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第2章
第21話
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翌日、重い足取りで王城へと向かっていた私は到着すると門番の兵士に用件を伝えた後で待合室のような場所に通されて待つことになった。
その間にも緊張と不安が入り混じった複雑な感情を抱いていたせいか落ち着かない様子だった私は何度も深呼吸を繰り返して心を落ち着かせようとしていたのだが、なかなか効果が現れず悶々としていると突然ドアが開いて誰かが入って来た気配を感じたので顔を上げるとそこには見知った顔があった。
「あれ? シャーロットさんじゃないですか!」
そこにいたのは見覚えのある青年だったが、誰なのか思い出すことができずに困惑しているとその様子に気付いた彼が苦笑しながら言った。
「僕ですよ、冒険者としてご一緒したアルカードです。今ではこの城の近衛騎士団に雇われてるんですよ」
それを聞いた途端、ようやく思い出した私は安堵した後で挨拶を交わした。
「ごめんなさい。まさかこんな場所で会うとは思わなくて」
「僕もですよ。あの頃はいろいろと失礼いたしました」
「いえ、いろいろと教えてくださってありがとうございました」
ひとしきり思い出話を咲かせた後で気になっていたことを聞いてみることにした。
「あの、ところで今日は私は何の用事で呼ばれたんでしょうか……?」
そう尋ねると彼は困ったような表情を浮かべながら言った。
「それが僕にもよく分からなくて……ただ、あなたを連れてくるように言われただけなので詳しい事情までは聞かされていないんですよ」
それを聞いてますます不安を募らせていたところに再びドアが開く音がしたと思ったら今度は国王陛下が現れたため、私は急いで跪くと臣下の礼を取った。そんな私に構うことなく近付いてきた陛下はそのまま通り過ぎていくと椅子に腰を下ろしてから言った。
「面を上げよ」
その言葉に従って顔を上げたところで改めて間近で見た彼の顔はとても美しく整っており思わず見惚れてしまいそうになったが、すぐに我に返ると姿勢を正してから尋ねた。
「あ、あの……本日はどういったご用件でしょうか……?」
恐る恐る尋ねると陛下は溜息混じりに答えた。
「うむ、そなたを呼んだのは他でもない。我が息子であるヘンリーのことだ」
(やっぱりそれなのね……)
内心うんざりしていたが、そんなことはおくびにも出さずに黙って聞いていると陛下はさらに言葉を続けた。
「単刀直入に言おう、婚約破棄を無かった事にして欲しいのだ」
その言葉を聞いても不思議と驚きはなかった。むしろ予想通りの展開だったので冷静に対処することができた。なので、なるべく刺激しないように言葉を選びながら返答することにした。
「恐れながら申し上げますと、それはできません」
私がきっぱりと断ると陛下の表情が険しくなったのが見えたが構わずに話を続けることにした。
「そもそも、私と殿下とでは身分に差がありすぎますし釣り合いが取れません。それに、私は既に別の方を慕っておりますので今更なかったことにするなど不可能でございます」
そこまで言い切ったところで陛下が大きく息を吐いた後で言った。
「ふむ、なるほどな……確かにその通りだ。ならば仕方ない、ここは一旦引き下がろうではないか。だが、これだけは覚えておくが良い。そなたの我儘のせいでルクレチア家が滅びることになろうとも文句は言えぬということをな……!」
それだけ言い残すと立ち上がり部屋を出て行ってしまったので、残された私はしばらくの間呆然としていた後でハッと我に返った後で立ち上がると慌てて陛下の後を追いかけていったが既に遅かったようで、既に姿が見えなくなっていたので途方に暮れていると背後から声をかけられた。
振り返るとそこには先程はいなかったはずの人物が立っており、その姿を見て私は驚愕した。何故ならその人物こそがまさに今話題になっている張本人だったからだ。
「やあ、久しぶりだねシャーロット。元気にしてたかい?」
爽やかな笑顔で話しかけてくる彼に私は戸惑いながらも何とか言葉を絞り出した。
「ど、どうしてあなたがここにいらっしゃるのですか……?」
震える声で問いかけると殿下は微笑みながら答えてくれた。
「ああ、実は昨日父に呼ばれてさ……君のことをよろしく頼むって言われたんだ」
それを聞いて目眩を覚えた私はふらつきそうになる体を必死に支えてからもう一度確認するように言った。
「本当に婚約破棄を無かったことにされるのですか……? 私の事をウィルに任せるともおっしゃられたではないですか……?」
それに対して彼は申し訳なさそうに頭を掻きながら言った。
「うーん、申し訳ないんだけど全く記憶に無いんだよね……本当に彼はあの誰も生き残れなかった地獄のような戦場から帰ってきたのかな……」
それを聞いた瞬間、私は目の前が真っ暗になったような気がした。
(嘘でしょ……? あんなに大事なことを忘れられているなんてあんまりだわ……!)
悲しみに打ちひしがれていると不意に彼が近づいてきて顔を覗き込んできたので咄嗟に顔を背けてしまった。すると彼は困ったように笑いながら言った。
「嫌われちゃったかな……? まあ、しょうがないよね。ウィルの事はこちらでも調べてみるよ。それより、よかったら少し話をしないかい? 積もる話もあるだろうしさ」
そう言われて一瞬迷ったものの、結局誘いを受けることにした私は彼に連れられて中庭に出るとベンチに腰掛けることにした。そして、しばらく無言のまま過ごしていた後で最初に口を開いたのは彼の方だった。
「そういえば、最近はどうしてたんだい? 僕はあまり城に帰って来られないから最近のことはよく知らないんだよ」
それを聞いて私は今までのことを思い返してみたのだが特に変わったことはなかったように思う。
というのも、最近では働いたり一人で街を散策することがほとんどだったし、家出をしていたなんて殿下に話すようなことでもないと思ったのだが、一応聞かれたことには答えることにした。
「そうですね、最近でしたら王都の書店を巡っていましたね」
そう言うと彼は意外そうな表情を浮かべた後で言った。
「へぇ、君は本が好きなんだね……そうか、そう言えば昔から本が大好きだって言ってたもんね」
納得したように何度も相槌を打っている様子を眺めていた私は違和感を感じていた。
(あれ、もしかして覚えてるんじゃ……?)
そんな疑念を抱いていると彼が突然真剣な眼差しを向けてきたため、ドキッとした私は思わず固まってしまうと彼がおもむろに話し出した。
「ねぇ、シャーロット。僕はずっと前から君のことが好きだったんだ」
「……はい?」
あまりにも唐突すぎる告白を受けて唖然としているとさらに言葉を続けた。
「だから、結婚を前提に付き合ってくれないか……?」
「……えっ!?」
私は耳を疑った。まさか、そんなことを言われるとは夢にも思わなかったからだ。
だが、すぐに冷静になって考えると彼の気持ちはよく理解できた。何しろ今の私達はただの婚約者同士ではなく、お互いに家を背負っている立場なのだ。
その状態でいきなり好きだと言われても困惑するだけだろうし、そもそも立場的に考えて受け入れるわけにはいかないのでやんわりとお断りすることにした。
「ありがとうございます。ですが、今はお受けできません」
「え、どうして?」
不思議そうに尋ねられた私は苦笑しながら答えた。
「どうしてって……まずはお互いをよく知るところから始めるべきだと思うのですが」
「なるほどね……つまり、家のことは気にしていないということ?」
「え、いえ、そういうことでは……」
「大丈夫だよ、心配しなくてもちゃんと考えているから」
「あの、聞いてます……?」
「そうだね、とりあえず手始めにデートしようよ。それでお互いを知るきっかけになるはずだしね」
「ちょっと待ってください! 私の話を聞いて……!」
その後も何度か説明を試みたものの全て聞き流されてしまった挙句、いつの間にかデートの約束までさせられてしまい途方に暮れていると陛下が戻ってきたのでようやく解放されることになった。
だが、部屋を出る前に陛下がぼそりと呟いた言葉が聞こえてしまった。
「ふん、余計な真似をしよって……!」
それを聞いた瞬間、私は怒りを抑えることができなかった。
(……絶対に許さない。この国も、陛下自身も必ず滅ぼしてやる……!)
その間にも緊張と不安が入り混じった複雑な感情を抱いていたせいか落ち着かない様子だった私は何度も深呼吸を繰り返して心を落ち着かせようとしていたのだが、なかなか効果が現れず悶々としていると突然ドアが開いて誰かが入って来た気配を感じたので顔を上げるとそこには見知った顔があった。
「あれ? シャーロットさんじゃないですか!」
そこにいたのは見覚えのある青年だったが、誰なのか思い出すことができずに困惑しているとその様子に気付いた彼が苦笑しながら言った。
「僕ですよ、冒険者としてご一緒したアルカードです。今ではこの城の近衛騎士団に雇われてるんですよ」
それを聞いた途端、ようやく思い出した私は安堵した後で挨拶を交わした。
「ごめんなさい。まさかこんな場所で会うとは思わなくて」
「僕もですよ。あの頃はいろいろと失礼いたしました」
「いえ、いろいろと教えてくださってありがとうございました」
ひとしきり思い出話を咲かせた後で気になっていたことを聞いてみることにした。
「あの、ところで今日は私は何の用事で呼ばれたんでしょうか……?」
そう尋ねると彼は困ったような表情を浮かべながら言った。
「それが僕にもよく分からなくて……ただ、あなたを連れてくるように言われただけなので詳しい事情までは聞かされていないんですよ」
それを聞いてますます不安を募らせていたところに再びドアが開く音がしたと思ったら今度は国王陛下が現れたため、私は急いで跪くと臣下の礼を取った。そんな私に構うことなく近付いてきた陛下はそのまま通り過ぎていくと椅子に腰を下ろしてから言った。
「面を上げよ」
その言葉に従って顔を上げたところで改めて間近で見た彼の顔はとても美しく整っており思わず見惚れてしまいそうになったが、すぐに我に返ると姿勢を正してから尋ねた。
「あ、あの……本日はどういったご用件でしょうか……?」
恐る恐る尋ねると陛下は溜息混じりに答えた。
「うむ、そなたを呼んだのは他でもない。我が息子であるヘンリーのことだ」
(やっぱりそれなのね……)
内心うんざりしていたが、そんなことはおくびにも出さずに黙って聞いていると陛下はさらに言葉を続けた。
「単刀直入に言おう、婚約破棄を無かった事にして欲しいのだ」
その言葉を聞いても不思議と驚きはなかった。むしろ予想通りの展開だったので冷静に対処することができた。なので、なるべく刺激しないように言葉を選びながら返答することにした。
「恐れながら申し上げますと、それはできません」
私がきっぱりと断ると陛下の表情が険しくなったのが見えたが構わずに話を続けることにした。
「そもそも、私と殿下とでは身分に差がありすぎますし釣り合いが取れません。それに、私は既に別の方を慕っておりますので今更なかったことにするなど不可能でございます」
そこまで言い切ったところで陛下が大きく息を吐いた後で言った。
「ふむ、なるほどな……確かにその通りだ。ならば仕方ない、ここは一旦引き下がろうではないか。だが、これだけは覚えておくが良い。そなたの我儘のせいでルクレチア家が滅びることになろうとも文句は言えぬということをな……!」
それだけ言い残すと立ち上がり部屋を出て行ってしまったので、残された私はしばらくの間呆然としていた後でハッと我に返った後で立ち上がると慌てて陛下の後を追いかけていったが既に遅かったようで、既に姿が見えなくなっていたので途方に暮れていると背後から声をかけられた。
振り返るとそこには先程はいなかったはずの人物が立っており、その姿を見て私は驚愕した。何故ならその人物こそがまさに今話題になっている張本人だったからだ。
「やあ、久しぶりだねシャーロット。元気にしてたかい?」
爽やかな笑顔で話しかけてくる彼に私は戸惑いながらも何とか言葉を絞り出した。
「ど、どうしてあなたがここにいらっしゃるのですか……?」
震える声で問いかけると殿下は微笑みながら答えてくれた。
「ああ、実は昨日父に呼ばれてさ……君のことをよろしく頼むって言われたんだ」
それを聞いて目眩を覚えた私はふらつきそうになる体を必死に支えてからもう一度確認するように言った。
「本当に婚約破棄を無かったことにされるのですか……? 私の事をウィルに任せるともおっしゃられたではないですか……?」
それに対して彼は申し訳なさそうに頭を掻きながら言った。
「うーん、申し訳ないんだけど全く記憶に無いんだよね……本当に彼はあの誰も生き残れなかった地獄のような戦場から帰ってきたのかな……」
それを聞いた瞬間、私は目の前が真っ暗になったような気がした。
(嘘でしょ……? あんなに大事なことを忘れられているなんてあんまりだわ……!)
悲しみに打ちひしがれていると不意に彼が近づいてきて顔を覗き込んできたので咄嗟に顔を背けてしまった。すると彼は困ったように笑いながら言った。
「嫌われちゃったかな……? まあ、しょうがないよね。ウィルの事はこちらでも調べてみるよ。それより、よかったら少し話をしないかい? 積もる話もあるだろうしさ」
そう言われて一瞬迷ったものの、結局誘いを受けることにした私は彼に連れられて中庭に出るとベンチに腰掛けることにした。そして、しばらく無言のまま過ごしていた後で最初に口を開いたのは彼の方だった。
「そういえば、最近はどうしてたんだい? 僕はあまり城に帰って来られないから最近のことはよく知らないんだよ」
それを聞いて私は今までのことを思い返してみたのだが特に変わったことはなかったように思う。
というのも、最近では働いたり一人で街を散策することがほとんどだったし、家出をしていたなんて殿下に話すようなことでもないと思ったのだが、一応聞かれたことには答えることにした。
「そうですね、最近でしたら王都の書店を巡っていましたね」
そう言うと彼は意外そうな表情を浮かべた後で言った。
「へぇ、君は本が好きなんだね……そうか、そう言えば昔から本が大好きだって言ってたもんね」
納得したように何度も相槌を打っている様子を眺めていた私は違和感を感じていた。
(あれ、もしかして覚えてるんじゃ……?)
そんな疑念を抱いていると彼が突然真剣な眼差しを向けてきたため、ドキッとした私は思わず固まってしまうと彼がおもむろに話し出した。
「ねぇ、シャーロット。僕はずっと前から君のことが好きだったんだ」
「……はい?」
あまりにも唐突すぎる告白を受けて唖然としているとさらに言葉を続けた。
「だから、結婚を前提に付き合ってくれないか……?」
「……えっ!?」
私は耳を疑った。まさか、そんなことを言われるとは夢にも思わなかったからだ。
だが、すぐに冷静になって考えると彼の気持ちはよく理解できた。何しろ今の私達はただの婚約者同士ではなく、お互いに家を背負っている立場なのだ。
その状態でいきなり好きだと言われても困惑するだけだろうし、そもそも立場的に考えて受け入れるわけにはいかないのでやんわりとお断りすることにした。
「ありがとうございます。ですが、今はお受けできません」
「え、どうして?」
不思議そうに尋ねられた私は苦笑しながら答えた。
「どうしてって……まずはお互いをよく知るところから始めるべきだと思うのですが」
「なるほどね……つまり、家のことは気にしていないということ?」
「え、いえ、そういうことでは……」
「大丈夫だよ、心配しなくてもちゃんと考えているから」
「あの、聞いてます……?」
「そうだね、とりあえず手始めにデートしようよ。それでお互いを知るきっかけになるはずだしね」
「ちょっと待ってください! 私の話を聞いて……!」
その後も何度か説明を試みたものの全て聞き流されてしまった挙句、いつの間にかデートの約束までさせられてしまい途方に暮れていると陛下が戻ってきたのでようやく解放されることになった。
だが、部屋を出る前に陛下がぼそりと呟いた言葉が聞こえてしまった。
「ふん、余計な真似をしよって……!」
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