当たり前の幸せ

ヒイロ

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「今日も帰り遅いのかな。」

相野拓あいのたくは晩御飯を作りながら時計を見る。すでに19時を回っているが携帯に帰るコールはない。

夫のひかりと高校の時に知り合って大学で付き合って卒業と同時に結婚した。
俺がオメガ煇はアルファ。
この世界にはベータ、オメガ、アルファと3つの性がある。小学生の時に検査を受けてオメガだと診断された。いまいちピンとこなかったが僕の産みの親が男でオメガだったのもありあまり苦労することも悩むこともなかった。父親はアルファでオメガのことも理解していたのも大きかった。

それでも高校になる頃発情期を迎えて初めてオメガという性を恨んだ。兄姉がいるが二人ともアルファだった。何故自分だけがこんな苦しみを味わなければいけないのかと母親に泣きついたこともあった。

そんな時に煇と出会い自分がオメガでもいいんだとオメガで生まれてきてくれてありがとうと言われ俺は本当に救われた。男なのに子供も産めて発情期で周りを惑わすオメガでもいいんだと本当に思えた。

それから13年。大学卒業で結婚し番になって3年。今年で24歳になった。煇に在宅の仕事にしてほしいと言われ元々人付き合いが苦手だったのもあり外に出なくても出来る仕事としてシステムエンジニアとして家でも出来るよう頑張った。細々と仕事をしているが日本は外国に比べて遅れているせいか仕事の依頼は途切れることがない。大学の時の先輩などの依頼とかも入り逆に忙しい日々が続き睡眠不足になることもしばしば。

煇は大学時代に一級建築士の資格を取り全国各地の建築に携わるようになり最近では僕がいるからか長期ではないが海外の仕事も受けている。ここ一年は毎日忙しそうに朝から出掛け帰りも遅かったり帰って来なく泊まりも増えていた。
それでも必ず連絡はしてくれる。メールなのではなく電話で。必ず電話を切るときには愛してるって言って。

オメガといえば可憐で綺麗で可愛くて守ってあげたいと思われるというのが一般的だが僕は見た目も身長も平均的な何処にでもいそうな容姿でよくベータに間違えられる。母親も僕から見ても本当に綺麗で同じ血が流れているのかと思うほど似ていない。かといって父親に似ているかということもなく本当に平凡な容姿だ。筋肉は付かないしひょろっとした細い身体で小さいころは捨て子なんじゃないかと思ったくらいだ。
ただ、それを言ったら家族全員に泣かれてしまい戸籍謄本、DNA鑑定の結果まで見せられた。それ以来容姿のことは口にしていない。もちろん家族が好きだし家族も僕のことを愛してくれてる。というか溺愛してるといっても過言ではない。

煇はアルファらしくカッコいい。10人が10人100人が100人惚れてしまうと思うほど。高校入った時はやんちゃ坊主って感じだったのに2年位から落ち着いた感じで周りの女の子達からラブレターやら告白やらファンクラブやらで大忙しだった。何人かの女の子と付き合ったみたいだけど高校3年の時に僕に告白してきて色々あったけど大学受かった時にお願いしますと返事をしてお付き合いが始まった。

すぐに同棲もし発情期には一緒にいてくれた。きちんと親にも話をしてくれて大学時代から親公認のお付き合いだった。大学卒業間近に旅行に行こうと言われ2泊3日の旅行先でプロポーズされた。夕日が綺麗に見える所があるって言われて散歩しながらその場所まで行ったら丘の上にぽつんと二人がけのベンチがあり夕日が沈むまで何気ない会話をしてたら夕日が沈むと同時に街灯が付きまるでスポットライトみたいに二人を照らし出して僕が笑ったら「いつまでもその笑顔を俺だけに見せてほしい。結婚してくれ。」って指輪を出して顔を真っ赤に染めてだけど真剣な目で見つめてきたから僕は「はい。」って抱きついた。

後から聞いたらその場所でプロポーズすると必ず上手くいくと言われてる所だったらしくあの時はそんなジンクスにも頼りたくなるくらい不安だったんだって笑ってた。煇も不安になることがあるんだねって言ったらお前を手に入れることができるんだったら何でもやるつもりだったからなとキスされた。自信家の煇とは思えない発言だったから大笑いしたら思いっきり頬をつままれた。

結婚式もした。お互いに白のタキシードで。煇がカッコよすぎてまた恋に落ちたって言ったら俺は毎日恋に落ちてるし~って満面の笑顔でキスをしてきた。小さな教会で友人とお互いの両親におめでとうって言われて本当に幸せで涙が止まらなくなって煇が慌てる姿にみんなが大笑いしていた。
友人からはこれで平和な日々がくると言われたが意味が分からなかった。

そして結婚してから初めての発情期に番になった。
実は僕は発情期の記憶をいつも覚えていない。発情期が始まった時まで分かるのだがキスをされて愛撫をされ始めると記憶が飛んでしまう。申し訳なくて煇に謝ったことがある。煇はとにかく拓が可愛くて可愛くて覚えていないのは残念だけど俺は全部覚えてるからいいよって言ってくれた。変なこと言ってない?って聞くと目をそらしながら可愛いから大丈夫って言ってたけど絶対変な事を言っているんだなと思った。まぁ、煇がいいと言ってるんだしいいかと思ってそれ以降は聞かないとこにした。
番になった発情期は噛まれた時にこれまでにない幸せを感じたことしか覚えてなかったけど。記憶が曖昧で終わった時に首の後ろが痛くて鏡で見るまで番になった実感が湧かなかった。煇が言うには噛んでって可愛くおねだりしてきたって言ってたけど記憶が全くなかった。
学生の時の発情期は嫌な記憶ばかりではっきり覚えているのに煇と過ごす発情期は何故記憶が飛んでしまうのか不思議だけど終わった時の幸せで満ちている気持ちは何度でも味わいと思っている。あんなにオメガが嫌だと思っていたのに今はオメガでよかったと思っているのは煇という存在が僕に与えてくれる愛情のお陰だと思う。

仕事が落ち着いてからということで子供を作らないと話し合いをした。まだ結婚も仕事もおちつかないし子供を作ってしまうときっと僕の負担が大きくなると煇が心配するのでとりあえず先延ばしにしている。僕は在宅で結構融通もきくから大丈夫だと言ってもみたけど煇が駄目だと折れてはくれなかった。煇の仕事も忙しいし煇の負担もあるしと思ったので僕もとりあえず了解した。

そして3年が経った。
オリンピックが日本に決まった時煇に会場を任される事も決まった。大きな喜びと小さなほんの小さな不安はあった。煇を支えていけるのかと妻として。落ち着くはずの仕事がどんどん忙しくなりすれ違いにすれ違いが続く。このままではいけないと思い自分の仕事を減らすことに決めて少しでも煇を支えられるよう家のことを煇を中心に動こうと決めた。それでも僕の仕事を信頼して依頼してくる人がいたりして忙しい日々があり逆に煇に心配されて支えてもらうことがあったりして上手くいかないこともあったが一段落してやっと3か月前くらいから余裕がでてきた。
毎日煇に朝食を作りお弁当も渡して夕食も作って待ってる。煇もとても喜んでくれた。忙しい日々で痩せてしまった身体もなんとか元の体重に戻せそうだ。

電話が鳴る。煇の着信音だけ変えてあるのですぐに煇だと分かる。

「もしもし。」

「拓~今日遅くなりそう。もし帰れなかったらいけないから先に寝てて。」

「わかった。」

「晩御飯何?」

「今日は茄子の煮浸しにしょうが焼き。」

「やっぱり今すぐ帰る。」

後ろの方でふざけんなとか駄目~とか聞こえてくる。友人達の声だ。ふふって笑って
「温めるだけにしとくから仕事頑張って。」

「…頑張る。拓、愛してる。」

「僕も。」

電話を切ってご飯の準備を再開する。

「今日も一人ご飯かぁー。」

寂しいけど仕方ない。仕事相手に嫉妬してもしょうがないし。明日の朝ごはんとお弁当の仕込みも一緒にやっちゃおっと。

一人ご飯して煇の言いつけ通り先に寝ようとしていたときに携帯が鳴る。煇以外だと分かる。着信履歴に煇以外が残るのが実は嫌だったりする。煇で埋め尽くされると幸せを感じると実は密かな乙女心を持っている誰にも言ってないけど。

お母さんからだった。
「どうしたの珍しいね。」

「あのね今度の週末泊まりに来れない?」

「予定はないけど。」

「真弥ちゃんが6歳のお誕生日じゃないお祝いを家族でしようかと思って。」

真弥まやちゃんは長男まことの子供だ。誠兄ちゃんは僕と同じで大学卒業と同時にオメガの奈美なみさんと結婚してすぐに妊娠し子供が産まれた。来年小学生になる。初孫で家族全員溺愛している。僕も暇さえあれば送られてきた動画や写真を眺めてる。

「行くよー。プレゼントは準備してたんだ。煇はきっと仕事で行けないと思うけど。」

「まこちゃん達が土曜日から来るから土日で泊まりで帰ってこないかなぁーと思って。」

今日は月曜日。煇にはメールで知らせてきっと行けないけどいいよって言ってくれるはず。

「煇に聞いてみる。きっと大丈夫だと思うよ。行く時間また連絡するね。」

わかったと言って電話が切れた。週末が楽しみになった。すぐにメールして行けないけど楽しんできてと返信がきた。やっぱり行けないみたいだ。

週末になり作り置きのおかず等々作っておいた。昨日も夜遅くに帰ってきてたみたいで晩御飯を食べ後があり今日はまだ寝ている。起こすのは可哀想なので置き手紙して家を出た。テーブルの上に真弥ちゃん宛のプレゼントが置いてあったのでそれもしっかり持ってきた。タクシーを使うようにと言われていたが電車で一時間位の距離なので電車で向かう。電車の中でお母さんに到着予定の時間を打つ。了解と返信が来たので携帯をバックにしまい久しぶりの遠出を楽しんだ。
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