上 下
18 / 38

第18話 王城に向かう

しおりを挟む
 出かける準備を済ませ、ミリエルは両親と一緒に屋敷の玄関から外に出た。
 目を細める。陽光に反射する馬車の黄金の飾りが眩しかった。
 玄関先ではそれはもう立派な馬車が待っていた。御者を務める身なりの良い青年が両親と挨拶している。
 大人同士の会話には構わず、ミリエルは子供らしく馬車に目を向ける。
 さすが王城にある馬車だ。王都を走っている一般向けの乗り合い馬車とは格や気品が違うと芸術に興味や関心のない少女の目から見てもそう思う。

『これに乗っていくのだな』
「うん」

 中からの声に短く答える。簡単な挨拶を終えて両親はすぐにやってきた。

「この馬車に乗るのも久しぶりね」
「そうだな。お前と一緒に王城に行ったのはもう半年前になるものな」
「ミリエルも乗ったことがあるのよ。覚えてる?」
「覚えてない」
「あの頃はまだこんなに小さかったもんな」
「そうね。あの頃はわたしも若かったわ」
「母さんは今でも若いだろ」
「フフフ、ありがと」

 軽く会話を交わし合う両親に続いてミリエルは馬車に乗る。座席がふかふかで内装にも凝った意匠が見られた。
 準備ができて出発する。馬車の車輪が回り始める。
 揺れる馬車の座席で両親と向かい合って座り、王城へ着くまでの間ミリエルはぎゅっと拳を握ってうつむいていた。
 向かいでは父と母が楽しそうにこれからのことについて喋っている。
 大人の会話に子供が口を挟むことはあまり無い。
 ミリエルが黙っていると中の人が話しかけてきた。

『この国の王様とはどんな奴なんだ? クレイブより強いのか?』

 両親が王様に会ったらどうするとか話していたから気になったのだろう。ミリエルは自分の知っている範囲で答えることにした。
 両親に聞こえないように小声で。足元からは馬車の車輪の音が鳴っているし、両親はお互いの会話をしているから、ちょっとやそっとでは聞かれないだろうと思いつつ。

「知らない。王様がパパより強かったらパパの代わりに王様が勇者になってたと思うけど」
『それもそうか。クレイブを見込んだあたり見る目はあるのだろうがな……』

 中の人はそれ以上訊いてこなかった。あまり王様に興味が無いのか、ミリエルが知らないと答えたから訊いても仕方がないと思ったのかもしれない。
 馬車の窓から外を見る。いつも王都にある学校へ行く時に通っている道だが、見ている視点が違うと景色も違って見えた。
 ついこの前、猿でも使える魔法の練習をした公園の前を通り過ぎていく。
 ジーロ君は元気にしているだろうか。ふと思い出す。
 あんなに優しそうなテイマーさんと一緒なのだからきっと元気にしているのだろうと思った。今では良い思い出だ。
 ミリエルは聞かれていないと思っていたのだが、両親の会話が途切れた時に父が訊いてきた。

「なんだ、ミリエル。お前は王様のことを覚えてないのか? この前家にも来ただろう?」
「え……?」

 考えてみるが両親を訊ねて家に来る人はいろいろいるし、この前だってテイマーさんが来た。
 どの人が王様なのだろう。王冠を被って大勢の家来を従えてきた偉そうな人はいなかったように思う。
 ミリエルが考えていると、今度は母が言ってきた。

「大人にとってはついこの前でも子供にとっては随分前に感じるものね。忘れても仕方ないかも。会えば思い出すと思うわ」
「うん」
「ミリエル、王様に会いたいのか?」
「別に」

 つい本音が口をついて出てしまった。両親が苦笑している。気づいたミリエルが慌てて取り繕うとしてももう遅かった。

「とにかく一度挨拶はしておかないとね」
「ミリエルももう10才になったんだもんな」
「うん」

 馬車の窓から外を見る。静かな草原の向こうに王都の壁が見えてきていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美少女に転生しました!

メミパ
ファンタジー
神様のミスで異世界に転生することに! お詫びチートや前世の記憶、周囲の力で異世界でも何とか生きていけてます! 旧題 幼女に転生しました

転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま
ファンタジー
 かつて、『神界』と呼ばれる世界では『女神ハーティルティア』率いる『神族』と『邪神デスティウルス』が率いる『邪神』との間で、永きに渡る戦いが繰り広げられていた。  その永い時の中で『神気』を取り込んで力を増大させた『邪神デスティウルス』は『神界』全てを呑み込もうとした。  それを阻止する為に、『女神ハーティルティア』は配下の『神族』と共に自らの『存在』を犠牲にすることによって、全ての『邪神』を滅ぼして『神界』を新たな世界へと生まれ変わらせた。  それから数千年後、『女神』は新たな世界で『ハーティ』という名の侯爵令嬢として偶然転生を果たした。  生まれた時から『魔導』の才能が全く無かった『ハーティ』は、とある事件をきっかけに『女神』の記憶を取り戻し、人智を超えた力を手に入れることになる。  そして、自分と同じく『邪神』が復活している事を知った『ハーティ』は、諸悪の根源である『邪神デスティウルス』復活の阻止と『邪神』討伐の為に、冒険者として世界を巡る旅へと出発する。  世界中で新しい世界を創造した『女神ハーティルティア』が崇拝される中、普通の人間として平穏に暮らしたい『ハーティ』は、その力を隠しながら旅を続けていたが、行く先々で仲間を得ながら『邪神』を討伐していく『ハーティ』は、やがて世界中の人々に愛されながら『女神』として崇められていく。  果たして、『ハーティ』は自分の創造した世界を救って『普通の女の子』として平穏に暮らしていくことが出来るのか。  これは、一人の少女が『女神』の力を隠しながら世界を救う冒険の物語。  

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

リューク・オーフェン~未知との遭遇~

トンクル
ファンタジー
中学卒業式の後、少女は異世界に迷い込んだ。 高校生になったら、絶対に友達作るんだから――! 明後日は高校入試。高校に入学してもまた中学と同じ日々が始まるかもしれない。ひとりぼっちの休み時間、無口のまま時が過ぎる。奇数は嫌いだ、一人余って取り残されてしまうから。 クラスメイトが思い出話に花を咲かせる中、月城未知(つきしろ みち)は一人、河川敷を歩き、やけになって川面に石を投げつけた。 捨て鉢になった自分に向き合う物語。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...