47 / 53
第二章 漆黒の悪霊王
第47話 遊園地の悪霊 神社に来た少女
しおりを挟む
有栖の占いが示した通り、ムササビンガーは廃墟となった遊園地に現れていた。
周囲には他にもついてきた下級悪霊達が大勢いる。みんな強い者について利益を得ようと考えているのだ。
昼から悪霊達で賑わう遊園地。閉鎖されたその場所に人の姿はない
転がっている瓦礫の一つをムササビンガーはたいして興味も無さそうに蹴飛ばした。
「ここがこの町の悪霊王がいた場所か」
「はい、そうでやんす」
案内をしてきたこの町のカワウソの姿をした下級悪霊が答える。彼は調子よく強い者に一番に取り入ろうとしていた。
ムササビンガーはつまらなそうに鼻を鳴らし、かつてはハムスターの形をしていた崩れた塔を見上げた。
「玉座としてはくだらねえ場所だが、大きな戦いがあった場所のようだな」
ムササビンガーは振り返り、宣言した。
「決めたぜ、ここを僕の城にする! ここから僕の支配を始める!」
その力強い宣言に周囲の下級悪霊達が湧きたった。
自信たっぷりに拳を握るムササビンガーに下級悪霊のカワウソは恐る恐る進言した。
「恐れながら、あの巫女に勝つ策があるので?」
「お前、僕に何の策も無いと思っているのか?」
格上の中級悪霊からじろりと睨まれ、カワウソは身を震わせて縮こまった。
「いえ……ぜひ、お聞かせていただければありがたいかなと」
「ここにこんなに大勢の悪霊達が集まってくれているじゃねえか!」
ムササビンガーは大きく両手を振った。観客のように下級悪霊達はざわめきで答えた。
確かにその場所には大勢の悪霊達が集まっていた。だが、みんな下級だ。
たいした戦力にはならないだろうが、ムササビンガーはその力に期待しているようだった。
「ゴミみてえな奴らばかりだが力を合わせれば2倍、いや1.5倍ぐらいにはなるだろう。それぐらいの力があればあの巫女を踏みつぶすことは可能のはずだ」
「具体的にはどうするので?」
何しろ下級悪霊にはたいして知能も無いのだ。協調や作戦など期待するだけ無駄だと自分は少しは出来る下級だと信じるカワウソは思うのだが。
ムササビンガーは凶暴な暴君の目付きをして小さなカワウソを見下ろしてきた。
「お前、今まで僕のしてきたことを見ていなかったのか?」
「いや、してきたことと言われても」
「力を合わせると言ったら決まっているだろうが!」
「ひっ」
その瞬間、ムササビンガーの強靭な手がカワウソの小さな体を掴んでいた。かつてのカマイタチの兄弟のことを思い出して、カワウソは自分の身を震わせた。彼は助かろうと必死にもがいて叫んだ。
「待ってください! わたしは役に立っているでしょう!?」
「ああ、だからお前には今度も一番に役に立ってもらうぜ!」
「そんなああ! うわあああ!」
カワウソの小さな体が呑み込まれていく。ムササビンガーの大きな口の中に。口を閉じるとそこにあったのは静かな景色だった。
調子の良いカワウソの姿はもうこの世のどこにも無かった。
恐怖はすぐに周囲の下級悪霊達に伝わって、彼らは散り散りに逃げ始めた。
ムササビンガーは静かにそちらを見やった。
「お前ら、僕と追いかけっこが出来ると思っているのかよ!」
地響きを立ててムササビンガーが走っていく。逃げ足の遅い下級悪霊達は次々と捕まえられ、その口に放り込まれていった。
物陰に隠れる下級悪霊もいたが、ムササビンガーはその気配を見逃さなかった。
「かくれんぼならもっと上手く隠れろよな!」
ムササビンガーの手から光の糸が伸ばされる。その霊力の糸はどんな隙間にも潜り込み、次々と下級悪霊達の体を絡めとっていった。
ムササビンガーの元に引きずられながら、下級悪霊達は必死の懇願を行った。
「待ってください!」
「私達は悪霊の仲間じゃないですか!」
「力になります! ですから!」
「そうだよ! だから、お前達はただ黙って僕の力になっていればいいんだよ!!」
「「「うわああああ!!」」」
下級悪霊達は次々と口に放り込まれていく。その度にムササビンガーの霊力は少しづつ上がっていった。何度目かの食事を終えてムササビンガーは口元を拭った。
「やっと、1.2倍といったところか? まだ足りねえなあ!!」
さらなる餌に向かってムササビンガーは再び走る。次々と遊園地のあちこちに逃げる下級悪霊達を捕まえて、その力を自分の物にしていった。
かつて悪霊王のいた土地で下級悪霊達の悲鳴が響き渡り、ムササビンガーは高らかに笑い声を上げた。
「フハハッ! 僕がこの町の! 王だああああっ!!」
下級悪霊達は逃げることも出来ず、ただ一方的に蹂躙されていった。
ムササビンガーは次々と下級悪霊達を捕まえてたいらげていく。
早く巫女達に祓われていた方がよっぽどマシだった。そう思える景色がそこには広がっていた。
人の去った境内は静かになった。伏木乃神社は平和だが、空虚な静寂に包まれていた。
平日の今日は神社に参拝に来る人の姿もない。
「また寂しくなったな……」
神社で仕事をする気にもなれず、ジーネスは一人でぼうっと神社の入り口にある鳥居を眺めていた。
そんな時、
ジャランジャラン。
不意に神社の鈴の音が鳴った。続いて手を打ち合わせる音がする。
ジーネスは振り返る。全く気が付かなかったが、いつの間にか神社に参拝客が来ていた。
他に見る物も無いので、ジーネスはついその参拝客の後ろ姿をじっと見つめてしまった。
祈っている人は白い綺麗な長い髪をした少女だった。控えめで涼し気な洋服を着ていて、旅の途中で気まぐれで神社に立ち寄ったお嬢さんといった印象を受けた。
神社は人気が無く静かだったので、彼女の祈っていた声も風に乗って聞こえてしまった。
「良い住処が見つかりますように」
どこか引っ越し先を探しているのだろうか。祈りを終えた彼女は振り返って近づいてきた。
温厚そうで上品な優しい顔立ちをしている。前髪を留めている白い鳥を象った髪留めが印象的だった。
襲ってくる様子は無かったが、ジーネスは緊張して背筋を伸ばしてしまった。
きっとこの神社の人だと思われている。どんな質問が来ても答えるつもりでジーネスは身構えた。
少女は立ち止まると、にこやかな顔で優しい声を掛けてきた。
「あなた、悪霊ですよね?」
「え……!?」
思わぬ言葉に絶句してしまう。
ここへ来てから面と向かって悪霊と言われたのは始めてだったので、ジーネスはびっくりしてしまった。
すぐに思いついたのは自分のことを悪霊だと言って襲ってきたハンターだった。彼女もその一味なのだろうか。
ジーネスはやばいと思ったが、少女は苦笑したような笑みを浮かべただけだった。
「安心してください。わたしも悪霊って呼ばれてるんですよ」
「なんじゃ、同業者の方だったか……」
ジーネスはほっと安堵の息を吐いた。
そして、こんな綺麗で上品な少女でも悪霊と呼ばれているのかと憐れむ仲間意識を持ってしまった。
少女は気にせず笑って言う。
「本当にあの人達って困りますよね。人のことを悪霊なんて呼んで襲ってきたりするんです。わたし達は静かに暮らしたいだけなのに」
「まったくじゃ。わらわも酷い目にあった」
お互いに気持ちを吐露し合う。同じ体験をした者同士、共感を抱いてしまった。
少女の視線がじっとジーネスを見た。
「どうかしたか?」
「わたしって人を見る目はあるつもりなんです。あなたは見たところ……うん、下級でしょうか」
「お前は?」
別に下級でも何でもいい。襲ってくる面倒な奴らさえいなければ。ジーネスが訊ね返すと、少女は朗らかに笑った。
「フフ、何級に見えますか?」
そう言われても、霊力を計る基準の分からないジーネスにはさっぱり分からない。
彼女は計ってみろと言わんばかりに両手を広げ、くるりと回って見せた。
白い髪とスカートが軽やかにふわりと舞った。少女は動きを止めて、どうぞと両手を出して答えを促してきた。
だが、ジーネスにはどう見ても、彼女はただの気の良い旅の少女にしか見えなかった。
「はい、時間切れ」
彼女が指先をパチンと弾いて言ったので、ジーネスも計るのを止めた。少女は上品に行儀よく姿勢を正して、にこやかに宣言した。
「じゃあ、答えを発表しますね」
「おお、答えがあるのか。ありがたい」
ジーネスは期待に満ちた目をして答えの発表を待ってしまった。
白い優しい少女はいじわるをすることもなく、親切にすぐに教えてくれた。
「わたしは上級悪霊です。まあ、人間の呼び方なんてどうでもいいかもしれませんが」
「上級……!」
ジーネスは思わず言葉を呑み込んでしまった。目の前で微笑みを浮かべる気の優しい少女はあの凶暴なムササビンガーよりも強いと言うのだ。
有栖達にとってはさらなる脅威となる存在が町に現れたことになる。
気の優しい上級悪霊を自称する少女は気にすることなく、気さくに話しかけてきた。
「そう驚かなくてもいいですよ。わたし達は悪霊と呼ばれている者同士、仲間なんですから」
「そ……そうじゃな」
「この町は今悪霊達の間で人気のスポットだと聞いて来たんですが……」
少女の視線が神社の外を見る。その方向は有栖達の向かった方向だった。
「少しうるさい人達がいるようですね。あれぐらいの力ならわたしでも対処が出来そうです。こらしめてきますから待っていてください」
「え? ちょ」
風が舞い、少女の背に大きな純白の翼が広がった。その姿はジーネスの目にはまるで天使のように見えた。
だが、上級悪霊だ。上級悪霊の天使が今目の前にいた。
彼女は優しいその顔に暖かな微笑みを浮かべて手を振って、空へと飛び立っていった。有栖達の向かった方角へと向かって飛んでいく。
ジーネスにはもう留守番をしている余裕は無くなっていた。
中級ならまだ勝てるだろうが、上級と戦うのはさすがにやばい。
「有栖……!」
今のジーネスは飛ぶことも出来ず、急いで走って追いかけることしか出来なかった。
周囲には他にもついてきた下級悪霊達が大勢いる。みんな強い者について利益を得ようと考えているのだ。
昼から悪霊達で賑わう遊園地。閉鎖されたその場所に人の姿はない
転がっている瓦礫の一つをムササビンガーはたいして興味も無さそうに蹴飛ばした。
「ここがこの町の悪霊王がいた場所か」
「はい、そうでやんす」
案内をしてきたこの町のカワウソの姿をした下級悪霊が答える。彼は調子よく強い者に一番に取り入ろうとしていた。
ムササビンガーはつまらなそうに鼻を鳴らし、かつてはハムスターの形をしていた崩れた塔を見上げた。
「玉座としてはくだらねえ場所だが、大きな戦いがあった場所のようだな」
ムササビンガーは振り返り、宣言した。
「決めたぜ、ここを僕の城にする! ここから僕の支配を始める!」
その力強い宣言に周囲の下級悪霊達が湧きたった。
自信たっぷりに拳を握るムササビンガーに下級悪霊のカワウソは恐る恐る進言した。
「恐れながら、あの巫女に勝つ策があるので?」
「お前、僕に何の策も無いと思っているのか?」
格上の中級悪霊からじろりと睨まれ、カワウソは身を震わせて縮こまった。
「いえ……ぜひ、お聞かせていただければありがたいかなと」
「ここにこんなに大勢の悪霊達が集まってくれているじゃねえか!」
ムササビンガーは大きく両手を振った。観客のように下級悪霊達はざわめきで答えた。
確かにその場所には大勢の悪霊達が集まっていた。だが、みんな下級だ。
たいした戦力にはならないだろうが、ムササビンガーはその力に期待しているようだった。
「ゴミみてえな奴らばかりだが力を合わせれば2倍、いや1.5倍ぐらいにはなるだろう。それぐらいの力があればあの巫女を踏みつぶすことは可能のはずだ」
「具体的にはどうするので?」
何しろ下級悪霊にはたいして知能も無いのだ。協調や作戦など期待するだけ無駄だと自分は少しは出来る下級だと信じるカワウソは思うのだが。
ムササビンガーは凶暴な暴君の目付きをして小さなカワウソを見下ろしてきた。
「お前、今まで僕のしてきたことを見ていなかったのか?」
「いや、してきたことと言われても」
「力を合わせると言ったら決まっているだろうが!」
「ひっ」
その瞬間、ムササビンガーの強靭な手がカワウソの小さな体を掴んでいた。かつてのカマイタチの兄弟のことを思い出して、カワウソは自分の身を震わせた。彼は助かろうと必死にもがいて叫んだ。
「待ってください! わたしは役に立っているでしょう!?」
「ああ、だからお前には今度も一番に役に立ってもらうぜ!」
「そんなああ! うわあああ!」
カワウソの小さな体が呑み込まれていく。ムササビンガーの大きな口の中に。口を閉じるとそこにあったのは静かな景色だった。
調子の良いカワウソの姿はもうこの世のどこにも無かった。
恐怖はすぐに周囲の下級悪霊達に伝わって、彼らは散り散りに逃げ始めた。
ムササビンガーは静かにそちらを見やった。
「お前ら、僕と追いかけっこが出来ると思っているのかよ!」
地響きを立ててムササビンガーが走っていく。逃げ足の遅い下級悪霊達は次々と捕まえられ、その口に放り込まれていった。
物陰に隠れる下級悪霊もいたが、ムササビンガーはその気配を見逃さなかった。
「かくれんぼならもっと上手く隠れろよな!」
ムササビンガーの手から光の糸が伸ばされる。その霊力の糸はどんな隙間にも潜り込み、次々と下級悪霊達の体を絡めとっていった。
ムササビンガーの元に引きずられながら、下級悪霊達は必死の懇願を行った。
「待ってください!」
「私達は悪霊の仲間じゃないですか!」
「力になります! ですから!」
「そうだよ! だから、お前達はただ黙って僕の力になっていればいいんだよ!!」
「「「うわああああ!!」」」
下級悪霊達は次々と口に放り込まれていく。その度にムササビンガーの霊力は少しづつ上がっていった。何度目かの食事を終えてムササビンガーは口元を拭った。
「やっと、1.2倍といったところか? まだ足りねえなあ!!」
さらなる餌に向かってムササビンガーは再び走る。次々と遊園地のあちこちに逃げる下級悪霊達を捕まえて、その力を自分の物にしていった。
かつて悪霊王のいた土地で下級悪霊達の悲鳴が響き渡り、ムササビンガーは高らかに笑い声を上げた。
「フハハッ! 僕がこの町の! 王だああああっ!!」
下級悪霊達は逃げることも出来ず、ただ一方的に蹂躙されていった。
ムササビンガーは次々と下級悪霊達を捕まえてたいらげていく。
早く巫女達に祓われていた方がよっぽどマシだった。そう思える景色がそこには広がっていた。
人の去った境内は静かになった。伏木乃神社は平和だが、空虚な静寂に包まれていた。
平日の今日は神社に参拝に来る人の姿もない。
「また寂しくなったな……」
神社で仕事をする気にもなれず、ジーネスは一人でぼうっと神社の入り口にある鳥居を眺めていた。
そんな時、
ジャランジャラン。
不意に神社の鈴の音が鳴った。続いて手を打ち合わせる音がする。
ジーネスは振り返る。全く気が付かなかったが、いつの間にか神社に参拝客が来ていた。
他に見る物も無いので、ジーネスはついその参拝客の後ろ姿をじっと見つめてしまった。
祈っている人は白い綺麗な長い髪をした少女だった。控えめで涼し気な洋服を着ていて、旅の途中で気まぐれで神社に立ち寄ったお嬢さんといった印象を受けた。
神社は人気が無く静かだったので、彼女の祈っていた声も風に乗って聞こえてしまった。
「良い住処が見つかりますように」
どこか引っ越し先を探しているのだろうか。祈りを終えた彼女は振り返って近づいてきた。
温厚そうで上品な優しい顔立ちをしている。前髪を留めている白い鳥を象った髪留めが印象的だった。
襲ってくる様子は無かったが、ジーネスは緊張して背筋を伸ばしてしまった。
きっとこの神社の人だと思われている。どんな質問が来ても答えるつもりでジーネスは身構えた。
少女は立ち止まると、にこやかな顔で優しい声を掛けてきた。
「あなた、悪霊ですよね?」
「え……!?」
思わぬ言葉に絶句してしまう。
ここへ来てから面と向かって悪霊と言われたのは始めてだったので、ジーネスはびっくりしてしまった。
すぐに思いついたのは自分のことを悪霊だと言って襲ってきたハンターだった。彼女もその一味なのだろうか。
ジーネスはやばいと思ったが、少女は苦笑したような笑みを浮かべただけだった。
「安心してください。わたしも悪霊って呼ばれてるんですよ」
「なんじゃ、同業者の方だったか……」
ジーネスはほっと安堵の息を吐いた。
そして、こんな綺麗で上品な少女でも悪霊と呼ばれているのかと憐れむ仲間意識を持ってしまった。
少女は気にせず笑って言う。
「本当にあの人達って困りますよね。人のことを悪霊なんて呼んで襲ってきたりするんです。わたし達は静かに暮らしたいだけなのに」
「まったくじゃ。わらわも酷い目にあった」
お互いに気持ちを吐露し合う。同じ体験をした者同士、共感を抱いてしまった。
少女の視線がじっとジーネスを見た。
「どうかしたか?」
「わたしって人を見る目はあるつもりなんです。あなたは見たところ……うん、下級でしょうか」
「お前は?」
別に下級でも何でもいい。襲ってくる面倒な奴らさえいなければ。ジーネスが訊ね返すと、少女は朗らかに笑った。
「フフ、何級に見えますか?」
そう言われても、霊力を計る基準の分からないジーネスにはさっぱり分からない。
彼女は計ってみろと言わんばかりに両手を広げ、くるりと回って見せた。
白い髪とスカートが軽やかにふわりと舞った。少女は動きを止めて、どうぞと両手を出して答えを促してきた。
だが、ジーネスにはどう見ても、彼女はただの気の良い旅の少女にしか見えなかった。
「はい、時間切れ」
彼女が指先をパチンと弾いて言ったので、ジーネスも計るのを止めた。少女は上品に行儀よく姿勢を正して、にこやかに宣言した。
「じゃあ、答えを発表しますね」
「おお、答えがあるのか。ありがたい」
ジーネスは期待に満ちた目をして答えの発表を待ってしまった。
白い優しい少女はいじわるをすることもなく、親切にすぐに教えてくれた。
「わたしは上級悪霊です。まあ、人間の呼び方なんてどうでもいいかもしれませんが」
「上級……!」
ジーネスは思わず言葉を呑み込んでしまった。目の前で微笑みを浮かべる気の優しい少女はあの凶暴なムササビンガーよりも強いと言うのだ。
有栖達にとってはさらなる脅威となる存在が町に現れたことになる。
気の優しい上級悪霊を自称する少女は気にすることなく、気さくに話しかけてきた。
「そう驚かなくてもいいですよ。わたし達は悪霊と呼ばれている者同士、仲間なんですから」
「そ……そうじゃな」
「この町は今悪霊達の間で人気のスポットだと聞いて来たんですが……」
少女の視線が神社の外を見る。その方向は有栖達の向かった方向だった。
「少しうるさい人達がいるようですね。あれぐらいの力ならわたしでも対処が出来そうです。こらしめてきますから待っていてください」
「え? ちょ」
風が舞い、少女の背に大きな純白の翼が広がった。その姿はジーネスの目にはまるで天使のように見えた。
だが、上級悪霊だ。上級悪霊の天使が今目の前にいた。
彼女は優しいその顔に暖かな微笑みを浮かべて手を振って、空へと飛び立っていった。有栖達の向かった方角へと向かって飛んでいく。
ジーネスにはもう留守番をしている余裕は無くなっていた。
中級ならまだ勝てるだろうが、上級と戦うのはさすがにやばい。
「有栖……!」
今のジーネスは飛ぶことも出来ず、急いで走って追いかけることしか出来なかった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
『元』魔法少女デガラシ
SoftCareer
キャラ文芸
ごく普通のサラリーマン、田中良男の元にある日、昔魔法少女だったと言うかえでが転がり込んで来た。彼女は自分が魔法少女チームのマジノ・リベルテを卒業したマジノ・ダンケルクだと主張し、自分が失ってしまった大切な何かを探すのを手伝ってほしいと田中に頼んだ。最初は彼女を疑っていた田中であったが、子供の時からリベルテの信者だった事もあって、かえでと意気投合し、彼女を魔法少女のデガラシと呼び、その大切なもの探しを手伝う事となった。
そして、まずはリベルテの昔の仲間に会おうとするのですが・・・・・・はたして探し物は見つかるのか?
卒業した魔法少女達のアフターストーリーです。
平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。
平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。
家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。
愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる