There is darkness place

けろよん

文字の大きさ
上 下
23 / 26

光輝 VS 翔介

しおりを挟む
 戦いが始まる。
 闇の王と一流のハンターの戦いが。
 このどこにでもある平凡な学校のバスケットのコートの中で。

「それでは試合を始めてください」

 審判が笛をピーと吹くとともに翔介がドリブルを始める。
 勝負は1対1。お互いにターン毎に攻守を代えながらの戦いだ。
 まずは光輝は翔介のボールを防がなければならない。
 彼はさすがは郁子をも黙らせる闇のハンターだ。動きに隙が無い。
 実力は郁子より上と見ていいだろう。
 光輝はせめてもと言葉で揺さぶりを試みる。

「良かったのか? 妹を賭けの対象にして」
「何がだ?」
「僕が勝ったら本当に付き合うかんななな」

 言葉がもつれたのは仕方が無かった。自分で言ってて恥ずかしくなったのだから。
 周りの連中にも聞かれたくない。

「フッ」

 その隙を見逃す翔介では無かった。隙が無くても彼の実力なら抜けただろうが、そこは彼も鮮やかに決めたかったのだろう。
 ハンターは素早く光輝の横を駆け抜け、爽やかにシュートを決めてみせた。

「キャー、素敵―」
「翔介様―」

 観衆の女子達が盛り上がる。
 ただ戦うだけではない。見せることも意識したプレイだ。
 余裕を見せられていることに光輝は歯噛みする。

「光輝も頑張れよー」
「郁子ちゃんが見てるぞー」

 観衆の男子達は無責任な応援を飛ばす。
 言われなくても負けるつもりはない。彼女が見ている。
 郁子の姿を探すと赤くなって俯いていた。クラスの女子達にいろいろ吹き込まれているようだ。余計なことはしないで欲しかった。
 ボールを受け取り、今度は光輝の攻める番となる。
 防御でも翔介に隙は見えなかった。
 破れかぶれでここから投げてもジャンプして取られるんじゃないか。
 そう思わせる俊敏さと力強さが彼からは感じられた。
 それでも攻める隙を探す。
 光輝が状況を伺いながらボールを撥ねさせていると、今度は翔介の方から話しかけてきた。
 さっきの光輝のように揺さぶりを掛けようというつもりではないだろうが、一応警戒する。

「君はこの世界を支配するつもりは無いのか?」
「なんだって?」

 あまりの突拍子のない発言にボールが滑りそうになってしまった。光輝は慌てて体勢を戻した。
 翔介は少し笑って話を続けた。

「だって、君は闇の王なのだろう? そうしても不思議はないと俺は思うのだがね」
「馬鹿馬鹿しい」
「馬鹿馬鹿しいか」

 光輝にとっては話にならないことだった。

「そんな人の迷惑になることが出来るわけないだろう」

 職員室で剣を振ったあんたの妹じゃあるまいし、という言葉は呑み込んでおいた。
 郁子が見ている。うかつな発言は慎んでおいた。

「お兄ちゃん、頑張ってー」

 リティシアから応援が飛んだ。他にも応援してくれる人達がいる。
 光輝は動こうとする。
 その瞬間には翔介が動いていた。光輝の手からボールが消えた。
 奪われたと気づいたのは少し後だった。
 あまりにも鮮やかで素早いハンターの動きだった。
 彼は勝ち誇るでもない爽やかな笑みを浮かべた。

「フッ、隙があったね」
「やろう!」

 それからも光輝は果敢に戦い続けるが、戦いと運動能力に優れた翔介を攻め落とすことは出来なかったのだった。



「ゲームセット!」

 審判が無情な試合終了を告げる。
 その頃には光輝はもうヘトヘトになっていて、終わるとともに地面にへたりこんでしまった。
 翔介も汗は掻いていたが、こちらはまだ全然平気のようだった。
 彼は白い歯を煌めかせて爽やかなスポーツマン気取りで手を差し出してきた。

「良い勝負だったよ」
「どこがだよ!」

 スコアボードの方なんて見たら、後ろめたくて死にそうになってしまう。
 彼は言う。光輝の無力さを馬鹿にすることもせずに。

「君は勝負を投げ出さずに最後まで全力で俺に挑んできた。戦う者には必要な素質だ」
「そうかよ」

 そう言われてみると悪い気はしないかもしれない。
 我ながら現金だと思いながらも、せいぜい卑屈さは見せずに、良いライバルを気取って手を取って立ち上がってやった。
 それが今見せてやれるせいぜいものあがきだろう。

「お兄ちゃん、かっこよかったでー」
「ん、そうか」

 リティシアが飛び付いて喜んでくる。
 事態を恥ずかしがって見ていた郁子もやっとクラスメイトから解放されたようだ。
 落ち着いて安心の息を吐いていた。
 勝負が無事に終わったならまあいいかと、光輝は思うことにしたのだった。
 少しは戦えるように鍛えないといけないなとも思いながら。



 運動で汗を掻いたら喉が渇いてしまった。
 勝負が終わった後の時間で行われた体育の授業を済ませ、光輝が運動場の隅っこの水道の蛇口を捻って水を飲んでいると、隣に翔介がやってきて声を掛けてきた。

「君は闇の世界の動きをどれだけ知っている?」
「んー、特には」

 勝負はしたが、別に彼とは仲が悪いわけではない。
 光輝はクラスメイトとして気楽に答えた。
 ダークラーの討伐以来向こうの世界には行っていない。
 光輝の知っていることはあまり無かった。同じく今ではずっとこっちの世界にいて学校にも一緒に通っているリティシアに訊いてもたいした答えは得られないはずだ。
 知っているかもしれないゼネルは今朝向こうの世界に帰ってしまった。
 何も知りませんと答えるのも無知をさらすようで恥ずかしい。だから知っていることだけでも話しておこうと思った。

「ゼネルが今朝用事があるって向こうに帰ったよ。しばらく戻ってこないんだって」
「そうか……」

 その情報をどう受け取ったのか、翔介はしばらく考えていた。
 光輝としてはしばらく国に用事があるから帰っただけだろとしか思わなかったが。
 ゼネルは光輝やリティシアのように呑気に学校生活だけを送っているわけじゃないのだから、向こうでやることもあるのだろう。
 翔介はしばらく考えてから顔を上げて言った。

「君も闇の動きには気を付けておいた方がいい」
「ああ、分かった」

 真剣味を増した彼の瞳に頷く。
 何かあるかはどうかとして。
 闇の王として知っておいた方がいいだろうなとは思ったのだった。



 そうは思っても光輝に得られる情報源はそれほど無かった。
 いつもの授業が行われるいつもの教室。
 隣の席には闇のハンターである郁子が座っている。でも、彼女は翔介の妹だ。
 彼女の知っていることなら当然翔介も知っているだろう。
 光輝だけの新しい情報源としてはふさわしくないと思った。
 休み時間、明るく身近なことを話しかけてくるリティシアに「闇の世界はどうなっている?」と話しかけるのも何だか気が引けた。
 せっかくこっちで楽しくやっているのに、余計なことに気を回させたくは無かった。
 希美に……光輝は考えるのを止めた。
 彼女はただの人間だ。闇の世界のことなんて光輝以上に知っているはずが無かった。
 また闇がどうとかで彼女と話が盛り上がっても困る。
 妹の教室の前まで来て、光輝は踵を返した。
 下級生の声で賑わう階の廊下を歩き、非常階段に出た。
 ならばダークラーなら知っているかと思い、飼育小屋に向かったのだが、

「わあ、ドラゴンだー」
「ドラゴンかわいいねー」

 訊ねようと思ったダークラーは子供達に囲まれて遊ばれていた。
 いつの間に高校の飼育小屋は一般に解放されたのだろうか。
 まあ、珍しい動物がいると噂を聞いたら、学校にでも見に来たくなるものなのかもしれない。
 ともあれ、とても訊ける雰囲気じゃない。
 闇の王だーとかこの場所で騒がれでもしたら、たまったものではない。
 光輝は気づかれないうちに立ち去ることにする。
 訊ける相手がいない。
 本当に闇の世界のことなんて気にする必要があるのだろうか。

「ゼネルが帰ってきてから訊けばいいか」

 光輝はそう結論を付けて、無理には気にしないことにして、日々の生活を過ごすことにしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~

絹乃
キャラ文芸
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※表紙はminatoさまのフリー素材をお借りしています。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。 ※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。

【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

gari
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。  ※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。    一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

ニャル様のいうとおり

時雨オオカミ
キャラ文芸
 ――優しさだけでは救えないものもある。  からかい癖のある怪異少女、紅子と邪神に呪われたヘタレな青年令一。両片想いながらに成長していく二人が絶望に立ち向かう、バトルありな純愛伝奇活劇!  邪神の本性を見て正気を失わず一矢報いてしまった青年、令一は隷属させられ呪われてしまった! 世間から忘れ去られ、邪神の小間使いとしてこき使われる毎日。  諦めかけていた彼はある日夢の中で一人の怪異少女と出会う。  赤いちゃんちゃんこの怪異、そして「トイレの紅子さん」と呼んでくれという少女と夢からの脱出ゲームを行い、その日から令一の世界は変わった。  *挿絵は友人の雛鳥さんからのファンアートです。許可取得済み。  ※ 最初の方は後味悪くバッドエンド気味。のちのち主人公が成長するにつれてストーリーを重ねていくごとにハッピーエンドの確率が上がっていきます。ドラマ性、成長性重視。  ※ ハーメルン(2016/9/12 初出現在非公開)、小説家になろう(2018/6/17 転載)、カクヨム、ノベルアップ+にてマルチ投稿。  ※神話の認知度で生まれたニャル(もどき)しか出てきません。  ※実際のところクトゥルフ要素よりあやかし・和風要素のほうが濃いお話となります。  元は一話一万くらいあったのを分割してます。  現行で80万字超え。

妖符師少女の封印絵巻

リュース
キャラ文芸
両親を亡くして実家の仕事、「あやかし屋」を継ぐことになった女子高生、影山若葉。 しかし、その仕事というのは・・・妖怪退治!? 強化された身体能力と妖怪・多尾狐の<妖武装>たる<多尾幻扇ーテイルズ・ファンタジア>を操る主人公。 悪霊や妖怪を閉じ込めて己の力として使う<妖符>も用いて、元普通の女子高生(予定)が影から町を守る! 普通の高校生活も送りたい。そう考える若葉の明日はどうなるのか。

ショタパパ ミハエルくん(耳の痛い話バージョン)あるいは、(とっ散らかったバージョン)

京衛武百十
キャラ文芸
もう収集つかないくらいにとっ散らかってしまって試行錯誤を続けて、ひたすら迷走したまま終わることになりました。その分、「マイルドバージョン」の方でなんとかまとめたいと思います。 なお、こちらのバージョンは、出だしと最新話とではまったく方向性が違ってしまっている上に<ネタバレ>はおおよそ関係ない構成になっていますので、まずは最新話を読んでから合う合わないを判断されることをお勧めします。     なろうとカクヨムにも掲載しています。

テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ

Lunaire
SF
「強くなくても楽しめる、のんびりスローライフ!」 フリーターの陽平が、VRMMO『エターナルガーデンオンライン』で目指すのは、テイマーとしてモンスターと共にスローライフを満喫すること。戦闘や冒険は他のプレイヤーにお任せ!彼がこだわるのは、癒し系モンスターのテイムと、美味しい料理を作ること。 ゲームを始めてすぐに出会った相棒は、かわいい青いスライム「ぷに」。畑仕事に付き合ったり、料理を手伝ったり、のんびりとした毎日が続く……はずだったけれど、テイムしたモンスターが思わぬ成長を見せたり、謎の大型イベントに巻き込まれたりと、少しずつ非日常もやってくる? モンスター牧場でスローライフ!料理とテイムを楽しみながら、異世界VRMMOでのんびり過ごすほのぼのストーリー。 スライムの「ぷに」と一緒に、あなただけのゆったり冒険、始めませんか? 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【絶対攻略不可?】~隣の席のクール系美少女を好きになったらなぜか『魔王』を倒すことになった件。でも本当に攻略するのは君の方だったようです。~

夕姫
青春
主人公の霧ヶ谷颯太(きりがたにそうた)は高校1年生。今年の春から一人暮らしをして、東京の私立高校に通っている。  そして入学早々、運命的な出逢いを果たす。隣の席の柊咲夜(ひいらぎさくや)に一目惚れをする。淡い初恋。声をかけることもできずただ見てるだけ。  ただその関係は突然一変する。なんと賃貸の二重契約により咲夜と共に暮らすことになった。しかしそんな彼女には秘密があって……。 「もしかしてこれは大天使スカーレット=ナイト様のお導きなの?この先はさすがにソロでは厳しいと言うことかしら……。」 「え?大天使スカーレット=ナイト?」 「魔王を倒すまではあなたとパーティーを組んであげますよ。足だけは引っ張らないでくださいね?」 「あの柊さん?ゲームのやりすぎじゃ……。」  そう咲夜は学校でのクール系美少女には程遠い、いわゆる中二病なのだ。そんな咲夜の発言や行動に振り回されていく颯太。  この物語は、主人公の霧ヶ谷颯太が、クール系美少女の柊咲夜と共に魔王(学校生活)をパーティー(同居)を組んで攻略しながら、咲夜を攻略(お付き合い)するために奮闘する新感覚ショートラブコメです。

処理中です...