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第4話 通じる気持ち
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避難警報が解かれて教室に戻る。今度は一応トイレに行った後で避難はしたがまた正也君がうるさい事を言ってくるだろうかと私は身構える。
しかし正也君は私の方を見ずに窓の外を眺めていた。
「あんなモンスターが現れるなんて。俺じゃもう無理なのかな」
そんな事を呟いている。ミノタウロスが現れた事がよほどショックだったのだろうか。
私は何か声を掛けた方がいいだろうか。彼がもっと仕事をやる気になって強敵を倒せるようなアドバイスを。
彼にもう仕事を止めると言われると私が困るのだ。普段はスライムやゴブリンしか現れない簡単な地域。
たった一度現れたレアな強敵の為にやる気を無くされても困ってしまう。彼にはこれからも学校の為に頑張ってもらいたい。私は頑張りたくない。
だが、私が下手に口を出すのもどうかと思う。ここはコミュ症の私よりも人当たりのいい菜々ちゃんに任せてみよう。
目配せを送ると菜々ちゃんはすぐに私の思いをくみ取ってやる気に満ちた顔をして立ちあがった。そのまま正也君のところまで歩いていって力強く訴えた。
「正也君。あたしたちがいるから頑張ろうよ!」
「日向……」
「正也君は弱くないよ。今回は現れたモンスターがたまたま強かっただけ。それでも立ち向かった君は立派だよ。その勇気があればきっと次は勝てるよ。あたしが保証する! だから頑張れ!」
「お前にそんな事を言われるとはな……」
菜々ちゃんは正也君の手を握り励ましの言葉をかけている。うんうん、立派だ。さすが菜々ちゃんは私の気持ちをよく分かってくれている。
これで正也君も勇気づけられ、これからも仕事を頑張ってくれるだろう。
もしかしたら次はミノタウロスも倒せるようになるかもしれない。そうしたら私は安心して彼に仕事を丸投げする事ができる。
モンスターが襲ってきても私は安心して避難する事ができるし寝る事もできるのだ。
私は感心して聞いていたのだが、次の言葉を聞いてびっくりしてしまった。
「日向、それはお前の言葉なのか?」
「ううん、まやかちゃんに言ってこいって言われたの」
「やっぱりな」
「やっぱりなってどういう意味!?」
私はつい驚いて立ち上がってしまった。正也君は笑って言う。
「だって、日向が俺に関心を向けるなんてありえないし、だったらお前の差し金しかないだろ」
「まやかちゃん、違ったの?」
「違ってないけど。うう……」
見破られている。通じすぎるというのも問題だ。
事実なので何も反論する事ができない。
「ありがとな」
「まあ、やる気を出してくれるなら私はそれでいいの」
私は諦めて自分の席に座るのだった。
ここではない場所。どこかの暗闇の空間でうごめく影があった。
「大きな力が動きましたか……」
揺らめく炎が映し出すのは一人の魔法使いの姿をした少女。彼女の前には日本を映し出した地図といくつかの光点があった。
「こことこことあるいはここか。魔物を統べる者がいるのかもしれませんね。段々と分かってきました。この世界のありようが」
彼女は密かに笑みを浮かべると、怪しく呪文を唱え始めた。
「封印より解き放たれよ! 邪悪なるモンスター達よ!」
魔法陣の上で小さな石の欠片が砕け散り、現れたのは異世界のモンスター達。小型のものから巨大なものまで様々だ。それらは闇の中へと消えていく。
「行きなさい。そして、あなた達の王の元へと導くのです!」
目指す先にはきっと魔王がいる。魔法使いの少女は確信を持って彼らを見送った。
しかし正也君は私の方を見ずに窓の外を眺めていた。
「あんなモンスターが現れるなんて。俺じゃもう無理なのかな」
そんな事を呟いている。ミノタウロスが現れた事がよほどショックだったのだろうか。
私は何か声を掛けた方がいいだろうか。彼がもっと仕事をやる気になって強敵を倒せるようなアドバイスを。
彼にもう仕事を止めると言われると私が困るのだ。普段はスライムやゴブリンしか現れない簡単な地域。
たった一度現れたレアな強敵の為にやる気を無くされても困ってしまう。彼にはこれからも学校の為に頑張ってもらいたい。私は頑張りたくない。
だが、私が下手に口を出すのもどうかと思う。ここはコミュ症の私よりも人当たりのいい菜々ちゃんに任せてみよう。
目配せを送ると菜々ちゃんはすぐに私の思いをくみ取ってやる気に満ちた顔をして立ちあがった。そのまま正也君のところまで歩いていって力強く訴えた。
「正也君。あたしたちがいるから頑張ろうよ!」
「日向……」
「正也君は弱くないよ。今回は現れたモンスターがたまたま強かっただけ。それでも立ち向かった君は立派だよ。その勇気があればきっと次は勝てるよ。あたしが保証する! だから頑張れ!」
「お前にそんな事を言われるとはな……」
菜々ちゃんは正也君の手を握り励ましの言葉をかけている。うんうん、立派だ。さすが菜々ちゃんは私の気持ちをよく分かってくれている。
これで正也君も勇気づけられ、これからも仕事を頑張ってくれるだろう。
もしかしたら次はミノタウロスも倒せるようになるかもしれない。そうしたら私は安心して彼に仕事を丸投げする事ができる。
モンスターが襲ってきても私は安心して避難する事ができるし寝る事もできるのだ。
私は感心して聞いていたのだが、次の言葉を聞いてびっくりしてしまった。
「日向、それはお前の言葉なのか?」
「ううん、まやかちゃんに言ってこいって言われたの」
「やっぱりな」
「やっぱりなってどういう意味!?」
私はつい驚いて立ち上がってしまった。正也君は笑って言う。
「だって、日向が俺に関心を向けるなんてありえないし、だったらお前の差し金しかないだろ」
「まやかちゃん、違ったの?」
「違ってないけど。うう……」
見破られている。通じすぎるというのも問題だ。
事実なので何も反論する事ができない。
「ありがとな」
「まあ、やる気を出してくれるなら私はそれでいいの」
私は諦めて自分の席に座るのだった。
ここではない場所。どこかの暗闇の空間でうごめく影があった。
「大きな力が動きましたか……」
揺らめく炎が映し出すのは一人の魔法使いの姿をした少女。彼女の前には日本を映し出した地図といくつかの光点があった。
「こことこことあるいはここか。魔物を統べる者がいるのかもしれませんね。段々と分かってきました。この世界のありようが」
彼女は密かに笑みを浮かべると、怪しく呪文を唱え始めた。
「封印より解き放たれよ! 邪悪なるモンスター達よ!」
魔法陣の上で小さな石の欠片が砕け散り、現れたのは異世界のモンスター達。小型のものから巨大なものまで様々だ。それらは闇の中へと消えていく。
「行きなさい。そして、あなた達の王の元へと導くのです!」
目指す先にはきっと魔王がいる。魔法使いの少女は確信を持って彼らを見送った。
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