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第2章
第24話
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「皆さま、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。これより、舞踏会を始めさせて頂きます」
こうして挨拶が終わると、すぐにダンスの時間になったのだが、私は殿下に誘われる前にアリシアと踊ることになった。
珍しく彼女の方から誘いに来てくれたのだ。断る理由なんて無かった。
「シャーロット様、私と一緒に踊ってくださいますか?」
「ええ、喜んで。ドレスを着てくれる気になったのね」
「はい、私も……参加したくなったので」
「よろしくお願いしますね」
「はい! こちらこそお願いします!」
それから彼女と踊り始めると、その様子を見ていた殿下も誘ってくれたので、一緒に踊ることにした。
アリシアは慣れないダンスに疲れたのか隅に移動してジュースを飲んでいた。そうしながらダンスの勉強でもしようというのか他の人を気にしているのが面白かった。
「ねえ、君は僕のことをどう思っているんだい?」
「そうですね……嫌いではありませんよ」
「そっか……それなら良かったよ」
「殿下、どうしてそんなことを聞くのですか?」
「いや、ただ聞いてみただけだよ」
「そうでしたか……」
「ねえ、シャーロット。君は僕のことを愛してはいないかもしれないけど、これからも仲良くしてくれるかな?」
「ええ、もちろんですよ。私にできることならなんでも致しますので、遠慮せずに仰ってくださいね」
「ありがとう。君がそう言ってくれて嬉しいよ」
彼は嬉しそうな笑みを浮かべていたが、正直言って私は心の底から気持ち悪いと思っていた。
「……殿下、どうして婚約破棄を撤回される気になったのですか?」
「僕のところに戻ってきた君がそれを聞くのかい? 気持ちは同じだと思ったのだけれど」
「そろそろ次の方と交代してもよろしいでしょうか?」
「ああ、すまなかったね。ぜひ、楽しんでいってくれたまえ」
「はい、ありがとうございます」
私は彼に微笑んでから、別の相手を探すためにその場を離れた。
その後も何人かと踊ったが、なかなか気に入る相手が見つからずに途方に暮れていると、不意に後ろから声をかけられた。
「あの……シャーロット様」
「あら、あなたは確か……」
「はい、クリスティーナと申します。以前は婚約破棄された事でシャーロット様に酷い態度を取ってしまい、大変失礼いたしました」
「いえ、もう過ぎたことですから気にしておりませんよ。それよりも、何か御用でしょうか?」
「はい、もし宜しければ私と踊っていただけませんか?」
「ええ、もちろんですわ。では、行きましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
こうして彼女と共に踊り始めたのだが、しばらくすると彼女が小さな声で話しかけてきた。
「シャーロット様……私はあなたのことが大好きです」
「えっ……?」
「ふふっ、驚いているようですね」
「……どういうつもりなの?」
「簡単な話ですわ。私は、殿下の婚約者であるあなたが大嫌いでしたの。だから、嫌がらせをしていたのですわ」
「そう……それが本当だとしたら許せないわね」
「あら、怖がらせてしまいましたか? ごめんなさいね。でも、シャーロット様も悪いんですよ。だって、あんなに可愛らしい顔立ちをしているのですもの……我慢できなかったんですわ」
「……ふざけないでくれる?」
「ふふっ、やっといつもの口調に戻ってくれましたね。とても可愛いですわよ」
「……何が目的なのかしら?」
「別に何もありませんわ。ただ、あなたと仲良しになりたいだけですわ」
「嘘をつかないでちょうだい。そんな訳がないでしょう?」
「まあ、バレてしまったら仕方がありませんわね。では、単刀直入に言いますわね。シャーロット様、私と手を組まないかしら?」
「手を組む? それは一体どういう意味なのかしら?」
「言葉通りの意味よ。あなたは私のことを嫌っているようだけれど、私はあなたのことが大好きなの。それに、私が協力すればきっと殿下の心を掴めると思うのよ」
「そうね……確かに魅力的な提案だわ。だけど、断ることにするわ」
「あら、どうしてかしら?」
「殿下はすでに私のことを愛しているからよ。そして、この国を手に入れるためならばどんな手段も厭わないと決めているの」
「へぇ……そうなの。それなら私にも考えがあるのだけれど、いいのかしら?」
「ええ、構わないわよ。それで、どうするつもりなのかしら?」
「簡単よ。私は殿下の前から姿を消すことにするの。そうすれば、きっと私のことを探してくれるはずだから」
「なるほど……確かにその可能性はあるかもしれませんわね」
「そうでしょう? だから、あなたは私の計画に協力してくれるかしら?」
「ええ、もちろんよ。私も殿下のことを諦めるつもりはないから」
「そうよね。それならば話は早いわ。それじゃあ、さっそく準備を始めましょうか」
「わかったわ。とりあえず、今日は帰りましょうか」
「ええ、そうしましょう」
それから彼女と別れると、家に帰るまでずっと考えていた。
(まさか、彼女が殿下の元から離れるとは思わなかったわ。しかも、それを逆手に取って殿下を振り向かせようとしているなんて、予想外だったわ)
だが、これはチャンスでもあると思った。なぜなら、殿下と彼女の関係が悪化することは間違いないだろうからだ。
そうなれば必然的に私と殿下の関係が良くなり、いずれは結婚することになるだろう。二度と破棄される心配もなくなる。
「ふふっ……殿下、覚悟していてくださいね」
私は心の中で笑いながら、これからのことを考えていた。
そんな帰り道の事。ふと暗がりに佇む少女がいた事に気づいた。最初はアリシアが追いかけてきたのかと思ったが違っていた。
その光で煌めく銀髪と不敵な笑顔を見て私は凍り付いたように立ち止まる。
「シャーロットさん。お久しぶりだね。何だかとっても楽しそう」
「ネーラ! なんであなたがここに!」
「パーティーが開かれてたからね。参加させてもらったんだ。あれが幻じゃない本物のパーティーなんだね。いろいろ勉強になったよ」
そう言って会釈するふりをする彼女の着ている服が会場でダンスを踊ったアリシアが着ていたドレスと同じ物で私はほぞをかんだ。
「目の前にいたのに気づかなかったなんて!」
「アリシアを責めないであげてよ。あの子は服を忘れた令嬢の為にドレスを貸してくれただけなんだからね」
「当然よ!」
アリシアはドレスは着ないと言っていた。目の前の喜びで見えなくなっていた私の落ち度なのだ。
ネーラはところでと少し寂しげな顔をして話を変える。
「殿下とよりを戻すことにしたんだ。ウィルのことはどうでもいいのかな?」
「どうでもいいわけじゃないわ。私は自分の信じる道を進むことに決めたの。あなたにはもう惑わされないわ」
「そう、なんだかあたしには分からない難しい事をするつもりでいるようだね」
「別に難しくはないわ。あなたには分からないってだけよ」
「フフ、面白いね。これから君が何をするのか楽しませてもらうよ」
彼女はくるりと踵を返すと、町の灯りの中へ溶けるように姿を消していった。
「あいつ、何しに来たのかしら……」
まあ、ネーラの事なんてどうでもいい。今はもっと重要なことがある。
私は少し疲れた気分になって帰路へついた。
こうして挨拶が終わると、すぐにダンスの時間になったのだが、私は殿下に誘われる前にアリシアと踊ることになった。
珍しく彼女の方から誘いに来てくれたのだ。断る理由なんて無かった。
「シャーロット様、私と一緒に踊ってくださいますか?」
「ええ、喜んで。ドレスを着てくれる気になったのね」
「はい、私も……参加したくなったので」
「よろしくお願いしますね」
「はい! こちらこそお願いします!」
それから彼女と踊り始めると、その様子を見ていた殿下も誘ってくれたので、一緒に踊ることにした。
アリシアは慣れないダンスに疲れたのか隅に移動してジュースを飲んでいた。そうしながらダンスの勉強でもしようというのか他の人を気にしているのが面白かった。
「ねえ、君は僕のことをどう思っているんだい?」
「そうですね……嫌いではありませんよ」
「そっか……それなら良かったよ」
「殿下、どうしてそんなことを聞くのですか?」
「いや、ただ聞いてみただけだよ」
「そうでしたか……」
「ねえ、シャーロット。君は僕のことを愛してはいないかもしれないけど、これからも仲良くしてくれるかな?」
「ええ、もちろんですよ。私にできることならなんでも致しますので、遠慮せずに仰ってくださいね」
「ありがとう。君がそう言ってくれて嬉しいよ」
彼は嬉しそうな笑みを浮かべていたが、正直言って私は心の底から気持ち悪いと思っていた。
「……殿下、どうして婚約破棄を撤回される気になったのですか?」
「僕のところに戻ってきた君がそれを聞くのかい? 気持ちは同じだと思ったのだけれど」
「そろそろ次の方と交代してもよろしいでしょうか?」
「ああ、すまなかったね。ぜひ、楽しんでいってくれたまえ」
「はい、ありがとうございます」
私は彼に微笑んでから、別の相手を探すためにその場を離れた。
その後も何人かと踊ったが、なかなか気に入る相手が見つからずに途方に暮れていると、不意に後ろから声をかけられた。
「あの……シャーロット様」
「あら、あなたは確か……」
「はい、クリスティーナと申します。以前は婚約破棄された事でシャーロット様に酷い態度を取ってしまい、大変失礼いたしました」
「いえ、もう過ぎたことですから気にしておりませんよ。それよりも、何か御用でしょうか?」
「はい、もし宜しければ私と踊っていただけませんか?」
「ええ、もちろんですわ。では、行きましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
こうして彼女と共に踊り始めたのだが、しばらくすると彼女が小さな声で話しかけてきた。
「シャーロット様……私はあなたのことが大好きです」
「えっ……?」
「ふふっ、驚いているようですね」
「……どういうつもりなの?」
「簡単な話ですわ。私は、殿下の婚約者であるあなたが大嫌いでしたの。だから、嫌がらせをしていたのですわ」
「そう……それが本当だとしたら許せないわね」
「あら、怖がらせてしまいましたか? ごめんなさいね。でも、シャーロット様も悪いんですよ。だって、あんなに可愛らしい顔立ちをしているのですもの……我慢できなかったんですわ」
「……ふざけないでくれる?」
「ふふっ、やっといつもの口調に戻ってくれましたね。とても可愛いですわよ」
「……何が目的なのかしら?」
「別に何もありませんわ。ただ、あなたと仲良しになりたいだけですわ」
「嘘をつかないでちょうだい。そんな訳がないでしょう?」
「まあ、バレてしまったら仕方がありませんわね。では、単刀直入に言いますわね。シャーロット様、私と手を組まないかしら?」
「手を組む? それは一体どういう意味なのかしら?」
「言葉通りの意味よ。あなたは私のことを嫌っているようだけれど、私はあなたのことが大好きなの。それに、私が協力すればきっと殿下の心を掴めると思うのよ」
「そうね……確かに魅力的な提案だわ。だけど、断ることにするわ」
「あら、どうしてかしら?」
「殿下はすでに私のことを愛しているからよ。そして、この国を手に入れるためならばどんな手段も厭わないと決めているの」
「へぇ……そうなの。それなら私にも考えがあるのだけれど、いいのかしら?」
「ええ、構わないわよ。それで、どうするつもりなのかしら?」
「簡単よ。私は殿下の前から姿を消すことにするの。そうすれば、きっと私のことを探してくれるはずだから」
「なるほど……確かにその可能性はあるかもしれませんわね」
「そうでしょう? だから、あなたは私の計画に協力してくれるかしら?」
「ええ、もちろんよ。私も殿下のことを諦めるつもりはないから」
「そうよね。それならば話は早いわ。それじゃあ、さっそく準備を始めましょうか」
「わかったわ。とりあえず、今日は帰りましょうか」
「ええ、そうしましょう」
それから彼女と別れると、家に帰るまでずっと考えていた。
(まさか、彼女が殿下の元から離れるとは思わなかったわ。しかも、それを逆手に取って殿下を振り向かせようとしているなんて、予想外だったわ)
だが、これはチャンスでもあると思った。なぜなら、殿下と彼女の関係が悪化することは間違いないだろうからだ。
そうなれば必然的に私と殿下の関係が良くなり、いずれは結婚することになるだろう。二度と破棄される心配もなくなる。
「ふふっ……殿下、覚悟していてくださいね」
私は心の中で笑いながら、これからのことを考えていた。
そんな帰り道の事。ふと暗がりに佇む少女がいた事に気づいた。最初はアリシアが追いかけてきたのかと思ったが違っていた。
その光で煌めく銀髪と不敵な笑顔を見て私は凍り付いたように立ち止まる。
「シャーロットさん。お久しぶりだね。何だかとっても楽しそう」
「ネーラ! なんであなたがここに!」
「パーティーが開かれてたからね。参加させてもらったんだ。あれが幻じゃない本物のパーティーなんだね。いろいろ勉強になったよ」
そう言って会釈するふりをする彼女の着ている服が会場でダンスを踊ったアリシアが着ていたドレスと同じ物で私はほぞをかんだ。
「目の前にいたのに気づかなかったなんて!」
「アリシアを責めないであげてよ。あの子は服を忘れた令嬢の為にドレスを貸してくれただけなんだからね」
「当然よ!」
アリシアはドレスは着ないと言っていた。目の前の喜びで見えなくなっていた私の落ち度なのだ。
ネーラはところでと少し寂しげな顔をして話を変える。
「殿下とよりを戻すことにしたんだ。ウィルのことはどうでもいいのかな?」
「どうでもいいわけじゃないわ。私は自分の信じる道を進むことに決めたの。あなたにはもう惑わされないわ」
「そう、なんだかあたしには分からない難しい事をするつもりでいるようだね」
「別に難しくはないわ。あなたには分からないってだけよ」
「フフ、面白いね。これから君が何をするのか楽しませてもらうよ」
彼女はくるりと踵を返すと、町の灯りの中へ溶けるように姿を消していった。
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