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第二章 真理亜と古の王サラマンディア
第40話 宿命の対決
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戦いは長く続いた。だが、どんな時にも終わりは訪れる。それは外から訪れた。
「まだ決着を付けていなかったのか」
「きっとあたし達の為に残しておいてくれたんだよ」
辰也と箒がやってきた。それに他の町の魔物達も駆けつけた。気が付くと骨トカゲ兵の軍団が片付いていて、周囲には町の魔物達がやってきていた。
多くの魔物が現れて真理亜は警戒して動きを止めた。一人立ち尽くす王に向かってひかりは言った。
「わたし達の勝ちね」
「そのようだな」
さすがの彼も観念したのか、サラマンディアは手に持っていた大剣を地面の中に沈めて納めた。
戦いは終わったのだろうか。いや、まだだった。この状況にあっても古の王は諦めてはいなかった。サラマンディアは不二に向かって声を張り上げた。
「フェニックス! 我が配下達を甦らせよ! お前の再生の能力でな!」
場に一瞬にして緊張が走った。この戦いは確かに勝てた。サラマンディアもそれを認めた。
だが、まだ第一ラウンドに過ぎない。サラマンディアはさらに第二ラウンドを始めようとしている。余興を続けるつもりでいる。
また骨トカゲ兵の軍団が蘇れば今の疲れ切った町のみんなでは太刀打ち出来るか分からない。
近くにいる紫門は止めようとする。だが、彼が動くまでもなく不二は動かなかった。その顔には深い苦悩があった。
「私は……」
「何をしている! 王が命令しているのだぞ!」
「くっ……」
不二が思い通りに行動しないと見て、サラマンディアはつまらなそうに舌打ちした。
「やはり生者は使えんな。あいつも殺しておくべきだったか。二度目は無いぞ」
サラマンディアが手に青い炎を宿す。それを周囲に向かって解き放った。炎は落ちた先から地面に広がり、骨トカゲの兵達は再び立ち上がった。
ひかりは緊張に息を呑みながら言う。
「やってもらわなくても自分で出来るんじゃない」
「お前は臣下の仕事を王にやれと言うのか?」
この期に及んでも傲慢な上から目線。サラマンディアの態度は変わらない。上からひかりを見下ろしてくる。
「ちょうどいい。今の王などと戯言をほざく貴様に真の王の矜持というものを教えてやろう」
サラマンディアは攻撃に出ようとした真理亜を殴り飛ばし、続けてひかりに腕を振るってきた。
さすがの真理亜でも数多く現れた魔物を警戒しながらではサラマンディアの動きに対処出来なかった。あれは味方だから心配はいらないと言えれば良いのだが、闇のハンターをしている彼女に話すのはリスクが高すぎた。ひかりも嫌われたくない。
ワンテンポ遅れた分、不意を打たれながらもひかりは何とか防御できたが距離が開いてしまった。
サラマンディアは自分の身を包む黒いマントを脱ぎ棄て、両腕を広げて宣言した。
「我が民達よ! 王の元に集結せよ!」
「いかん! しゃがめ!」
辰也の指示にみんなが従った。骨の兵士達が浮き上がり、一斉にサラマンディアの元に集結していく。立ったままだと骨の濁流に呑み込まれていた。
骨は高く長く積み上がり、サラマンディアの姿は巨大な宙を泳ぐ蛇の姿へと変貌していった。その圧倒的な空を統べるかのような巨大な姿にみんなが息を呑んだ。
サラマンディアは不気味に語った。
「見たか、これこそが王のあるべき姿。王の為に民が一体となって全てを捧げる。理想の国の形というものよ」
「こんなものが理想のはずがない!」
「お前もすぐに理解することになる。死してここに一体となることで」
サラマンディアはすぐには掛かってこなかった。彼の目はひかりから不二の方へと向けられた。
「何をしている? お前もここに来て我に力を貸さんか」
「私は……あなたの部下になった覚えはない!」
「使えん奴だ。二度目はないと言ったはずだ。死して我の物となれ!」
巨大な骨の大蛇と化したサラマンディアが突っ込んでくる。この大質量の攻撃を受ければ彼とて無事では済まないだろう。だが、不二は黙ってそれを受け入れる態度を見せた。
「私にはもう何も分かりません。後は好きになさってください」
「駄目!」
だが、その大質量を止めた存在がいた。ヴァンパイアだ。他の誰にも出来なくても、チート能力者ならばこれが出来た。
ひかりはサラマンディアの突撃を止めながら背後に庇った不二に言った。
「わたしにも分からないことがあった。どうすればいいんだろうって迷ったことも。でも、今なら分かることもある!」
「ひかりさん……」
「民が分かる必要はない。全ては王が決めること。ここに死して集え」
「うるさい! だから、わたしが言えた立場じゃないけど不二さんは生きて! ここから! 続けて!」
ひかりは剣を振り上げる。突進を阻まれてサラマンディアが上昇する。ひかりも追って飛翔した。空が戦いの舞台だ。ここからは1対1。
ひかりはそう思っていたが、ここには他にも戦う者がいた。
「ヴァンパイア! 逃がさない!」
「真理亜!?」
真理亜はサラマンディアの体にワイヤーのフックを引っ掛けていた。それを巻き取って蛇の胴体の上まで上昇してきた。
彼女はヴァンパイアを追ってきたハンターだ。味方では無かった。
「今夜こそ決着を付けてやるわ。やああああ!」
縦横無尽に動く骨の足場の上では重い武器は扱いきれない。真理亜は軽くて細い白銀のレイピアを突き出して襲ってきた。
チート能力者には足場の悪さなんて関係ない。ひかりは双剣で応戦するが、真理亜の霊力で強化された白銀のレイピアは叩き折れなかった。
さらにレイピアの刀身から霊力の聖炎が伸びてくるので、距離が掴みにくく剣にまで炎が絡もうとしてくる。見た目以上にやっかいな真理亜の武器だった。
うねるサラマンディアの長い胴体の上でヴァンパイアとハンターの二人の戦いが繰り広げられる。
サラマンディアは体を回転させて振り落とそうとするが、真理亜もひかりも足場の骨をしっかりと掴んで離れなかった。
骨の胴体から針が飛び出し、襲ってくる。さらに骨トカゲ兵の上体がゾンビのように浮かび上がって掴み掛かってくる。迸る赤い光線。
ひかりも真理亜も華麗に避けながらお互いの敵に立ち向かう。骨を粉砕して迫る真理亜の投げた十字架をひかりは剣で弾き返す。足場が悪いのもあって前ほどの威力はないが、隙が出来てしまった。
「ヴァンパイア!」
一瞬にして距離を詰めてきた真理亜の突き出す白銀のレイピアをひかりは何とか双剣で次々と跳ね返してバク転して距離を取った。サラマンディアの身を捻る動きで体勢が崩れそうになるのをお互いに何とか耐える。
真理亜は空間に空けた穴からクナイのような別の武器を取り出して地面に突き刺した。それを通してサラマンディアの胴体に霊力を流し込む。
「静かに飛びなさいよ!」
「ぐわああああ! わずらわしい蠅め!」
ひかりが気を緩める暇も無かった。真理亜は左手を前に出し、そこからフック付きのワイヤーを発射してきた。ひかりの剣が巻き取られてしまう。
ひかりはすぐに剣を地面に突き刺した。剣は抜けるが、ワイヤーは抜けなかった。真理亜は使えなくなったワイヤーをすぐに腕から切り離した。
ヴァンパイアとハンターが対峙する。ひかりは強い視線をぶつけてくる少女に向かって問うた。
「そんなにこのヴァンパイアと決着を付けたいわけ?」
「あなたを倒さないとお兄ちゃんがこの町から解放されないのよ」
「兄のために?」
「勘違いしないで。家の名誉のためよ!」
真理亜がレイピアを構える。ひかりも剣を構えた。ヴァンパイアとハンターの対決。だが、第三者はその宿命の対決を続けさせてはくれなかった。
サラマンディアが動きを変えた。地上に向かって頭から急降下していった。その先にあるのは町を貫く大きな河川。サラマンディアは頭からその中に突っ込んでいった。
大きな水しぶきを上げ、長い巨大な蛇が川を遡って驀進していく。押しのけられる水が左右の堤防に向かって盛大に跳ね上げられていく。大きな橋が近づいてくる。
「がぼぼぼぼぼ」
乱暴に川の水の中で翻弄されて真理亜はよくしがみついて耐えていたが、やはりどれだけ鍛えていても普通の人間だった。
水の中でチート能力者ならばある程度は耐えられるが、人間はそうではない。
ついに意識を失いかけて離れた真理亜の手をひかりは何とかつかみ取った。
ここに長居は出来ない。ひかりはそのままもうサラマンディアには構わず、すぐに水上へと飛び出し、近くの橋の上へと降り立った。橋の下を通り過ぎていったサラマンディアはそこから空へと再び上昇していった。
橋の上の歩道に、ひかりはそっと真理亜の体を横たえた。かなり参った様子だったが、息はしていたので安心した。
妹がサラマンディアにくっついていたのに気が付いた紫門はすぐにフェニックスの相手を狼牙に押し付け……任せて後を追って走っていた。彼はすぐにこの場所に駆けつけてきた。
「真理亜! 大丈夫なのか!?」
「うん、平気みたい。息はしてる」
「良かった。ひかり、ここはもういい。妹のことは俺に任せてお前はあいつを!」
「分かった!」
ひかりは空へ飛び立った。見上げる紫門の腕の中で真理亜は薄っすらと力無い目を開けた。
「お兄ちゃん、ヴァンパイアは……?」
「行ってしまったよ。勝負はまた今度だな」
「また今度……一緒に学校に……」
真理亜は気を失って眠ってしまった。彼女はよく戦った。そして、もう一人の少女の戦いはまだ続いている。
紫門は妹の体を抱きしめながら、祈る思いで空を見上げた。
「まだ決着を付けていなかったのか」
「きっとあたし達の為に残しておいてくれたんだよ」
辰也と箒がやってきた。それに他の町の魔物達も駆けつけた。気が付くと骨トカゲ兵の軍団が片付いていて、周囲には町の魔物達がやってきていた。
多くの魔物が現れて真理亜は警戒して動きを止めた。一人立ち尽くす王に向かってひかりは言った。
「わたし達の勝ちね」
「そのようだな」
さすがの彼も観念したのか、サラマンディアは手に持っていた大剣を地面の中に沈めて納めた。
戦いは終わったのだろうか。いや、まだだった。この状況にあっても古の王は諦めてはいなかった。サラマンディアは不二に向かって声を張り上げた。
「フェニックス! 我が配下達を甦らせよ! お前の再生の能力でな!」
場に一瞬にして緊張が走った。この戦いは確かに勝てた。サラマンディアもそれを認めた。
だが、まだ第一ラウンドに過ぎない。サラマンディアはさらに第二ラウンドを始めようとしている。余興を続けるつもりでいる。
また骨トカゲ兵の軍団が蘇れば今の疲れ切った町のみんなでは太刀打ち出来るか分からない。
近くにいる紫門は止めようとする。だが、彼が動くまでもなく不二は動かなかった。その顔には深い苦悩があった。
「私は……」
「何をしている! 王が命令しているのだぞ!」
「くっ……」
不二が思い通りに行動しないと見て、サラマンディアはつまらなそうに舌打ちした。
「やはり生者は使えんな。あいつも殺しておくべきだったか。二度目は無いぞ」
サラマンディアが手に青い炎を宿す。それを周囲に向かって解き放った。炎は落ちた先から地面に広がり、骨トカゲの兵達は再び立ち上がった。
ひかりは緊張に息を呑みながら言う。
「やってもらわなくても自分で出来るんじゃない」
「お前は臣下の仕事を王にやれと言うのか?」
この期に及んでも傲慢な上から目線。サラマンディアの態度は変わらない。上からひかりを見下ろしてくる。
「ちょうどいい。今の王などと戯言をほざく貴様に真の王の矜持というものを教えてやろう」
サラマンディアは攻撃に出ようとした真理亜を殴り飛ばし、続けてひかりに腕を振るってきた。
さすがの真理亜でも数多く現れた魔物を警戒しながらではサラマンディアの動きに対処出来なかった。あれは味方だから心配はいらないと言えれば良いのだが、闇のハンターをしている彼女に話すのはリスクが高すぎた。ひかりも嫌われたくない。
ワンテンポ遅れた分、不意を打たれながらもひかりは何とか防御できたが距離が開いてしまった。
サラマンディアは自分の身を包む黒いマントを脱ぎ棄て、両腕を広げて宣言した。
「我が民達よ! 王の元に集結せよ!」
「いかん! しゃがめ!」
辰也の指示にみんなが従った。骨の兵士達が浮き上がり、一斉にサラマンディアの元に集結していく。立ったままだと骨の濁流に呑み込まれていた。
骨は高く長く積み上がり、サラマンディアの姿は巨大な宙を泳ぐ蛇の姿へと変貌していった。その圧倒的な空を統べるかのような巨大な姿にみんなが息を呑んだ。
サラマンディアは不気味に語った。
「見たか、これこそが王のあるべき姿。王の為に民が一体となって全てを捧げる。理想の国の形というものよ」
「こんなものが理想のはずがない!」
「お前もすぐに理解することになる。死してここに一体となることで」
サラマンディアはすぐには掛かってこなかった。彼の目はひかりから不二の方へと向けられた。
「何をしている? お前もここに来て我に力を貸さんか」
「私は……あなたの部下になった覚えはない!」
「使えん奴だ。二度目はないと言ったはずだ。死して我の物となれ!」
巨大な骨の大蛇と化したサラマンディアが突っ込んでくる。この大質量の攻撃を受ければ彼とて無事では済まないだろう。だが、不二は黙ってそれを受け入れる態度を見せた。
「私にはもう何も分かりません。後は好きになさってください」
「駄目!」
だが、その大質量を止めた存在がいた。ヴァンパイアだ。他の誰にも出来なくても、チート能力者ならばこれが出来た。
ひかりはサラマンディアの突撃を止めながら背後に庇った不二に言った。
「わたしにも分からないことがあった。どうすればいいんだろうって迷ったことも。でも、今なら分かることもある!」
「ひかりさん……」
「民が分かる必要はない。全ては王が決めること。ここに死して集え」
「うるさい! だから、わたしが言えた立場じゃないけど不二さんは生きて! ここから! 続けて!」
ひかりは剣を振り上げる。突進を阻まれてサラマンディアが上昇する。ひかりも追って飛翔した。空が戦いの舞台だ。ここからは1対1。
ひかりはそう思っていたが、ここには他にも戦う者がいた。
「ヴァンパイア! 逃がさない!」
「真理亜!?」
真理亜はサラマンディアの体にワイヤーのフックを引っ掛けていた。それを巻き取って蛇の胴体の上まで上昇してきた。
彼女はヴァンパイアを追ってきたハンターだ。味方では無かった。
「今夜こそ決着を付けてやるわ。やああああ!」
縦横無尽に動く骨の足場の上では重い武器は扱いきれない。真理亜は軽くて細い白銀のレイピアを突き出して襲ってきた。
チート能力者には足場の悪さなんて関係ない。ひかりは双剣で応戦するが、真理亜の霊力で強化された白銀のレイピアは叩き折れなかった。
さらにレイピアの刀身から霊力の聖炎が伸びてくるので、距離が掴みにくく剣にまで炎が絡もうとしてくる。見た目以上にやっかいな真理亜の武器だった。
うねるサラマンディアの長い胴体の上でヴァンパイアとハンターの二人の戦いが繰り広げられる。
サラマンディアは体を回転させて振り落とそうとするが、真理亜もひかりも足場の骨をしっかりと掴んで離れなかった。
骨の胴体から針が飛び出し、襲ってくる。さらに骨トカゲ兵の上体がゾンビのように浮かび上がって掴み掛かってくる。迸る赤い光線。
ひかりも真理亜も華麗に避けながらお互いの敵に立ち向かう。骨を粉砕して迫る真理亜の投げた十字架をひかりは剣で弾き返す。足場が悪いのもあって前ほどの威力はないが、隙が出来てしまった。
「ヴァンパイア!」
一瞬にして距離を詰めてきた真理亜の突き出す白銀のレイピアをひかりは何とか双剣で次々と跳ね返してバク転して距離を取った。サラマンディアの身を捻る動きで体勢が崩れそうになるのをお互いに何とか耐える。
真理亜は空間に空けた穴からクナイのような別の武器を取り出して地面に突き刺した。それを通してサラマンディアの胴体に霊力を流し込む。
「静かに飛びなさいよ!」
「ぐわああああ! わずらわしい蠅め!」
ひかりが気を緩める暇も無かった。真理亜は左手を前に出し、そこからフック付きのワイヤーを発射してきた。ひかりの剣が巻き取られてしまう。
ひかりはすぐに剣を地面に突き刺した。剣は抜けるが、ワイヤーは抜けなかった。真理亜は使えなくなったワイヤーをすぐに腕から切り離した。
ヴァンパイアとハンターが対峙する。ひかりは強い視線をぶつけてくる少女に向かって問うた。
「そんなにこのヴァンパイアと決着を付けたいわけ?」
「あなたを倒さないとお兄ちゃんがこの町から解放されないのよ」
「兄のために?」
「勘違いしないで。家の名誉のためよ!」
真理亜がレイピアを構える。ひかりも剣を構えた。ヴァンパイアとハンターの対決。だが、第三者はその宿命の対決を続けさせてはくれなかった。
サラマンディアが動きを変えた。地上に向かって頭から急降下していった。その先にあるのは町を貫く大きな河川。サラマンディアは頭からその中に突っ込んでいった。
大きな水しぶきを上げ、長い巨大な蛇が川を遡って驀進していく。押しのけられる水が左右の堤防に向かって盛大に跳ね上げられていく。大きな橋が近づいてくる。
「がぼぼぼぼぼ」
乱暴に川の水の中で翻弄されて真理亜はよくしがみついて耐えていたが、やはりどれだけ鍛えていても普通の人間だった。
水の中でチート能力者ならばある程度は耐えられるが、人間はそうではない。
ついに意識を失いかけて離れた真理亜の手をひかりは何とかつかみ取った。
ここに長居は出来ない。ひかりはそのままもうサラマンディアには構わず、すぐに水上へと飛び出し、近くの橋の上へと降り立った。橋の下を通り過ぎていったサラマンディアはそこから空へと再び上昇していった。
橋の上の歩道に、ひかりはそっと真理亜の体を横たえた。かなり参った様子だったが、息はしていたので安心した。
妹がサラマンディアにくっついていたのに気が付いた紫門はすぐにフェニックスの相手を狼牙に押し付け……任せて後を追って走っていた。彼はすぐにこの場所に駆けつけてきた。
「真理亜! 大丈夫なのか!?」
「うん、平気みたい。息はしてる」
「良かった。ひかり、ここはもういい。妹のことは俺に任せてお前はあいつを!」
「分かった!」
ひかりは空へ飛び立った。見上げる紫門の腕の中で真理亜は薄っすらと力無い目を開けた。
「お兄ちゃん、ヴァンパイアは……?」
「行ってしまったよ。勝負はまた今度だな」
「また今度……一緒に学校に……」
真理亜は気を失って眠ってしまった。彼女はよく戦った。そして、もう一人の少女の戦いはまだ続いている。
紫門は妹の体を抱きしめながら、祈る思いで空を見上げた。
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