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第1話 天才とあれは紙一重だろうか

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 天才とは彼女のような人を言うのだろう。だが、同時に彼女は天災でもあったかもしれない。

「さて、そろそろ行かないと」
「ああ、気をつけてな」
「うん、ありがとう。お兄ちゃんも頑張ってね」

 そう言って彼女は部屋を出て行った。
 彼女が出ていった後の部屋は、いつもより広く感じた。

「よしっ!」

 俺は大きく伸びをすると、ベッドから立ち上がった。そして机に向かう。
 昨日できなかった分を取り戻すために勉強をするのだ。
 今日はバイトもないし、時間はたっぷりある。
 俺はノートを広げて、シャーペンを握ると、参考書に目を落とした。
 その時、突如嵐が吹き荒れた。

 ドゴオオォオオン!!!!!

  轟音とともに部屋の扉が吹っ飛び、廊下の壁に当たる。

「うわあっ!?」

 思わず悲鳴を上げる俺。何事かと思って顔を上げてみれば、そこには一人の少女がいた。

「よぉ、バカ兄貴! 元気か?」
「お前はさっき出かけたばかりの妹! どうした? いきなり反抗期なのか?」
「さっきまでの私はもういない。私は本当の自分に目覚めちまったのさ!」
「なんだそりゃ……」

 意味不明なことを言う妹に呆れる俺。そんな俺を見て妹はニヤリと笑う。

「これからは私がユーチューバーになって世間をリードしていくのさ。兄貴のスマホとPCを借りるぜい」

 そう言うと、妹は部屋に入ってくるなり、俺の隣に座った。

「ちょっ、おい! 人の物を勝手に使うんじゃない!」
「いいじゃん別に。減るもんじゃないだろうぜ!」
「そういう問題じゃねえだろ……」

 彼女には昔からこういうところがあった。一度興味を持ったら一直線に突き進んでいくのだ。こうなったらもう止められない。
 災害のように通り過ぎていくのを待つしかないのだ。

「じゃあ早速始めるとするかなー」

 妹は慣れた手つきでスマホを操作すると、動画の撮影を始めた。
 彼女は一躍有名なユーチューバーになった。こういうところでは俺は妹の才能を羨ましくも信頼しているのだ。
 そして、次の日にはケーキ屋さんになっていた。

「ユーチューバーなんてもう古いって。これからはケーキ屋さんの時代だよ~」
「そうでっか」

 まあ、結局のところ天才も天災も放っておくしかないのである。
 妹はやる気があれば何だって出来るし、やる気の無い物には構わないのだ。
 これも才能というものなのだろう。

「私のホイップが火を噴くぜい!」
「ほどほどにしとけよ」
「お兄ちゃん、お誕生日おめでとう」
「ありがとう」

 もう本当に。よく分からない天才の妹だ。
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