上 下
14 / 30

14

しおりを挟む
回想していたマクシミリアンが現実に返り、クリスティナの姿を捉え、瞳を揺らす。

「あの……マクシミリっ…きゃっ!?」
何が何だか分からないと戸惑い、見上げた瞬間にマクシミリアンに横抱きで抱きしめられ悲鳴を上げたクリスティナ。

そんな彼女の様子すらマクシミリアンには愛おしいくてたまらなかった。


胸の中に収めた彼女からは柔らかな香りがした。あぁ、この香りを俺は知っている。

愛おしい俺のクリスティナ

「マクシミリアン!おーい!みんなが見てるぞー」

ぐりっと鼻先を埋めるとふわふわした物にくすぐられた。更にぐりぐりとマーキングする様に顔を埋めると堪らなく愛おしい匂いが俺の中をいっぱいにした。

「ダメだこりゃ…おい、なぁ?ライナス、もしかしてマクシミリアン、クリスティナの頭の匂い嗅いでないか?……明らかにマーキングしてやがるよな?龍種のマーキングって事は、やっぱり、そうだよな?」

「はぁぁー、くそっ(羨ましい!俺だってミーナにマーキングしてぇのに!)」

ダグラスの呆れた声とライナスの心の声がだだ漏れなため息がどこか遠くに聞こえた。

ライナスの隣りに立っていた令嬢がうふっと笑い、ライナスの腕に手を置き何やらごにょごにょと話している。
その隣に立っていたダグラスは苦笑いを浮かべ頷いていた。

「マクシミリアン様?あの、下ろして下さい!マクシミリアン様?正気に戻ってください!…もう!!どうしてこうなったのよ。
ダグラス、なぜ笑ってるの!どうにかしてよ!」

胸の中からあたふたと顔を出して叫ぶクリスティナが自分以外のオスの名を呼んだ事が気に食わず、マクシミリアンは自分に意識を向けさせるべく「クリスティナ」と彼女の耳元で名を囁いた。
クリスティナが腕の中でピキっと固まる気配を感じマクシミリアンは満足する。

「マクシミリアン隊長、恋人にぞっこんッスね。龍種は愛が重いって聞きますけど。まぁ、種族関係無く、あれだけ可愛かったら仕方ないですけど」

「くっそぉ!せっかく可愛い子を見つけたと思ったのに!マクシミリアン隊長の恋人かよ!?俺だって恋人が欲しいんだよー!!」

隊員達が羨ましげにマクシミリアンを見ながら言った。

周囲は当然、クリスティナをマクシミリアンの恋人か婚約者だと思った様だった。なんせマクシミリアンは龍種なのだ。女性に自らマーキングするなど、彼女は自分の者だと知らしめる行為だ。

そんな事にも気づくことなく、マクシミリアンはクリスティナの匂いを堪能すると言う変態行為を続行していた。最早単なる変態である。

バコっ!
「…っ、痛え」

いい音が鳴り、漸くマクシミリアンは我に返った。

「人前で盛るな」

ドスの効いたダグラスの言葉にマクシミリアンは首を傾げる。
まるで変態でも見るような眼差しがマクシミリアンに向けられていた。


目の前にはダグラスとライナスが呆れた顔で立っている。

ダグラスの片手には警棒が握られており……

まさか、あれで俺を殴ったのだろうか?と手を頭にやろうとして、ようやく意識が自分の腕の中の存在に向かった。

俺の腕の中には、ふにっと柔らかい感触があり、とても好ましい匂いがした。

「…は、離して下さい。マクシミリアン様」

マクシミリアンはビクッと我に返り、身を固くしている自分の腕の中の存在に意識を向け…理解したくない現状を理解した。
久しぶりに愛しい番の匂いを嗅いでしまった為、酩酊状態になったのかもしれない。

だが、そんなのは言い訳だ。

彼女が目の前に居る。

抱きしめて、口付けて、愛を囁き、愛を請いたい。
その欲求に抗え無かっただけなんだ。


「……………」

呆然と彼女を見下ろすと、宝石みたいに綺麗な紫の瞳と目が合った。

「……悪い」

マクシミリアンは顔を顰めて一歩後ずさった。
顔を真っ赤に染め、涙を浮かべてこちらを睨むクリスティナが、どうしようも無く可愛くて。
手を降参とばかりに上げた。

しかし、彼女の顔がくしゃりと歪み、マクシミリアンが狼狽えた瞬間、彼女が走って逃げて行く。

「クリスティナ!」

マクシミリアンは瞬時に走り出す。

しかし扉を出た瞬間、足を止めた。
クリスティナの姿を探し辺りを見渡すがクリスティナの姿は何処にも見当たらなかった。

完全に逃げられた。

ああ、やらかした。
何をやっているんだ俺は…









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… 6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

処理中です...