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第3話 料理しよう
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「ねえ、千脇ちゃん。今度の土曜に宮丸くんとデートするんだけど、オススメのお店って有る?」
「ごめぇん、私ってどちらかと言うとお家でシッポリ派だから、あまり外食はしないんだよね」
「えーっ、でもお、自分が行かなくてもグルメガイドとかよく読んでるじゃない」
「きゃはっ、そんなの流し読みしているだけで店名まで覚えてないよ」
「そっか、興味無いことは覚えないっていうもんね。じゃあさ、いつか千脇ちゃんに彼氏が出来てデートコースで悩んだら私に相談してね。たくさんアドバイス出来ると思うから」
「マジで?!それは有り難い!!」
おいこらマリちゃん、手が止まってるって!今こうしている間にも残業代は発生しているんだし、雑談しても仕事はキッチリこなそうよ。
「もうすぐ宮丸くんの誕生日なんだよねー。プレゼント、何をあげようかなあ」
「……」
最早、返事することを放棄した私。
いやあ、いざとなると切り出せないもんッスね。せっかくミスター完璧が彼氏役をしてやると仰ってくださったのに、実際にその場面になると何も言えないんだな。だって、嘘が苦手なんだもん!前田との関係は『有ったこと』を隠すだけだったから何とかなったけど、廣瀬さんの方は『無いこと』を有るかのようにしてわざわざ公表するという真逆の作業なんだもん。
腕組しながら自分の顎に人差し指をトントンと置いて、あーでもないこーでもないとマリちゃんは初彼へのプレゼントを悩んでいる。それを視界に入れないようにして、資格リストを作成し続ける私。えっと…、次はシステム管理課の緒方修三さんで…この人に必要なのは…。
「やっぱりネクタイかな!値段も手頃だし」
そう、ネクタイ…じゃなくてッ!!雑談で私を惑わさないでよ。気を取り直して、次は同じくシステム管理課の阿部光一さんで…この人が既に持っているのは…。
「トランクス!ねえ、トランクスでもいいと思わない?1週間分ということで7枚贈るの」
私がいま行なっている仕事は、履歴書に書いてある取得済の資格の真偽を調査し、更新が必要な資格だった場合はその手続きが為されているかも確認して、更に我が社在籍中に取得した資格も加えた上で、本人が今後取得するべき資格を検討するというものだ。そしてマリちゃんには我が社在籍中に取得した資格の方を全社員分、リスト化して貰っているのである。
だからさー、集中力が必要なんだよねー。なのに…ああもう、本当に気が散る!散るったら散りまくる!チルチルミチルの青い鳥かっつうの!!
かと言って、職場の人間関係を荒んだ雰囲気にしたく無い小心者の私は、絶賛給料泥棒中のマリちゃんに注意することも出来ず、彼女の言葉をシャットアウトしてひたすら仕事に没頭していた。
その時。
「ただいま戻りました」
「あ、お疲れさまです」
珍しく早い時間帯に廣瀬さんが帰って来た。雑談モードだったマリちゃんは遅れて『お疲れ様です』と言い、そして急に黙り込む。そんな彼女をチラッと一瞥し、ホワイトボードに書かれている自分の行動予定を消しながら廣瀬さんはその足で私の元へとやって来る。
「千脇さん、まだ残ってくか?もう今日は終わったらどうだ?」
「え?…あ、じゃあ…そうします」
「じゃあ、俺と一緒に帰ろう。今晩はどこかで食べて帰ろうよ」
「あ…え…と、はい」
てっきりマリちゃんのことも誘うかと思ったのに。本性を知ってしまった今は悪だくみしているようにしか見えない笑顔で廣瀬さんは、マリちゃんに問い掛ける。
「宮丸くんも講師の方との打ち合わせが終わったみたいだし、佐久間さんは彼と帰るんだよね?」
「はい。やだ、もしかしてご存知なんですか?!私たちが付き合ってることを」
「うん、知ってる…というか、悪いけどもうちょっとテンション落としてくれないかな?言いたくないけどココは職場なんだからね。社内恋愛は禁じていないし、むしろ俺はどんどんすればイイと思っている。でも、残念ながら佐久間さんの態度は目に余るんだ。仕事そっちのけで彼氏自慢とか、あれじゃあ、真面目に頑張っている宮丸くんが気の毒すぎる。佐久間さんの行動はね、宮丸くんの足を引っ張っているも同然なんだよ」
「…えっ」
ニコニコだったマリちゃんの表情が一転、険しくなった。
「こう言っちゃなんだけどね、俺も実は社内恋愛中なんだけど相手の女性はそれを大声で言ったりしないし、普段通りに接してくれるからとても助かっているんだ。本当によく出来た彼女だと感謝しているよ」
「廣瀬さんも…社内恋愛中なのですか…」
さあ、ここで漸く廣瀬さんのドヤ顔がさく裂だ。
「そう、俺はここにいる千脇さんと付き合っているんだよ」
「ち、ち、千脇ちゃんと?!」
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