地味に転生していた少女は冒険者になり旅に出た

文字の大きさ
29 / 32

討伐戦

しおりを挟む
今回の討伐戦の鍵となる神武器シリーズの盾をエタンが手にし、いよいよ今日、ダンジョンに潜る。

ちなみに、なぜエタンが持つことになったのかと言えば、この神武器シリーズの盾は魔力を流すと透明の巨大なシールドを張る。最前線に立つもの達の中でもエタンの魔力量はずば抜けて多かった為エタンが所持する事になった。

冒険者ギルドが緊急収集をし、たくさんの冒険者が集まったが、やはりエタンの魔力量は群を抜いていた。
討伐戦での成功報酬と強制的に歪な進化をもたらす『狂暴化』した魔物や魔獣の魔石や部位は希少な素材となる。それを目当てにした冒険者達がたくさん詰めかけてきた。
緊急事態であり、国から長距離移動用魔法陣の使用が認められている為、国内外の腕に覚えのある冒険者達がたくさん集まっている。

ざっと二百を超える冒険者が集まり、更に騎士団の小隊も討伐に参加する為、中隊以上の規模だ。
二つの部隊に別れダンジョンを進む。そのうち一つの部隊はエタンが率いる事になっている。
もう一つはアンバンシーブル騎士団の中でも、最強の精鋭部隊の隊長であるアドンが指揮を執る。

王都支部のギルドマスターと要塞都市のギルドマスター、更に近隣のギルドマスター達が送り込んできた最上位、高ランクの冒険者が率いるパーティや、このダンジョンに詳しい古参の冒険者パーティが参加している。

更に…

「………イチイさん、宜しく御願いします。」

鎌鼬のイチイさんは疾風の鎌鼬のスキル持ちでギルドマスターから借り受けた神武器シリーズの一つバハムート(世界魚)のヒレや骨が使われたガントレット『神武器シリーズ、嵐神ガントレット』を手に填めている。

いつもの眠そうな顔からはまるで考えられない冷徹な眼差し。怒りに突き動かされる様に荒ぶる獣、イチイさんがガントレットを填めた拳を振りかぶって宙を舞い激しく叩き込む。

途端に凄まじい衝撃波が来た。

爆風による突風に煽られ巻き上がる風に目を細める。

「……っ」

みんな足に力を入れ踏ん張っているようだが知らぬ間に爆風により周囲にいた冒険者が吹き飛んでいる。

まったく、とんでもない威力だ。
透明な膜に亀裂がはいり、更にその奥の巨大な石の扉にまで届く程の威力で。


直後、ペキペキっと亀裂が縦横無尽に入り、巨大な石の壁が崩れ落ちた。

「何吹き飛ばされてんだ」

不機嫌。それ以外に言い表す言葉は無いだろう。イチイさんの低い声に高位ランクの冒険者達が悔しげに立ち上がり駆け寄ってくる。「イチイが怖ぇー。アレ本物か?別人じゃねぇか」などと無駄口を叩く冒険者を瞬時に殴ったイチイさんが周囲を見回す。

「行くぞ!さっさと片付けてアンジュを食わなきゃ、マジで俺が世界を破壊しそうだ」

物騒この上ないな、イチイさん。
あれだけ、俺は番とか知らねぇし~って言ってたくせに。
実は昨日、他の地方の冒険者ギルドの受付嬢が助っ人としてやって来たのだが。どうやらその女性がイチイさんの番だと言って珍しく真剣な顔をしたイチイさんが助っ人の受付嬢に迫っていた。

あちらもあちらでイチイさんを見て何かを感じたらしく、コクコクと頷きイチイさんの想いを顔を真っ赤にして受け入れていた。

そんなことがあった翌日である今日。
この討伐戦を最短で終わらせると言って目を血走らせ珍しく最前線に居る。
もちろん。覚醒したイチイさんが。

覚醒する獣人は先祖返りだけではなく上位種にもけっこう存在するようだ。だが、かなり珍しい事であるらしい。
幻の種族とも言われる鎌鼬。それが覚醒したとなるとその威力は桁外れだ。
番を前にすると獣人の本能が剥き出しになり、その際膨大な魔力が膨れ上がると言われている。要するに興奮しすぎてタガが外れたのだ。

そんな幻の鎌鼬が覚醒すると嵐の属性が追加されるらしく神武器シリーズの嵐神のガントレットはイチイさんの属性と相性が良いと言う事で所持者は要塞都市の冒険者ギルドマスターであるらしいが今は彼が使っている。

そんな訳で、イチイさんの目が珍しく開いていた。
赤茶のいつもはもじゃもじゃ頭が今日は緩く波打ち、今まで糸目だった紫の瞳が強い意志を宿して疾風の鎌鼬に相応しい素晴らしく軽やかで、それでいて素早い動きで狂った魔獣を撃ち払う。
そんなイチイさんの姿に討伐戦が始まった当初は女性冒険者達が見蕩れて使い物にならなくなっていた。

「………お前だけは俺の仲間だと思ってたのに……イチイ!許さん!」

と合流地点でイチイさんに斬りかかって行ったマッシモさんの姿にみんなが呆れていたが。マッシモさんの仲間にしばかれ渋々大人しくなった。

今回マッシモさんは、自分がリーダーをしている冒険者パーティ『漆黒のブラーヴ』のメンバーを連れて参加している。

合流地点に来たマッシモさんはイチイさんを二度見する程、彼の変わりように衝撃を受けていたようだ。

まぁ、あの変わりようは詐欺だと言いたくなるよな。と、そう思える程、イチイさんの纏うオーラは変わっていた。

『番』それはまるで劇薬か呪いの様だ。

番を見つけた獣は、獣の本性を剥き出しにして番を得る為にもがき、番がもし応えない場合は狂うと言うが。
番を見つけた時点できっと俺達は狂っていたんだ。


「クリス」
その名を呼ぶだけで気が昂る。彼女を自分のものにしたくて気が触れそうだ。

そんな狂った獣がどれほど桁外れの強さを持つのか。隣国は理解していなかった。それがあの国の敗因だ。

国に全て報告した為、国境線は既に獣人の国、ジャストゥ王国の騎士団に包囲されている。
唯一の抜け道である魔の森も相当数が警戒に当たっているはずだ。

攻め込んだ瞬間にあの国は終わるのだ。



ダンジョンの七階層は洞窟になっており岩の魔物や巨大な蜘蛛が襲って来た。

ロックゴーレムとも呼ばれるこの岩の塊は知能は低いがとても頑丈で、頭にある核を砕かねば停止しない。

アンバンシーブル騎士団のアドン達は蜘蛛、自分達はロックゴーレムの方へと分かれて討伐戦が始まった。

ロックゴーレムは巨大な石の塊だが、その動きは素早い。
ドゴーン!と言う派手な音と共に地面が陥没した。
凄まじい威力によって舞い上がった砂埃のせいで視界が悪くなる。

その隙をつき巨大な蜘蛛が糸を張り巡らせ冒険者達を絡め取っていく。

「うわぁぁぁぁあ!?」

蜘蛛の糸が冒険者達を巣に引き摺りこもうとする。
しかし─

「お前ら雑魚に構ってる暇なんかねぇんだよ!!」

「流石イチイさん」

疾風の刃によって全ての糸を切り竜巻で雑に仲間達を回収したイチイさんが「一瞬でロックゴーレムを粉砕する様な人に言われたくねぇ……」顔を引きつらせる彼は「見つけた。お先」と言い置いて姿を消した。
イチイさんに神武器シリーズの盾は必要ない。更にここに集まっている連中にしても今のところ必要性を感じ無い。
多分この盾の力はラスボスで使う為にあるのだろう。


下の階に行けば行く程禍々しい瘴気が漂いだしあちらこちらで爆音が轟く。


「……へぇ、岩の悪魔が更に禍々しく進化したらしいな」

いよいよだ。

赤く光る岩の悪魔の目がギロリと俺達の姿を捉えた。

「どう進化しようが関係ない。狩る側と狩られる側。それは変わらない。」



漸くラスボス戦に突入だ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...