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あった事を無かった事にするにはたくさんの矛盾が生じる。
その矛盾を誤魔化す為にはそれなりに回る頭が必要である。
「…………」
「それで?アリアンナ。このバックがズタズタにされ、手鏡も粉々に砕かれ、ハンカチまでも引き裂かれたこの珍事件は妖精のイタズラか超常現象だったと?たしか、悪しき霊が来てやったと先程は言っていたけど?」
「ええ、その。それだと悪しき霊に公爵家が取り憑かれていると不本意極まりない悪評が立つとお祖母様、仰ってましたよね?ええ、公爵家に悪しき霊が出るなんて…そんなことあるはずありませんもの。」
「そう、でも妖精がイタズラをしたにしろ、超常現象が起きたのならやっぱり、公爵夫人のお誘いをお受けして検証に立ち会ってみたいわ?だって自然発生の超常現象なんて見たことがないもの。第一、超常現象とは自然の理を遥かに凌駕する不可思議な現象なのに。それがあの控え室で急に、自然発生するなんて驚くべきことよね?アリアンナ」
「あぅ、その。ええ、そうですね?お祖母様……」
ダメだわ。頭が回らないわ……
無い頭が空回りをしだしたわ。煙りが出てしまいそう……
もう、私には無理だわ……
追い詰められたアリアンナはつい楽になりたくて頷いてしまった。全くもってアリアンナの主張を端から信じていない様子の祖母レイチェルは、じわじわと詰める様に質問を重ねアリアンナの二転三転する言い訳を一つ一つ潰して行くのだ。
もう無理。
アリアンナはこの翌日、クレパルディ公爵夫人のささやかな内輪だけのお茶会に招待され、再度クレパルディ公爵邸を訪れたのだった。
訪れた公爵邸では「待ってたわ!」と公爵夫人に出迎えられた。まさかの夫人。祖母と母とアリアンナは恐縮しきりで公爵夫人に案内されお茶会は始まった。
公爵家ともなれば内輪だけの茶会に王子殿下まで招かれるらしいとアリアンナは既にソファーでくつろぐジョバンニを見た。改まった挨拶をしてアリアンナはジョバンニからなるべく離れた祖母と母の後方へと、さも私はご挨拶が終わりましたので。と言わんばかりに後ろに回った。
「やぁ、アリアンナ」
しかし空気を読まないジョバンニは憂い顔でアリアンナの名を呼んだ。王子殿下に呼ばれて無視もできないアリアンナは渋々ジョバンニの横に行き曖昧な笑みを浮かべて「先日はありがとうございました。」と当たり障りなく、尚且つさっさとジョバンニから離れたいがために口を開いた。
ふかふかのソファーは二人掛けのソファーが二つと一人がけのソファーがひとつあった。
「さぁ、皆さんそろそろ本題に入らせて頂きますわ。空いてる場所に座ってくださいな」
夫人は一人がけに、祖母と母はさっさと二人で一つのソファーに座ってしまっていた。
「アリアンナ」
祖母の、公爵夫人が座ってと手を示したのだから座りなさいと言いたげな表情をみて項垂れる。
「……お隣を失礼しますわ。ジョバンニ殿下」
「ああ、どうぞこちらに。君のような可愛らしいレディが隣りに座ってくれるなんて光栄だよアリアンナ」
立ち上がったジョバンニは凄く芝居掛かった仕草でアリアンナの手を取り自分の隣りに座らせる。
どうにもジョバンニの態度とこの微笑ましげな表情が気に食わない。
彼の態度はまるで子供扱いを気にするお年頃の気難しいお子様相手に、気を使って大人扱いをしてあげた親戚のお兄さん状態だ。
そう思うのはアリアンナの心が狭いからだろうか。
しかし、実際に現在のアリアンナはお子様だった。
もしくは小柄なガリガリ娘であり、この先成長してもとある部位が物凄く真っ平らなままであったから14、15、の頃は特に、子供扱いをされる度に腹が立ち周囲に当たり散らしては癇癪を爆発させていた記憶があるからだろうか。
しかし、アリアンナはこの数日、ドレスの調整の話が出て首を傾げてもいた。
前回なら年に一度も必要無いほど調整する必要が無い成長速度だった。だから年に一度の新調の時のドレスそのままであまり問題もなく、ドレスの調整などをした覚えは無かった。
最近ミラがお嬢様、こちらのドレスも調整が出来る仕組みとなってますから調整させて頂きますね。と、お家用のドレスのウエスや脇下、裾などを調整してくれた。重なっていた生地を引き出して少しゆとりを付けてくれたのだ。
確かに窮屈だったのかもしれないと調整して貰ったドレスを着て自分の身体が成長していた事に気付く。
成長期ですから。とみんなは当たり前の様に片付けているがアリアンナとしては怪我に思っていた。
そう言われれば、枯れ枝の様な腕にはうっすら肉が着いて来ているような気もする。
あの頃は食など無関心だった。好物がなんだったかすら覚えていないけれど。この王都の屋敷に来てからは食欲は祖母の嫌味で消え失せていた。
けれど、最近ではミラが色々頑張るのにお肉は大事です!と甲斐甲斐しく口に放り込んでくれる。
なるほど。
私が人並みに成長しなかったのは人並みに食べていなかったからだわ。
アリアンナはすっかり納得して、そして今がお茶会と言う名のアリアンナのバック、ズタボロ事件の記録検証会だと言うことすら忘れていた。
その矛盾を誤魔化す為にはそれなりに回る頭が必要である。
「…………」
「それで?アリアンナ。このバックがズタズタにされ、手鏡も粉々に砕かれ、ハンカチまでも引き裂かれたこの珍事件は妖精のイタズラか超常現象だったと?たしか、悪しき霊が来てやったと先程は言っていたけど?」
「ええ、その。それだと悪しき霊に公爵家が取り憑かれていると不本意極まりない悪評が立つとお祖母様、仰ってましたよね?ええ、公爵家に悪しき霊が出るなんて…そんなことあるはずありませんもの。」
「そう、でも妖精がイタズラをしたにしろ、超常現象が起きたのならやっぱり、公爵夫人のお誘いをお受けして検証に立ち会ってみたいわ?だって自然発生の超常現象なんて見たことがないもの。第一、超常現象とは自然の理を遥かに凌駕する不可思議な現象なのに。それがあの控え室で急に、自然発生するなんて驚くべきことよね?アリアンナ」
「あぅ、その。ええ、そうですね?お祖母様……」
ダメだわ。頭が回らないわ……
無い頭が空回りをしだしたわ。煙りが出てしまいそう……
もう、私には無理だわ……
追い詰められたアリアンナはつい楽になりたくて頷いてしまった。全くもってアリアンナの主張を端から信じていない様子の祖母レイチェルは、じわじわと詰める様に質問を重ねアリアンナの二転三転する言い訳を一つ一つ潰して行くのだ。
もう無理。
アリアンナはこの翌日、クレパルディ公爵夫人のささやかな内輪だけのお茶会に招待され、再度クレパルディ公爵邸を訪れたのだった。
訪れた公爵邸では「待ってたわ!」と公爵夫人に出迎えられた。まさかの夫人。祖母と母とアリアンナは恐縮しきりで公爵夫人に案内されお茶会は始まった。
公爵家ともなれば内輪だけの茶会に王子殿下まで招かれるらしいとアリアンナは既にソファーでくつろぐジョバンニを見た。改まった挨拶をしてアリアンナはジョバンニからなるべく離れた祖母と母の後方へと、さも私はご挨拶が終わりましたので。と言わんばかりに後ろに回った。
「やぁ、アリアンナ」
しかし空気を読まないジョバンニは憂い顔でアリアンナの名を呼んだ。王子殿下に呼ばれて無視もできないアリアンナは渋々ジョバンニの横に行き曖昧な笑みを浮かべて「先日はありがとうございました。」と当たり障りなく、尚且つさっさとジョバンニから離れたいがために口を開いた。
ふかふかのソファーは二人掛けのソファーが二つと一人がけのソファーがひとつあった。
「さぁ、皆さんそろそろ本題に入らせて頂きますわ。空いてる場所に座ってくださいな」
夫人は一人がけに、祖母と母はさっさと二人で一つのソファーに座ってしまっていた。
「アリアンナ」
祖母の、公爵夫人が座ってと手を示したのだから座りなさいと言いたげな表情をみて項垂れる。
「……お隣を失礼しますわ。ジョバンニ殿下」
「ああ、どうぞこちらに。君のような可愛らしいレディが隣りに座ってくれるなんて光栄だよアリアンナ」
立ち上がったジョバンニは凄く芝居掛かった仕草でアリアンナの手を取り自分の隣りに座らせる。
どうにもジョバンニの態度とこの微笑ましげな表情が気に食わない。
彼の態度はまるで子供扱いを気にするお年頃の気難しいお子様相手に、気を使って大人扱いをしてあげた親戚のお兄さん状態だ。
そう思うのはアリアンナの心が狭いからだろうか。
しかし、実際に現在のアリアンナはお子様だった。
もしくは小柄なガリガリ娘であり、この先成長してもとある部位が物凄く真っ平らなままであったから14、15、の頃は特に、子供扱いをされる度に腹が立ち周囲に当たり散らしては癇癪を爆発させていた記憶があるからだろうか。
しかし、アリアンナはこの数日、ドレスの調整の話が出て首を傾げてもいた。
前回なら年に一度も必要無いほど調整する必要が無い成長速度だった。だから年に一度の新調の時のドレスそのままであまり問題もなく、ドレスの調整などをした覚えは無かった。
最近ミラがお嬢様、こちらのドレスも調整が出来る仕組みとなってますから調整させて頂きますね。と、お家用のドレスのウエスや脇下、裾などを調整してくれた。重なっていた生地を引き出して少しゆとりを付けてくれたのだ。
確かに窮屈だったのかもしれないと調整して貰ったドレスを着て自分の身体が成長していた事に気付く。
成長期ですから。とみんなは当たり前の様に片付けているがアリアンナとしては怪我に思っていた。
そう言われれば、枯れ枝の様な腕にはうっすら肉が着いて来ているような気もする。
あの頃は食など無関心だった。好物がなんだったかすら覚えていないけれど。この王都の屋敷に来てからは食欲は祖母の嫌味で消え失せていた。
けれど、最近ではミラが色々頑張るのにお肉は大事です!と甲斐甲斐しく口に放り込んでくれる。
なるほど。
私が人並みに成長しなかったのは人並みに食べていなかったからだわ。
アリアンナはすっかり納得して、そして今がお茶会と言う名のアリアンナのバック、ズタボロ事件の記録検証会だと言うことすら忘れていた。
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