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夜千与の花(1)
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人々の視線を集めている少女の煌めく金色の瞳は夜の闇を怪しく照らしていた。
瞬き一つで男を虜にすると言われる鬼族の女達の中で、彼女は異色の姫と呼ばれ羨望と嫉妬、蔑みや妬みと言った様々な目を向けられている、あまりにも美し過ぎる少女だった。
そんな少女を食い入るように見つめている男がいた。
他の様々な思いを抱く眼差しを全て蹴散らし、凌駕する様な苛烈な眼差しを、男は少女へと向けていたのだ。
それは恋焦がれて渇望する様な、蹂躙する様な。欲に濡れた眼差しだ。
「花嫁を丸呑みしちゃいそうな、物騒な顔で見てるけど。大丈夫?」
心配になった側近の幸也が声を掛けたが琥牙は無言のまま花嫁となる女を見続けていた。
苛立ちを押さえつけて。
「あれは、後で始末する。人のモノに許可なく触るなど。命知らずな男だ。」
ふと、不穏な言葉に幸也は琥牙の目線の先、窓の外を覗き見て、あちゃー、と顔を顰めた。
今夜はこのホテルで琥牙と夜千与の結婚式と披露宴がある。
狼族のトップの披露宴とあって各界から著名人も出席し、両家合わせて七百人程と大規模になった。
白狼地側の要望で結婚式は日中に。
披露宴は夜になってから行う事になっており。
その為、今は少しでも休憩を取り、深夜まで及ぶ披露宴で脆弱な夜千与が倒れない様にと、夜千与は彼女の世話係に任せていた。確かリラクゼーションエステに連れて行っていたはずだ。
眼下では私服姿の花嫁が迎えの車から降りてきて、さっそくロウ族の中では力のある四狼家の次男が花嫁に話しかけられている。
美しい物が大好きな男で性に奔放な浮ついた男だ。
だが、琥牙の花嫁となる女は恐ろしい程美しい娘だったのだ。誰かが彼女に目を奪わている。
作り物めいた真っ白な肌と赤い唇。大きくてこぼれ落ちそうな金色に輝く瞳はまるで煌めく夜空の星の様だ。
そして鬼族では馬鹿にされているらしい彼女の薄い茶髪は、輝くシャンデリアの光を纏い、淡く金色に輝いて見えた。
その色味のせいか、華奢な彼女は酷く儚げな印象を与えるのに。
「しっかし、あの子、おっパイ大っきいな」
などと、そこかしこで彼女の主張しまくっている身体の一部を的確に誰かが指摘していた。
「始末する奴が増えたな。さっきの奴は、確かお前の弟だったか?」
「いや、待って?琥牙!これはアレだ!不可抗力だ。お年頃の少年達に君の花嫁みたいな、性欲と庇護欲を掻き立てられる女は流石に目の毒だよ!」
大方、廊下に居た馬鹿共は、ロビーに入ってきた夜千与の姿を捉えたのだろう。
幸也の弟、和也が鼻の下を伸ばしているのだろう事は容易に想像できる。
兄はその発言のおかげで弟を庇い、窮地に立たされそうだと言うのに。
「へぇ、お前もアレを見て性欲を掻き立てられたって事か……」
琥牙がじとりと幸也の股間を凝視する。気のせいか焦げ臭い様な。幸也は慌てて股間を押さえた。
「ひぃ!違うから!誤解だ!」
ヒュン、と音がなり、耳の真横を青白い閃光が通り過ぎた。
青白い炎だ。
琥牙はロウ族一の戦闘能力と特殊能力を持つ男だ。一般的な戦闘能力を持つロウ族の男達が十人束になって戦っても琥牙には敵わないだろう。
そんな琥牙の嫁になったのは鬼の娘。
けれど、彼女は鬼の特徴である鬼の角が生えていない。
淡い茶髪に角無しと言うのは、相当珍しく、鬼にとっては、出来損ないだ。
鬼になれずに産まれた脆弱な者でしか無かった。
しかしそれは鬼族内での話だ。
夜千与と言う娘は美しいと持て囃されていたロウ族の女達すら嫉妬する程。
世の男全てがひれ伏しそうな程。
現実離れした美貌を持っていた。
そんな艷美な女を目にしたら男なんて誰でも尻尾を振ってしまう。悲しい生き物なのだ。
それにしても、と幸也は琥牙に問いかけた。
「まさか、琥牙がこれほどあの子に夢中になるなんて意外だったな。」
「あれに夢中になっている訳では無い。ただ……」
「………ただ、なんなの?そこで切れたら余計に気になるんだけど!?」
「…はぁ、匂いだ。妙に身体が騒ぐ。やたらと野性が騒ぎ出す。アレは俺のモノだと。ここまで力を暴走させそうなのは本能が目覚めた日以来だ。」
「へぇ、じゃあ本物かもね?本物だったら、荒れるんじゃない?あちら側」
もしも当たりだったとしたら愉快だと。幸也は笑ったが、琥牙の不可思議な顔を見て、おや?と首を傾げた。
「まさか、本気になってたりして?」
「…………もし、そうだったら幸也はどう動く。」
「いいんじゃない?そもそもが、眉唾物の仮定の話を琥牙が面白がって進めた話だし?狼族は大抵奥さんは監禁するもんだよ」
「ふん、なら良い。」
琥牙の予想外の様子に幸也は笑った。まぁ、獣に番が出来ればより強くなるものだ。
それは弱点を作る事にはなるが。
幸也は琥牙が番を弱点にならない様に守るだけの力を持って居ることは知っている。自分達の目的に差し障りが出たら、その都度対策を練れば良いだけのこと。
瞬き一つで男を虜にすると言われる鬼族の女達の中で、彼女は異色の姫と呼ばれ羨望と嫉妬、蔑みや妬みと言った様々な目を向けられている、あまりにも美し過ぎる少女だった。
そんな少女を食い入るように見つめている男がいた。
他の様々な思いを抱く眼差しを全て蹴散らし、凌駕する様な苛烈な眼差しを、男は少女へと向けていたのだ。
それは恋焦がれて渇望する様な、蹂躙する様な。欲に濡れた眼差しだ。
「花嫁を丸呑みしちゃいそうな、物騒な顔で見てるけど。大丈夫?」
心配になった側近の幸也が声を掛けたが琥牙は無言のまま花嫁となる女を見続けていた。
苛立ちを押さえつけて。
「あれは、後で始末する。人のモノに許可なく触るなど。命知らずな男だ。」
ふと、不穏な言葉に幸也は琥牙の目線の先、窓の外を覗き見て、あちゃー、と顔を顰めた。
今夜はこのホテルで琥牙と夜千与の結婚式と披露宴がある。
狼族のトップの披露宴とあって各界から著名人も出席し、両家合わせて七百人程と大規模になった。
白狼地側の要望で結婚式は日中に。
披露宴は夜になってから行う事になっており。
その為、今は少しでも休憩を取り、深夜まで及ぶ披露宴で脆弱な夜千与が倒れない様にと、夜千与は彼女の世話係に任せていた。確かリラクゼーションエステに連れて行っていたはずだ。
眼下では私服姿の花嫁が迎えの車から降りてきて、さっそくロウ族の中では力のある四狼家の次男が花嫁に話しかけられている。
美しい物が大好きな男で性に奔放な浮ついた男だ。
だが、琥牙の花嫁となる女は恐ろしい程美しい娘だったのだ。誰かが彼女に目を奪わている。
作り物めいた真っ白な肌と赤い唇。大きくてこぼれ落ちそうな金色に輝く瞳はまるで煌めく夜空の星の様だ。
そして鬼族では馬鹿にされているらしい彼女の薄い茶髪は、輝くシャンデリアの光を纏い、淡く金色に輝いて見えた。
その色味のせいか、華奢な彼女は酷く儚げな印象を与えるのに。
「しっかし、あの子、おっパイ大っきいな」
などと、そこかしこで彼女の主張しまくっている身体の一部を的確に誰かが指摘していた。
「始末する奴が増えたな。さっきの奴は、確かお前の弟だったか?」
「いや、待って?琥牙!これはアレだ!不可抗力だ。お年頃の少年達に君の花嫁みたいな、性欲と庇護欲を掻き立てられる女は流石に目の毒だよ!」
大方、廊下に居た馬鹿共は、ロビーに入ってきた夜千与の姿を捉えたのだろう。
幸也の弟、和也が鼻の下を伸ばしているのだろう事は容易に想像できる。
兄はその発言のおかげで弟を庇い、窮地に立たされそうだと言うのに。
「へぇ、お前もアレを見て性欲を掻き立てられたって事か……」
琥牙がじとりと幸也の股間を凝視する。気のせいか焦げ臭い様な。幸也は慌てて股間を押さえた。
「ひぃ!違うから!誤解だ!」
ヒュン、と音がなり、耳の真横を青白い閃光が通り過ぎた。
青白い炎だ。
琥牙はロウ族一の戦闘能力と特殊能力を持つ男だ。一般的な戦闘能力を持つロウ族の男達が十人束になって戦っても琥牙には敵わないだろう。
そんな琥牙の嫁になったのは鬼の娘。
けれど、彼女は鬼の特徴である鬼の角が生えていない。
淡い茶髪に角無しと言うのは、相当珍しく、鬼にとっては、出来損ないだ。
鬼になれずに産まれた脆弱な者でしか無かった。
しかしそれは鬼族内での話だ。
夜千与と言う娘は美しいと持て囃されていたロウ族の女達すら嫉妬する程。
世の男全てがひれ伏しそうな程。
現実離れした美貌を持っていた。
そんな艷美な女を目にしたら男なんて誰でも尻尾を振ってしまう。悲しい生き物なのだ。
それにしても、と幸也は琥牙に問いかけた。
「まさか、琥牙がこれほどあの子に夢中になるなんて意外だったな。」
「あれに夢中になっている訳では無い。ただ……」
「………ただ、なんなの?そこで切れたら余計に気になるんだけど!?」
「…はぁ、匂いだ。妙に身体が騒ぐ。やたらと野性が騒ぎ出す。アレは俺のモノだと。ここまで力を暴走させそうなのは本能が目覚めた日以来だ。」
「へぇ、じゃあ本物かもね?本物だったら、荒れるんじゃない?あちら側」
もしも当たりだったとしたら愉快だと。幸也は笑ったが、琥牙の不可思議な顔を見て、おや?と首を傾げた。
「まさか、本気になってたりして?」
「…………もし、そうだったら幸也はどう動く。」
「いいんじゃない?そもそもが、眉唾物の仮定の話を琥牙が面白がって進めた話だし?狼族は大抵奥さんは監禁するもんだよ」
「ふん、なら良い。」
琥牙の予想外の様子に幸也は笑った。まぁ、獣に番が出来ればより強くなるものだ。
それは弱点を作る事にはなるが。
幸也は琥牙が番を弱点にならない様に守るだけの力を持って居ることは知っている。自分達の目的に差し障りが出たら、その都度対策を練れば良いだけのこと。
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