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ある時、魔法訓練所でマーガレットが、実は少し前からマクシミリアン様に近づくなとクリスティナが脅して来る様になったと告げてきた。

しかもその時、クリスティナはマーガレットに対し、禁じられた悪魔の力と呼ばれる闇魔法で攻撃を仕掛けてきたのだと。
とても恐ろしかったと涙を流すマーガレットは嘘を言っているようには見えなかった。
マーガレットは証拠も有ると小さな魔法石の欠片を俺に見せて来た。
それは砕けた守護魔法石。

白い石に刻まれた赤黒い攻撃跡。

その禍々しい魔力を感じるその攻撃跡からは闇魔法の痕跡と共にクリスティナの魔力が感じられた。

その後、マーガレットはクリスティナから受けた被害をマクシミリアンに相談してくる様になった。

彼女の話が本当ならば、一刻も早く証拠を掴まねば。闇魔法を連発するなど悪魔付き以外考えられない。悪魔付きは直ちに捕えなければ被害は広大し、取り返しのつかない事になってしまう。

それまでに聞いたクリスティナの噂はあまり良いものでは無かった。
美しさを鼻にかけ傲慢な態度で庶民を見下す。
マーガレットから相談された内容によりマクシミリアンの中でのクリスティナの印象は高飛車でヒステリックな女になっていた。

でも結局はマクシミリアンはクリスティナばかりを見つめていた。
クリスティナが気になって仕方無かった。だからこそ、自分は彼女に近付かない様にした。

けれど、結局は抗えなくて。

ふとした瞬間に盗み見た彼女の魅力的な笑顔に、彼女の跡をつけて知った心優しい性格に、嫌でも惹かれてしまう。

周囲の男達が彼女の魅力に引き寄せられる様に近付く度、殺気を放ち、牽制してしまう。

そんな俺を見たマーガレットは、俺は悪魔の力を使ったクリスティナに誑かされているのだと言い。
俺の力になりたい、貴方の唯一になりたいと言って来た。

マクシミリアンは「お前では無理だ」と素直に告げた。
本能的に感じるのだと。

「そんな!!で、ですが。わたくしにはわかるのです!わたくしとマクシミリアン様の魔力は相性が良いはずです!」

その時、漸くマクシミリアンは気づいた。
マーガレットは子爵家の出身だった。彼女は先祖返りである龍種の俺の生態を、伴侶に関する一般的な竜種と、先祖返りである龍種との違いを、知らないのでは無いかと。

竜種と龍種の違いは、その能力と伴侶の決め方だろう。

属性や魔力、性格や種族の違いから竜人達には相性と言うものがある。

魔力の相性の良い者にアプローチをするのが竜種だ。

竜種は伴侶にオスの鱗を口内に押し込むと鱗はメスの体内に溶け、両者は互いの唯一の伴侶となり、他者との交わりが出来なくなる。

他の異性に魅力を感じたりもしない。
互いだけが発情の対象となるのだ。
けれど、もし片割れが亡くなれば鱗の効力は消えるのが竜種の特徴だ。

対して龍種は竜よりも魔力や身体能力が高く、伴侶に対する執着が異様に強い。

龍種には運命の伴侶、唯一と呼ばれる存在がいる。生まれた時からそれは定められているのだとも。

龍種の唯一に対する執着は深く、鱗を口内に押し込むと互いの魂まで繋げてしまう。

伴侶となった瞬間に、オスは番を巣に隠し自分だけのものにしてしまうのだ。
対する伴侶も龍種の執着や欲望を全て受ける事に喜びを感じる性質らしい。

現にマクシミリアンの母や高位貴族の妻が公の場に姿を表す事は滅多にない。

同性ならまだしも異性に妻の姿を見せる龍種などいないのが現状だ。

マクシミリアンはそんな龍種特有のオスの本能を出す父の姿が幼い頃から嫌いだった。

優秀な父上が母上の事となると途端にダメな大人になってしまうのだ。マクシミリアンの父は龍種の中でも妻となった唯一に対する執着が強過ぎて、時には二人の息子であるマクシミリアンにすら殺気を向けていた。

マクシミリアンは祖父に聞いたことがあった。俺は父の様にはなりたくない。唯一などと俺の意思を無視した伴侶など欲しくもない。
唯一以外を伴侶にはできないのかと。

「出来なくもない。唯一では無い娘を見初め、伴侶とした龍種も中にはおった。だが、龍種の本能的な部分が大抵の娘を弾いてしまうだろうよ」

マクシミリアンはそんな祖父の言葉に「ならば俺は自らの花嫁を探し出してやる」と答えた。

確かに今までマクシミリアンが自分の伴侶に迎えようと、自分の側に寄り添う事を受け入れようと思える女性など見つからなかった。

龍種は他の竜種よりも身体能力や魔力、感覚に優れている為、その相性なども直ぐにわかってしまう。

このメスを番に出来るかどうか。

そんな事実を簡単にマーガレットに語りつつ、マクシミリアンはクリスティナをチラリと見た。

アレは俺のものだ。


掠めた独占欲に深くため息が溢れた。きっと俺は今、母上を見る父上と同じ眼差しでアレを見つめているのだろう。

その欲を孕む眼差しをマーガレットが見ていた。マクシミリアンは知らず彼女の怒りに火をつけたのだ。

その翌週、あの疫病が猛威を振るい。

そして疫病の原因がわからずに王宮も教会も頭を抱えている頃、女神が教会に降臨した。



女神は告げた。

邪悪な悪魔の力を使い、疫病を広めた者がいると。
その者が埋めた根源を見つけ出し、それを砕かねばこの疫病は止まらない。

ひとつは見つけ出し砕いたが、根源は複数存在するはずだと。

その時に寄越された根源に使用された魔法石からはマクシミリアンが良く知る魔力の痕跡があった。

女神が大罪人の名を告げる。

ドクリと胸が嫌な音を立てた。

チガウ、ソンナハズハナイ

キノセイダ



女神が告げた名前を
マクシミリアンは絶望の面持ちで聞いていた。


「クリスティナ・ファンファーニ」

女神が告げたその名前を、マクシミリアンは脳内で全力で否定した。

「嘘だ、違う」

クリスティナはその日城に来ている所を拘束された。

そしてその日、マクシミリアンの母が疫病によって突然息を引き取った。

父は魂が抜けた様になり、母上の遺体を海に還し自らも海に沈んで行った。
弟のウィリアムを祖父に任せ、マクシミリアンはその足で王宮に乗り込んだ。

許せなかった。母の死が、父の死が、耐え難い憎しみがマクシミリアンを支配する。

クリスティナは豪華な貴族専用の牢に入れられていた。

大罪人は死刑だとマーガレットが署名を集め、もう間もなくクリスティナの死刑が確定するだろう。
死刑囚は大抵若い女なら兵士達に嬲られ犯される事を知っていたマクシミリアンは清々すると、そう思ったはずだった。

しかし実際には煮えたぎる怒りに身を任せ、処刑にするなら罪人を高値で買い取ると陛下に交渉し、許可をもらい。
その瞬間、クリスティナの元に向かい、彼女の髪を乱暴に掴んで、気づくこと自分の屋敷に連れ帰っていた。


アレに触れるな。あれを犯して良いのは俺だけだ。


本来なら、大罪人を売買する事も、私的に処刑する事も許されない。

もちろん勝手に連れ去ることも。

しかし、それが龍種の伴侶となった、公爵家の俺の伴侶になったものだったら?


簡単に死なせるものか。

怒りに支配され、俺は狂い出した。

全てがまるで悪夢の様だった。

あの日俺がめちゃくちゃに犯した、無実の罪人は、俺のただ一人の、俺の愛すべき、慈しむべき相手だった。

本当なら、彼女は俺が生涯をかけて慈しみ、愛し。ずっと大切にするべき俺のかけがえのない伴侶だったのに。

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