巻き戻った令嬢は王子から全力で逃げる

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光の精霊は淡い光の輪郭を纏う小さな男の子の姿をしていた。アリアンナが手で抱っこ出来そうな大きさだが赤子と言う訳では無い。
10歳前後の男の子の姿をしたお人形さん。金髪で金の瞳を持つ可憐な美少年。そんな感じの可愛らしい姿をしている。

「おぉ、正しく伝承の通り、黄金の瞳に光り輝く星をお持ちだ。」

主教様と司祭二人はそう言うとその場にひれ伏す様に深く頭を垂れ、祈りを捧げる。
そして彼らはふとアリアンナを見た。
アリアンナははっと我に返り慌てて両膝をつく。祈りを捧げなくてはと、とにかくそれだけを考えていた。

「せせ、い、聖女様!どうぞあちらへ」
先程までの真っ青な顔色を更に悪くさせた司祭二人がアリアンナを祭壇のそばに行かれては?と手で示してきた。

行っても良いの?えっ?なぜ私なのかしら?

アリアンナはひとまずどうすべきなのだろうと少し挙動不審な動きをして悩んだ結果、祭壇へと近づく事にした。

祭壇へと歩み寄り、祭壇の上にある大きな水晶の上に浮かぶ精霊を見る。

『精霊樹の選びし聖女よ』

「……えっ?」

澄んだ幼子の声にアリアンナはまさか、と驚き精霊を見た。

『近隣の地に二つの禍が芽吹いた。勇猛なる騎士と叡智なる魔術師によってその芽を摘み、聖女の癒しを大地に与えよ』

「禍?」

「……………聖女様?如何なされましたか?精霊様がもしや何かお言葉を?」

『時が来るまで、私は再び眠りにつく』

その瞬間、フッ、とまるで明かりが消えるように精霊は姿を消した。


主教と司祭二人は残念そうに暫し祭壇を見ていたが、アリアンナに話を聞かねばとアリアンナの方へと向かってくる。

ひれ伏してしまいそうな勢いでアリアンナの足元に司祭二人が跪き、なぜか慌てたように顔を上げて話し出す。

「聖女様、精霊様は何と仰られたのでしょうか!?もしや、もしやあの事を……どうぞお許しを!!私どもは清廉なる儀式を穢してしまいました。聖女様!どうぞお許しを」

無心で唱える様にお許しをと繰り返し出した司祭二人にアリアンナは自らの身を守る様にして一歩後退った。

なんなんだ。

いったいどうしてしまったのか。

アリアンナは困惑して、助けを求める様に主教様を見た。………が。

「おぉ、聖女様。生きているうちにまさか精霊様にお会いできるとは!更には癒しの聖女様にお会いできるなんて。しかし、それなのに、我が教会で不正が行われ──」
「主教様!?落ち着いて下さいませ?」

まずい、なぜかそう感じた。一般の単なる伯爵令嬢如きがこの様な、教会の厄介な場所の厄介そうな人物の厄介極まりない『不正』なるものの自白に関わってはだめだわ。
巻き込まれてしまうに決まっているもの。


アリアンナは盛大に目をさ迷わせた。何とか逃げなくては。そして、漸く見つけた。
「ザック先生!」
今この場で最もアリアンナが頼る事の出来る人物を発見し、その人物目指して縋るように近づく。

「アリアンナ、やはり本物はお前か」
しかし、アリアンナがしがみついたザカリはよく分からない事を呟いたかと思うと移動したアリアンナの足元に又もや寄り固まる中年男性三人組に冷ややかな眼差しを向けていた。

「アリアンナが困っておりますので、どうぞ正気に戻って下さい」

そう言い捨てると我に返って慌てだした男達を冷え冷えと一瞥してアリアンナの手を引く。
司祭二人はともかく主教様にまでそんな言い方で大丈夫なのだろうか?と肝を冷やしていたが。
「も、申し訳ございません!」と彼等は顔色悪く離れてくれた。

あら、割とすんなり解放されましたわ。

なんて思ったのもつかの間。
「不正とは聞き捨てなりませんわね?一体どう言う事かしら?」

主教様はアリアンナの背後から現れた王妃を見て「じっくり、お話しを聞かせてくださいな」と王妃パウラの後ろに現われた公爵夫人を見た瞬間頽れた。
「ひっ、不正に加担したのは私だけでは無いのです」「我等も脅され、仕方無く行ったのです」「全てをお話しし、誠心誠意謝罪をしたく」と今更のように言い訳の言葉と謝罪を繰り返している。

そんな中─

「何事ですの?騒々しい。え?あっ、王妃殿下!」

カツンカツンとヒールを鳴らし階を降りてきた令嬢がいた。

紫の髪に赤い瞳の可愛らしい少女が。美しいその瞳には苛立ちが、その鈴を転がす様な声には焦りが感じられた。
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