱなしにしている。煇が電気が消えている家に帰りたくないし防犯効果もあると玄関とリビングは点けたままにしている。

玄関でスニーカーと靴下を脱ぎスニーカーも持って上がる。とりあえずスニーカーと荷物はお風呂場に置いて買い物したものも冷蔵庫に仕舞った。お風呂のスイッチを押す。先輩に電話しようと思ったけどとりあえず濡れた服とお風呂にも入りたかった。遅くなるって言っておいたし煇も昨日帰れない口振りだったしなと、とりあえずお風呂。

冬じゃなくてよかった。びしょ濡れの服を脱ぎ浴槽が溜まるまで身体を洗いついでにスニーカーもさっと洗う。湯船に浸かると身体が冷えていることに気付いた。風邪でも引いたらまた煇に迷惑かけちゃう。肩までゆっくり浸かっていたが仕事も気になり始めて

「仕事しよ。」

すぐに上がった。


身体を拭いてると玄関で音がした。もしかして煇?そういえばメール送ったっけ?メールを送った記憶が曖昧だった。
あの時先輩から電話がきて途中だったような?気がした。煇からメールも来てなかったということは?しまった煇僕が家にいること知らないや。スニーカーも持って上がってるし。びっくりするかも。とりあえず下着下着。下着を履きドアを開けると煇の後ろ姿が見えた。煇って声をかけようとしたら話し声が聞こえて電話していることに気付いた。ちょっとびっくりさせようとドアをそっーと閉めてちょっと隙間から覗く。電話が終わったらドアをバーンって開けてたらどんか顔するかな?としゃがんで様子を窺う。

「最悪だよ~今日に限って早く帰れるなんてさぁ。拓いないし。」

砕けた話し方からみて大学からの友達かな?僕のこと話してるし。

「うんうん。今最高に忙しい。国が相手だしダメ出しばっかりで。うんうん。そうそう。本当に間に合うのか分からん。だけど妥協はするつもりはないよ。だから遅くなるんだよ帰りが~。最近拓の寝顔しか見てないし。」

うー長くなりそうだなぁ。下着一枚で僕何してるんだろう。服着よう。驚かすのは諦めてパジャマを着ようと立ち上がった。聞いてるとまた僕の話している。

「まぁ、そうだね。拓だから。そうそう。」

恥ずかしいなぁ~相手が何て言ってるか分からないから何に対して相づち打っているのか。僕の話には間違いないんだろうけど。
だけど次の煇の言葉に息が止まる。

「俺絶対子供作る気ないから。拓が何と言おうと。」

えっ?

「どう説得するかはこれから考えるよ。酷くねーわ。当たり前だろそんなの。あの拓だぞ。子供は作らない。」

えっ?

「そんなの知らねーよ。」

と笑う。笑ってる?子供作らないことに笑ってる。

「まぁ、実際番は面倒くさいかも。やばいしね。そうそう。お前もわかる時がくるよ。番をもてば。」

番が面倒くさいかも?番が面倒くさい?僕が面倒くさい?

ドアを閉める。これ以上聞きたくなかった。今の会話は本当に煇がしてたんだろうか?何だか寒くなってきて下着を脱ぎまた浴槽に浸かる。

子供はいらない。作りたくない。番は面倒くさい。もしかして僕嫌われてた?オメガだから?あの拓だぞって言ってた。拓=オメガ。
やばいってどういうこと。オメガが迷惑だったってこと?今の会話の内容が処理できない。

番じゃなければいいのかな?子供が出来なくなれば一緒にいれる?僕から離れる?別れる?

「できないよぉ。」

無理だよ。煇から離れるなんて。

「やだぁ~ひかりぃ。」

嘘だよと言って。さっきの会話が耳に残ってて現実を突き付けてくる。耳を塞いでも何度も何度も煇の面倒くさいって言葉が聞こえてくる。


その時お風呂場の扉が空いた。

「たく~帰ってきてたの?もしかして雨で濡れた?あっ服びしょびしょじゃない。ちゃんと湯船浸かってる?」

かごの中の服を見たんだろう。開けるよと言いながら扉が開いた。僕の顔を見てびっくりしている。久しぶりに目が合ったのに僕は煇がよく見えなかった。水の中にいるみたいだった。

「拓どうした!!何があった!!」

何故か煇が慌ててる。濡れるのも気にしないで僕を浴槽から引き上げた。そのままお風呂から出ると抱き抱えまま片手でタオルを取りリビングのソファーに座らされる。タオルで拭かれながら身体を触られ何か確認している。

「煇リビングびしょびしょだよ。」

なんだろう僕の声なんだか遠くに聞こえる?

「そんなことはいい!拓何があった!!」

何もないよ。煇が僕のこと好きじゃないことが分かったこと以外。

「何もないよ。どうしたの?煇こそ。」


「じゃあ何で泣いてる。どこか痛いとか?拓?聞いてる?」

心臓がきゅーってなってる痛い痛いよ。

「大丈夫。あれ?何で泣いてるの僕。」

はぁ~とため息をつかれる。

「泣いてるの気付いてないの?」

頷く。

「何か嫌なことでもあった?」

嫌なこと?あった。煇に嫌われてることに気付いたこと。

首を横に振る。

「じゃあ何で泣いてるの?」

悲しいから。嫌われてるの悲しいから。

首を横に振る。

「わかんない。」

膝をついてた煇に抱きつく。煇の脇の下に腕を回し腰にも足を回した。昼間見たコアラと同じように。

「わっ!拓ちょっとたんま。濡れてるから。拓も服を着ないと。裸だし。」

首を横に振る。離れるなんて無理。引き離して立ち上がろうとする煇を離すまいと力を込める。

「拓~着替えよ。着替えたら抱きついていいから。」

首を横に振る。絶対離さない。
ため息が頭の上から聞こえる。あっ、嫌われる。違うまた嫌われた。腕と足を外す。

「ごめんなさい。」

涙はまだ止まってないみたいだ。さっきから声も視界も悪い。タオルで顔を隠し立ち上がろうとすると煇に抱き抱えられた。

「お風呂入るよ。一緒に。」

頷く。抱き抱えられてまたお風呂に戻ってきた。煇が服脱ぐのを手伝いすばやく抱きつく。そのまま抱き抱えられて浴槽に浸かる。ずっと背中を優しく擦られて僕は煇の肩に頭を乗せて目を瞑る。

「拓もしかしてさっき電話してたの聞いてた?」

「電話?」

「聞いてたんじゃないの?」

「電話してたの?」

「…。それじゃないのか?」

「それって聞いちゃいけない話だったの?」

えっ?違うよと慌ててる。僕の嘘には気付いてないみたいだ。

「実は先輩から電話きて。クレームだった。アプリ動かないって。今から原因調べないと。」

「はぁ~!矢野先輩から?それで帰ってきたの?」

この間倒れたばかりなのに。あいつ!とイラついてる。

「うん。煇にメール打とうとしてたら催促の電話きてメール送ったつもりでいた。びっくりしたよねごめんね。」

黙って帰ってきちゃってごめんね。面倒くさいね僕ごめんね。オメガでごめんね。心の中で謝る。

「それで泣いてたの?何言われたの?俺の拓泣かして。コロス。」

先輩ごめんなさい。先輩のせいにしてしまった。

逆上せたらまずいからと上がり服も着せてもらい髪も乾かしてもらった。服を着てからずっとあの体勢。手を離したら終わってしまう気がするから離れられない。

煇がヒート中みたいと何故か喜んではいる。背中をぽんぽんと叩くリズムが心地よくて僕の好きな匂いと体温でいつの間にか眠りに落ちていた。
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