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隠された顔
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夏の終わりにある花祭り。王都にある中央広場に巨大な花が展示されその花を中心に出店が並び様々な国からも観光客が訪れる。
「うわぁー!凄い綺麗です!私初めてこんなに近くで奇跡の花を見ました。」
奇跡の花─この世界には不思議が溢れている。
金の龍や青い不死鳥、桃色の一角獣に空飛ぶ兎、湖を住処にした虹色の水鳥。
人を食べる植物や人の言葉を話す花。
そしてこの、目の前にある奇跡の花。
硝子のような透明感のある青い花は薔薇のようにも牡丹のようにも見えるがカールされた花弁がフリルの様に見える可愛らしい花だ。
大きさはリリアンヌが二人、両手を広げてどうにか届く程に大きい。
「この花にお祈りをすると、女神様が気まぐれに願いを叶えて下さるって言う言い伝えがありますよね?私幼い頃に…」
そこまで言ってリリアンヌは自分が何を願ったかを思い出し顔を赤らめた。
そう言えば、まだお元気だった祖母にその話を聞いてリリアンヌは将来私を愛してくれる私だけの素敵な王子様が現れますように。ってお願いしたんだった。
なんて図々しくも夢見がちな願いなんだろう。
「リリー、君は幼い頃この花に何を願ったんだ?」
ラファエルが急に黙り込んで顔を赤くしたリリーに優しく首を傾げて聞いてくる。
「…ぅう、絶対に、笑いませんか?」
「ああ、当たり前だ。君を笑ったりしない……誓うよ。」
優しく、凛々しくそう言ったラファエルは周囲がハッとする程に無駄に色気のある色男だ。
リリアンヌは渋々ラファエルの耳に口を寄せごにょごにょと幼き日の小っ恥ずかしい願いをはなした。
「…なるほど、では、私は女神に選ばれしリリアンヌ姫の王子様だったんだね。」
なんてふふっと笑って言うラファエルは整い過ぎた、冷たく作り物めいた顔がなりを潜め、優しい王子様の顔に見える。
素敵な、王子様。……確かに。
リリアンヌはまじまじとラファエルを見つめて惚れ惚れする。
そんなリリアンヌにチュッと素早く口付けたラファエルはリリアンヌを大事そうに抱きしめた。
周囲の生暖かい視線を感じて頬と言わず全身を一気に赤く染め上げリリアンヌはまたももじもじしてしまう。こんな、婚約者に大切にされて、幸せな気分を味わう日が訪れるなんて…思いもしなかったな。
「リリー…」
リリアンヌは不意に後ろから呼びかけられて振り向いた。
「…え?あら、エドアルド。今日はお仕事?」
見れば愕然とした顔のエドアルドが棒立ちでこちらを見ている。
「…リリー、ね」ラファエルは低く、禍々しい魔力の渦巻く仄暗い声で呟き温度の無い眼差しをエドアルドに向けていた。
向けられたエドアルドは流石にラファエルに対しての無礼な態度に急ぎ謝罪した。
「急にお声かけしてしまい、申し訳ございません!」
ガバッと頭を下げると許しが来るまでそのままの状態でエドアルドは頭を下げ続ける。
「君はリリーの兄弟と言う訳では無いだろう?」
「…はい、リリー…いえ、失礼しました!リリアンヌ嬢とは、幼馴染みで」
「リリーは今、私の婚約者だ。来月の終わりには式も挙げて夫婦となる。何が言いたいか、わかるね?」
頭の悪いリリアンヌは良くわからず首を傾げた。
しかし、エドアルドは顔を強ばらせ固く頷く。
「はい、金輪際、リリアンヌ嬢を愛称などでは呼びません。大変失礼致しました…」
緊張の為か真っ青になったエドアルドは頭を下げ続けたままだったがリリアンヌからは彼の表情がよく見えた。
そう言えば、アネットとの婚約が決まった後にリリアンヌはエドアルドに一応は言ったのだ。愛称呼びは止めて欲しいと。
でもエドアルドは今更じゃないか?とサラッと流した。
何度かそんなやり取りをした気がする。けれど結局リリアンヌはあまり幸せそうな二人に近づきたくなくて、そのまま有耶無耶になってしまっていた。
よかった。流石にエドアルド様もアネットと結婚するのだし、私もラファエル様と結婚する予定なのだ。
変な誤解を受けたら困るのだし。
リリアンヌは安堵してラファエルの差し出してきた腕に手を添えた。
「良いだろう。もう顔を上げてくれ。」
ラファエルの言葉に短く返事をしてエドアルドは顔を上げた。
「リリーさぁ、もう行こうか。もっとくっついておかないとはぐれてしまうよ」
ラファエルはリリアンヌの腰をぎゅっと引き寄せると爽やかに笑った。それなのに、なぜかまるで悪魔の様な空恐ろしい笑顔に見えてエドアルドは顔を強ばらせた。
そんな事には気づくことなくリリアンヌは近すぎる距離や腰に回された逞しい腕に全神経が行き、更にはそんな自分の意識しすぎな事になんだか恥ずかしくて、顔を赤くさせ俯いていた。
「………」
その様子をエドアルドは顔を顰めて鋭く見つめていた。
「さぁ、謝罪は充分だよ。だが、次は無いから…」
小さく告げた言葉にエドアルドは聞き漏らさずギリッと知らず奥歯を噛み締める。
「…はい、申し訳ございませんでした。」
リリアンヌはなんだかこう、空気が重くないかな?あれ?
と内心首を傾げて二人を見ていたが「では、行こうか」とラファエルに促され彼の顔を見上げる。
先程まで感じていた冷たく張り詰めたような、少し恐ろしく感じた表情はいつもの優しい王子様の表情へと変わっていた。
リリアンヌは安堵して頷く。
「はい。エドアルド様、それでは失礼致します。アンに宜しく」
ニッコリと笑顔で告げればエドアルドも笑顔で頷き手を振った。
そんな様を遅れてやって来たアネットは商店の柱の影から食い入るように見つめていた。
「うわぁー!凄い綺麗です!私初めてこんなに近くで奇跡の花を見ました。」
奇跡の花─この世界には不思議が溢れている。
金の龍や青い不死鳥、桃色の一角獣に空飛ぶ兎、湖を住処にした虹色の水鳥。
人を食べる植物や人の言葉を話す花。
そしてこの、目の前にある奇跡の花。
硝子のような透明感のある青い花は薔薇のようにも牡丹のようにも見えるがカールされた花弁がフリルの様に見える可愛らしい花だ。
大きさはリリアンヌが二人、両手を広げてどうにか届く程に大きい。
「この花にお祈りをすると、女神様が気まぐれに願いを叶えて下さるって言う言い伝えがありますよね?私幼い頃に…」
そこまで言ってリリアンヌは自分が何を願ったかを思い出し顔を赤らめた。
そう言えば、まだお元気だった祖母にその話を聞いてリリアンヌは将来私を愛してくれる私だけの素敵な王子様が現れますように。ってお願いしたんだった。
なんて図々しくも夢見がちな願いなんだろう。
「リリー、君は幼い頃この花に何を願ったんだ?」
ラファエルが急に黙り込んで顔を赤くしたリリーに優しく首を傾げて聞いてくる。
「…ぅう、絶対に、笑いませんか?」
「ああ、当たり前だ。君を笑ったりしない……誓うよ。」
優しく、凛々しくそう言ったラファエルは周囲がハッとする程に無駄に色気のある色男だ。
リリアンヌは渋々ラファエルの耳に口を寄せごにょごにょと幼き日の小っ恥ずかしい願いをはなした。
「…なるほど、では、私は女神に選ばれしリリアンヌ姫の王子様だったんだね。」
なんてふふっと笑って言うラファエルは整い過ぎた、冷たく作り物めいた顔がなりを潜め、優しい王子様の顔に見える。
素敵な、王子様。……確かに。
リリアンヌはまじまじとラファエルを見つめて惚れ惚れする。
そんなリリアンヌにチュッと素早く口付けたラファエルはリリアンヌを大事そうに抱きしめた。
周囲の生暖かい視線を感じて頬と言わず全身を一気に赤く染め上げリリアンヌはまたももじもじしてしまう。こんな、婚約者に大切にされて、幸せな気分を味わう日が訪れるなんて…思いもしなかったな。
「リリー…」
リリアンヌは不意に後ろから呼びかけられて振り向いた。
「…え?あら、エドアルド。今日はお仕事?」
見れば愕然とした顔のエドアルドが棒立ちでこちらを見ている。
「…リリー、ね」ラファエルは低く、禍々しい魔力の渦巻く仄暗い声で呟き温度の無い眼差しをエドアルドに向けていた。
向けられたエドアルドは流石にラファエルに対しての無礼な態度に急ぎ謝罪した。
「急にお声かけしてしまい、申し訳ございません!」
ガバッと頭を下げると許しが来るまでそのままの状態でエドアルドは頭を下げ続ける。
「君はリリーの兄弟と言う訳では無いだろう?」
「…はい、リリー…いえ、失礼しました!リリアンヌ嬢とは、幼馴染みで」
「リリーは今、私の婚約者だ。来月の終わりには式も挙げて夫婦となる。何が言いたいか、わかるね?」
頭の悪いリリアンヌは良くわからず首を傾げた。
しかし、エドアルドは顔を強ばらせ固く頷く。
「はい、金輪際、リリアンヌ嬢を愛称などでは呼びません。大変失礼致しました…」
緊張の為か真っ青になったエドアルドは頭を下げ続けたままだったがリリアンヌからは彼の表情がよく見えた。
そう言えば、アネットとの婚約が決まった後にリリアンヌはエドアルドに一応は言ったのだ。愛称呼びは止めて欲しいと。
でもエドアルドは今更じゃないか?とサラッと流した。
何度かそんなやり取りをした気がする。けれど結局リリアンヌはあまり幸せそうな二人に近づきたくなくて、そのまま有耶無耶になってしまっていた。
よかった。流石にエドアルド様もアネットと結婚するのだし、私もラファエル様と結婚する予定なのだ。
変な誤解を受けたら困るのだし。
リリアンヌは安堵してラファエルの差し出してきた腕に手を添えた。
「良いだろう。もう顔を上げてくれ。」
ラファエルの言葉に短く返事をしてエドアルドは顔を上げた。
「リリーさぁ、もう行こうか。もっとくっついておかないとはぐれてしまうよ」
ラファエルはリリアンヌの腰をぎゅっと引き寄せると爽やかに笑った。それなのに、なぜかまるで悪魔の様な空恐ろしい笑顔に見えてエドアルドは顔を強ばらせた。
そんな事には気づくことなくリリアンヌは近すぎる距離や腰に回された逞しい腕に全神経が行き、更にはそんな自分の意識しすぎな事になんだか恥ずかしくて、顔を赤くさせ俯いていた。
「………」
その様子をエドアルドは顔を顰めて鋭く見つめていた。
「さぁ、謝罪は充分だよ。だが、次は無いから…」
小さく告げた言葉にエドアルドは聞き漏らさずギリッと知らず奥歯を噛み締める。
「…はい、申し訳ございませんでした。」
リリアンヌはなんだかこう、空気が重くないかな?あれ?
と内心首を傾げて二人を見ていたが「では、行こうか」とラファエルに促され彼の顔を見上げる。
先程まで感じていた冷たく張り詰めたような、少し恐ろしく感じた表情はいつもの優しい王子様の表情へと変わっていた。
リリアンヌは安堵して頷く。
「はい。エドアルド様、それでは失礼致します。アンに宜しく」
ニッコリと笑顔で告げればエドアルドも笑顔で頷き手を振った。
そんな様を遅れてやって来たアネットは商店の柱の影から食い入るように見つめていた。
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