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詳らかになった罪

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四阿では、どこからか現れた騎士や、ティム、キャシー達が四方を囲み、騎士では無くティムがアネットを拘束してこんな雰囲気の中ティムは笑顔で、アネットは喚き散らし四阿の柱付近に佇んでいる。

「…ラファエル様はずっとこの事をご存知だったんですか?それにエドアルド様も。」

「どこから話そうか。まずはリリーが女官として王宮に上がった時に、君を見て違和感を感じたんだ。君、と言うよりもその時にかけていた眼鏡の方に」
「…眼鏡?」
リリアンヌはあの頃から愛用していた魔道具を思い浮かべて、やっぱり首を傾げる。
「確かに紫が混ざった緑のちょっと毒々しい色の眼鏡でしたけど」

魔女が携わっていると言われる魔道具はその見た目や色合いが毒々しげで特徴的な物が多い。
なので多少の毒々しさは仕方が無いのだ。

女官の職務に鑑定を使い王族へ献上される物品の中に状態異常のものが無いか調べる仕事がある。
そんな時に魔道具の眼鏡を使えば一発で発見する事が出来るのだ。

魔道具は使い手の魔力や得意属性により消費される魔力量が左右される場合もあるが、鑑定の魔道具くらいなら魔力の弱いリリアンヌでも長時間つけていられる優れものだった。

まあ、今は女官を辞した為不要になったのだけど…

あら?でも私って女官をする前から眼鏡を着用していなかった?

「君の掛けていた魔道具には視力矯正の魔法がかかっていなかった。君が王宮に上がってすぐの頃、私が眼鏡は邪魔では無いかと尋ねた時に君は、以前も眼鏡をかけていたから眼鏡の魔道具にはすぐになれました。と、そう言ったんだ。だから、アレ?と思ったのが最初かな?」
そう言われるとそうだ。なぜ視力が悪い訳でも無いのにあんな毒々しい眼鏡をかけていたのか。

「そう言えば、わたくし女官になる以前も眼鏡を着用してました。でも、わたくしの視力は両親譲りなのか……とても良いのです。」

おかしいわね?と、リリアンヌは首を傾げる。
その時、昔の眼鏡をかけるに至った日の記憶が浮かんで来た。

あの頃リリアンヌは気の強いアネットに押し切られて眼鏡を一度だけ掛けてみる事になったのだ。
アネットが余りにもしつこく言うものだから、『わかったわ』と言って緑色の不格好な眼鏡をかけた。

おかしいわ?あれ以来なぜ私は眼鏡をかける事を当たり前だと思ったのかしら?
しかも眼鏡を掛けていないと不安で落ち着かなかったのはなぜ?

先程から、もしや?と思う気持ちがこの時更に膨らんで来ていた。

「アネットは、わたくしにも魔法を使ったの?」

口が乾いて上手く喋れない。


「そう、アネットはリリアンヌには自分は見目が悪く眼鏡がなくては人には会えない。そんな魔法をかけた。しかし、8歳になる前にかけたその魔法の効力は約10年。
そしてアネットが君に渡した眼鏡には魔法がかかっていた。リリーから見たアネットがこの世のものとも思えないほど美しく見える様に。」

「…なぜそんな魔法を?」

リリアンヌはポツリと疑問を口にした。

「君の自信を無くす為だろう。」

痛ましげにラファエルがリリアンヌの頭を撫でるとリリアンヌはラファエルの胸に頭をもたげた。

「アネットは君が本来の君を取り戻してしまう前に、全てが戻ってしまう前に。リリアンヌをアネットの兄と結婚させて、自分はエドアルドと結婚するつもりだったんだ。でもリリーは私と婚約した。女官を辞め、リリーにかかっていた魔法は全て私が解いて。リリー本来の美しい美貌が現れた。だから、彼女は今度は私にアネットを愛す様に魔法を使うつもりだったんだ。だから、逆にこちらから罠を仕掛けておいた。エドアルドにはそんな彼女に付き従って貰って魔道具を彼女の腕に付けて逃走を阻止してもらっていたんだ。」

リリアンヌの表情が抜け落ち蒼白になった顔をゆっくりアネットの方に向けた。

口に布を詰められたアネットはリリアンヌの視線に気づくとくぐもった呻き声を上げ、殺気のこもった眼差しを向けてくる。
初めて向けられた殺意にリリアンヌは怯えてビクッと肩を揺らした。

それほどまでに私はアネットに恨まれていたのだろうか。


彼女は様々な人に心を操作する禁じられた魔法を使い、その魔法をずっと維持してきた。
その為自分の魔力の許容量を遥かに超えてしまっていた。その足りない魔力を補う為、魔力が増強する魔石や薬を父にオネダリして買って貰っていたそうだ。その叔父の心もアネットは操作していたと言う。


「ほとんど押収したから逃げられないだけの証拠も、物証も出たし。彼女はこれから今までの全ての罪が暴かれ、良くて魔法を使えない断罪の炎の塔にて幽閉か、犯罪者が収容されている鉱山送りになるだろう。もしくは…」

禁じられた魔法を使った罪は重い。
だから、死刑も有りうると言う事だろう。

「リリー、彼女に言いたいことは無い?君は彼女を罵り罵倒しても許される。10年だ……君はそれ程の事をされている。」

ドキドキと心臓が嫌な音をてる。
リリアンヌには友人が少なかった。幼馴染のエドアルドと従姉妹のアネット、それから友人のクリスティナ。
眼鏡をかけていたから、余計に誰もがリリアンヌを避けていた。唯一の話しかけても笑って答えてくれたのはクリスティナだけだった。
けれど今までの人生でアンが占める幸せな時間がたくさんあったのは事実だ。
あのアンと過ごした楽しかった日々、あれすら全てが瞞(まやか)しだったと言うのだろうか。

「いえ……わたくし今はまだ気持ちの整理がつかなくて…」

リリアンヌはアネットに立ち向かう勇気も無く。自分が受けていた被害の状況も受け入れ難く、困惑していた。

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