18 / 28
第1章
第18話
しおりを挟む
まずは拠点を確保する必要があると考えた私は宿を探すことにすることに決めたが、その前にやるべきことがあったのでそちらを優先することにした。それはお金を手に入れることである。
今着ている服以外何も持っていないのでこのままでは生活できないと判断したのだ。そこで、私は街の中心部に向かうことにした。
大通り沿いに歩いて行くと一際目立つ建物が見えてきたので近づいてみると、そこは冒険者ギルドと呼ばれる施設のようだった。中に入ると多くの人達がいたが、皆武装しており強面の人物が多かったので少し怖かったが勇気を出して受付らしき場所まで歩いていった。すると、そこにいた若い女性が声をかけてきた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。おや、あなたは侯爵令嬢のシャーロット様じゃありませんか。本日はどのようなご用件でしょうか?」
知られている事にびっくりしながらも緊張しながら答えることにした。
「えっと、冒険者になりたいんですけど……」
私がそう言うと女性は驚いたような表情を見せた後で言った。
「ええ!? 侯爵令嬢様が冒険者!? 大丈夫なんですか? 失礼ですが、ご両親はご存じなんですか? 反対されなかったんですか!?」
矢継ぎ早に質問されて戸惑ってしまったが何とか答えることができた。
「いえ、その……家を出る時に黙って出てきてしまって……だから、内緒です」
それを聞いてますます心配そうな顔になった彼女だったが、最終的には折れてくれたようで手続きを進めてくれることになった。
「分かりました、ではこちらの用紙に必要な項目を書いてください」
渡された書類に目を通してみると名前や年齢などを書く欄があったので順番に埋めていくことにした。
全て書き終えたところで提出すると確認してもらうことになったので待っている間にギルドの中を見回してみたのだが、意外と女性の姿も多かったことに驚かされた。
というのも、この世界では女性の社会的地位が低く貴族などのごく一部の例外を除いてまともな職に就くことができないため、結婚相手を見つけることができずに生涯独身で過ごす者が多いと言われているからだ。
それなのに、これだけ多くの女性が働いているということはよほど仕事が充実しているのだろうかと考えているうちに順番が来たようなのでカウンターへと向かった。
そして、先ほど対応してくれた女性に用紙を渡すと内容を確認した後で頷くと一枚のカードを差し出してきた。そこにはこう書かれていた。
『シャーロット・ルクレチア
ランク:F
所属:なし』
それを見て首を傾げる私に説明してくれた。
「これがあなたの身分証明書になります。依頼を受けたり報酬を受け取ったりする際には必要になるので必ず携帯しておいてくださいね」
なるほどと思いながら頷いていると、続けてこんなことを言われた。
「それと、申し訳ありませんが登録料として銀貨5枚を頂くことになっているんですがお持ちですか?」
そう言われて財布を確認すると中に入っていたのはわずか3枚の銅貨だけだった。これではどうしようもないと思った私は正直に打ち明けることにした。
「すみません……実はあまり手持ちがないのですがどうすればよいのでしょうか……?」
恐る恐る尋ねると彼女は笑顔で応じてくれた。
「大丈夫ですよ、今回だけ特別に免除してあげますので次回からはきちんと支払ってくださいね」
「ありがとうございます!」
お礼を言って頭を下げると、彼女は言った。
「それでは早速お仕事を受けてみますか?」
「はい、お願いします」
元気よく返事をすると、手渡された依頼書の中から手頃なものを選ぶことにしたのだが、どれもこれも簡単なものばかりだったので悩んだ末に薬草採取の仕事を受けることに決めた私は早速出発することにした。
目的地は街の外に広がる森の中にあるらしいのでそこまで向かうことにしたのだが、道中で魔物に襲われることがあったらどうしようかと不安に思っていたら案の定現れたので思わず身構えてしまったのだが、よく見るとそこにいたのは可愛らしいスライムだった。
(あれなら倒せるかも……!)
そう思って剣を構えると勢いよく斬りかかったが、あっさりと躱されてしまった上に体当たりを仕掛けられてしまったので吹き飛ばされてしまった私は地面に叩きつけられて悶絶してしまった。
そこへ追撃とばかりに飛びかかってきたスライムに対して為す術もなくやられるかと思ったその時、突然目の前に人影が現れて叫んだ。
「危ないっ!!」
次の瞬間、目の前で爆発が起こったかと思うとスライムの姿は跡形も無く消え去っていた。何が起こったのか理解できずに呆然としていると、背後から声をかけられたので振り返るとそこには若い男性が立っていた。彼は微笑みながら話しかけてくると言った。
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「あ、あの、助けてくださってありがとうございました」
慌ててお礼を言うと、男性は首を横に振った後で言った。
「いえいえ、気にしないでください。それよりもどうしてこんな所に一人でいるのですか? お付きの人は一緒じゃないんですか?」
その言葉を聞いてギクリとした私は冷や汗を流しながら言い訳を考えることにした。
(どうしよう……何て言えばいいんだろう……?)
必死に考えているうちに沈黙が流れる中、やがて男性が口を開いた。
「……もしかして家出でもしてきたんですか?」
図星を突かれて動揺していると、それを見た彼が笑い出したので恥ずかしくなって俯いていると、不意に手を握られたので顔を上げるとすぐ近くに彼の顔があった。突然のことに驚いていると、彼は微笑んで言った。
「僕と一緒に来ませんか? あなたに危害を加えるつもりはありませんから安心してください」
そう言って優しく微笑む彼に見惚れていると、気づけば首を縦に振っていた。それを確認した後で嬉しそうに笑う彼を見ていると私も自然と笑顔になっていた。その後で名前を聞かれたので素直に答えることにした。
「私の名前はシャーロットと言います」
そう名乗ると彼も名乗ってくれた。
「僕はアルカードといいます。よろしくお願いしますね、シャーロットさん」
こうして出会った私達は一緒に旅をすることになったのだが、この時の私には知る由もなかった。この出会いが私の運命を大きく変えることになるということを――。
こうして婚約破棄された私の新たな生活の1ページが始まる事になるのだった。
今着ている服以外何も持っていないのでこのままでは生活できないと判断したのだ。そこで、私は街の中心部に向かうことにした。
大通り沿いに歩いて行くと一際目立つ建物が見えてきたので近づいてみると、そこは冒険者ギルドと呼ばれる施設のようだった。中に入ると多くの人達がいたが、皆武装しており強面の人物が多かったので少し怖かったが勇気を出して受付らしき場所まで歩いていった。すると、そこにいた若い女性が声をかけてきた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。おや、あなたは侯爵令嬢のシャーロット様じゃありませんか。本日はどのようなご用件でしょうか?」
知られている事にびっくりしながらも緊張しながら答えることにした。
「えっと、冒険者になりたいんですけど……」
私がそう言うと女性は驚いたような表情を見せた後で言った。
「ええ!? 侯爵令嬢様が冒険者!? 大丈夫なんですか? 失礼ですが、ご両親はご存じなんですか? 反対されなかったんですか!?」
矢継ぎ早に質問されて戸惑ってしまったが何とか答えることができた。
「いえ、その……家を出る時に黙って出てきてしまって……だから、内緒です」
それを聞いてますます心配そうな顔になった彼女だったが、最終的には折れてくれたようで手続きを進めてくれることになった。
「分かりました、ではこちらの用紙に必要な項目を書いてください」
渡された書類に目を通してみると名前や年齢などを書く欄があったので順番に埋めていくことにした。
全て書き終えたところで提出すると確認してもらうことになったので待っている間にギルドの中を見回してみたのだが、意外と女性の姿も多かったことに驚かされた。
というのも、この世界では女性の社会的地位が低く貴族などのごく一部の例外を除いてまともな職に就くことができないため、結婚相手を見つけることができずに生涯独身で過ごす者が多いと言われているからだ。
それなのに、これだけ多くの女性が働いているということはよほど仕事が充実しているのだろうかと考えているうちに順番が来たようなのでカウンターへと向かった。
そして、先ほど対応してくれた女性に用紙を渡すと内容を確認した後で頷くと一枚のカードを差し出してきた。そこにはこう書かれていた。
『シャーロット・ルクレチア
ランク:F
所属:なし』
それを見て首を傾げる私に説明してくれた。
「これがあなたの身分証明書になります。依頼を受けたり報酬を受け取ったりする際には必要になるので必ず携帯しておいてくださいね」
なるほどと思いながら頷いていると、続けてこんなことを言われた。
「それと、申し訳ありませんが登録料として銀貨5枚を頂くことになっているんですがお持ちですか?」
そう言われて財布を確認すると中に入っていたのはわずか3枚の銅貨だけだった。これではどうしようもないと思った私は正直に打ち明けることにした。
「すみません……実はあまり手持ちがないのですがどうすればよいのでしょうか……?」
恐る恐る尋ねると彼女は笑顔で応じてくれた。
「大丈夫ですよ、今回だけ特別に免除してあげますので次回からはきちんと支払ってくださいね」
「ありがとうございます!」
お礼を言って頭を下げると、彼女は言った。
「それでは早速お仕事を受けてみますか?」
「はい、お願いします」
元気よく返事をすると、手渡された依頼書の中から手頃なものを選ぶことにしたのだが、どれもこれも簡単なものばかりだったので悩んだ末に薬草採取の仕事を受けることに決めた私は早速出発することにした。
目的地は街の外に広がる森の中にあるらしいのでそこまで向かうことにしたのだが、道中で魔物に襲われることがあったらどうしようかと不安に思っていたら案の定現れたので思わず身構えてしまったのだが、よく見るとそこにいたのは可愛らしいスライムだった。
(あれなら倒せるかも……!)
そう思って剣を構えると勢いよく斬りかかったが、あっさりと躱されてしまった上に体当たりを仕掛けられてしまったので吹き飛ばされてしまった私は地面に叩きつけられて悶絶してしまった。
そこへ追撃とばかりに飛びかかってきたスライムに対して為す術もなくやられるかと思ったその時、突然目の前に人影が現れて叫んだ。
「危ないっ!!」
次の瞬間、目の前で爆発が起こったかと思うとスライムの姿は跡形も無く消え去っていた。何が起こったのか理解できずに呆然としていると、背後から声をかけられたので振り返るとそこには若い男性が立っていた。彼は微笑みながら話しかけてくると言った。
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「あ、あの、助けてくださってありがとうございました」
慌ててお礼を言うと、男性は首を横に振った後で言った。
「いえいえ、気にしないでください。それよりもどうしてこんな所に一人でいるのですか? お付きの人は一緒じゃないんですか?」
その言葉を聞いてギクリとした私は冷や汗を流しながら言い訳を考えることにした。
(どうしよう……何て言えばいいんだろう……?)
必死に考えているうちに沈黙が流れる中、やがて男性が口を開いた。
「……もしかして家出でもしてきたんですか?」
図星を突かれて動揺していると、それを見た彼が笑い出したので恥ずかしくなって俯いていると、不意に手を握られたので顔を上げるとすぐ近くに彼の顔があった。突然のことに驚いていると、彼は微笑んで言った。
「僕と一緒に来ませんか? あなたに危害を加えるつもりはありませんから安心してください」
そう言って優しく微笑む彼に見惚れていると、気づけば首を縦に振っていた。それを確認した後で嬉しそうに笑う彼を見ていると私も自然と笑顔になっていた。その後で名前を聞かれたので素直に答えることにした。
「私の名前はシャーロットと言います」
そう名乗ると彼も名乗ってくれた。
「僕はアルカードといいます。よろしくお願いしますね、シャーロットさん」
こうして出会った私達は一緒に旅をすることになったのだが、この時の私には知る由もなかった。この出会いが私の運命を大きく変えることになるということを――。
こうして婚約破棄された私の新たな生活の1ページが始まる事になるのだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」
ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」
美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。
夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。
さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。
政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。
「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」
果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる