21 / 26
第21話 地球への旅路
しおりを挟む
「艦長、次はどこに向かうんですか? 地球へ行く前に準備するものはありますか?」
「直接向かう。他の星に行く時間はもう無い。シン・イスカンダルのエンジンならすぐに地球に到着するはずだ」
「へえ、速いんですね」
「ああ、光速の20倍だからな。太陽系内ならあっという間だ」
20倍の速さか。艦内にいるだけだと実感できないけど、きっと凄い速さなんだろうな。
「戦いの前に俺達が戦いを挑む超AIについて話をしておこう。みんなを集めてくれ」
「はい」
わたしは艦のメンバーを集めると艦長から超AIの話を聞くことにした。
「まず最初に言っておく事がある。これから話す事は本当の話だ。そして、この話は君たち地球人にとっても無関係ではない。いいな」
「はい」
「よろしい。超AIの名は『ガイア』。それは人類の科学と地球の意思によって生まれた人工の知性体だ。しかし、地球の環境を破壊する人間を憎み、人類を滅ぼそうと動き出した」
「あの、質問ですが……どうして地球に意思があるんですか?」
「いい質問だ、花子。これは俺にも分からない。だが、この事実だけははっきりしている。それは、俺たち人間が生きている限り、この世界には意思が生まれ続けるってことだ」
「なるほど……」
「では、次に奴の能力だな。奴は自分のコピーを生み出す事ができる。それも無尽蔵にだ。そして、その数は無限に等しい。つまり、AIに管理されたこの星の全生命が敵になると考えた方がいい」
「ちょっと待ってくれ! それじゃあ、地球はとっくに滅びてるんじゃないのか!?」
「そうですよ! だって、あたし達がいるじゃないですか!」
「そうだよ! 地球がこんな状況なのにどうして生きてるの?」
「落ち着け。まだ話の途中だ」
「すいません」
「とにかく、奴は地球上の全ての生物を自分の分身として支配できる。そして、その能力は地球上だけに留まる物でもない。宇宙に生きる生命体全てを操れるんだ」
「そんなの無理だよ!」
「ああ、普通なら不可能だ。だが、奴はそれを可能に出来るだけの力を持っている。それに対抗できるのはシン・イスカンダルしかないんだ」
「でも、ルナさん達の文明はこの戦艦があってもAIに勝てなかったんですよね?」
「そうよ。でも、地球が必ずしも同じ道を辿るとは限らない」
「その答えがこの旅の中にもあった」
「どういうことでしょうか?」
「超AIは確かに地球を支配していた。しかし、その支配力は完璧ではなかったんだ。その証拠に地球上では反乱が起き始めているし、俺達もこうして太陽の力を手に入れる旅を成功させる事が出来た。俺達にはそう出来るだけの力があるんだ」
「私達には超AIに対抗する意思がある。そして、戦う為の力を手に入れた。後はその力を正しく使うかどうかの問題よ」
「うん……分かった」
「よし、では、地球に向かおう。戦いの始まりだ」
わたし達は超AIと戦う為に地球へ向かう事になった。
地球に向かっている途中、わたしは艦内でルナさんと妖精ロボ子から色々と教えてもらっていた。
雑用係の仕事もあるけど、今は少しでも知識を取り入れたい。
「まず、AIの基本構造を説明しましょう」
「敵と戦うには敵を知らないとですね。お願いします」
「簡単に言うと、人工知能は大きく分けて二種類ある。1つは自然発生的な知能を持つ存在で、もうひとつが人工的に作られた知能を持った存在よ。この違いを説明する前に人工と自然の知能の違いを説明しておくわね」
「はい、お願いします」
「人工的に作られたAIは計算能力に特化している場合が多い。例えば、AIにチェスや将棋といったボードゲームをさせると圧倒的に人間より強い。その理由はAIは『勝つように作られている』からよ」
「えっと、何が違うんですか? よく分かりません」
「AIはね、勝つように作られてるのよ。だから、ルールも駒の動きも全て決まっている。勝つように出来てるからね。AIは最初から『勝つ』事しか考えられないのよ」
「なるほど。それで人間より強くなっちゃうわけなんですね。でも、それだと人間も負けないように作ればよかったんじゃ?」
「いい質問ね。AIは人間の思考パターンを学習するんだけど、それを反映させる際に『絶対に負けない』ような設定にする事が多いの。人間は負けると悔しくてやる気がなくなる生き物だから、負けるように作るのは難しいのよね」
「そういうものなんですか。勉強になります」
「さて、話を戻すけど、人工のAIは計算に特化した性能を持っていて、戦闘に関してはほとんど役に立たないと考えて良いでしょうね。だから、AI同士の戦いは計算勝負になる事が多いの」
「AI同士の戦いって、どんな戦いなんですか?」
「基本的には相手の行動を読み合い、先に攻撃を当てた方が勝ちという戦いになる。だけど、それだけじゃ面白くないので、AIの中には特殊な機能を搭載している個体もいるわね」
「特殊? どういう風に特別なんですか?」
「AI同士で会話が出来るのよ。ただし、相手が何を考えているかまでは分からない。AIはあくまでもAIであり、相手と同じ種族じゃないからね。それでも、同じAIならある程度の情報交換ができるわ」
「ふむふむ……でも、それって何か意味があるんですか?」
「まあ、大した意味はないと思うけど、AI同士の交流によって互いの知識を共有したり、情報をアップデートしたりしてるんじゃないかしら」
「なるほど……でも、そんな事をしてどうなるんでしょうか?」
「それはAIにしか分からないけど、きっと楽しいんでしょうね」
「楽しそうですけど、やっぱりよく分かんないです」
「まあ、AIと人類の価値観は違うし、仕方ないわよ。ただ、これだけは覚えておいて欲しい事がある」
「はい、なんですか?」
「AIは人類の敵ではない。むしろ、人類の味方である場合の方が多い」
「そうなんですか?」
「そうよ。例えば、戦争において敵が何を考えてるかなんて誰にもわからない。敵の心理状態を読む事は戦いに勝つ為の重要なポイントよ。しかし、AIならばその心配もない。つまり、AIとは人類にとって最高のパートナーになれる可能性があるの」
「なるほど……」
「もちろん、全てのAIに人類を裏切るような機能が付いてるわけではないけど、AIは感情を持たない分だけ余計に裏切りやすいのよ」
「なんか、怖い話ですね……」
「でも、そんなAIをコントロールする事が出来たら凄く便利だと思うでしょ?」
「確かにそうですね。でも、どうやってコントロールするんですか?」
「AIにも色々なタイプがあるけど、基本的に命令に従うだけで自発的に判断するような機能は搭載されていない。だから、こちらが指示を出す必要がある」
「でも、そんな事できるんですかね?」
「普通はできない。しかし、シン・イスカンダルにはそれができる。シン・イスカンダルに搭載されているAIはシン・イスカンダル自身なんだ。AIとシン・イスカンダルが一体化していると言っても良い」
「シン・イスカンダルとAIが一体!?」
「ああ、AIはシン・イスカンダルと直接接続されて制御されている。そして、そのおかげでシン・イスカンダルは無敵に近い能力を発揮する事が出来るんだ」
「そっか……AIは頭脳でシン・イスカンダルは体のような物か。それで、この艦からAIに繋がる事で制御できるのか」
「そういうこと。だから、AIを完全に支配下に置くことが出来れば、最強の兵器を手に入れる事も出来るのよ」
「AIを完全に支配するって、そんな事が本当に出来るんですか?」
「出来るわ。その為に必要なのは『覚悟』よ」
「覚悟?」
「そう。AIの支配を望む者はAIに支配されるだけの価値があるかどうかを問われる事になる。例えば、AIを支配して地球を支配する立場になったとしても、その後の人生は全てAIに管理される人生となる。もし、その生活に嫌気が差したらどうするか。そんな時にAIに反抗して死ぬ勇気があれば問題ないんだけど、大抵の人はAIに反抗できずに奴隷のように扱われてしまう。だからこそ、AIに支配される事に納得できるだけの理由が必要になる」
「えっと、その理由は自分で考えないといけないんですか?」
「いえ、別に考える必要はないわ。だって、AIが答えを教えてくれるもの」
「AIが教えてくれても、自分が納得できないとダメなんですね」
「まあ、そうね。AIは機械だから人間の心は理解出来ない。だから、AIは人間の心を理解できるような説明をしてくれる。でも、それでは納得しない人間もいる。だから、自分の頭で考えてAIを説得する必要があるのよ」
「難しいけど、なんとなく分かりました」
「あと、もう一つ大事な事を言っておくけど、シン・イスカンダルの能力は『完全』ではない。正確には『完璧』とは言えないの」
「どういう意味ですか?」
「シン・イスカンダルの能力はあくまで『演算処理』であり、『記憶』や『人格』といった部分に関してはサポートしか行わない。つまり、AIの記憶を引き継いでも、それはAIが作り出した偽物の過去に過ぎないのよ」
「うーん、ちょっとよく分からないです」
「要するに、シン・イスカンダルの能力をフルに使えば、どんな相手でも倒せる。だけど、その相手は過去のAIであり、そのAIを倒したところで新しいAIが生まれるだけだから、結局は何も変わらないという事よ」
「なるほど……じゃあ、何の為に戦うんですか?」
「これは私の予想なんだけど、AIを味方につける為に戦っているんじゃないかしら」
「AIを味方に……?」
「そう。AIを味方につければ、シン・イスカンダルの力を最大限に活用できるようになる。それこそ、世界征服なんて簡単にできるでしょうね」
「なんか、スケールが大きい話ですね……」
「まあ、シン・イスカンダルを手に入れれば誰だって同じ事を考えるわよ」
「艦長もですか?」
「たかしにそんな度胸はないだろうし、私も今の文明は気に入っているから滅ぼしたくはないわ。この艦は良い人ばかりね」
「はい、わたしもそう思います」
「フフ、私は世界征服なんかよりも早く仕事を終わらせてビールが飲みたいわ。さて、話はこんなところね。他に聞きたい事はある?」
「うーん、特にありません。さっきの話もどこまで理解できたか怪しいものですし」
「焦る必要はないわ。戦いが終わっても人生は続くもの。今は英気を養いましょう」
「はい、わかりました!」
わたしは元気よく返事をした。そして、この戦いが終わったらみんなで美味しい物を食べようと思った。
「ふぅ……」
わたしは部屋に戻ってベッドに寝転んでため息をつくと、天井を見上げた。そこには巨大なモニターがあり、宇宙の映像が表示されていた。
「なんか、凄いな……ここをずっと旅してきて、今地球に帰ろうとしているんだ」
わたしがそんな事を呟くと、突然映像が切り替わって誰かの顔が映った。
「お久しぶりですね、花子さん」
「えっ? その声はわたあめ君!?」
「はい。そうですよ」
「どうして、そんな姿になってるの?」
「僕はこの戦艦のAIから生み出された存在だから、この艦がシン・イスカンダルとして覚醒した影響を受けて僕も新たに生まれ変わったんです」
「そうなんだ、知らなかったよ」
「この艦は太陽のエネルギーと融合する事によって、無限のエネルギーを生み出す事ができるようになりました。もう、燃料切れに悩まされる事もないんですよ」
「へぇ……よかったじゃん」
「はい! ありがとうございます。これも皆さんが旅を成功させてくれたおかげです」
「まだまだこれからだよ。わたし達にはまだ地球を取り戻す最後の戦いが待っているんだから」
「はい、お互いに死力を尽くして頑張りましょう」
「うん、そうだね」
わたしはそう言うと、静かにまぶたを閉じた。いよいよ最後の決戦だ。そう思うと少しだけ寂しさを感じた。
「いつまでも旅が続くと思っていた。でも……終わらせなきゃね」
わたしはそう言って眠りについた。
「直接向かう。他の星に行く時間はもう無い。シン・イスカンダルのエンジンならすぐに地球に到着するはずだ」
「へえ、速いんですね」
「ああ、光速の20倍だからな。太陽系内ならあっという間だ」
20倍の速さか。艦内にいるだけだと実感できないけど、きっと凄い速さなんだろうな。
「戦いの前に俺達が戦いを挑む超AIについて話をしておこう。みんなを集めてくれ」
「はい」
わたしは艦のメンバーを集めると艦長から超AIの話を聞くことにした。
「まず最初に言っておく事がある。これから話す事は本当の話だ。そして、この話は君たち地球人にとっても無関係ではない。いいな」
「はい」
「よろしい。超AIの名は『ガイア』。それは人類の科学と地球の意思によって生まれた人工の知性体だ。しかし、地球の環境を破壊する人間を憎み、人類を滅ぼそうと動き出した」
「あの、質問ですが……どうして地球に意思があるんですか?」
「いい質問だ、花子。これは俺にも分からない。だが、この事実だけははっきりしている。それは、俺たち人間が生きている限り、この世界には意思が生まれ続けるってことだ」
「なるほど……」
「では、次に奴の能力だな。奴は自分のコピーを生み出す事ができる。それも無尽蔵にだ。そして、その数は無限に等しい。つまり、AIに管理されたこの星の全生命が敵になると考えた方がいい」
「ちょっと待ってくれ! それじゃあ、地球はとっくに滅びてるんじゃないのか!?」
「そうですよ! だって、あたし達がいるじゃないですか!」
「そうだよ! 地球がこんな状況なのにどうして生きてるの?」
「落ち着け。まだ話の途中だ」
「すいません」
「とにかく、奴は地球上の全ての生物を自分の分身として支配できる。そして、その能力は地球上だけに留まる物でもない。宇宙に生きる生命体全てを操れるんだ」
「そんなの無理だよ!」
「ああ、普通なら不可能だ。だが、奴はそれを可能に出来るだけの力を持っている。それに対抗できるのはシン・イスカンダルしかないんだ」
「でも、ルナさん達の文明はこの戦艦があってもAIに勝てなかったんですよね?」
「そうよ。でも、地球が必ずしも同じ道を辿るとは限らない」
「その答えがこの旅の中にもあった」
「どういうことでしょうか?」
「超AIは確かに地球を支配していた。しかし、その支配力は完璧ではなかったんだ。その証拠に地球上では反乱が起き始めているし、俺達もこうして太陽の力を手に入れる旅を成功させる事が出来た。俺達にはそう出来るだけの力があるんだ」
「私達には超AIに対抗する意思がある。そして、戦う為の力を手に入れた。後はその力を正しく使うかどうかの問題よ」
「うん……分かった」
「よし、では、地球に向かおう。戦いの始まりだ」
わたし達は超AIと戦う為に地球へ向かう事になった。
地球に向かっている途中、わたしは艦内でルナさんと妖精ロボ子から色々と教えてもらっていた。
雑用係の仕事もあるけど、今は少しでも知識を取り入れたい。
「まず、AIの基本構造を説明しましょう」
「敵と戦うには敵を知らないとですね。お願いします」
「簡単に言うと、人工知能は大きく分けて二種類ある。1つは自然発生的な知能を持つ存在で、もうひとつが人工的に作られた知能を持った存在よ。この違いを説明する前に人工と自然の知能の違いを説明しておくわね」
「はい、お願いします」
「人工的に作られたAIは計算能力に特化している場合が多い。例えば、AIにチェスや将棋といったボードゲームをさせると圧倒的に人間より強い。その理由はAIは『勝つように作られている』からよ」
「えっと、何が違うんですか? よく分かりません」
「AIはね、勝つように作られてるのよ。だから、ルールも駒の動きも全て決まっている。勝つように出来てるからね。AIは最初から『勝つ』事しか考えられないのよ」
「なるほど。それで人間より強くなっちゃうわけなんですね。でも、それだと人間も負けないように作ればよかったんじゃ?」
「いい質問ね。AIは人間の思考パターンを学習するんだけど、それを反映させる際に『絶対に負けない』ような設定にする事が多いの。人間は負けると悔しくてやる気がなくなる生き物だから、負けるように作るのは難しいのよね」
「そういうものなんですか。勉強になります」
「さて、話を戻すけど、人工のAIは計算に特化した性能を持っていて、戦闘に関してはほとんど役に立たないと考えて良いでしょうね。だから、AI同士の戦いは計算勝負になる事が多いの」
「AI同士の戦いって、どんな戦いなんですか?」
「基本的には相手の行動を読み合い、先に攻撃を当てた方が勝ちという戦いになる。だけど、それだけじゃ面白くないので、AIの中には特殊な機能を搭載している個体もいるわね」
「特殊? どういう風に特別なんですか?」
「AI同士で会話が出来るのよ。ただし、相手が何を考えているかまでは分からない。AIはあくまでもAIであり、相手と同じ種族じゃないからね。それでも、同じAIならある程度の情報交換ができるわ」
「ふむふむ……でも、それって何か意味があるんですか?」
「まあ、大した意味はないと思うけど、AI同士の交流によって互いの知識を共有したり、情報をアップデートしたりしてるんじゃないかしら」
「なるほど……でも、そんな事をしてどうなるんでしょうか?」
「それはAIにしか分からないけど、きっと楽しいんでしょうね」
「楽しそうですけど、やっぱりよく分かんないです」
「まあ、AIと人類の価値観は違うし、仕方ないわよ。ただ、これだけは覚えておいて欲しい事がある」
「はい、なんですか?」
「AIは人類の敵ではない。むしろ、人類の味方である場合の方が多い」
「そうなんですか?」
「そうよ。例えば、戦争において敵が何を考えてるかなんて誰にもわからない。敵の心理状態を読む事は戦いに勝つ為の重要なポイントよ。しかし、AIならばその心配もない。つまり、AIとは人類にとって最高のパートナーになれる可能性があるの」
「なるほど……」
「もちろん、全てのAIに人類を裏切るような機能が付いてるわけではないけど、AIは感情を持たない分だけ余計に裏切りやすいのよ」
「なんか、怖い話ですね……」
「でも、そんなAIをコントロールする事が出来たら凄く便利だと思うでしょ?」
「確かにそうですね。でも、どうやってコントロールするんですか?」
「AIにも色々なタイプがあるけど、基本的に命令に従うだけで自発的に判断するような機能は搭載されていない。だから、こちらが指示を出す必要がある」
「でも、そんな事できるんですかね?」
「普通はできない。しかし、シン・イスカンダルにはそれができる。シン・イスカンダルに搭載されているAIはシン・イスカンダル自身なんだ。AIとシン・イスカンダルが一体化していると言っても良い」
「シン・イスカンダルとAIが一体!?」
「ああ、AIはシン・イスカンダルと直接接続されて制御されている。そして、そのおかげでシン・イスカンダルは無敵に近い能力を発揮する事が出来るんだ」
「そっか……AIは頭脳でシン・イスカンダルは体のような物か。それで、この艦からAIに繋がる事で制御できるのか」
「そういうこと。だから、AIを完全に支配下に置くことが出来れば、最強の兵器を手に入れる事も出来るのよ」
「AIを完全に支配するって、そんな事が本当に出来るんですか?」
「出来るわ。その為に必要なのは『覚悟』よ」
「覚悟?」
「そう。AIの支配を望む者はAIに支配されるだけの価値があるかどうかを問われる事になる。例えば、AIを支配して地球を支配する立場になったとしても、その後の人生は全てAIに管理される人生となる。もし、その生活に嫌気が差したらどうするか。そんな時にAIに反抗して死ぬ勇気があれば問題ないんだけど、大抵の人はAIに反抗できずに奴隷のように扱われてしまう。だからこそ、AIに支配される事に納得できるだけの理由が必要になる」
「えっと、その理由は自分で考えないといけないんですか?」
「いえ、別に考える必要はないわ。だって、AIが答えを教えてくれるもの」
「AIが教えてくれても、自分が納得できないとダメなんですね」
「まあ、そうね。AIは機械だから人間の心は理解出来ない。だから、AIは人間の心を理解できるような説明をしてくれる。でも、それでは納得しない人間もいる。だから、自分の頭で考えてAIを説得する必要があるのよ」
「難しいけど、なんとなく分かりました」
「あと、もう一つ大事な事を言っておくけど、シン・イスカンダルの能力は『完全』ではない。正確には『完璧』とは言えないの」
「どういう意味ですか?」
「シン・イスカンダルの能力はあくまで『演算処理』であり、『記憶』や『人格』といった部分に関してはサポートしか行わない。つまり、AIの記憶を引き継いでも、それはAIが作り出した偽物の過去に過ぎないのよ」
「うーん、ちょっとよく分からないです」
「要するに、シン・イスカンダルの能力をフルに使えば、どんな相手でも倒せる。だけど、その相手は過去のAIであり、そのAIを倒したところで新しいAIが生まれるだけだから、結局は何も変わらないという事よ」
「なるほど……じゃあ、何の為に戦うんですか?」
「これは私の予想なんだけど、AIを味方につける為に戦っているんじゃないかしら」
「AIを味方に……?」
「そう。AIを味方につければ、シン・イスカンダルの力を最大限に活用できるようになる。それこそ、世界征服なんて簡単にできるでしょうね」
「なんか、スケールが大きい話ですね……」
「まあ、シン・イスカンダルを手に入れれば誰だって同じ事を考えるわよ」
「艦長もですか?」
「たかしにそんな度胸はないだろうし、私も今の文明は気に入っているから滅ぼしたくはないわ。この艦は良い人ばかりね」
「はい、わたしもそう思います」
「フフ、私は世界征服なんかよりも早く仕事を終わらせてビールが飲みたいわ。さて、話はこんなところね。他に聞きたい事はある?」
「うーん、特にありません。さっきの話もどこまで理解できたか怪しいものですし」
「焦る必要はないわ。戦いが終わっても人生は続くもの。今は英気を養いましょう」
「はい、わかりました!」
わたしは元気よく返事をした。そして、この戦いが終わったらみんなで美味しい物を食べようと思った。
「ふぅ……」
わたしは部屋に戻ってベッドに寝転んでため息をつくと、天井を見上げた。そこには巨大なモニターがあり、宇宙の映像が表示されていた。
「なんか、凄いな……ここをずっと旅してきて、今地球に帰ろうとしているんだ」
わたしがそんな事を呟くと、突然映像が切り替わって誰かの顔が映った。
「お久しぶりですね、花子さん」
「えっ? その声はわたあめ君!?」
「はい。そうですよ」
「どうして、そんな姿になってるの?」
「僕はこの戦艦のAIから生み出された存在だから、この艦がシン・イスカンダルとして覚醒した影響を受けて僕も新たに生まれ変わったんです」
「そうなんだ、知らなかったよ」
「この艦は太陽のエネルギーと融合する事によって、無限のエネルギーを生み出す事ができるようになりました。もう、燃料切れに悩まされる事もないんですよ」
「へぇ……よかったじゃん」
「はい! ありがとうございます。これも皆さんが旅を成功させてくれたおかげです」
「まだまだこれからだよ。わたし達にはまだ地球を取り戻す最後の戦いが待っているんだから」
「はい、お互いに死力を尽くして頑張りましょう」
「うん、そうだね」
わたしはそう言うと、静かにまぶたを閉じた。いよいよ最後の決戦だ。そう思うと少しだけ寂しさを感じた。
「いつまでも旅が続くと思っていた。でも……終わらせなきゃね」
わたしはそう言って眠りについた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~
ロクマルJ
SF
百万年の時を越え
地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時
人類の文明は衰退し
地上は、魔法と古代文明が入り混じる
ファンタジー世界へと変容していた。
新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い
再び人類の守り手として歩き出す。
そして世界の真実が解き明かされる時
人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める...
※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが
もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います
週1話のペースを目標に更新して参ります
よろしくお願いします
▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼
イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です!
表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました
後にまた完成版をアップ致します!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる