夜のヴァンパイア

けろよん

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第二章 真理亜と古の王サラマンディア

第26話 家に帰宅

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「では、俺はこっちなんで」
「そう、じゃあまた明日ね」
「はい、師匠。おやすみなさいませ!」

 頭を下げてから立ち去っていく狼牙。帰り道の途中で彼と別れ、ひかりは家に帰宅した。

「ただいまー」

 玄関を上がって階段を昇り自分の部屋へ行く。そこで待っていたのは黒猫のクロだった。
 クロはただの猫じゃない。彼はひかりの使い魔で、ひかりがヴァンパイアの力に目覚めた時に、彼も同時に使い魔として目覚めていた。
 クロは猫の姿で丁寧な日本語を話す。

「お帰りなさいませ、ひかり様。今日は何やら学校の方で騒ぎがあったようですね」
「知ってたの?」
「はい」

 さすが使い魔だ。ただの猫のように家でさぼってくつろいでいたわけではないらしい。感心するひかり。
 クロは言う。礼儀正しい執事のように丁寧な落ち着いた言葉で。

「散歩していたら放送がありまして。何事かと行ってみれば、学校に人が集まっていてあのような騒ぎがありました。後は物陰からこっそり様子を伺っておりました」
「ふーん」

 どうやら町の守り神は来なかったが猫は来たらしい。
 クロもただの野次馬のようだった。情報収集してたんだ偉いねと思って損した。クロが続けて訊いてくる。

「あの女は何者なのですか? 随分とサハギンを痛めつけていたようですが」
「ああ、それはね」

 自分の使い魔に情報を隠しても仕方がない。ひかりは素直に教えておいた。
 真理亜が転校してきたこと、彼女がヴァンパイアと戦いたがっていることを。クロは思案するように少し間をおいてから訊ねてきた。

「それでひかり様は明日の夜に勝負する気でいられるのですか?」
「まあ、挑戦を受けては仕方ないってね。夜ならわたしも困ることは無いし、この町の王として軽く捻りつぶしてあげるよ。真理亜ちゃんを泣かさない程度にね」
「そうですか、頑張ってください」
「それだけ?」

 使い魔として何か助言でもしてくれれば良いと思うのだが。クロはしれっと答える。

「私はその者の実力を知りませんから。ご自分でされた約束でしょう? 私に黙って」
「それはそうだけど」
「大丈夫ですか? その者の実力を舐めすぎているところはありませんか? 相手はあのいけ好かないハンターの妹で、少なくともサハギンを捕らえる実力は持っているのでしょう? 分かっていることと言えば霊的能力があの少年より高いことでしょうか。どんな手段を隠し持っているんでしょうね」
「大丈夫よ。わたしはチート能力者なんだから。どんな小細工も踏みつぶしてざまあしてやるだけよ。さあ、宿題しようっと」

 自分は早まったことなんてしていない。
 猫の生暖かい視線を感じながら、ひかりは今日の学生としての仕事を片付けることにした。



 紫門は家に帰ってきた。
 彼がこの町で暮らしているのは格安のアパートの一室だ。
 闇のハンターの加入している組織に申請すればもっと良い部屋を用意してもらうことも出来ただろうが、相手はあの宿命高いヴァンパイア。
 紫門は誰の手も借りず独自で動くために自分でこの部屋を借りていた。家の手は少し借りたが。
 今では別の意味で正解だったと思う。ヴァンパイアはまだこの町にいるが、組織の余計な介入を受けずに済む。
 ヴァンパイアは今日も学校の隣の席でのんびりと暮らしていた。ハンターである真理亜が来ているのに呑気すぎるぐらいに。誰のために追い返そうとしたのか彼女はきっと理解していないと思う。
 ともあれ町の平和は守られている。
 紫門は安心してテレビを付けて制服の上を脱ぎ、冷蔵庫に入れておいた缶ジュースの最後の一本を取り出しソファに座った。
 するといきなり玄関の扉が勢いよく開いて、紫門は慌てて手に持ったジュースを取り落としそうになってしまった。
 入ってきたのは走ってきたばかりで息を弾ませている少女。とてもよく知っている妹の顔だった。

「ここがお兄ちゃんの暮らしているハウスね!」
「真理亜! お前なんでここに!?」
「家で住所を聞いていたのよ! ここを借りられるように口添えしたのはお父さんでしょう? ちょっと探したけど。あ、あたしの分のジュース~」

 真理亜は鼻歌混じりで部屋に侵入すると、人ん家の冷蔵庫を勝手に開けて物色した。紫門は憤慨して立ち上がった。

「お前、家に来て最初にすることが冷蔵庫を開けることかよ!」
「お兄ちゃん、あたしの分のジュースが無いんだけど」
「用意してるわけないだろ! いきなり来やがって」
「お兄ちゃんの分、分けてよー」
「ちょ、お前。こっちに来るな。うわー」

 真理亜は飛びかかって紫門を押し倒し、その手からジュースを奪ってしまった。
 いたずらっぽく見下ろしてくる実の妹。

「お兄ちゃん、腕が訛ったんじゃないの? ちゃんと練習してる?」
「妹を相手に本気を出さないだけだ。そんなに飲みたいなら飲めよ」
「ごち」

 真理亜は良い笑顔になって、ソファに座ってジュースを飲んだ。紫門は呆れながらもその隣に座った。

「お前、この町ではどこに部屋を借りているんだ?」
「お兄ちゃんのところに住むつもりで来たんだけど」
「まじか。兄妹と言っても男の一人暮らしだぞ?」
「だって料理作るのめんどくさいし」
「寄生する気満々じゃねえか! お前自分でも料理ぐらい作れるだろ?」

 戦う者の基礎知識として、真理亜も紫門も最低限生き抜くための知識として食のことを幼少の頃から叩き込まれていた。
 真理亜はふてくされたように言う。

「出来るけど、お兄ちゃんの方が美味しいし。掃除もしてくれるし。いいでしょ、別に」
「まあ、いいけどよ。俺に迷惑を掛けるなよ」
「ありがと」

 もうすでに妹の中で決まっていることで逆らってもしょうがない。真理亜が折れるはずがない。子供の頃から知っている。
 紫門が諦めて折れると、真理亜は飲み終わった缶を置いて立ち上がった。

「さて、何か面白い物は無いかなあ」

 そして、部屋の中を歩きだした。
 棚を見上げ、カーテンの裏を覗き、ベッドの下を見ようと屈んだところで、紫門は真理亜の頭を急いで引っ張り戻した。

「お前、何を探しているんだよ!」
「ヴァンパイアの資料よ。そういうのこの町でも集めてたんでしょ?」
「お前なあ……」

 紫門は呆れた息を吐きながら、勝手に家探しをした妹に向かって言った。

「資料ならこの前のヴァンパイア祭の時に学校に展示されてたのを見たぞ。お前も見たかったら学校に言えよ。まだ置いてあるかもしれないぞ」
「分かった。そうするわね」

 真理亜は素直に答えてソファに座った。そして、テレビのチャンネルを勝手に代えた。
 これからの生活を思って、紫門は重くため息を吐くのだった。
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