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女の嫉妬(1)
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その日、夜千与は女学校の旧友達と集まり食事会を行っていた。
鬼族の中でも中堅である鬼藤家は、女学校の中では位が高い家に分類されてしまい、夜千与は女学校ではある一部の者達を除けばみんなに丁寧に扱われていた。
夜千与は目立つ事が苦手だ。
幼少期、両親が集まりに参加すれば夜千与も顔見せにと連れて行かれ、家格など分からぬ幼い子供達の中で、夜千与はずっと蔑まれ嘲笑われていた。
兄達は長男を除きこう言った社交を嫌って拒んだが、夜千与には拒否権がもとよりなかった。
両親は夜千与を甘やかしてはいたが、そこに本当に愛があるかと問われれば微妙な所だろうから。早く夜千与を正当に手放したい両親が縁談目的に夜千与を連れ回して居たのは明らかだった。
まぁ、今となっては夜千与はその時参加した集まりで知り合った者達からは嫌われているので、必死に夜千与を連れ回した努力の全てが、無駄になったのだろうけれど。
そう言う経緯から、人の集まりに参加するのがずっと苦手で、夜千与に甘い両親は女の戦いの場である茶会や食事会への参加を渋る夜千与に、無理することは無いと閉じこもる事も許していた。
両親は兎に角、夜千与に甘かった。
それには理由がある。父は夜千与が産まれた日に夢を見て、夜千与は至高の花をその瞳に頂く煌花を内に秘めし乙女であると、夢で誰かに告げられたらしい。
煌花の花開くその時まで、大事大事に育てるが良いと。
それはまるで神のお告げの様だったと父は言い。
母もまた、全く同じ内容の夢を見たのだと興奮気味に夜千与に語った。
まさか、その話を両親が直ぐに信じるなんて。
と夜千与は思ったが、夜千与は幼いながらに、自分の評判や世間一般での自分の立ち位置を自覚していた。
両親の甘やかしが無ければ夜千与など日常的に虐げられるだけの哀れな存在に成り下がるのは分かりきっていた。
だから、夜千与は両親に甘えてみせることにした。そうして、害の無い、無垢な少女を演じ、装って生きて来たのだ。
己の内にあるものが、本来は真逆の苛烈極まりない性格だったとしても。
今はまだ脆弱な地盤しか持たない夜千与は、ただただ美しい置物の様にひっそりとそこに在る事にしたのだ。
そんな夜千与にも親の庇護から離れなければならない時が来た。
女学校など、本当に地獄絵図の様に女の嫉妬が渦巻く醜い場所だった。
女学校では、夜千与はその美しい容姿が災いし、一部の女達から敵として認定されてしまっていた。
更に、鬼族の娘なのに角無しだと知れると夜千与は浅ましい彼女達の格好の餌食となった。
鬼族の癖にと蔑まれる。彼女達は皆、夜千与を嘲笑う事で己の醜いプライドに餌を与えているのだ。
ヒエラルキーで行けば上位になる鬼族の娘。けれど角無しと一族の中ではバカにされている女。
しかし外見だけは極上だったのだから、嫉妬と嫌悪感が更に増加したのだろう。
そんな女学校の中に夜千与に並々ならぬ敵意を向けてくる学友がいた。彼女が夜千与を排除しようと動いている事も夜千与は知っている。
そんな中、夜千与は鈍感で愚鈍な無垢な少女を演じて悪意を躱し続け、裏では人を唆しては陥れて来た。
上流階級の子女ほど、高いプライドを持ち、精神面は脆弱で破綻している者が多かった。
親の力を過信し、己は何をしようとも咎められる事は無いと胡座をかいていたのだから。
だから、少しだけ。
その耳に毒を流してあげたのだ。
あなたの友は、あなたに嫉妬し、貶める算段をしていると。
夜千与を狙い、毒を盛るその主犯を貴女にし、自分達こそが主導していたその証拠を、あたかも貴女が主導していたかのように捏造し、陥れるつもりだと。
そう、証拠を握って居るだろう少女に手紙を書いた。
翌日には蜥蜴の尻尾切りの様に数名の少女達が警察に連行され、翌週に退学した事を知った。
夜千与はそうやって、敵を弱らせ、徐々に自分の周囲に蔓延る邪魔者達を始末して行った。
時には冤罪をでっち上げたりもしたが、似たり寄ったりの悪事をして居たようだから問題無い。
だから、今日は最終仕上げの日になるだろう。
友人の仮面を長年被り続けていた少女をそっと伺うと、彼女は夜千与に気付き、穏やかに微笑みかけて来る。
慈悲深い淑女の様でいて、夜千与が白狼地に嫁いだ話を聞き、居てもたってもいられ無くなったのだろう。
こうして毒を盛ってくる少女を見ながら夜千与はうっそり笑うのだった。
漸く、次は貴女の番ですね。幸姫華(ゆきか)さん、と夜千与は心の中で語りかけた。
狼族の上流階級の娘である幸姫華は女学校時代はクラスメイトから学級委員長と慕われていた少女だ。
才女と言われる彼女は語学が堪能で五ヶ国語が喋れる。
更にヴァイオリンのコンクールでも上位の成績を収めているのだが。その上の賞を取っているのが鬼族の鬼ノ宮家の令嬢だ。
鬼ノ宮にはどう足掻いても敵わないと悟った幸姫華はどうやら同じ鬼族の夜千与に標的を変えたらしい。
鬼族の中でも中堅である鬼藤家は、女学校の中では位が高い家に分類されてしまい、夜千与は女学校ではある一部の者達を除けばみんなに丁寧に扱われていた。
夜千与は目立つ事が苦手だ。
幼少期、両親が集まりに参加すれば夜千与も顔見せにと連れて行かれ、家格など分からぬ幼い子供達の中で、夜千与はずっと蔑まれ嘲笑われていた。
兄達は長男を除きこう言った社交を嫌って拒んだが、夜千与には拒否権がもとよりなかった。
両親は夜千与を甘やかしてはいたが、そこに本当に愛があるかと問われれば微妙な所だろうから。早く夜千与を正当に手放したい両親が縁談目的に夜千与を連れ回して居たのは明らかだった。
まぁ、今となっては夜千与はその時参加した集まりで知り合った者達からは嫌われているので、必死に夜千与を連れ回した努力の全てが、無駄になったのだろうけれど。
そう言う経緯から、人の集まりに参加するのがずっと苦手で、夜千与に甘い両親は女の戦いの場である茶会や食事会への参加を渋る夜千与に、無理することは無いと閉じこもる事も許していた。
両親は兎に角、夜千与に甘かった。
それには理由がある。父は夜千与が産まれた日に夢を見て、夜千与は至高の花をその瞳に頂く煌花を内に秘めし乙女であると、夢で誰かに告げられたらしい。
煌花の花開くその時まで、大事大事に育てるが良いと。
それはまるで神のお告げの様だったと父は言い。
母もまた、全く同じ内容の夢を見たのだと興奮気味に夜千与に語った。
まさか、その話を両親が直ぐに信じるなんて。
と夜千与は思ったが、夜千与は幼いながらに、自分の評判や世間一般での自分の立ち位置を自覚していた。
両親の甘やかしが無ければ夜千与など日常的に虐げられるだけの哀れな存在に成り下がるのは分かりきっていた。
だから、夜千与は両親に甘えてみせることにした。そうして、害の無い、無垢な少女を演じ、装って生きて来たのだ。
己の内にあるものが、本来は真逆の苛烈極まりない性格だったとしても。
今はまだ脆弱な地盤しか持たない夜千与は、ただただ美しい置物の様にひっそりとそこに在る事にしたのだ。
そんな夜千与にも親の庇護から離れなければならない時が来た。
女学校など、本当に地獄絵図の様に女の嫉妬が渦巻く醜い場所だった。
女学校では、夜千与はその美しい容姿が災いし、一部の女達から敵として認定されてしまっていた。
更に、鬼族の娘なのに角無しだと知れると夜千与は浅ましい彼女達の格好の餌食となった。
鬼族の癖にと蔑まれる。彼女達は皆、夜千与を嘲笑う事で己の醜いプライドに餌を与えているのだ。
ヒエラルキーで行けば上位になる鬼族の娘。けれど角無しと一族の中ではバカにされている女。
しかし外見だけは極上だったのだから、嫉妬と嫌悪感が更に増加したのだろう。
そんな女学校の中に夜千与に並々ならぬ敵意を向けてくる学友がいた。彼女が夜千与を排除しようと動いている事も夜千与は知っている。
そんな中、夜千与は鈍感で愚鈍な無垢な少女を演じて悪意を躱し続け、裏では人を唆しては陥れて来た。
上流階級の子女ほど、高いプライドを持ち、精神面は脆弱で破綻している者が多かった。
親の力を過信し、己は何をしようとも咎められる事は無いと胡座をかいていたのだから。
だから、少しだけ。
その耳に毒を流してあげたのだ。
あなたの友は、あなたに嫉妬し、貶める算段をしていると。
夜千与を狙い、毒を盛るその主犯を貴女にし、自分達こそが主導していたその証拠を、あたかも貴女が主導していたかのように捏造し、陥れるつもりだと。
そう、証拠を握って居るだろう少女に手紙を書いた。
翌日には蜥蜴の尻尾切りの様に数名の少女達が警察に連行され、翌週に退学した事を知った。
夜千与はそうやって、敵を弱らせ、徐々に自分の周囲に蔓延る邪魔者達を始末して行った。
時には冤罪をでっち上げたりもしたが、似たり寄ったりの悪事をして居たようだから問題無い。
だから、今日は最終仕上げの日になるだろう。
友人の仮面を長年被り続けていた少女をそっと伺うと、彼女は夜千与に気付き、穏やかに微笑みかけて来る。
慈悲深い淑女の様でいて、夜千与が白狼地に嫁いだ話を聞き、居てもたってもいられ無くなったのだろう。
こうして毒を盛ってくる少女を見ながら夜千与はうっそり笑うのだった。
漸く、次は貴女の番ですね。幸姫華(ゆきか)さん、と夜千与は心の中で語りかけた。
狼族の上流階級の娘である幸姫華は女学校時代はクラスメイトから学級委員長と慕われていた少女だ。
才女と言われる彼女は語学が堪能で五ヶ国語が喋れる。
更にヴァイオリンのコンクールでも上位の成績を収めているのだが。その上の賞を取っているのが鬼族の鬼ノ宮家の令嬢だ。
鬼ノ宮にはどう足掻いても敵わないと悟った幸姫華はどうやら同じ鬼族の夜千与に標的を変えたらしい。
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