20 / 28
第2章
第20話
しおりを挟む
数日後、いつものように仕事を終えて帰宅したところで郵便受けを開けると一通の手紙が入っていたことに気付いたので手に取ると差出人の欄には『ルクレチア家』と書かれているのを見て嫌な予感を覚えた私は恐る恐る封を切って中身を取り出して読んでみたところ、予想通りの内容だったため大きな溜息を吐いた後で手紙をぐしゃぐしゃに丸めるとゴミ箱に放り込んでからベッドに倒れ込むようにして横になった。
(今更私に何の用があるというの……?)
考えても分からないが出席さえすればみんな満足してくれるのだろう。横になっているうちに私はそのまま眠ってしまった。
翌朝目を覚ますと気分は最悪だったが、いつまでも引きずっていても仕方がないと思った私は気持ちを切り替えることにした。
そして、朝食を済ませた後で家を出る支度を整えると玄関に向かったところでふと立ち止まった後で振り返って部屋の中を見渡してみることにした。
そこは見慣れた自分の部屋なのだが、ここ数日間で色々な出来事が起こったせいですっかり荒れ果ててしまったように感じられた。しかし、それも今日で終わると思うと感慨深いものがあったがすぐに頭を切り替えることにした。
(もうここには戻って来られないかもしれないし、最後に綺麗に掃除しておこうかな)
そう思った私は雑巾を手に取ると床や家具などを隅々まで丁寧に拭き始めたのだが、作業に没頭しているうちに時間が経つのを忘れてしまい気がつくと昼前になっていたので驚いた私は慌てて手を止めることにした。
(いけない、つい夢中になって忘れてたけどそろそろ行かないと遅刻しちゃう……!)
時計を見ると既に出発しなければいけない時間を過ぎていたので慌てて家を飛び出した私は全速力で走ったおかげでなんとか間に合ったものの息を切らして手紙に書かれていた会議室に入ると他の参加者は既に全員揃っていたので遅れてしまったことを謝罪すると空いている席に着いた。
全員が揃ったところで会議が始まったので報告事項に耳を傾けていると、不意に名前を呼ばれたので顔を上げると目の前に座っていた人物と目が合った。その人物はこの国の宰相を務める男性だったのだが、何故か私のことをじっと見つめていたので不思議に思っていると彼は咳払いをした後に言った。
「ゴホンッ、それでは次にシャーロット・ルクレチア嬢についてだが――」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が止まりそうになった。まさかこんな場所で自分の名前を聞くことになるとは夢にも思っていなかったからである。
(どうしてここで私の名前が出てくるの……? 私が何か悪いことをした……?)
動揺している私をよそに話は進んでいく中で、遂にその時が来てしまった。
「彼女を王城へと召喚することを決定した」
その瞬間、頭が真っ白になってしまった。何故自分が呼び出されたのか理解できなかったからだ。
呆然としたまま固まっている私を無視して会議は終了したようで、我に返った時には部屋の中に誰もいなくなっていたので慌てて立ち上がると逃げるようにして部屋を出た後で控室に戻ると鍵をかけてからドアにもたれかかるようにして座り込んだ後で頭を抱えた。
(どういうことなの……? なんで私が呼び出されるの……?)
疑問ばかりが浮かんでくる中、ふとある考えが頭をよぎったことで背筋が凍るような思いになった。
(もしかして、昨日の手紙が原因なの……?)
そう考えると辻褄が合うような気がしてならなかった。恐らくあれは忠告か何かだったのだろうと思うことにした私は一刻も早くこの場を離れなければと思い立つと荷物をまとめて部屋を飛び出すとそのまま屋敷を出て街へと向かったのだが、その間ずっと頭の中は混乱しておりどうやって街を回って家に帰ったのかも覚えていないくらいだった。
帰宅してから部屋に引きこもった私はベッドの上で膝を抱えたままうずくまっていると不意に涙が溢れてきたので嗚咽を漏らしていると部屋のドアをノックする音が聞こえてきたのでビクッと身体を震わせたが、返事をする気力すら無かったため黙っているとドアの向こうから声が聞こえてきた。
「シャーロットいる? 入ってもいい?」
声の主は店長だったことが分かった私は迷った末に小さく頷くとドアが開いた後で入ってきた彼女が心配そうな表情で駆け寄ってきたかと思うと私の顔を覗き込みながら尋ねてきた。
「やっぱりあなたが噂のシャーロット様だったのね?」
「ごめんなさい。黙っていて」
「いいのよ。お互いに境遇は言わない約束だったものね。どうしたの? 何かあった?」
そう聞かれて一瞬躊躇したものの正直に答えることにした。
「実は、さっき手紙が届いて会議に出ていたんだけど……私、明日王城に呼ばれているみたいなの」
それを聞いた途端、彼女の顔が強張ったのが分かった。
「えっ!? そ、それってつまり……」
それ以上言わせまいとするかのように私は首を横に振った後で言った。
「分かってる、言いたいことは分かるわ。でも、まだそうと決まったわけじゃないから……」
そう言って無理矢理笑顔を浮かべようとしたものの上手く笑えずに引きつってしまっただけだったが、それを見た彼女は私をギュッと抱きしめてくると耳元で囁いた。
「大丈夫よ、きっとあなたにとって悪い話ではないでしょうから安心なさってください」
その言葉に救われたような気がした私は彼女に縋り付くようにして泣き続けたのだった――。
(今更私に何の用があるというの……?)
考えても分からないが出席さえすればみんな満足してくれるのだろう。横になっているうちに私はそのまま眠ってしまった。
翌朝目を覚ますと気分は最悪だったが、いつまでも引きずっていても仕方がないと思った私は気持ちを切り替えることにした。
そして、朝食を済ませた後で家を出る支度を整えると玄関に向かったところでふと立ち止まった後で振り返って部屋の中を見渡してみることにした。
そこは見慣れた自分の部屋なのだが、ここ数日間で色々な出来事が起こったせいですっかり荒れ果ててしまったように感じられた。しかし、それも今日で終わると思うと感慨深いものがあったがすぐに頭を切り替えることにした。
(もうここには戻って来られないかもしれないし、最後に綺麗に掃除しておこうかな)
そう思った私は雑巾を手に取ると床や家具などを隅々まで丁寧に拭き始めたのだが、作業に没頭しているうちに時間が経つのを忘れてしまい気がつくと昼前になっていたので驚いた私は慌てて手を止めることにした。
(いけない、つい夢中になって忘れてたけどそろそろ行かないと遅刻しちゃう……!)
時計を見ると既に出発しなければいけない時間を過ぎていたので慌てて家を飛び出した私は全速力で走ったおかげでなんとか間に合ったものの息を切らして手紙に書かれていた会議室に入ると他の参加者は既に全員揃っていたので遅れてしまったことを謝罪すると空いている席に着いた。
全員が揃ったところで会議が始まったので報告事項に耳を傾けていると、不意に名前を呼ばれたので顔を上げると目の前に座っていた人物と目が合った。その人物はこの国の宰相を務める男性だったのだが、何故か私のことをじっと見つめていたので不思議に思っていると彼は咳払いをした後に言った。
「ゴホンッ、それでは次にシャーロット・ルクレチア嬢についてだが――」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が止まりそうになった。まさかこんな場所で自分の名前を聞くことになるとは夢にも思っていなかったからである。
(どうしてここで私の名前が出てくるの……? 私が何か悪いことをした……?)
動揺している私をよそに話は進んでいく中で、遂にその時が来てしまった。
「彼女を王城へと召喚することを決定した」
その瞬間、頭が真っ白になってしまった。何故自分が呼び出されたのか理解できなかったからだ。
呆然としたまま固まっている私を無視して会議は終了したようで、我に返った時には部屋の中に誰もいなくなっていたので慌てて立ち上がると逃げるようにして部屋を出た後で控室に戻ると鍵をかけてからドアにもたれかかるようにして座り込んだ後で頭を抱えた。
(どういうことなの……? なんで私が呼び出されるの……?)
疑問ばかりが浮かんでくる中、ふとある考えが頭をよぎったことで背筋が凍るような思いになった。
(もしかして、昨日の手紙が原因なの……?)
そう考えると辻褄が合うような気がしてならなかった。恐らくあれは忠告か何かだったのだろうと思うことにした私は一刻も早くこの場を離れなければと思い立つと荷物をまとめて部屋を飛び出すとそのまま屋敷を出て街へと向かったのだが、その間ずっと頭の中は混乱しておりどうやって街を回って家に帰ったのかも覚えていないくらいだった。
帰宅してから部屋に引きこもった私はベッドの上で膝を抱えたままうずくまっていると不意に涙が溢れてきたので嗚咽を漏らしていると部屋のドアをノックする音が聞こえてきたのでビクッと身体を震わせたが、返事をする気力すら無かったため黙っているとドアの向こうから声が聞こえてきた。
「シャーロットいる? 入ってもいい?」
声の主は店長だったことが分かった私は迷った末に小さく頷くとドアが開いた後で入ってきた彼女が心配そうな表情で駆け寄ってきたかと思うと私の顔を覗き込みながら尋ねてきた。
「やっぱりあなたが噂のシャーロット様だったのね?」
「ごめんなさい。黙っていて」
「いいのよ。お互いに境遇は言わない約束だったものね。どうしたの? 何かあった?」
そう聞かれて一瞬躊躇したものの正直に答えることにした。
「実は、さっき手紙が届いて会議に出ていたんだけど……私、明日王城に呼ばれているみたいなの」
それを聞いた途端、彼女の顔が強張ったのが分かった。
「えっ!? そ、それってつまり……」
それ以上言わせまいとするかのように私は首を横に振った後で言った。
「分かってる、言いたいことは分かるわ。でも、まだそうと決まったわけじゃないから……」
そう言って無理矢理笑顔を浮かべようとしたものの上手く笑えずに引きつってしまっただけだったが、それを見た彼女は私をギュッと抱きしめてくると耳元で囁いた。
「大丈夫よ、きっとあなたにとって悪い話ではないでしょうから安心なさってください」
その言葉に救われたような気がした私は彼女に縋り付くようにして泣き続けたのだった――。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」
ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」
美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。
夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。
さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。
政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。
「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」
果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる