夜のヴァンパイア

けろよん

文字の大きさ
上 下
32 / 42
第二章 真理亜と古の王サラマンディア

第32話 古の王サラマンディアの伝説

しおりを挟む
 今日の授業も無事に片付いた。学生であるひかりにとって教室でやる事は席について話を聞いてノートを取ることぐらいだったが。
 午後の授業は眠くなって困る。何とか耐えた放課後の解放感がたまらなかった。
 ひかりは真っすぐに帰路につく。家に帰ってくるなり母に呼ばれた。

「ひかり、お爺ちゃんが話があるって」

 何だろうと思って行ってみると、祖父の他にもう一人厳つい顔をした客の老人が来ていて、向かい合ってお互いに将棋を指していた。
 何だか声を掛けられる雰囲気では無かったので、ひかりは黙って正座して将棋の行方を見守った。
 何回かパチンという音を聞いた後、厳つい顔をした老人の方が話しかけてきた。

「昨夜、町で勝手な奴らが暴れていたようだな」
「はい、骨みたいな奴らでした」

 何だか辰也みたいなことを言う人だなと思った。思いながらひかりは続けて補足した。

「この町の魔物では無いようでした」
「いや、奴らはこの町の魔物じゃよ」

 今度は祖父の言った言葉にひかりはびっくりしてしまった。あの場所にいた誰もが奴らは町の魔物ではないと判断したのに祖父はそれをひっくり返したのだ。
 驚くひかりに祖父は言った。長い時を生きる賢人のように。

「だが、今の時代の魔物では無い。ひかりの仲間が知らないのもそれでじゃろう。みんなまだ若いからの。わしもこの町に来た頃に人の話でしか聞いたことが無いが、奴らはおそらく死王サラマンディアの眷属。わしがこの町に来るよりずっと前の時代にこの町を支配していた魔物じゃ。今日はその事をお前に教えておこうと思って呼んだのじゃ。聞いておくか?」
「はい」

 ひかりは姿勢を正して答えた。王として、この町の魔物のことなら聞いておくべきことだった。その場所にクロもやってきて隣に座った。そして、祖父は話し始めた。
 古の時代にこの町を支配していた王、サラマンディアの伝説を。


 かつてこの町に君臨していた王がいた。彼は絶大な力と恐怖でこの町の民達を支配していた。
 誰も彼には逆らえなかった。逆らえばすぐさま処刑されてしまうからだ。誰もが恐怖に怯えながら暮らしていた。
 そんな恐怖政治を強いていたサラマンディア王が興味を持っていたのが死術と呼ばれる術だった。その研究を進めるため、彼は人の命を使って様々な実験を行った。
 王宮に連れていかれて帰ってこなくなる友達や家族。人々の我慢はいつまでもは続かなかった。ついに王宮に向かって反撃の狼煙が上げられた。
 王は人々の意思になど興味を持たなかった。死術によって作り上げた無敵の軍団を差し向け、逆らう民達を皆殺しにした。
 彼にとってはこの反乱すら好都合なことだった。人々の命を手に入れてさらに死術の研究を進めることが出来たのだから。
 彼は従う者にも興味を持たなかった。必要なのは自分の研究の役に立つ道具だけだった。

「それがサラマンディアという王なのじゃ。そして、そんな恐怖に満ちた死の王国もいつしか滅び、後にこの町が出来ることになる」

 ひかりは話を聞きながら身震いしてしまった。あまりにも今の時代の魔物と違いすぎていて恐れを抱いてしまった。
 そんなひかりを見て、客の老人の方が声を掛けてきた。

「恐れるならば辰也に王の座を譲るか? わしはそれが良かれと思ってこの老人に話を通しに来たのだ」
「お前の方が老人じゃろう」

 軽い憎まれ口をたたき合う二人。その頃にはひかりにもこの客人の正体が分かってきていた。ひかりは強い決意を込めて言った。

「大丈夫です、竜帝さん。この町の今の王はわたしです」

 少女ながらも強い眼差し。その目を見て人の姿をした竜帝は軽く笑った。

「さすがはわしに勝っただけのことはある。後はそこにいる老いぼれのように口だけではないことを証明して欲しいものだ」
「はい」

 ひかりは強く答える。老いぼれ呼ばわりされた祖父が冗談めかして相手に不満を述べた。

「わしだってお前に勝ったことがあるぞ」
「もう随分と前のことだ。それに勝負の数ではまだ引き分けだろう? 言っておくが、そこの娘に負けた分は数には入れんぞ」
「ならばここで決着を付けるか? 今度はこの将棋で」
「いいだろう。お前が負けを認めて這いつくばるまでやってやる」

 祖父達がまた将棋を指し始めたので、ひかりは黙ってその場を退室した。
 もう彼らは引退して一線を退いた身だ。今の魔物の問題を解決しないといけないのは、今のひかりの役目だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

ヒツネスト

天海 愁榎
キャラ文芸
人間の想いが形となり、具現化した異形のバケモノ━━『想獣』。 彼らは、人に取り憑き、呪い、そして━━人を襲う。 「━━私と一緒に、『想獣狩り』をやらない?」 想獣を視る事ができる少年、咸木結祈の前に現れた謎の少女、ヒツネ。 二人に待ち受ける、『想い』の試練を、彼ら彼女らは越える事ができるのか!? これは、至って普通の日々。 少年少女達の、日常を描く物語。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

DWバース ―― ねじれた絆 ――

猫宮乾
キャラ文芸
 完璧な助手スキルを持つ僕(朝倉水城)は、待ち望んでいた運命の探偵(山縣正臣)と出会った。だが山縣は一言で評するとダメ探偵……いいや、ダメ人間としか言いようがなかった。なんでこの僕が、生活能力も推理能力もやる気も皆無の山縣なんかと組まなきゃならないのだと思ってしまう。けれど探偵機構の判定は絶対だから、僕の運命の探偵は、世界でただ一人、山縣だけだ。切ないが、今日も僕は頑張っていこう。そしてある日、僕は失っていた過去の記憶と向き合う事となる。※独自解釈・設定を含むDWバースです。DWバースは、端的に言うと探偵は助手がいないとダメというようなバース(世界観)のお話です。【序章完結まで1日数話更新予定、第一章からはその後や回想・事件です】

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...