17 / 22
第五章 災獣を崇める者達
第17話 災獣を崇める教団
しおりを挟む
街中に立つ高層ビルの最上階の会議室。薄暗いその部屋で不気味な人々が集まって会議をしていた。
その光景が異様に見えてしまうのも仕方が無いかもしれない。彼らはそれぞれにローブを纏って災獣を象った仮面を顔に付けていたからだ。
怪しげなオカルトの集まりのようにしか思えない。
彼らこそ人々の平和な暮らしを脅かす災獣を神の使いだと信じて崇めている集団、災獣教団のメンバー達だった。
彼らの見る会議室のプロジェクター画面には災獣と戦うロボット達の姿が映し出されていた。
事態に当たるために国が結成した国防軍よりも目覚ましい活躍を見せる、桃乃と律香の乗るロボット達。
剣と銃で災獣達を撃破する。そこで映像が終わり、会議室の電灯に光が灯った。
明るくなった部屋で、メンバー達はそれぞれに重々しく息を吐いた。
「けしからんな。この星に救いをもたらす災獣をあのような輩が手玉に取るとは」
「あのロボットは一体何なのでしょう。国防軍も戸惑っているようですが」
「噂では博士の造ったロボットらしいですよ」
「空崎博士か。あの天才と言われている。国防軍からの誘いを断っていると聞いていたが、あのようなロボットを独自で開発していたとはな」
「なんでも操縦士はまだ小学生の子供らしいぞ」
「なんと」
「その操縦士をわたしのところに連れてきてくれませんか?」
上座に座る小柄な人物が発言する。その涼やかで落ち着いた声音に会議の席を同じくするメンバー達の間にざわめきが広がった。
「まさか、お会いになるのですか? 教主様」
「はい、災獣を物ともせず戦うあのロボットを操縦する者達にわたしは興味を抱きました」
災獣の教えを説き、教団のリーダーとなった教主の発言を、メンバー達はそれぞれに重く受け止めながら頷いた。
「分かりました。このロボットのパイロットを突き留め連れて参りましょう」
「教主様のお望みのままに」
「任せましたよ」
こうして会議の場は解散となり、教主の命を受けた彼らは密かに行動を開始した。
朝はいつものように平和にやってきた。
災獣が現れても町はロボット達が守ってくれている。
あれからも次々と災獣が出現したが、桃乃と律香は順調に敵を倒していった。もう隼人の助けも必要無さそうだった。
隼人が起きて工場の地下の片隅にある部屋にやってくると、博士がコーヒーを飲んでニュースを見ていた。
隼人も同じく席についてパンを焼きながらニュースを見ることにする。ニュースはロボットが現れて災獣を倒したことを報道していた。
「凄いもんだな。知っている奴がテレビに出るってのは」
昨日の戦いの映像を見ながら隼人は少し感心してしまう。
見ていると報道のヘリに気が付いた桃乃がコクピットのハッチを開いて手を振っていた。律香が止めようとするが時すでに遅しだった。
二人の姿はばっちりとカメラに撮られていた。
「何やってるんだか……」
二人のところに取材が殺到しなければいいけどな。隼人は他人事ながら気になってしまうのだった。
映像はスタジオに切り替わる。コメンテーターの中に変な奴がいて、隼人は気を引かれて番組の続きを見ることにした。
その人物は災獣の仮面を付けていた。前に国防軍のロボットを奪った奴とは仮面の災獣の種類が違っていた。彼は語る。
「これはいけませんね。災獣はこの星を救うために神の遣わした使者なのです。あのロボットは明らかに過ぎた力を持っています。いずれ天罰が下るでしょう」
それからも議論は続けられていく。反対する者もいれば賛成する者もいる。ほとんどはどうでもいい意見で隼人は適当に聞き流していった。
「町に被害を出している災獣が神の使者だなんて、世の中には変なことを考える奴がいるもんだな」
隼人が率直な感想を呟くと、同じく人々から変な奴認定されている博士が話しかけてきた。
「あれは災獣教団のメンバーじゃな」
「災獣教団?」
聞き覚えの無い言葉に隼人は訊ね返す。前にも災獣を崇めている奴は見たことがあったが、そんな名前の集団がいたのか。
災獣に関わる者とあって博士はその知識を知っているようだった。
「災獣を神の使いと説く九遠輪廻(くおん りんね)という人物を教主と仰ぐ者達の集まりじゃ。わしの研究の方も一息付いたことじゃし、その九遠輪廻という人物にも会ってみたいのう。何か災獣のことが分かるかもしれん」
「俺にそいつを連れてこいとか言うなよ」
隼人としてはそんな妙なことを吹聴する人物には会いたくないし、博士と変人同士で気が合ってしまってはたまったものでは無いと思うのだが、幸いにもその危険性は博士の方から断ってくれた。
「必要ないわい。会いたくなったら向こうから会いに来るじゃろうしな。わっはっはっ」
「まったく……」
どうやら博士は自分のロボットが活躍を見せ続ければ、向こうから折れて訪問してくると考えているようだった。
国防軍の長官のようにその九遠輪廻とかいう教主もこの博士に困らされるのだろうか。そう思うと相手に同情してしまう隼人だった。
博士が何でもないことのように呟いて立ち上がる。
「さて、そうと決まったら三号機の開発も考えねばならんの」
「まだ造る気でいたのかよ!?」
最近は博士に動きが無かったし二人の戦いも順調だったのですっかり満足したのかと思っていた。
だが、博士のやる気はまだ燃えていたようだ。
「ああ、新しいデータもいろいろ揃ってきたし、九遠輪廻が来た時にびっくりさせてやりたいからのう。わっはっはっ」
博士はそう言い残し部屋を出ていった。隼人は考える。
「最近はあまり考えなくなってきたけどよ。俺、ロボットに乗りたいんだったよな……よし」
そして、決めた。
「今度こそ俺がパイロットに選ばれて活躍してやるぜ!」
そのためにはどうすればいいか。パイロットについて分からないことはパイロットになった人物を見て知るのが一番だろう。
「放課後になったら桃乃と律香に会いにいくか」
彼女達から何かパイロットに選ばれる才能の手掛かりを見つけることが出来れば。
自分もパイロットになれるはずだ。
そう考えを纏め、隼人は外に出ることにした。
その光景が異様に見えてしまうのも仕方が無いかもしれない。彼らはそれぞれにローブを纏って災獣を象った仮面を顔に付けていたからだ。
怪しげなオカルトの集まりのようにしか思えない。
彼らこそ人々の平和な暮らしを脅かす災獣を神の使いだと信じて崇めている集団、災獣教団のメンバー達だった。
彼らの見る会議室のプロジェクター画面には災獣と戦うロボット達の姿が映し出されていた。
事態に当たるために国が結成した国防軍よりも目覚ましい活躍を見せる、桃乃と律香の乗るロボット達。
剣と銃で災獣達を撃破する。そこで映像が終わり、会議室の電灯に光が灯った。
明るくなった部屋で、メンバー達はそれぞれに重々しく息を吐いた。
「けしからんな。この星に救いをもたらす災獣をあのような輩が手玉に取るとは」
「あのロボットは一体何なのでしょう。国防軍も戸惑っているようですが」
「噂では博士の造ったロボットらしいですよ」
「空崎博士か。あの天才と言われている。国防軍からの誘いを断っていると聞いていたが、あのようなロボットを独自で開発していたとはな」
「なんでも操縦士はまだ小学生の子供らしいぞ」
「なんと」
「その操縦士をわたしのところに連れてきてくれませんか?」
上座に座る小柄な人物が発言する。その涼やかで落ち着いた声音に会議の席を同じくするメンバー達の間にざわめきが広がった。
「まさか、お会いになるのですか? 教主様」
「はい、災獣を物ともせず戦うあのロボットを操縦する者達にわたしは興味を抱きました」
災獣の教えを説き、教団のリーダーとなった教主の発言を、メンバー達はそれぞれに重く受け止めながら頷いた。
「分かりました。このロボットのパイロットを突き留め連れて参りましょう」
「教主様のお望みのままに」
「任せましたよ」
こうして会議の場は解散となり、教主の命を受けた彼らは密かに行動を開始した。
朝はいつものように平和にやってきた。
災獣が現れても町はロボット達が守ってくれている。
あれからも次々と災獣が出現したが、桃乃と律香は順調に敵を倒していった。もう隼人の助けも必要無さそうだった。
隼人が起きて工場の地下の片隅にある部屋にやってくると、博士がコーヒーを飲んでニュースを見ていた。
隼人も同じく席についてパンを焼きながらニュースを見ることにする。ニュースはロボットが現れて災獣を倒したことを報道していた。
「凄いもんだな。知っている奴がテレビに出るってのは」
昨日の戦いの映像を見ながら隼人は少し感心してしまう。
見ていると報道のヘリに気が付いた桃乃がコクピットのハッチを開いて手を振っていた。律香が止めようとするが時すでに遅しだった。
二人の姿はばっちりとカメラに撮られていた。
「何やってるんだか……」
二人のところに取材が殺到しなければいいけどな。隼人は他人事ながら気になってしまうのだった。
映像はスタジオに切り替わる。コメンテーターの中に変な奴がいて、隼人は気を引かれて番組の続きを見ることにした。
その人物は災獣の仮面を付けていた。前に国防軍のロボットを奪った奴とは仮面の災獣の種類が違っていた。彼は語る。
「これはいけませんね。災獣はこの星を救うために神の遣わした使者なのです。あのロボットは明らかに過ぎた力を持っています。いずれ天罰が下るでしょう」
それからも議論は続けられていく。反対する者もいれば賛成する者もいる。ほとんどはどうでもいい意見で隼人は適当に聞き流していった。
「町に被害を出している災獣が神の使者だなんて、世の中には変なことを考える奴がいるもんだな」
隼人が率直な感想を呟くと、同じく人々から変な奴認定されている博士が話しかけてきた。
「あれは災獣教団のメンバーじゃな」
「災獣教団?」
聞き覚えの無い言葉に隼人は訊ね返す。前にも災獣を崇めている奴は見たことがあったが、そんな名前の集団がいたのか。
災獣に関わる者とあって博士はその知識を知っているようだった。
「災獣を神の使いと説く九遠輪廻(くおん りんね)という人物を教主と仰ぐ者達の集まりじゃ。わしの研究の方も一息付いたことじゃし、その九遠輪廻という人物にも会ってみたいのう。何か災獣のことが分かるかもしれん」
「俺にそいつを連れてこいとか言うなよ」
隼人としてはそんな妙なことを吹聴する人物には会いたくないし、博士と変人同士で気が合ってしまってはたまったものでは無いと思うのだが、幸いにもその危険性は博士の方から断ってくれた。
「必要ないわい。会いたくなったら向こうから会いに来るじゃろうしな。わっはっはっ」
「まったく……」
どうやら博士は自分のロボットが活躍を見せ続ければ、向こうから折れて訪問してくると考えているようだった。
国防軍の長官のようにその九遠輪廻とかいう教主もこの博士に困らされるのだろうか。そう思うと相手に同情してしまう隼人だった。
博士が何でもないことのように呟いて立ち上がる。
「さて、そうと決まったら三号機の開発も考えねばならんの」
「まだ造る気でいたのかよ!?」
最近は博士に動きが無かったし二人の戦いも順調だったのですっかり満足したのかと思っていた。
だが、博士のやる気はまだ燃えていたようだ。
「ああ、新しいデータもいろいろ揃ってきたし、九遠輪廻が来た時にびっくりさせてやりたいからのう。わっはっはっ」
博士はそう言い残し部屋を出ていった。隼人は考える。
「最近はあまり考えなくなってきたけどよ。俺、ロボットに乗りたいんだったよな……よし」
そして、決めた。
「今度こそ俺がパイロットに選ばれて活躍してやるぜ!」
そのためにはどうすればいいか。パイロットについて分からないことはパイロットになった人物を見て知るのが一番だろう。
「放課後になったら桃乃と律香に会いにいくか」
彼女達から何かパイロットに選ばれる才能の手掛かりを見つけることが出来れば。
自分もパイロットになれるはずだ。
そう考えを纏め、隼人は外に出ることにした。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
DWバース ―― ねじれた絆 ――
猫宮乾
キャラ文芸
完璧な助手スキルを持つ僕(朝倉水城)は、待ち望んでいた運命の探偵(山縣正臣)と出会った。だが山縣は一言で評するとダメ探偵……いいや、ダメ人間としか言いようがなかった。なんでこの僕が、生活能力も推理能力もやる気も皆無の山縣なんかと組まなきゃならないのだと思ってしまう。けれど探偵機構の判定は絶対だから、僕の運命の探偵は、世界でただ一人、山縣だけだ。切ないが、今日も僕は頑張っていこう。そしてある日、僕は失っていた過去の記憶と向き合う事となる。※独自解釈・設定を含むDWバースです。DWバースは、端的に言うと探偵は助手がいないとダメというようなバース(世界観)のお話です。【序章完結まで1日数話更新予定、第一章からはその後や回想・事件です】
吉祥寺あやかし甘露絵巻 白蛇さまと恋するショコラ
灰ノ木朱風
キャラ文芸
平安の大陰陽師・芦屋道満の子孫、玲奈(れな)は新進気鋭のパティシエール。東京・吉祥寺の一角にある古民家で“カフェ9-Letters(ナインレターズ)”のオーナーとして日々奮闘中だが、やってくるのは一癖も二癖もあるあやかしばかり。
ある雨の日の夜、玲奈が保護した迷子の白蛇が、翌朝目覚めると黒髪の美青年(全裸)になっていた!?
態度だけはやたらと偉そうな白蛇のあやかしは、玲奈のスイーツの味に惚れ込んで屋敷に居着いてしまう。その上玲奈に「魂を寄越せ」とあの手この手で迫ってくるように。
しかし玲奈の幼なじみであり、安倍晴明の子孫である陰陽師・七弦(なつる)がそれを許さない。
愚直にスイーツを作り続ける玲奈の周囲で、謎の白蛇 VS 現代の陰陽師の恋のバトルが(勝手に)幕を開ける――!
八人の王子の街の二人の姫~ノバラとツバキの場合~
江戸崎エゴ
キャラ文芸
八王子――都内の田舎と言われる23区外の一都市――そこで繰り広げられるノバラとツバキの日常。
秋に出会った二人の距離は、淡々としながらも次第に近づいて?
ちょっと大人の(意味浅)百合百合しい日々。
片翼の天狗は陽だまりを知らない
道草家守
キャラ文芸
静真は天狗と人の半妖だ。味方などおらず、ただ自分の翼だけを信じて孤独に生きてきた。しかし、お役目をしくじり不時着したベランダで人の娘、陽毬に助けられてしまう。
朗らかな彼女は、静真を手当をするとこう言った。
「天狗さん、ご飯食べて行きませんか」と。
いらだち戸惑いながらも、怪我の手当ての礼に彼女と食事を共にすることになった静真は、彼女と過ごす内に少しずつ変わっていくのだった。
これは心を凍らせていた半妖の青年が安らいで気づいて拒絶してあきらめて、自分の居場所を決めるお話。
※カクヨム、なろうにも投稿しています。
※イラストはルンベルさんにいただきました。
春花国の式神姫
石田空
キャラ文芸
春花国の藤花姫は、幼少期に呪われたことがきっかけで、成人と同時に出家が決まっていた。
ところが出家当日に突然体から魂が抜かれてしまい、式神に魂を移されてしまう。
「愛しておりますよ、姫様」
「人を拉致監禁したどの口でそれを言ってますか!?」
春花国で起こっている不可解な事象解決のため、急遽春花国の凄腕陰陽師の晦の式神として傍付きにされてしまった。
藤花姫の呪いの真相は?
この国で起こっている事象とは?
そしてこの変人陰陽師と出家決定姫に果たして恋が生まれるのか?
和風ファンタジー。
・サイトより転載になります。
胡蝶の夢に生け
乃南羽緒
キャラ文芸
『栄枯盛衰の常の世に、不滅の名作と謳われる──』
それは、小倉百人一首。
現代の高校生や大学生の男女、ときどき大人が織りなす恋物語。
千年むかしも人は人──想うことはみな同じ。
情に寄りくる『言霊』をあつめるために今宵また、彼は夢路にやってくる。
風と翼
田代剛大
キャラ文芸
相模高校の甲子園球児「風間カイト」はあるとき、くのいちの少女「百地翼」によって甲賀忍者にスカウトされる。時代劇のエキストラ募集と勘違いしたカイトが、翼に連れられてやってきたのは、滋賀県近江にある秘境「望月村」だった。そこでは、甲賀忍者と伊賀忍者、そして新進気鋭の大企業家「織田信長」との三つ巴の戦いが繰り広げられていた。
戦国時代の史実を現代劇にアレンジした新感覚時代小説です!
あやかしびより 境界のトンボとあやかしたち
大月 けい
キャラ文芸
あの世とこの世の境目はどこにあるのだろう?
新しい家族とぎくしゃくする菜月は夏休みに叔父の旅館に一人旅に出る。
そこは小さな田舎町。九十九町。
出会う住民はちょっと変わっていて一癖も二癖もあるヒトばかり。
それもそのはずそこは人間に化けたあやかしが暮らす境界の町だった。
九十九町の一大イベント「お盆」あの世とこの世がつながる日。
なにやら一波乱ありそうです。
他サイトで公開中。表紙はCanvaにて作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる