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第11話 艦の探索
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(あれ、いつもと違う道だな)
わたし達が向かった先は艦の中心部にある居住ブロックだった。
「居住区ですね。ここですか?」
「そうだ。まあ、まだ見て回っていない所もあるんだけどな」
わたし達はエレベーターで下に降りていく。
「ここは……調理室みたいですね」
「へえ、そうなの?」
「そうよ。ここは食材の保存場所でもあるの」
料理を担当しているちづるちゃんが教えてくれる。料理をしないわたしもこの艦に来たばかりのルナさんもこういう場所にはあまり縁が無い。
「ふーん、色々あるのねえ」
「そういえば、艦長はこの艦のご飯をよく食べているんですよね?」
わたしは艦長に尋ねる。
「そうだな。ちづるが来るより前から食べているがどれも美味しかったよ」
「良かった」
「ただ、地球でいつも食べている食事と比べると少し味が薄い気がするな」
「そうなの?」
「ああ、多分これは俺の好みの問題だと思うけどな」
「そっか。お兄ちゃんは濃いめの味付けが好きなんだね。今度からもっと濃く作るようにするよ」
「すまん、無理して作ってくれなくてもいいからな。今度は濃くなりすぎそうで心配だ」
「ううん、大丈夫だよ。これからはお兄ちゃんの好きなように作るから。ベストバランスを目指すよ」
ちづるちゃんは笑顔で言う。
「お兄ちゃん、この先に行けば倉庫があるんだよ」
「そうなのか。どんな物が入っているんだ?」
「主に食料とか、生活に必要な道具類が入ってるよ」
「へー、こっちは娯楽施設じゃないのか」
「うん、そうだよ。ゲームセンターとかも入っているけど、基本的に乗組員全員に開放されているスペースなんだ」
「そうか……」
「艦長、どうかしましたか?」
わたしは艦長に尋ねる。
「いや、この艦って思ったより広かったんだなと思ってな」
「艦長……」
「仕方ないだろ。艦長はブリッジにいるのが仕事なんだ。遊んでる暇なんて無いんだよ。それより早く次の部屋を見よう」
「うん。じゃあ、次はここだよ」
わたし達は居住ブロックからさらに下に降りると、格納庫と書かれたプレートが掛かった部屋にたどり着いた。
「ここに何があるんですか?」
わたしは艦長に尋ねる。
「ここにはな、予備の兵器が保管してあるんだ」
「兵器ですか……。何が置いてあるんですか?」
「そうだな。簡単に言えば銃火器の類いだな」
「武器庫なんですね」
「そういう事だ」
「でも、どうしてこんな所に?」
「万一に備えて、艦の中に敵が来た時に使えるようにしておきたいからさ」
「なるほど……」
「まあ、今のところは使う予定は無いから安心してくれ」
「分かりました」
わたしは艦長の言葉に返事をする。
「よし、じゃあ次に行くぞ」
艦長は歩き出す。わたし達もそれについていく。
「ここは何の部屋でしょうか?」
わたしは扉の上に書かれている文字を見ながら艦長に尋ねた。
「そこは機関室だな」
「へえ……。中はどうなっているんですか?」
「それは見てもらった方が早いかな」
「そうですね。開けてみても良いですか?」
「ああ、構わないぞ」
わたし達は部屋の中に入る。そこにはいくつもの機械が置かれていた。
「これは……大きなエンジンですね」
「そうだよ。こいつは宇宙戦艦用の推進装置で、ここからエネルギーをもらって動いているんだぜ」
「そうなんだ。すごいね」
「でも、これを動かすにはかなりの電力が必要なんじゃ……」
「その通りだ。だから普段は省エネモードにしてメインでは動かさないようにしている」
「そうですよね。……あれ、でも、今は動いていますよね?」
わたしは艦長に質問する。
「ああ、今は先を急ぐ旅だからな。それと動かしているのは俺だ」
「艦長が? ……どうやって動かすんですか?」
「それはな、こうやって……」
艦長はコンソールを操作する。すると、目の前にあったエンジンが動き出した。
「わっ!……びっくりした」
「驚いたか?」
「はい。突然動くから……」
「まあ、このくらいの大きさの宇宙船なら大体どこも似たような感じで動いているよ」
「そうなのね」
「そうだ。ちなみにこの艦の動力は核融合炉を使っているんだが、これも結構出力があってな。この程度の大きさの宇宙船だと普通に動けるだけのパワーはあるんだ」
「そうなんだ……」
(艦長って何でも知ってるなあ)
わたしはそんな事を考える。
「じゃあ、次はこっちに行ってみるか」
艦長は歩き始める。そして、わたし達は反対側にある扉の前にたどり着く。
「ここは?」
「ここは、俺専用の個室だ」
「艦長の?」
「ああ、俺は普段ここに住んでいるんだ」
「艦長室じゃなくて?」
「あっちは仕事用だ」
「お兄ちゃんのお部屋かー。どんな風になっているのかな?」
「まあ、普通の男の部屋だ。特に変わった所はないと思うけどな」
「そうなんだ。ねえ、見てみたいな」
「ん、別に良いよ。どうせこの艦に乗っている間はずっと一緒なんだしな」
「やった!」
「じゃあ、行こう」
「うん」
わたし達は艦長の後に付いて行く。
「ちょっと見せるだけだからな」
艦長はそう言ってドアを開ける。
「お邪魔しまーす」
ちづるちゃんが元気よく言う。
「なんだか、男の人の部屋って感じだね」
「そうか?」
「うん、そうだよ。なんか、雑然としていて、散らかっているというか」
「そっか。まあ、確かにそうかもしれないな」
艦長は苦笑しながら答える。
「でも、わたしは好きだな。こういう雰囲気」
「そうなのか?」
「うん、落ち着くっていうのかな。自分の部屋とはまた違った感じで」
「そういうものかね」
艦長は首を傾げる。
「あ、ごめんなさい。艦長に変な事を言っちゃって」
「いや、気にしてないから大丈夫だよ。それより、ちょっと待っていてくれ。今から掃除をするからさ」
「今から?」
「せっかく来たんだしすぐ終わるからさ。何だか気になるんだ」
「分かった」
「うん、待ってるよ」
艦長がそう言うのでわたし達は部屋から出る事にした。
「あの、艦長さんが掃除をしている間、わたし達どこかに行った方が良いですか?」
「そうだな……。まあ、適当に艦内を見ている間にすぐ追いつくからさ。先に行ってていいよ」
「分かりました。じゃあ、わたし達は先に見回りに行きますね」
「ああ、分かった」
「探検だよー」
「たかしがいない間は私が面倒を見ておくからね」
ちづるちゃんとルナさんが乗り気なのでわたしもそれ以上艦長には構わずに先に行くことにした。
「それじゃあ、行きましょうか」
「そうだね。……あ、ところでさ、さっきの部屋だけど、たかしの私物とかあるのかしら?」
「うーん……。どうなんでしょう? ……分からないです」
「一応、確認しておくべきだったかしら」
「でも、流石に勝手に探るのは……」
「それもそうね。じゃあ、後で聞いてみようか」
「そうですね」
(艦長の私物か。どんなのがあるんだろう?)
わたしはそんな事を考えながら、ルナさんの後ろを歩いて行った。そうして見回っていると艦長は思ったよりも早く合流してきた。
「待たせたな」
「早かったですね」
「ちゃんと綺麗になった?」
「まあまあかな」
「掃除なら雑用係のわたしがするべきでしたね」
「貴重品もあるから止めてくれ」
どういう意味だろうか。艦長はさっさと足を進めてしまう。
「ここが食堂だぜ」
「わあ、広いね」
「そうだね。それに、凄く綺麗だ」
「ああ、それはな。この艦の調理場は全部自動化されているんだ。だから、人がやる作業はほとんどないんだよ」
「そうなんだ。ちづるちゃんが全部やっているわけじゃないんだね」
「じゃあ、これからはお姉ちゃんが料理係する?」
「遠慮しておきます」
いくら自動化されていてもわたしに料理が出来る気はしない。結局は人の技術やセンスが必要なのをわたしはAIとの付き合いで学んでいるのだ。
「あ、美味しい」
調度いい時間になっていたのでわたし達は食事をとる。今日のメニューは野菜スープとパンである。艦長が作ってくれたものだ。
「艦長は料理上手なんですね」
「まあな、ちづるに料理を教えたのは俺だからな。大抵のものは作れるぞ」
「へえー」
「すごいね、お兄ちゃん」
「まあ、そこまで大したものでもないけどな」
艦長は照れ臭そうにしている。
「ねえ、艦長。この艦には何人くらい乗っているの?」
「ああ、今は俺を含めて十人だな」
「意外に少ないんだね」
「まあ、うちの艦隊は規模が小さいからな。俺が艦長を務めているとはいえ、他の艦隊と比べると小規模だな」
「そうなんですか」
「うん。だから、乗組員が足りなくてな。いつも募集しているんだけどなかなか来てくれないんだよ」
「どうしてだろう?」
「多分、給料が低いからだと思うぜ」
「そうかな?」
「だって、この艦の待遇は最高なんだぜ。こんな良い条件の職場なんて他にはないと思うよ」
「そうかなー?」
「まあ、この艦に乗っている奴らは俺も含めて変な奴ばかりだしな。そのせいかもな」
「変な人達なんですか?」
「変というより、変な趣味を持っている奴らが集まっているって感じだな。みんな、何かしらおかしいんだよ」
「へえ、そうなのか」
ルナさんが少し驚いた様子で呟いた。
「ちなみに、何人いるの?」
「ん?……そうだな。二十人ぐらいだな」
「さっきより増えてない?」
「いつも全員が乗っているわけではないからな。まあ、それでも少ない方だよ。もっと大きな戦艦だと五十人以上乗る事もあるらしいし」
「ふーん、そうなんだ」
(五十人も乗れるのか)
わたしはそんな事を考えながら、食事をする。
「あ、そういえばさ、艦長。いろいろ見て回ったけど結局艦全体のシステムの状態は分かるようになったの? 何か途中から見学ツアーみたいになったけどそれを調べる為の調査だったんだよね?」
「いや、まだだ。でも、そのうち何とかなるんじゃないかと思っている」
「大丈夫なんですか?」
わたしが心配すると艦長は笑った。
「ああ、大丈夫さ。そもそも、この艦のシステムは俺が把握しているものと同じみたいだから、すぐに出来るはずだ」
「それが出来るようになればAIとの対決を有利に運べるようになるんですよね」
「ああ、それだけでなく艦の全てを把握できれば作戦の成功率をグッと上げる事ができる」
「この艦にはまだまだ未知の領域が多いものね」
「そうだな。俺達の知らない機能が眠っているかもしれないから、しっかり調査しないとな」
(艦長とルナさんの会話を聞いていると本当に凄いなと思ってしまう。わたしはまだ何もできないけれど、いつかは二人のような優秀なAI使いになれる日が来るのだろうか?)
「ねえ、たかし。この艦には娯楽室とかあるの?」
「ああ、確かあったはずだよ。見に行くか?」
「行きたい」
「じゃあ、案内するぞ」
ルナさんと艦長の会話を聞いてわたしはどこか違和感を感じた。
(娯楽室はさっき行ったのになぜルナさんはあんな事を聞いたのだろう)
不思議には思ったが忘れてるだけかもしれない。わたしも雑用係としてついていく事にして食堂を後にした。
わたし達が向かった先は艦の中心部にある居住ブロックだった。
「居住区ですね。ここですか?」
「そうだ。まあ、まだ見て回っていない所もあるんだけどな」
わたし達はエレベーターで下に降りていく。
「ここは……調理室みたいですね」
「へえ、そうなの?」
「そうよ。ここは食材の保存場所でもあるの」
料理を担当しているちづるちゃんが教えてくれる。料理をしないわたしもこの艦に来たばかりのルナさんもこういう場所にはあまり縁が無い。
「ふーん、色々あるのねえ」
「そういえば、艦長はこの艦のご飯をよく食べているんですよね?」
わたしは艦長に尋ねる。
「そうだな。ちづるが来るより前から食べているがどれも美味しかったよ」
「良かった」
「ただ、地球でいつも食べている食事と比べると少し味が薄い気がするな」
「そうなの?」
「ああ、多分これは俺の好みの問題だと思うけどな」
「そっか。お兄ちゃんは濃いめの味付けが好きなんだね。今度からもっと濃く作るようにするよ」
「すまん、無理して作ってくれなくてもいいからな。今度は濃くなりすぎそうで心配だ」
「ううん、大丈夫だよ。これからはお兄ちゃんの好きなように作るから。ベストバランスを目指すよ」
ちづるちゃんは笑顔で言う。
「お兄ちゃん、この先に行けば倉庫があるんだよ」
「そうなのか。どんな物が入っているんだ?」
「主に食料とか、生活に必要な道具類が入ってるよ」
「へー、こっちは娯楽施設じゃないのか」
「うん、そうだよ。ゲームセンターとかも入っているけど、基本的に乗組員全員に開放されているスペースなんだ」
「そうか……」
「艦長、どうかしましたか?」
わたしは艦長に尋ねる。
「いや、この艦って思ったより広かったんだなと思ってな」
「艦長……」
「仕方ないだろ。艦長はブリッジにいるのが仕事なんだ。遊んでる暇なんて無いんだよ。それより早く次の部屋を見よう」
「うん。じゃあ、次はここだよ」
わたし達は居住ブロックからさらに下に降りると、格納庫と書かれたプレートが掛かった部屋にたどり着いた。
「ここに何があるんですか?」
わたしは艦長に尋ねる。
「ここにはな、予備の兵器が保管してあるんだ」
「兵器ですか……。何が置いてあるんですか?」
「そうだな。簡単に言えば銃火器の類いだな」
「武器庫なんですね」
「そういう事だ」
「でも、どうしてこんな所に?」
「万一に備えて、艦の中に敵が来た時に使えるようにしておきたいからさ」
「なるほど……」
「まあ、今のところは使う予定は無いから安心してくれ」
「分かりました」
わたしは艦長の言葉に返事をする。
「よし、じゃあ次に行くぞ」
艦長は歩き出す。わたし達もそれについていく。
「ここは何の部屋でしょうか?」
わたしは扉の上に書かれている文字を見ながら艦長に尋ねた。
「そこは機関室だな」
「へえ……。中はどうなっているんですか?」
「それは見てもらった方が早いかな」
「そうですね。開けてみても良いですか?」
「ああ、構わないぞ」
わたし達は部屋の中に入る。そこにはいくつもの機械が置かれていた。
「これは……大きなエンジンですね」
「そうだよ。こいつは宇宙戦艦用の推進装置で、ここからエネルギーをもらって動いているんだぜ」
「そうなんだ。すごいね」
「でも、これを動かすにはかなりの電力が必要なんじゃ……」
「その通りだ。だから普段は省エネモードにしてメインでは動かさないようにしている」
「そうですよね。……あれ、でも、今は動いていますよね?」
わたしは艦長に質問する。
「ああ、今は先を急ぐ旅だからな。それと動かしているのは俺だ」
「艦長が? ……どうやって動かすんですか?」
「それはな、こうやって……」
艦長はコンソールを操作する。すると、目の前にあったエンジンが動き出した。
「わっ!……びっくりした」
「驚いたか?」
「はい。突然動くから……」
「まあ、このくらいの大きさの宇宙船なら大体どこも似たような感じで動いているよ」
「そうなのね」
「そうだ。ちなみにこの艦の動力は核融合炉を使っているんだが、これも結構出力があってな。この程度の大きさの宇宙船だと普通に動けるだけのパワーはあるんだ」
「そうなんだ……」
(艦長って何でも知ってるなあ)
わたしはそんな事を考える。
「じゃあ、次はこっちに行ってみるか」
艦長は歩き始める。そして、わたし達は反対側にある扉の前にたどり着く。
「ここは?」
「ここは、俺専用の個室だ」
「艦長の?」
「ああ、俺は普段ここに住んでいるんだ」
「艦長室じゃなくて?」
「あっちは仕事用だ」
「お兄ちゃんのお部屋かー。どんな風になっているのかな?」
「まあ、普通の男の部屋だ。特に変わった所はないと思うけどな」
「そうなんだ。ねえ、見てみたいな」
「ん、別に良いよ。どうせこの艦に乗っている間はずっと一緒なんだしな」
「やった!」
「じゃあ、行こう」
「うん」
わたし達は艦長の後に付いて行く。
「ちょっと見せるだけだからな」
艦長はそう言ってドアを開ける。
「お邪魔しまーす」
ちづるちゃんが元気よく言う。
「なんだか、男の人の部屋って感じだね」
「そうか?」
「うん、そうだよ。なんか、雑然としていて、散らかっているというか」
「そっか。まあ、確かにそうかもしれないな」
艦長は苦笑しながら答える。
「でも、わたしは好きだな。こういう雰囲気」
「そうなのか?」
「うん、落ち着くっていうのかな。自分の部屋とはまた違った感じで」
「そういうものかね」
艦長は首を傾げる。
「あ、ごめんなさい。艦長に変な事を言っちゃって」
「いや、気にしてないから大丈夫だよ。それより、ちょっと待っていてくれ。今から掃除をするからさ」
「今から?」
「せっかく来たんだしすぐ終わるからさ。何だか気になるんだ」
「分かった」
「うん、待ってるよ」
艦長がそう言うのでわたし達は部屋から出る事にした。
「あの、艦長さんが掃除をしている間、わたし達どこかに行った方が良いですか?」
「そうだな……。まあ、適当に艦内を見ている間にすぐ追いつくからさ。先に行ってていいよ」
「分かりました。じゃあ、わたし達は先に見回りに行きますね」
「ああ、分かった」
「探検だよー」
「たかしがいない間は私が面倒を見ておくからね」
ちづるちゃんとルナさんが乗り気なのでわたしもそれ以上艦長には構わずに先に行くことにした。
「それじゃあ、行きましょうか」
「そうだね。……あ、ところでさ、さっきの部屋だけど、たかしの私物とかあるのかしら?」
「うーん……。どうなんでしょう? ……分からないです」
「一応、確認しておくべきだったかしら」
「でも、流石に勝手に探るのは……」
「それもそうね。じゃあ、後で聞いてみようか」
「そうですね」
(艦長の私物か。どんなのがあるんだろう?)
わたしはそんな事を考えながら、ルナさんの後ろを歩いて行った。そうして見回っていると艦長は思ったよりも早く合流してきた。
「待たせたな」
「早かったですね」
「ちゃんと綺麗になった?」
「まあまあかな」
「掃除なら雑用係のわたしがするべきでしたね」
「貴重品もあるから止めてくれ」
どういう意味だろうか。艦長はさっさと足を進めてしまう。
「ここが食堂だぜ」
「わあ、広いね」
「そうだね。それに、凄く綺麗だ」
「ああ、それはな。この艦の調理場は全部自動化されているんだ。だから、人がやる作業はほとんどないんだよ」
「そうなんだ。ちづるちゃんが全部やっているわけじゃないんだね」
「じゃあ、これからはお姉ちゃんが料理係する?」
「遠慮しておきます」
いくら自動化されていてもわたしに料理が出来る気はしない。結局は人の技術やセンスが必要なのをわたしはAIとの付き合いで学んでいるのだ。
「あ、美味しい」
調度いい時間になっていたのでわたし達は食事をとる。今日のメニューは野菜スープとパンである。艦長が作ってくれたものだ。
「艦長は料理上手なんですね」
「まあな、ちづるに料理を教えたのは俺だからな。大抵のものは作れるぞ」
「へえー」
「すごいね、お兄ちゃん」
「まあ、そこまで大したものでもないけどな」
艦長は照れ臭そうにしている。
「ねえ、艦長。この艦には何人くらい乗っているの?」
「ああ、今は俺を含めて十人だな」
「意外に少ないんだね」
「まあ、うちの艦隊は規模が小さいからな。俺が艦長を務めているとはいえ、他の艦隊と比べると小規模だな」
「そうなんですか」
「うん。だから、乗組員が足りなくてな。いつも募集しているんだけどなかなか来てくれないんだよ」
「どうしてだろう?」
「多分、給料が低いからだと思うぜ」
「そうかな?」
「だって、この艦の待遇は最高なんだぜ。こんな良い条件の職場なんて他にはないと思うよ」
「そうかなー?」
「まあ、この艦に乗っている奴らは俺も含めて変な奴ばかりだしな。そのせいかもな」
「変な人達なんですか?」
「変というより、変な趣味を持っている奴らが集まっているって感じだな。みんな、何かしらおかしいんだよ」
「へえ、そうなのか」
ルナさんが少し驚いた様子で呟いた。
「ちなみに、何人いるの?」
「ん?……そうだな。二十人ぐらいだな」
「さっきより増えてない?」
「いつも全員が乗っているわけではないからな。まあ、それでも少ない方だよ。もっと大きな戦艦だと五十人以上乗る事もあるらしいし」
「ふーん、そうなんだ」
(五十人も乗れるのか)
わたしはそんな事を考えながら、食事をする。
「あ、そういえばさ、艦長。いろいろ見て回ったけど結局艦全体のシステムの状態は分かるようになったの? 何か途中から見学ツアーみたいになったけどそれを調べる為の調査だったんだよね?」
「いや、まだだ。でも、そのうち何とかなるんじゃないかと思っている」
「大丈夫なんですか?」
わたしが心配すると艦長は笑った。
「ああ、大丈夫さ。そもそも、この艦のシステムは俺が把握しているものと同じみたいだから、すぐに出来るはずだ」
「それが出来るようになればAIとの対決を有利に運べるようになるんですよね」
「ああ、それだけでなく艦の全てを把握できれば作戦の成功率をグッと上げる事ができる」
「この艦にはまだまだ未知の領域が多いものね」
「そうだな。俺達の知らない機能が眠っているかもしれないから、しっかり調査しないとな」
(艦長とルナさんの会話を聞いていると本当に凄いなと思ってしまう。わたしはまだ何もできないけれど、いつかは二人のような優秀なAI使いになれる日が来るのだろうか?)
「ねえ、たかし。この艦には娯楽室とかあるの?」
「ああ、確かあったはずだよ。見に行くか?」
「行きたい」
「じゃあ、案内するぞ」
ルナさんと艦長の会話を聞いてわたしはどこか違和感を感じた。
(娯楽室はさっき行ったのになぜルナさんはあんな事を聞いたのだろう)
不思議には思ったが忘れてるだけかもしれない。わたしも雑用係としてついていく事にして食堂を後にした。
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