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入ってきた客人
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光輝は家に客人を迎え入れた。というか勝手に入ってきた。
ちょっと前まで敵だと思っていた人達が。
「ここがお兄ちゃんの今のキャッスルなんやなあ」
「これこれ、リティシア。王族らしくですぞ」
「分かってるって、お爺ちゃん。探検やー」
リティシアは好奇心に目を輝かせて好き放題に物色して回っている。
隣で立っている郁子に目を向けると、気づいてこっちに視線を向けてきた彼女から返答が得られた。
「大丈夫よ。罠は無かったわ」
「あっそ」
心配なのはそんなことではない。家の中を荒らされることだ。
同じ悩みを持つはずの希美が動いた。
「リティシアちゃん、あたしも探すわー」
「何で希美まで。こら、止めなさい! そこは駄目―!」
光輝が言っても妹達は聞きやしない。希美にもリティシアの性格や口調が移っているかのようだった。
ゼネルは落ち着いた態度で告げた。
「それで王よ。我らの城にはいつお戻りになってくださるのですかな?」
「え? 戻る? いつからそんな話に」
なったんだろう。光輝は首を傾げてしまう。
「炎を自らお持ちになるとはそういうことではないですかな」
「どういうことなんだろうなあ」
光輝としてははぐらかしたい話題だ。闇の王だとかそんな事どうでもいい。
話を聞きつけたリティシアと希美が寄ってきた。
「お兄ちゃん、向こうの世界に帰ってしまうん?」
「こら、希美。リティシアの言葉が移っているぞ。僕は帰らないよ。ここが僕の家だし」
「ですが、我らの王はあなたしかいないのですぞ」
ゼネルは重ねて言ってくる。
そう言われても光輝は困ってしまうのだが。
「そやそや、あたしらの王様はお兄ちゃんしかいないのですぞ」
リティシアも口調を真似て告げてくる。光輝はため息をついた。
「もう勘弁してよ。シャドウレクイエムあげてもいいから」
思えばこんな炎、わりとどうでも良かった。悪い事にさえ使われなければ。
だが、二人は断ってきた。
「いやいや、あれはお兄ちゃんが使ってこその炎や」
「うむ、わしも久しぶりに王の力を見て感服しました。やはりあなたは他の者とは違う。出し抜こうとしたわしが愚かだったのです。お許しくだされ」
「うーむ」
あやまってくれるのは嬉しいが。
光輝は改めて自分の腕を見る。
あれほど強かった炎だが、今は随分と収まっている。
「大きな力を放ったから今は小康状態になっているようね」
郁子が腕を見てそう判断する。
「でも、すぐにまた湧き上がってくるだろうから包帯を巻いておくわね」
「うん」
郁子によって再び包帯を巻かれていく。女の子に腕を触られている感触に光輝はやっぱり照れてそっぽを向いてしまう。
リティシアがいきなり隣に引っ付いてきた。
「で、お兄ちゃんはいつあたしらの国に帰ってきてくれるん?」
「だから帰らないって。僕達には明日も学校があるんだ」
「学校なんてさぼればええやん」
「良くないって」
あきらめの悪い人達だ。どう言い聞かせよう。
光輝は悪魔に炎を狙われていた時とは別の意味で困ってしまった。
どうでもいいけどあまり引っ付かないで欲しい。吐息と体温がくすぐったいから。
期待に目を輝かせるリティシアには悪いが、光輝がはっきりと断ろうとすると、
「でも、魔界には行かなくてはいけないわね。あの竜を放っておくわけにはいかないもの」
同じく学校のある郁子がそんなことを言ってきた。彼女はハンターだから敵を倒したいのだろう。
ゼネルとリティシアはもう戦う姿勢を見せていないが、ダークラーは放っておくと再び力を付けてこの世界に現れるだろう。
その前に手を打ちたい。その気持ちは分かるのだが、
「明日も学校があるだろ」
そう事実を告げると、郁子は黙って目を伏せた。
そして、考えて渋々といった感じに言った。
「じゃあ、今度の日曜日に」
「行くことは確定なのね」
どうやらまだ闇とは関わることになるようだった。
家に帰ってきた時はまだ明るかった太陽が山の向こうに沈みかけてきて、夜が近づいてきた。
魔界から来た身内でもあるゼネルやリティシアは仕方ないが、郁子はいつまで家にいるつもりなのだろうか。
一応女の子なんだから暗くなる前に帰った方がいいと思う。
ハンターとして守ってくれるとは言っていたが、彼女にも自分の生活があるだろう。
それに何より噂になったらお互いに恥ずかしいはずだ。家に泊まったなんてクラスのみんなに知られたらどうなることやら分からない。
光輝は気になって質問を投げてみた。郁子は取り込んだ洗濯物を畳んでいた手を止めて答えた。
「ずっといるつもりだけど」
「え?」
自分の耳を疑ってしまう。再度訊ねても彼女の答えも真面目な表情も変わらなかった。
「ここには闇の者達がいるのよ。あなたを一人にするわけにはいかないわ。両親からもあなたのことを任されているのよ」
「それは分かるけど」
リティシアとゼネルはすっかり我が家のようにくつろいでいて、希美もお茶菓子なんて出して仲良くやっているけど、油断するのは早いかもしれない。
それは光輝にも分かるのだが。
「でも、それってまずくない?」
「何がまずいのか分からないわね」
郁子の態度は変わらない。そこに話を聞きつけたのだろう、リティシアが寄ってきた。
「なんなん? なんなん? 郁子お姉ちゃんもここで暮らすん?」
「そうよ」
郁子は少し不機嫌そうに答える。闇の張本人がいるのだから当然かもしれない。リティシアの方は能天気な物だった。
ちょっと前まで悪魔を放って襲ってきていたなんてもう頭の軽い妹は全く気にしていないようだった。
前世の妹は語る。彼女の知識を。
「あたし知っとるで。こういうのって同棲って言うんやろ?」
「え……?」
郁子の動きが止まった。ジュースを飲んでいた希美が一瞬喉を詰まらせた。
光輝の動きも止まっていた。郁子はぎこちなく振り返る。
リティシアは容赦なく言葉を浴びせた。何も知らない純粋な子供のような顔をして。
「一つ屋根の下で暮らすのって、そう言うんやろ?」
「うむ、男と女が同じ家で伴に暮らす。その行為はそう呼びますな」
希美の出したクッキーを食べていたゼネルまで同意した。
郁子は静かに立ち上がる。うつむき、呟く。
「帰る……」
そして、顔を赤くして叫んだ。
「わたし帰るからー!」
郁子は鞄と剣を掴んで足早に立ち去ろうと仕掛けて……戻ってきてメモ帳に何かを書きつけて、それを光輝に押し付けてきた。
そこには郁子のだろう電話番号が記されていた。
少し顔を赤くして彼女は早口で言った。
「何かあったらすぐに連絡して。すぐに飛んでくるから」
「うん」
彼女はスマホを持っていなかったが、電話のような連絡手段は持っているようだった。
目線を逸らしながら訴えてくる彼女の迫力に、光輝は押されながら受け取るしかなかった。
郁子はすぐに身をひるがえして部屋を出ていった。
「お兄ちゃん、送っていかんでええん?」
リティシアは呑気に呟く。
「うん、今は別にいいかな」
光輝に答えられるのはそんな言葉ぐらいだった。
さて、これからどうすればいいのだろう。
光輝は考え、面倒な客人のことは希美に任せればいいかと結論付けた。
そして、郁子がやり残した洗濯物の片づけをするのだった。
ちょっと前まで敵だと思っていた人達が。
「ここがお兄ちゃんの今のキャッスルなんやなあ」
「これこれ、リティシア。王族らしくですぞ」
「分かってるって、お爺ちゃん。探検やー」
リティシアは好奇心に目を輝かせて好き放題に物色して回っている。
隣で立っている郁子に目を向けると、気づいてこっちに視線を向けてきた彼女から返答が得られた。
「大丈夫よ。罠は無かったわ」
「あっそ」
心配なのはそんなことではない。家の中を荒らされることだ。
同じ悩みを持つはずの希美が動いた。
「リティシアちゃん、あたしも探すわー」
「何で希美まで。こら、止めなさい! そこは駄目―!」
光輝が言っても妹達は聞きやしない。希美にもリティシアの性格や口調が移っているかのようだった。
ゼネルは落ち着いた態度で告げた。
「それで王よ。我らの城にはいつお戻りになってくださるのですかな?」
「え? 戻る? いつからそんな話に」
なったんだろう。光輝は首を傾げてしまう。
「炎を自らお持ちになるとはそういうことではないですかな」
「どういうことなんだろうなあ」
光輝としてははぐらかしたい話題だ。闇の王だとかそんな事どうでもいい。
話を聞きつけたリティシアと希美が寄ってきた。
「お兄ちゃん、向こうの世界に帰ってしまうん?」
「こら、希美。リティシアの言葉が移っているぞ。僕は帰らないよ。ここが僕の家だし」
「ですが、我らの王はあなたしかいないのですぞ」
ゼネルは重ねて言ってくる。
そう言われても光輝は困ってしまうのだが。
「そやそや、あたしらの王様はお兄ちゃんしかいないのですぞ」
リティシアも口調を真似て告げてくる。光輝はため息をついた。
「もう勘弁してよ。シャドウレクイエムあげてもいいから」
思えばこんな炎、わりとどうでも良かった。悪い事にさえ使われなければ。
だが、二人は断ってきた。
「いやいや、あれはお兄ちゃんが使ってこその炎や」
「うむ、わしも久しぶりに王の力を見て感服しました。やはりあなたは他の者とは違う。出し抜こうとしたわしが愚かだったのです。お許しくだされ」
「うーむ」
あやまってくれるのは嬉しいが。
光輝は改めて自分の腕を見る。
あれほど強かった炎だが、今は随分と収まっている。
「大きな力を放ったから今は小康状態になっているようね」
郁子が腕を見てそう判断する。
「でも、すぐにまた湧き上がってくるだろうから包帯を巻いておくわね」
「うん」
郁子によって再び包帯を巻かれていく。女の子に腕を触られている感触に光輝はやっぱり照れてそっぽを向いてしまう。
リティシアがいきなり隣に引っ付いてきた。
「で、お兄ちゃんはいつあたしらの国に帰ってきてくれるん?」
「だから帰らないって。僕達には明日も学校があるんだ」
「学校なんてさぼればええやん」
「良くないって」
あきらめの悪い人達だ。どう言い聞かせよう。
光輝は悪魔に炎を狙われていた時とは別の意味で困ってしまった。
どうでもいいけどあまり引っ付かないで欲しい。吐息と体温がくすぐったいから。
期待に目を輝かせるリティシアには悪いが、光輝がはっきりと断ろうとすると、
「でも、魔界には行かなくてはいけないわね。あの竜を放っておくわけにはいかないもの」
同じく学校のある郁子がそんなことを言ってきた。彼女はハンターだから敵を倒したいのだろう。
ゼネルとリティシアはもう戦う姿勢を見せていないが、ダークラーは放っておくと再び力を付けてこの世界に現れるだろう。
その前に手を打ちたい。その気持ちは分かるのだが、
「明日も学校があるだろ」
そう事実を告げると、郁子は黙って目を伏せた。
そして、考えて渋々といった感じに言った。
「じゃあ、今度の日曜日に」
「行くことは確定なのね」
どうやらまだ闇とは関わることになるようだった。
家に帰ってきた時はまだ明るかった太陽が山の向こうに沈みかけてきて、夜が近づいてきた。
魔界から来た身内でもあるゼネルやリティシアは仕方ないが、郁子はいつまで家にいるつもりなのだろうか。
一応女の子なんだから暗くなる前に帰った方がいいと思う。
ハンターとして守ってくれるとは言っていたが、彼女にも自分の生活があるだろう。
それに何より噂になったらお互いに恥ずかしいはずだ。家に泊まったなんてクラスのみんなに知られたらどうなることやら分からない。
光輝は気になって質問を投げてみた。郁子は取り込んだ洗濯物を畳んでいた手を止めて答えた。
「ずっといるつもりだけど」
「え?」
自分の耳を疑ってしまう。再度訊ねても彼女の答えも真面目な表情も変わらなかった。
「ここには闇の者達がいるのよ。あなたを一人にするわけにはいかないわ。両親からもあなたのことを任されているのよ」
「それは分かるけど」
リティシアとゼネルはすっかり我が家のようにくつろいでいて、希美もお茶菓子なんて出して仲良くやっているけど、油断するのは早いかもしれない。
それは光輝にも分かるのだが。
「でも、それってまずくない?」
「何がまずいのか分からないわね」
郁子の態度は変わらない。そこに話を聞きつけたのだろう、リティシアが寄ってきた。
「なんなん? なんなん? 郁子お姉ちゃんもここで暮らすん?」
「そうよ」
郁子は少し不機嫌そうに答える。闇の張本人がいるのだから当然かもしれない。リティシアの方は能天気な物だった。
ちょっと前まで悪魔を放って襲ってきていたなんてもう頭の軽い妹は全く気にしていないようだった。
前世の妹は語る。彼女の知識を。
「あたし知っとるで。こういうのって同棲って言うんやろ?」
「え……?」
郁子の動きが止まった。ジュースを飲んでいた希美が一瞬喉を詰まらせた。
光輝の動きも止まっていた。郁子はぎこちなく振り返る。
リティシアは容赦なく言葉を浴びせた。何も知らない純粋な子供のような顔をして。
「一つ屋根の下で暮らすのって、そう言うんやろ?」
「うむ、男と女が同じ家で伴に暮らす。その行為はそう呼びますな」
希美の出したクッキーを食べていたゼネルまで同意した。
郁子は静かに立ち上がる。うつむき、呟く。
「帰る……」
そして、顔を赤くして叫んだ。
「わたし帰るからー!」
郁子は鞄と剣を掴んで足早に立ち去ろうと仕掛けて……戻ってきてメモ帳に何かを書きつけて、それを光輝に押し付けてきた。
そこには郁子のだろう電話番号が記されていた。
少し顔を赤くして彼女は早口で言った。
「何かあったらすぐに連絡して。すぐに飛んでくるから」
「うん」
彼女はスマホを持っていなかったが、電話のような連絡手段は持っているようだった。
目線を逸らしながら訴えてくる彼女の迫力に、光輝は押されながら受け取るしかなかった。
郁子はすぐに身をひるがえして部屋を出ていった。
「お兄ちゃん、送っていかんでええん?」
リティシアは呑気に呟く。
「うん、今は別にいいかな」
光輝に答えられるのはそんな言葉ぐらいだった。
さて、これからどうすればいいのだろう。
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