2 / 34
第2話 異世界に招かれました
しおりを挟む
「ただいま、コウ」
「ワンワン!」
家に着いたあたしは今日も玄関脇の犬小屋にて自宅の警備をしてくれていた愛犬のコウ(つぶらな瞳と振っている尻尾が可愛い)の労を労い、玄関の鍵を開ける。
家に入って台所にある冷蔵庫から冷えたジュースのペットボトルを一本取り出し自室へ向かう。
部屋に入ってテレビの前に座り、ゲームを起動する。さあ、昨日の続きを再開する時がいよいよやって来ました。
いかにも最後っぽいセーブポイントから我らがパーティーの冒険の続きが始まります。
コントローラーを操作してパーティーを歩かせていくあたし。パーティーというのは自分の操作する自キャラの一団のことだ。
ダンジョンに入る前にしっかりとレベル上げして装備も整えたのでみんなきっちりと戦えている。
あたしは全滅するのは嫌なので準備はきっちりしていく派だ。向こうみずな特攻をしたりはしない。
厳しいザコ敵と仕掛けのある魔王城を抜け、いかにも何かが待っていそうな広間へとやってきた我がパーティーをラスボスっぽい奴が出迎えた。
『よくここまで来た、褒めてやろう。人間の絶望こそ我が力……』
「はいはい、戦いましょうね」
さあ、戦いだ。あたしは魔法で受けたダメージをしっかりと回復しながら奴を倒した。しっかりと準備をしてここまで来たあたしなら楽勝だ。
だが、そいつはラスボスでは無かった。さらなる黒幕が現れた。
『聖も魔も全ての命は死に絶える。真の絶望を知るがいい』
「いるなら先に言ってよね。MP無駄に使っちゃったじゃない」
さすがにこの消耗した状態で連戦はまずい。覚悟するあたし。
だが、その場に現れた竜神様が回復してくれた。
「ありがとう、竜神様。さあ、ラストバトルよ」
そして、黒幕を倒してさらに変身した奴を倒して、あたし達のパーティーは無事にエンディングを迎えることが出来たのだった。
「まさか黒幕が裏の竜神様だったなんて。おっとネタバレは駄目ね。ふう、また一つ世界を救ってしまったわ」
これがゲームでなく現実だったら、あたしはもうどれだけの世界を救った功績を残してきたことになるのだろうか。
片手の指では数えきれないぐらいだ。数えようとして止めた。
今はこのゲームをクリアした余韻に浸っておこう。
あたしはエンディングの流れる画面を見ながらジュースを飲もうと思って手を伸ばした。その時だった。どこからともなく不思議な声がしたのは。
「あなたは今までに勇者を導いて多くの世界を救ってきましたね。あなたがふさわしいです」
「だ……誰!?」
いきなりした声にあたしはびっくりしてジュースを取ろうとした手を引っ込めてキョロキョロしてしまう。
不審な物は何もない。いつもの部屋である。ならば声の出どころは……
「あれか……」
すぐに気が付いてあたしは恥ずかしさを誤魔化すように座り直した。
何てことはない。喋ったのはテレビだった。
今時のゲームにボイスがあるなんて何も珍しいことではない。このゲームが今まで喋らなかったから驚いただけだ。
テレビの中、スタッフロールの終わった画面に天使のような女の子が現れて話しかけてきていた。
「多くの世界を救ってきた異世界の者よ。あなたにあたし達の世界ファンタジアワールドに来て勇者を導いてもらいたいのです。来ていただけますか?」
「もちろん!」
あたしの答えは決まっていた。これはきっとクリア後のイベントなのだろう。これからさらなる冒険が始まるのだ。そう思っていた。
だが、事態はあたしの想像よりも斜め上に行っていて……天使の少女は嬉しそうに礼をして可愛らしいステッキを振り上げた。
「ありがとうございます、異世界の導き手よ。では、神様の力をお借りしてあなたをこの世界に召喚……ほら、神様。早く力を貸してくださいよ。良い子が見つかりましたよ」
「うむ、分かっておるわい。そう急かすなよ。ほら」
「……お借りして。あなたをこの世界に召喚します。せりゃ」
そして、光が広がって。あたしは気が付くと別の世界に来ていた。
そこは広い雲の上だった。天上の世界だろうか。見渡す限り地平の果てまで青い空と白い雲が広がっている。
何も無いわけではなく、近くの雲の上には室内にあるような調度品や小道具が置いてあった。
そして、あたしの目の前にはテレビよりもっとリアルに見えるようになった天使の少女がいた。
「これってVR?」
「ここはファンタジアワールドです」
「なるほど」
よく分からないが、あたしはゲームの世界に来てしまったようだ。本当によく分からないが。
頬を抓ってみてもそれで何かが変わったりはしない。ただ痛いだけだった。
あたしがゲームをクリアしたばかりのぼんやりと高揚した頭で現状を確認しようとしていると、天使の少女が椅子の後ろに飛んでいってそこに隠れている物を引っ張り出そうとしていた。
「ほら、異世界から導ける者を呼びましたよ。神様、出てきてください。かーみーさーまー」
「本当に大丈夫なのか? 異世界から人を呼ぶなどして。わしは知らんぞ」
「大丈夫ですよ。今時異世界から人を召喚するなんてよくあることですから。人畜無害そうでぼんやりしている覇気の無さそうでぼっちそうな子を選びましたから。神様でも声を掛けられるはずです」
「あたしもう帰ろうかな」
何だか悪口を言われてる気がする。あたしが形だけ回れ右しようとすると(そもそもどうやって帰ればいいか分からない)、天使の少女が顔を上げて何かを思いっきり引っ張った。
「ああ、待ってください! ほら、神様出ろーーー!」
何かがすっぽ抜けて転がってきた。
すってんころりん。あたしの足元に来たのは白い髭を生やした老人だった。あたしはマジマジと彼を見下ろした。
「何このゴ……ご老人は」
危ない、危うくゴミというところだった。老人はめんどくさいとお兄ちゃんが言っていたので気を付けないとね。言葉遣いとか。
教えに従い、あたしは機嫌を損ねないようにふるまった。
老人はすぐに立ち上がって偉そうにふんぞり返った。
「うむ、わしはこのファンタジアワールドを見守る神じゃ!」
「へえ、神様」
じっと見つめていると彼は冷や汗をかき始めたようだ。
「この子、わしのことをじっと見てくるんですけど!」
「ああ」
どうやら無礼を働いたようだ。見つめないようにしよう。
あたしはついっと視線を逸らした。その先に天使の少女がいて彼女が言ってきた。
「あたしはお助け天使のヘルプちゃんです! 神様はあなたに用があってここへ呼んだのです。ほら、神様。用件を言ってください」
「うむ、分かっておる。お前を呼んだのは他でもにゃい」
「…………」
「…………」
噛んだ。噛みましたよ。何か言った方がいいのだろうか。あたしもヘルプちゃんも特に掛ける言葉が無かったので、黙って続きを待つしか無かった。
沈黙する空気の中、神様は改めて言い直した。
「お前を呼んだのは他でもない。経験の豊富なお前に勇者を導いて欲しいのじゃ!」
「うん、そういうことなら。いいですよ」
「いいのか?」
「はい、今はテスト前じゃないからゲーム出来るし、晩御飯の時間までに帰してくれればそれで」
「うむ、その時間には帰れるように取り計ろう」
あたしは少しぐらいはこの状況を不信に思っても良かったかもしれない。だが、そんなことよりも面白そうなことが起こりそうな予感にあたしの胸は打ち震えていた。
何せ学校や家にいても暇なんだし。面白そうなことがあるならやってみたい。
リアルよりも空想が好きなあたしであった。
「では、お前にこの世界の地上において神と同等の力を行使できる権限を与えよう」
「わあ、ありがとうございます」
あたしはもらえて嬉しいと思っただけで、ヘルプちゃんの『神様が面倒な問題をこの人間に丸投げした』と言いたげな視線には気づかなかった。
あたしは神様と快く握手を交わした。神様は杖で横にある転送ポータルっぽい装置を示した。
「では、あれに乗って早速地上に行ってくれ。分からないことがあればいつでもヘルプちゃんを呼んでくれて構わんからの」
「はい、分からないことがあればお教えするのがあたしの仕事です。困った時にはいつでもこのヘルプちゃんをお呼びください」
「ありがと。……っと、出かけるその前に」
「なんじゃ?」
足を止めて振り返るあたしを神様が不思議そうに見つめた。あたしはお洒落さの欠片も無い冴えない楽なだけの普段着で両手を広げて言った。
「勇者を導くならこんな冴えないずぼらな私服じゃ張り合いが出ないと思うんですよね。何か良い服があれば見繕って欲しいのですが」
「そうじゃな。では、神の奇跡を振るうとするか。何かリクエストはあるか?」
「んと、じゃあねえ。魔法使いっぽいので」
「心得た」
人を導くのは魔法使いだと童話の世界では決まっている。それにあたしは魔法使いが好きだった。
チクチクと敵を攻撃する戦士達の後姿を見ながら高らかに呪文を詠唱するあたし、準備が出来たところでかっこよくドーーーン! 実に絵になる光景だ。
まあ、今回のあたしの仕事は勇者を導くことだから余計な事をするつもりは無かったが。
考えている間に神様の準備が整って、振るわれる奇跡の光があたしの体を包み込んだ。
「奇跡の力をお使いになるなら、他に使い道があったのでは……」
ヘルプちゃんの呟く声はあたしの耳にも神様の耳にも入らない。
光が収まると、あたしの姿は冴えないださい私服からお洒落でかっこいい魔法使いの物へと変わっていた。
「おお、ファンタジーっぽくなった。神様、良いセンス」
「そう言われると頑張ったかいがあったわい」
「いいところを見せようとして頑張りましたね」
ヘルプちゃんも嬉しそうだ。とてもにこやかに微笑んでいる。
あたしは今度こそ転送ポータルに乗って地上へ行くことにした。
「じゃあ、行ってきますね」
「この世界を任せたぞ」
「はいはーい」
機嫌よく答えるあたし。世界を任されるって良い気分。
そんなことをのんびりと思いながら、あたしは天界から地上へと向かったのだった。
「ワンワン!」
家に着いたあたしは今日も玄関脇の犬小屋にて自宅の警備をしてくれていた愛犬のコウ(つぶらな瞳と振っている尻尾が可愛い)の労を労い、玄関の鍵を開ける。
家に入って台所にある冷蔵庫から冷えたジュースのペットボトルを一本取り出し自室へ向かう。
部屋に入ってテレビの前に座り、ゲームを起動する。さあ、昨日の続きを再開する時がいよいよやって来ました。
いかにも最後っぽいセーブポイントから我らがパーティーの冒険の続きが始まります。
コントローラーを操作してパーティーを歩かせていくあたし。パーティーというのは自分の操作する自キャラの一団のことだ。
ダンジョンに入る前にしっかりとレベル上げして装備も整えたのでみんなきっちりと戦えている。
あたしは全滅するのは嫌なので準備はきっちりしていく派だ。向こうみずな特攻をしたりはしない。
厳しいザコ敵と仕掛けのある魔王城を抜け、いかにも何かが待っていそうな広間へとやってきた我がパーティーをラスボスっぽい奴が出迎えた。
『よくここまで来た、褒めてやろう。人間の絶望こそ我が力……』
「はいはい、戦いましょうね」
さあ、戦いだ。あたしは魔法で受けたダメージをしっかりと回復しながら奴を倒した。しっかりと準備をしてここまで来たあたしなら楽勝だ。
だが、そいつはラスボスでは無かった。さらなる黒幕が現れた。
『聖も魔も全ての命は死に絶える。真の絶望を知るがいい』
「いるなら先に言ってよね。MP無駄に使っちゃったじゃない」
さすがにこの消耗した状態で連戦はまずい。覚悟するあたし。
だが、その場に現れた竜神様が回復してくれた。
「ありがとう、竜神様。さあ、ラストバトルよ」
そして、黒幕を倒してさらに変身した奴を倒して、あたし達のパーティーは無事にエンディングを迎えることが出来たのだった。
「まさか黒幕が裏の竜神様だったなんて。おっとネタバレは駄目ね。ふう、また一つ世界を救ってしまったわ」
これがゲームでなく現実だったら、あたしはもうどれだけの世界を救った功績を残してきたことになるのだろうか。
片手の指では数えきれないぐらいだ。数えようとして止めた。
今はこのゲームをクリアした余韻に浸っておこう。
あたしはエンディングの流れる画面を見ながらジュースを飲もうと思って手を伸ばした。その時だった。どこからともなく不思議な声がしたのは。
「あなたは今までに勇者を導いて多くの世界を救ってきましたね。あなたがふさわしいです」
「だ……誰!?」
いきなりした声にあたしはびっくりしてジュースを取ろうとした手を引っ込めてキョロキョロしてしまう。
不審な物は何もない。いつもの部屋である。ならば声の出どころは……
「あれか……」
すぐに気が付いてあたしは恥ずかしさを誤魔化すように座り直した。
何てことはない。喋ったのはテレビだった。
今時のゲームにボイスがあるなんて何も珍しいことではない。このゲームが今まで喋らなかったから驚いただけだ。
テレビの中、スタッフロールの終わった画面に天使のような女の子が現れて話しかけてきていた。
「多くの世界を救ってきた異世界の者よ。あなたにあたし達の世界ファンタジアワールドに来て勇者を導いてもらいたいのです。来ていただけますか?」
「もちろん!」
あたしの答えは決まっていた。これはきっとクリア後のイベントなのだろう。これからさらなる冒険が始まるのだ。そう思っていた。
だが、事態はあたしの想像よりも斜め上に行っていて……天使の少女は嬉しそうに礼をして可愛らしいステッキを振り上げた。
「ありがとうございます、異世界の導き手よ。では、神様の力をお借りしてあなたをこの世界に召喚……ほら、神様。早く力を貸してくださいよ。良い子が見つかりましたよ」
「うむ、分かっておるわい。そう急かすなよ。ほら」
「……お借りして。あなたをこの世界に召喚します。せりゃ」
そして、光が広がって。あたしは気が付くと別の世界に来ていた。
そこは広い雲の上だった。天上の世界だろうか。見渡す限り地平の果てまで青い空と白い雲が広がっている。
何も無いわけではなく、近くの雲の上には室内にあるような調度品や小道具が置いてあった。
そして、あたしの目の前にはテレビよりもっとリアルに見えるようになった天使の少女がいた。
「これってVR?」
「ここはファンタジアワールドです」
「なるほど」
よく分からないが、あたしはゲームの世界に来てしまったようだ。本当によく分からないが。
頬を抓ってみてもそれで何かが変わったりはしない。ただ痛いだけだった。
あたしがゲームをクリアしたばかりのぼんやりと高揚した頭で現状を確認しようとしていると、天使の少女が椅子の後ろに飛んでいってそこに隠れている物を引っ張り出そうとしていた。
「ほら、異世界から導ける者を呼びましたよ。神様、出てきてください。かーみーさーまー」
「本当に大丈夫なのか? 異世界から人を呼ぶなどして。わしは知らんぞ」
「大丈夫ですよ。今時異世界から人を召喚するなんてよくあることですから。人畜無害そうでぼんやりしている覇気の無さそうでぼっちそうな子を選びましたから。神様でも声を掛けられるはずです」
「あたしもう帰ろうかな」
何だか悪口を言われてる気がする。あたしが形だけ回れ右しようとすると(そもそもどうやって帰ればいいか分からない)、天使の少女が顔を上げて何かを思いっきり引っ張った。
「ああ、待ってください! ほら、神様出ろーーー!」
何かがすっぽ抜けて転がってきた。
すってんころりん。あたしの足元に来たのは白い髭を生やした老人だった。あたしはマジマジと彼を見下ろした。
「何このゴ……ご老人は」
危ない、危うくゴミというところだった。老人はめんどくさいとお兄ちゃんが言っていたので気を付けないとね。言葉遣いとか。
教えに従い、あたしは機嫌を損ねないようにふるまった。
老人はすぐに立ち上がって偉そうにふんぞり返った。
「うむ、わしはこのファンタジアワールドを見守る神じゃ!」
「へえ、神様」
じっと見つめていると彼は冷や汗をかき始めたようだ。
「この子、わしのことをじっと見てくるんですけど!」
「ああ」
どうやら無礼を働いたようだ。見つめないようにしよう。
あたしはついっと視線を逸らした。その先に天使の少女がいて彼女が言ってきた。
「あたしはお助け天使のヘルプちゃんです! 神様はあなたに用があってここへ呼んだのです。ほら、神様。用件を言ってください」
「うむ、分かっておる。お前を呼んだのは他でもにゃい」
「…………」
「…………」
噛んだ。噛みましたよ。何か言った方がいいのだろうか。あたしもヘルプちゃんも特に掛ける言葉が無かったので、黙って続きを待つしか無かった。
沈黙する空気の中、神様は改めて言い直した。
「お前を呼んだのは他でもない。経験の豊富なお前に勇者を導いて欲しいのじゃ!」
「うん、そういうことなら。いいですよ」
「いいのか?」
「はい、今はテスト前じゃないからゲーム出来るし、晩御飯の時間までに帰してくれればそれで」
「うむ、その時間には帰れるように取り計ろう」
あたしは少しぐらいはこの状況を不信に思っても良かったかもしれない。だが、そんなことよりも面白そうなことが起こりそうな予感にあたしの胸は打ち震えていた。
何せ学校や家にいても暇なんだし。面白そうなことがあるならやってみたい。
リアルよりも空想が好きなあたしであった。
「では、お前にこの世界の地上において神と同等の力を行使できる権限を与えよう」
「わあ、ありがとうございます」
あたしはもらえて嬉しいと思っただけで、ヘルプちゃんの『神様が面倒な問題をこの人間に丸投げした』と言いたげな視線には気づかなかった。
あたしは神様と快く握手を交わした。神様は杖で横にある転送ポータルっぽい装置を示した。
「では、あれに乗って早速地上に行ってくれ。分からないことがあればいつでもヘルプちゃんを呼んでくれて構わんからの」
「はい、分からないことがあればお教えするのがあたしの仕事です。困った時にはいつでもこのヘルプちゃんをお呼びください」
「ありがと。……っと、出かけるその前に」
「なんじゃ?」
足を止めて振り返るあたしを神様が不思議そうに見つめた。あたしはお洒落さの欠片も無い冴えない楽なだけの普段着で両手を広げて言った。
「勇者を導くならこんな冴えないずぼらな私服じゃ張り合いが出ないと思うんですよね。何か良い服があれば見繕って欲しいのですが」
「そうじゃな。では、神の奇跡を振るうとするか。何かリクエストはあるか?」
「んと、じゃあねえ。魔法使いっぽいので」
「心得た」
人を導くのは魔法使いだと童話の世界では決まっている。それにあたしは魔法使いが好きだった。
チクチクと敵を攻撃する戦士達の後姿を見ながら高らかに呪文を詠唱するあたし、準備が出来たところでかっこよくドーーーン! 実に絵になる光景だ。
まあ、今回のあたしの仕事は勇者を導くことだから余計な事をするつもりは無かったが。
考えている間に神様の準備が整って、振るわれる奇跡の光があたしの体を包み込んだ。
「奇跡の力をお使いになるなら、他に使い道があったのでは……」
ヘルプちゃんの呟く声はあたしの耳にも神様の耳にも入らない。
光が収まると、あたしの姿は冴えないださい私服からお洒落でかっこいい魔法使いの物へと変わっていた。
「おお、ファンタジーっぽくなった。神様、良いセンス」
「そう言われると頑張ったかいがあったわい」
「いいところを見せようとして頑張りましたね」
ヘルプちゃんも嬉しそうだ。とてもにこやかに微笑んでいる。
あたしは今度こそ転送ポータルに乗って地上へ行くことにした。
「じゃあ、行ってきますね」
「この世界を任せたぞ」
「はいはーい」
機嫌よく答えるあたし。世界を任されるって良い気分。
そんなことをのんびりと思いながら、あたしは天界から地上へと向かったのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います
きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で……
10/1追記
※本作品が中途半端な状態で完結表記になっているのは、本編自体が完結しているためです。
ありがたいことに、ソフィアのその後を見たいと言うお声をいただいたので、番外編という形で作品完結後も連載を続けさせて頂いております。紛らわしいことになってしまい申し訳ございません。
また、日々の感想や応援などの反応をくださったり、この作品に目を通してくれる皆様方、本当にありがとうございます。これからも作品を宜しくお願い致します。
きんもくせい
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる