上 下
27 / 34

第27話 コウの決断 別れた道

しおりを挟む
 厳しい戦いが行われる。
 コウはよく戦った。ドラゴンを相手に恐れずに挑んでいった。
 でも、さすがに分が悪いよ。ドラゴンってゲームだともっと後に登場するモンスターでしょ?
 あたし達まだ三番目の町に着いたばかりだし、船も手に入れてないし、パーティーメンバーだって増えてないんだよ。
 この戦いは厳しすぎるよ。
 コウの受けるダメージが増えていく。高嶺ちゃんがいればすぐに回復出来るのに。
 逆にコウの当てる剣はドラゴンの鱗にはほとんど有効打になっていないようだった。
 何でこんなに強いモンスターがここで出現するんだろう。トロルが相手なら勝てていたのに。
 あたしは理不尽なゲームバランスに不満をつのらせるばかりだった。こんなの絶対におかしいよ。神様の代理としての権限を行使して修正しないといけない。
 あたしは動く決断をした。これ以上コウの傷つけられる姿を見ていられなかったんだ。

「コウ! あたしがやるわ。そいつから離れて!」
「ルミナ! 止めろ! 手出しするな!」
「大丈夫! あたしは強いんだから、任せて! スターフレア!」

 あたしが魔法を止めないと見ると、コウはすぐに離れてくれた。
 杖を掲げ、あたしはすぐさま呪文を唱える。宇宙から降り注ぐ極大の炎をドラゴンの背中に目がけて叩きつけた。
 燃え上がるドラゴン。だが、まだ倒れない。やっぱりここのゲームバランスおかしいよ。あたしは次の魔法の詠唱に移った。もう一発だ。
 コウが何かを叫んでいたけど、あたしの耳には聞こえていなかった。ただ神様の代理としての権限を行使してステータス全開の必殺攻撃を放った。

「ディメンションゲート!」

 あたしは次元の狭間へと繋がるゲートを開き、ドラゴンをそこへと吸い込みに掛かった。
 さすがステータス全開の魔法攻撃。門の引き込む力は強大でドラゴンといえど逃がしはしなかった。
 ドラゴンはよくもがいたがすぐに力負けしてすぽんと穴に吸い込まれ、消滅した。こうして戦いは終結した。
 これでもう大丈夫。もっと早く手を出しておけば良かったね。
 あたしは安心するのだが、コウの体は震えていた。

「ルミナ、どうして手を出したんだ……」
「だって、ドラゴンが相手じゃコウの実力じゃ無理じゃない」

 あたしは場を和ませようと気楽に言ったのだが、コウは吠えた。初めて見る彼の怒りの顔だった。

「無理って何だよ! ルミナは俺を導くために来てくれたんだろ! 俺を信用できなかったのかよ!」
「コウ……」
「俺のことを勇者だって言ってくれたじゃないか! 俺に任せるって、そう言ってくれたのはルミナなのに……」
「…………」

 あたしにはどう言っていいのか分からなかった。
 今になって自分の失敗を悟っていた。コウを導くためにあたしはこの世界に来て、今までも不必要に手を出すのは良くないと分かっていた。
 それなのに彼の戦いに手を出してしまった。
 コウは後ろを向いてしまう。どうしよう。あたしには言葉が出てこないよ。
 困ってしまって広場を見回していると、倒れたトロルの傍に鍵が転がっているのが見えた。
 コウも気づいたようだ。そっちを見て言った。

「姫を助けよう」
「うん」

 あたし達は気まずい沈黙のまま鍵を手に入れ、奥にあった牢屋に近づいていって鍵を開けた。その部屋の中でうずくまって座っていた姫が顔を上げて、あたし達はびっくりした。

「わたくしを助けに来てくださいましたの?」
「高嶺ちゃん?」
「タカネ!?」

 だって、その子って高嶺ちゃんにとってもよく似ていたんだもの。瓜二つと言っても過言ではないよ。
 あたし達はびっくりして、お姫様はしばらくポカンとしてお互いに見つめ合ってしまった。彼女の方が先に気を取り直して立ち上がって礼儀正しく挨拶してきた。

「初めまして、勇者様方。わたくしはサード王国の王女サカネと申します」
「サカネちゃん!? ああ、えっと、初めまして。あたしはルミナだよ」
「コウだ。サカネは何でモンスターにさらわれていたんだ?」

 何か似ているのですっかり友達に再会した気分。迫力が本物の高嶺ちゃんよりも控えめだったお蔭もあるだろう。
 コウもすっかり高嶺ちゃんと接するのと同じ態度をしていた。高嶺ちゃんと仲良かったもんね。
 彼女の礼儀正しい挨拶の仕方なんかも高嶺ちゃんとそっくりだった。お姫様なんだから当然か。
 あたし達はてっきりモンスターはサード王国を狙ってお姫様をさらったものだと思っていたが、それは違っていたようだ。
 サカネ姫は懐から一つの神秘的な玉を取り出してきた。

「モンスター達はこれを狙っていたのです」
「これは?」
「これは竜封玉といって竜の力を封じることの出来るサード王国の宝です。魔王の幹部の一人ネクロマンサーはこれを奪ってからドラゴンを王国に放つつもりのようでした」
「つまり、先に牢屋を開けてこれを手に入れるのが正規のルートだったわけか」
「正規のルート……ですか?」

 ゲームを知らないこっちの世界の人に攻略の順番とか言っても分からないよね。
 ゲームでは絶対に勝てない敵が出現することがある。そんな時は一度撤退して別の道を探すのがセオリーなんだけど、あたしはあろうことか自分の力を過信して力押しで突破してしまったんだ。あたしの失態だよ。
 コウはドラゴンとの戦いを思い出したのかまた黙ってしまった。
 うう、気まずいよ。でも、今は今のイベントに集中しよう。
 モンスター達は姫をさらったものの、目的の宝をまさか姫本人が持っているとは思わなかったようだ。
 そりゃ国に宝があるぞと言われたら普通は手の簡単に出せない城の最深部の宝物庫の奥に厳重に保管されていると思っちゃうよね。
 とにかく、姫を助ける目的は達成した。
 あたし達はサード王国へ帰還することにした。


 来た道を引き返す。デッカイ山脈を背に今度は王国へ向かって歩いていく。
 一緒に助けに来たのにお互いに気まずくなって口を利こうとしないあたしとコウの様子に姫は終始不思議そうな顔をしていたが、国が近づくと笑顔になった。
 高嶺ちゃんに似ているけど、彼女よりは表情を表に出しやすい子供っぽい性格のようだった。
 王国に着くとすぐに兵士達が出迎えてきた。

「おお、姫様。よくぞご無事で」
「姫様を救ってくださるとは、さすがは勇者様だ!」

 喜ぶ兵士達。サカネ姫も柔らかく微笑んであたし達にお礼を言ってくれた。

「この度はありがとうございました。ぜひ後ほどお城の方へいらしてください。精一杯のおもてなしをさせていただきますわ」

 姫と兵士達が去って町の入口に残されるあたしとコウ。城に行けば次の目的地へと進められるフラグを立てられただろうけど、そんな雰囲気じゃなかったよ。
 その上、コウがとんでもないことを言いだした。

「ルミナ、俺、勇者辞めるよ」
「え!? なんで!?」
「ごめん……」

 コウが去っていく。その寂しい背中に何て声を掛けたらいいのか分からなくて。
 あたしはただ戸惑う事しか出来なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で…… 10/1追記 ※本作品が中途半端な状態で完結表記になっているのは、本編自体が完結しているためです。 ありがたいことに、ソフィアのその後を見たいと言うお声をいただいたので、番外編という形で作品完結後も連載を続けさせて頂いております。紛らわしいことになってしまい申し訳ございません。 また、日々の感想や応援などの反応をくださったり、この作品に目を通してくれる皆様方、本当にありがとうございます。これからも作品を宜しくお願い致します。 きんもくせい

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...