雨の日に

けろよん

文字の大きさ
上 下
1 / 1

かたつむりなら良かったのに?

しおりを挟む
 ある雨の日だった。家に帰ってリビングに入って私は見てしまったのだ。

「ナメクジ! なんで……」

 私の頭の中は真っ白になった。奴がテーブルのど真ん中に鎮座している。しかもただのナメクジじゃない。エメラルド色に輝くナメクジだ。まるで宝石のようにキラキラと光っている。
 窓からの光でそう見えるのかと思って目を擦って見てみたが、やはりあれその物がエメラルド色をしているようにしか見えなかった。

「何なの、あれ? あんなの見た事ない……」

 私はびっくりしてスマホでお母さんに連絡を取った。

「お母さん、部屋にナメクジがいるんだけど!」
『そりゃいるでしょう。ジメジメした季節なんだもの』
「ただのナメクジじゃないよ。エメラルドの色をしているの」
『それは突然変異種のエメラルドナメクジかもしれないわね』
「エメラルドナメクジってなに?」
『普通のナメクジとは違う種類のナメクジよ。とても珍しいの。あなたラッキーね』
「ラッキーじゃないよ~」
『連絡はそれだけ? それじゃあ切るわね』

 そう言うと電話を切られた。私は途方に暮れるしかなかった。

「とりあえず珍しいらしいし、写真を撮っておくか……」

 私はスマホのカメラアプリを開いて撮影ボタンを押そうとした。その時、ナメクジが動き出した。

「うわっ!? こいつ、どこ行くの!?」

 私は思わず驚いてスマホを下ろしてしまった。ナメクジはゆっくりと近付いてきた。この調子なら後5分もすればこちらに到着するだろう。
 もし奴がテーブルの端から降りて床に着地してしまったら……私はどうすればいいのだろう。考えるだに恐ろしい。

「ちょっと待って! 来ないで!」

 その願いが通じたのだろうか。ナメクジはその胴体をクネッと曲げて回れ右してテーブルの中央に戻っていった。そして、そこで静止した。

「どうすればいいのこれ……」

 這いまわられても困るけど、そこでジッとされても困る。そもそもこいつはどこから現れたのだろうか。私に分かるわけもない。
 テーブルの中央にはエメラルド色をしたナメクジがいる。突然変異種でとても珍しいらしい。見つけた私はラッキーなのだとか。
 そう言われても、今の私はただ呆然としていた。
 雨の降る日の事だった。明日は晴れればいいのにと願った。



 次の日の朝、願いは通じず再びあいにくの雨だった。

「梅雨の季節だから仕方ないよね……」

 テレビを付けるとちょうどニュースをやっていて、エメラルド色のナメクジを見つけられたらラッキーだとか言っていた。

「冗談でしょ、ねえ?」

 声を掛けてもそこには誰もおらず、テーブルの上には何もいなかった。

「どこから来て、どこへ行ったのか……」

 私は息を吐いて立ち上がると、傘を刺して外へ出ていった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

痴漢列車に挑む痴漢Gメン女子高生レイコ

ムーワ
大衆娯楽
朝の通勤電車はラッシュ時はギュウギュウ詰めの混雑状態! その混雑を利用して女子高生を中心に若い女の子をターゲットに頻繁に痴漢を繰り返す謎の男。 実際に痴漢にあっても怖くて何もいえず、泣きながら鉄道警察隊に相談する女子高生もいて、何度か男性の鉄道警察隊員が変装をして捕まえようとするが捕まえることができず、痴漢被害は増加する一方。 そこで鉄道警察隊はエリート大卒新人のレイコ氏に相談すると、レイコはとんでもない秘策を思いついた。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

“おしおき”会議

ロアケーキ
大衆娯楽
高学年に進級した“めいちゃん”が、お母さんと今後の“おしおき”内容をお話する物語です。 ……ただ、それは、“会議”という名の…。

お漏らし・おしがま短編小説集 ~私立朝原女学園の日常~

赤髪命
大衆娯楽
小学校から高校までの一貫校、私立朝原女学園。この学校に集う女の子たちの中にはいろいろな個性を持った女の子がいます。そして、そんな中にはトイレの悩みを持った子たちも多いのです。そんな女の子たちの学校生活を覗いてみましょう。

- 初めて書いたお仕置き -

ロアケーキ
大衆娯楽
タイトル通り、3年くらい前に人生で“初めて”書いた小説を投稿してみました! 現在と文章表現が異なる部分がございますが、よろしければご覧くださいませ🌟

【ショートショート】雨のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

独り日和 ―春夏秋冬―

八雲翔
大衆娯楽
主人公は櫻野冬という老女。 彼を取り巻く人と犬と猫の日常を書いたストーリーです。 仕事を探す四十代女性。 子供を一人で育てている未亡人。 元ヤクザ。 冬とひょんなことでの出会いから、 繋がる物語です。 春夏秋冬。 数ヶ月の出会いが一生の家族になる。 そんな冬と彼女を取り巻く人たちを見守ってください。 *この物語はフィクションです。 実在の人物や団体、地名などとは一切関係ありません。 八雲翔

少しエッチなストーリー集

切島すえ彦
大衆娯楽
少しエッチなストーリー集です。

処理中です...