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第二章 真理亜と古の王サラマンディア
第33話 旅人との再会
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町の魔物の王者として、自分は町に訪れようとしている危機に対して何かをしなければならない。
そうは言っても自分は何をすればいいのだろう。ひかりはじっと考える。
当然だけど敵が現れなければ斬って吹っ飛ばすことは出来ない。
特撮の怪人みたいに勝手に町に現れて暴れてくれれば都合がいいのだが。そんなことを思ってしまうのも不謹慎か。
何も起きないならそれがいい。
祖父から話を聞いて身構えてみたものの、町はいつも通り平和その物だ。何か暴動や反乱が起きそうな気配はない。
敵の出現には期待できそうにないので、ひかりはパトロールと称して自転車に乗って町をぶらついてみることにした。
そうすることで自分の役目はきちんと果たしていますよという満足感を得られることに期待して。
まずは現場を調査だ。昨日、骨トカゲ兵の集団が暴れていた場所に行ってみる。
昨日飛んでいった場所は、自転車に乗ってもすぐに着くことが出来た。わりと近所だ。
壊されてひっくり返されていた車はもう撤去されたのか無くなっていて、業者によって壊れた場所の修理が行われていた。
現場は工事の関係者以外は立ち入り禁止にされているし、交通整理で忙しそうな知らない大人に話を聞く勇気も無かったので、ここで得られる情報は何も無さそうだった。
さっと見た感じ警察官は来ていなくて、昨日のあれはあまり事件にはなっていないようだった。これも霧の力によるものなのだろうか。
調査終わり、行く場所が無くなった。
このまま帰るのも早すぎる気がするのでもう少し町をぶらついてみることにした。自転車で道を走っていく。
走っていて目につくのがやっぱりヴァンパイアを宣伝するのぼりや旗だった。似顔絵が描かれた看板まであった。
ひかりは思わず自分の顔を触ってしまうが、イラストと今の本人の顔はあまり似ていなかったのでひとまず安心して走りを再開する。
もう少し絵に映えるような美少女に生まれたかったと思いながら。
町を自転車で走っていく。知っている人に会わないかなと思っていたら、ちょうど知っている顔を見つけて、ひかりはちょっと驚いて自転車のブレーキを引いて止まった。
相手もこちらを見つけて少し驚いた顔を見せた。
「あなたはあの時の」
「お久しぶりです、不二さん」
優しい顔をしたその青年は前にひかりが町を紹介した旅人だった。
この町は気に入ってもらえたのだろうか。ひかりは外の人から見た町の様子が気になって訊ねた。相手の態度は好意的だった。
「ええ、町の人達が一体となって盛り上げているような、そんな印象を受けました。この町の人達はみんなヴァンパイアを愛しているのですね」
「はは、まあ。そうみたいですね」
愛しているとまで言われてもひかりは照れて困ってしまう。
外の人から見ても町はヴァンパイアに好意的だと思われているようだ。それもそうかと思っていると、不二は穏やかに訊ねてきた。
「あなたもヴァンパイアが好きなのですか?」
「わたしはあんまりかなあ」
つい正直に答えてしまった。ヴァンパイアになって良かったこともあるけど、どっちかというと思ったより苦労していることの方が多いように思う。
今も町の危機が近づいていて何かしなくちゃと困っているし、ヴァンパイアじゃなければもっと気兼ねなく真理亜やみんなと仲良く出来たはずだ。
自分も野次馬の列の側になりたい。そんな態度が出てしまった。不二は大人びた笑みを浮かべて少女を見ていた。
「そうですか。私もヴァンパイアはあまり好ましいとは思えませんでした。あなたのような人もいて安心しました」
「でも、わたしはこうでもみんなヴァンパイアのことが好きみたいだし。不二さんもヴァンパイアを好きになってくれるとわたしも嬉しいかな」
「ええ、考えてみますね」
真理亜のような人もいるから、みんながヴァンパイアを好きになるほど甘くはないんだなと思う。でも、出来れば仲良くしたいとひかりは思う。
あんなでも自分だし。あまり注目されて持ち上げられても困ってしまうが。
そうして少し話をして、ひかりはヴァンパイアとは別の事を彼に訊ねることにした。
「不二さんはまだ何かを調べているんですか? ヴァンパイアの祭りはもう終わってしまいましたけど」
「はい、これはあなたに言って分かる事かは分かりませんが……ふう、地元の人間に訊くのも一つの手ですね」
そう考えるように前置きして、不二は真面目で真っすぐな瞳をして言ってきた。彼は真剣にこの町の事を研究しているんだなと思える瞳だった。彼は言う。
「闇の傷跡を探しているんですよ」
「闇の傷跡?」
ひかりには全く聞いた覚えのない言葉だった。祖父に訊いたら分かるかもしれないが、軽く町で出会った雑談程度のことで祖父に電話するのは何だか大袈裟すぎると思った。
彼の個人的な研究に首を突っ込むのも邪魔になりそうで気が進まないし、ひかりよりずっと大人で物を知っていそうな彼なら何もしなくても答えに行きつくだろう。
この町にはひかりより物を知っている人は大勢いる。
考え込んでしまったひかりが知らないと見て、不二は教えるように言ってきた。
「闇の傷跡は過去にこの町で戦いのあった名残で目には見えにくいんですが、町の各所にあると言われています。いくつかは見つけたんですが……」
「いくつかは見つけたんだ。うーん、ごめんなさい。分かりません」
ひかりが正直に答えると、不二はあまり落胆した風もなく言った。優しい気配りの出来る大人の青年だった。
「いえ、こちらこそ女の子に無理を言いました。この町に来て良いことはあまりありませんでしたが、あなたと話せたことは良かったと思います」
「はい、わたしも不二さんと話せて楽しかったです」
それはひかりの本心だった。町の外から来た優しい青年だから、近くにいる人や同年代より逆に話しやすかったのかもしれない。
一礼して去っていく旅人をひかりは明るい気分になって見送った。
「さて、わたしも何か見つけないとなあ」
再び自転車に乗って走っていく。町は広くて平穏で、特に魔物が絡んでいそうな何かが起こりそうな騒ぎの元凶のような物は何も見つけられなかった。
そうは言っても自分は何をすればいいのだろう。ひかりはじっと考える。
当然だけど敵が現れなければ斬って吹っ飛ばすことは出来ない。
特撮の怪人みたいに勝手に町に現れて暴れてくれれば都合がいいのだが。そんなことを思ってしまうのも不謹慎か。
何も起きないならそれがいい。
祖父から話を聞いて身構えてみたものの、町はいつも通り平和その物だ。何か暴動や反乱が起きそうな気配はない。
敵の出現には期待できそうにないので、ひかりはパトロールと称して自転車に乗って町をぶらついてみることにした。
そうすることで自分の役目はきちんと果たしていますよという満足感を得られることに期待して。
まずは現場を調査だ。昨日、骨トカゲ兵の集団が暴れていた場所に行ってみる。
昨日飛んでいった場所は、自転車に乗ってもすぐに着くことが出来た。わりと近所だ。
壊されてひっくり返されていた車はもう撤去されたのか無くなっていて、業者によって壊れた場所の修理が行われていた。
現場は工事の関係者以外は立ち入り禁止にされているし、交通整理で忙しそうな知らない大人に話を聞く勇気も無かったので、ここで得られる情報は何も無さそうだった。
さっと見た感じ警察官は来ていなくて、昨日のあれはあまり事件にはなっていないようだった。これも霧の力によるものなのだろうか。
調査終わり、行く場所が無くなった。
このまま帰るのも早すぎる気がするのでもう少し町をぶらついてみることにした。自転車で道を走っていく。
走っていて目につくのがやっぱりヴァンパイアを宣伝するのぼりや旗だった。似顔絵が描かれた看板まであった。
ひかりは思わず自分の顔を触ってしまうが、イラストと今の本人の顔はあまり似ていなかったのでひとまず安心して走りを再開する。
もう少し絵に映えるような美少女に生まれたかったと思いながら。
町を自転車で走っていく。知っている人に会わないかなと思っていたら、ちょうど知っている顔を見つけて、ひかりはちょっと驚いて自転車のブレーキを引いて止まった。
相手もこちらを見つけて少し驚いた顔を見せた。
「あなたはあの時の」
「お久しぶりです、不二さん」
優しい顔をしたその青年は前にひかりが町を紹介した旅人だった。
この町は気に入ってもらえたのだろうか。ひかりは外の人から見た町の様子が気になって訊ねた。相手の態度は好意的だった。
「ええ、町の人達が一体となって盛り上げているような、そんな印象を受けました。この町の人達はみんなヴァンパイアを愛しているのですね」
「はは、まあ。そうみたいですね」
愛しているとまで言われてもひかりは照れて困ってしまう。
外の人から見ても町はヴァンパイアに好意的だと思われているようだ。それもそうかと思っていると、不二は穏やかに訊ねてきた。
「あなたもヴァンパイアが好きなのですか?」
「わたしはあんまりかなあ」
つい正直に答えてしまった。ヴァンパイアになって良かったこともあるけど、どっちかというと思ったより苦労していることの方が多いように思う。
今も町の危機が近づいていて何かしなくちゃと困っているし、ヴァンパイアじゃなければもっと気兼ねなく真理亜やみんなと仲良く出来たはずだ。
自分も野次馬の列の側になりたい。そんな態度が出てしまった。不二は大人びた笑みを浮かべて少女を見ていた。
「そうですか。私もヴァンパイアはあまり好ましいとは思えませんでした。あなたのような人もいて安心しました」
「でも、わたしはこうでもみんなヴァンパイアのことが好きみたいだし。不二さんもヴァンパイアを好きになってくれるとわたしも嬉しいかな」
「ええ、考えてみますね」
真理亜のような人もいるから、みんながヴァンパイアを好きになるほど甘くはないんだなと思う。でも、出来れば仲良くしたいとひかりは思う。
あんなでも自分だし。あまり注目されて持ち上げられても困ってしまうが。
そうして少し話をして、ひかりはヴァンパイアとは別の事を彼に訊ねることにした。
「不二さんはまだ何かを調べているんですか? ヴァンパイアの祭りはもう終わってしまいましたけど」
「はい、これはあなたに言って分かる事かは分かりませんが……ふう、地元の人間に訊くのも一つの手ですね」
そう考えるように前置きして、不二は真面目で真っすぐな瞳をして言ってきた。彼は真剣にこの町の事を研究しているんだなと思える瞳だった。彼は言う。
「闇の傷跡を探しているんですよ」
「闇の傷跡?」
ひかりには全く聞いた覚えのない言葉だった。祖父に訊いたら分かるかもしれないが、軽く町で出会った雑談程度のことで祖父に電話するのは何だか大袈裟すぎると思った。
彼の個人的な研究に首を突っ込むのも邪魔になりそうで気が進まないし、ひかりよりずっと大人で物を知っていそうな彼なら何もしなくても答えに行きつくだろう。
この町にはひかりより物を知っている人は大勢いる。
考え込んでしまったひかりが知らないと見て、不二は教えるように言ってきた。
「闇の傷跡は過去にこの町で戦いのあった名残で目には見えにくいんですが、町の各所にあると言われています。いくつかは見つけたんですが……」
「いくつかは見つけたんだ。うーん、ごめんなさい。分かりません」
ひかりが正直に答えると、不二はあまり落胆した風もなく言った。優しい気配りの出来る大人の青年だった。
「いえ、こちらこそ女の子に無理を言いました。この町に来て良いことはあまりありませんでしたが、あなたと話せたことは良かったと思います」
「はい、わたしも不二さんと話せて楽しかったです」
それはひかりの本心だった。町の外から来た優しい青年だから、近くにいる人や同年代より逆に話しやすかったのかもしれない。
一礼して去っていく旅人をひかりは明るい気分になって見送った。
「さて、わたしも何か見つけないとなあ」
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