上 下
1 / 21

第1話 いつも通りの世界

しおりを挟む
 20xx年、宇宙から地球に黒い隕石が降り注いだ。その隕石はどこから現れたのか分からない。気が付けば地球のすぐ傍に来ていたという。
 それだけならただの天体ショーで終わったかもしれない。ただ地球に黒い隕石が降ったというだけの話だ。
 だが、その日から地球にはゴブリンやスライムのようなファンタジー世界のモンスター達が現れるようになった。
 学者達はこの発生の原因は宇宙から飛来した隕石ではないか、あの隕石は異世界から地球に送られた侵略兵器ではないかなどと、様々な議論を交わしたが原因はまだ定かとなってはいない。
 ともかく、地球人類に今だかつてない脅威が訪れていた。
 未曽有の危機に対して、人々は戦車や戦闘機のような現代科学の兵器で応戦したが異世界のモンスター達には通用しなかった。
 世界は混乱し、文明は崩壊へと追い込まれかけたが、希望は現れた。
 モンスター達と戦える能力『スキル』に目覚める者達が現れたのだ。いかなる条件があるのか、彼らはみんな中学生だった。
 スキルに目覚め、スキルを使いこなせるに至った者達はスキルマスターと呼ばれ、彼らの活躍によってモンスター達は退けられ、地球は元の姿を取り戻していった。
 これはそんな世界に生きる一人の少女の物語―――



「う~ん……」
「まやかちゃん、起きて。起きてってば」
「なに?」

 教室で寝ていると友達の少女に起こされた。
 私はごく普通の中学二年生の少女、天坂(あまさか)まやかである。
 授業があまりにも退屈で寝てしまっていたようだ。目を開けると友達の日向菜々(ひなた なな)の顔があった。

「なに、菜々ちゃん? もうお昼休みになった?」
「違うよ。モンスター軍団が攻めてきたんだよ」
「え? モンスター軍団って? どこ?」

 私は目をこすって立ち上がる。菜々ちゃんは指をさして教えてくれた。

「ほら、あそこだよ」
「ほう、いるねえ」

 私は窓に歩み寄って外を見る。今まさに校門を越えようとしているモンスター軍団の姿が見えた。
 スライムやゴブリンのようなザコ級のモンスター達だ。この辺りには強いモンスターは現れないが、酷い地域なんかだとミノタウロスやキマイラなんかが現れて大変らしい。たまにニュースで見る。
 ここに現れたのは焦る必要のない低級のモンスター達だが、臆病者の菜々は慌てていた。

「これはやばいよ。逃げないと」
「うん、そうだね」

 大人達は応戦しているが、異世界のモンスターに銃は通用しない。あれを倒せるのはスキルをマスターした中学生だけだ。
 それでも威嚇や時間稼ぎぐらいにはなるので応戦しないわけにはいかない。塀に張られた結界装置も上手くモンスターを防いでいる。

「まやかちゃん! まだ寝ぼけてるの?」
「ううん、寝ぼけてはいないけど。この学校には正也君がいるから大丈夫じゃないかな」

 そう、数少ないモンスターを倒せる中学生のスキル持ち。それがこの学校にもいるのだ。いるというか転校してきたんだけど。
 彼らはモンスターと戦える貴重な戦力なので、国の命令で各地の学校に配属されている。
 この私、天坂まやかも実はスキルに目覚めているんだけど、ちょっと人には言いにくいスキルだったり、他人に頼られたくなかったり、勝手に転校させられたくなかったりといろいろ理由があってその事は黙っている。
 国も強制的に調査したりはしないので、他人に自慢したり派手な事をしなければ意外と気づかれないものだ。
 真面目に申告して働いている人達は物好きだなと私は思う。きっと彼らは目立ちたいのだろう。私は目立つよりも休む方が好きだった。
 出来れば学校もさぼりたいのだけど、勉強は子供の義務だから仕方がない。
 私はこの騒動はすぐに収まると思っていたのだけれど、菜々は真面目な生徒だった。

「もう、そんな呑気な事を言って。正也君は確かに強いし頼りになるけど避難はしなくちゃ駄目だよ。もうみんなは避難しちゃったよ」
「大丈夫だって。ほら、もう正也君が出た。この騒動はおしまいね」
「え? おお」

 その言葉を聞いて菜々ちゃんも私の手を引っ張るのを止めてくれた。一緒に窓の外を見る。
 うちの学校の頼れるスキルマスター相田正也(あいだ まさや)君のお出ましである。彼は何も動じることなく、校門に押し寄せてくるモンスター軍団に向かっていく。

「さあ、スキルマスターのお手並み拝見といこうじゃない」
「まやかちゃん、何で上から目線……」

 スキルマスターとはスキルに目覚めた者のなかでもさらに熟練に達した者。自らのスキルを自在に使いこなせるまでに至った者の総称である。
 そんな凄い人がこの学校にはいるんだからもう私の出る幕なんてないというもの。ここは黙って見守ることにする。
 私と菜々ちゃんは正也君の戦いを見守った。モンスター軍団の前で足を止める彼。その手に宿るのは紅蓮の炎だ。

「こいよ、ザコども。俺の炎で焼き尽くしてやるぜ!」

 ここまで彼の声は聞こえてこないが、大方そのような事を言っているのだろう。モンスターと戦おうなんて物好きな人なのだから、きっと戦うのが好きなのだ。
 正也君の両手に炎が宿り、それを振るうと巨大な火柱が発生した。それを食らったゴブリンやスライムが燃え上がる。

「なかなかの威力だね」
「正也君のスキルは炎を操るんだよね」
「それだけなのかな?」
「え? それだけって?」
「いや、言葉通りの意味だけど。燃やすだけならライターでも出来るから」
「それはどうかなあ」

 私にはこれぐらいのスキルはたいした物には映らない。みんなが凄いというぐらいだからもっと凄い物があるんじゃないかと上向きの期待をしてしまうだけだ。
 まあ、相手がスライムやゴブリンのようなザコモンスターなら彼の本気を見る事もできないか。あっけなく戦闘というのもおこがましい掃除がされていくだけだ。

「これはもう終わったわねえ」
「終わったね」

 モンスター達は次々と正也君の炎に焼かれていく。やがてモンスター軍団はそれが当然の予定調和のように消し炭となって全滅した。

「ふう、祭りの時間はこれで終わりか」
「すごい! やっぱり正也君は強かったね」
「当然の結果でしょうね。国に雇われたスキルマスターならこれぐらいの仕事はやってもらわないとね」

 私はふふんっと鼻を鳴らして自分の席に着く。

「さて、もうすぐみんなも帰ってくるだろうし、教科書でも出して授業の準備をしようかな」
「まやかちゃん、凄く落ち着いてるね」
「だって、こんなの普通の事だし、いちいち騒ぐ方が疲れるって」
「そうだね。でも、授業が始まる前に……」

 菜々ちゃんは何やらスマホを操作している。私は不思議に思って尋ねる。

「何をしているの?」
「SNSにさっきの戦闘の様子をアップしているんだよ」
「へえ、そういうのあるんだ」
「うん、結構全国のいろんな動画がアップされているよ。こうすればみんな安心すると思うし、それに何よりもかっこよくて面白いからね。正也君の再生数はあんまりだけど……」
「なるほどねえ。かっこよくて面白いか……」

 私には見世物にされる楽しさなんて分からないが、まあいいんじゃないだろうか。能力者が目立ったからって別に誰かが困るわけではない。
 私がひっそりと暮らせればいいのだ。

「まやかちゃんもやってみたら?」
「遠慮しておくよ」
「そう? 楽しいのに。もっと正也君のファンが増えて欲しいな」
「増えるといいね」

 そう適当に話しているとやがてみんなが戻ってきた。影の薄い私はなぜ避難しなかったんだと責められることもなく、(そもそも避難しろと言われてない。菜々ちゃんにしか)、授業は何事もなく再開された。
 そう、宇宙から隕石が降ってきて世界にモンスターが現れるようになったエックスデイを踏まえながらも、世界はいつも通りで平和だったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
児童書・童話
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 <第2回きずな児童書大賞にて奨励賞を受賞しました>

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

処理中です...