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「なんだと!?そんなバカな…どけ!」
「殿下どうぞ落ち着いて」
「煩い!」
ざわざわとザワつく会場が一瞬で静まり返った。
王族は時に偉大で時に愚かだ。けれど貴族は彼らが偉大であれ愚かであれその声に耳を傾け従う。
しかし、その愚かな王族が陛下では無く、替えのきく王族であれば王族であれ、たちまち貴族達の食い物にされ潰される。
如何にして這い上がるか。如何にして取り入るか。如何にして失脚させるか。
自分の思うがままに。まるでチェスを指す様に。残酷な物語を作り上げるのも良い。悲劇の物語、悲惨な物語、絶望の物語。
けれど、初めて人の笑顔を見たいと感じた。苦痛に歪む顔でも、絶望に涙する顔でも、恐怖に歪む顔でも無く。
俺が唯一、笑顔を、笑い声を、幸せに緩んだ頬を想像した初めての人。
君が望むならば、全ての人を不幸にしてあげよう。
君が望むならば、全ての人に希望を与えよう。
君が俺を望むなら。君が俺を受け入れるなら。君が俺に囚われてくれるなら。俺は永遠に君の笑顔を守ると誓おう。
君があんなに甘い匂いをさせるから悪い虫が君の虜になってしまったんだ。
幼少期、俺は『私』になり、『グエンダル殿下の側近』になった。
騎士団で頂点に立てば私は『グエンダル殿下の側近』から切り離され『騎士団総団長』になる。
そうすれば『不要な先妻の息子』から『公爵家当主』となり、幼少期に散々折檻をして私を奴隷と言って笑っていた女を好きに始末する権利を手に出来る。
自由を昔は欲していた。だが時が経つ毎に私の心はひび割れ砕け散り空虚な空洞になってしまった。
痛覚が無くなり、感情も消えた。
しかし、無為に過ぎる時間に飽きてしまった。
罵り、自分の産んだ息子至上主義の女を突き飛ばし乱暴に髪を鷲掴みにゆっくりと恐怖を植え付ける様に女が許しを乞うても許すこと無く失禁するまで背を踏み付け嬲る様に何度も髪を掴み上げ揺さぶった。
夜更けに女の失禁する様を記録した魔道具の存在を仄めかしてやれば女はすっかりしおらしくなっていた。
騎士団でそれなりに実力を持つ者と周囲から認識される様になると私の嗜好は次第に残虐性が増して行った。しかし、それは専ら悪党や魔物を狩る残虐性を隠す必要の無い対象物に向けられていた。
しかし、私は耐え難い飢えと飽きに対象物を増やすのも良いかも知れないと思うようになっていた。
そろそろ人間を辞める時期なのかも知れない。
私はきっと幼少期に心を亡くしてしまったのだろう。
友人が恋愛結婚をし妻を娶る幸せを語るが全く理解など出来なかった。
恋に浮かれ色目を使い容易く股を開くあんな生き物を愛おしい?
殿下の素晴らしさを語り色目を使ったすぐ後で腰を振る様な奇妙な生き物を?
全く高尚なヤツだ。やはり低俗で人の心を持たない私には分からない気持ちなのだろう。
彼女が愛おしい。
そんな顔を見せる友人がどこか哀れで、どこか羨ましかった。
けれど、自分には一生縁のない気持ちなのだろう。
そう思っていた。
「レオナー!これは、これはどういう事だ!」
まるで妻の不貞相手を見つけた様なその顔を不快に感じる自分に驚きとやはりそうだと再認識させられた。
君だけが、俺の心を動かしてくれる。
俺の心が死んでいなかった事を感じさせてくれる。
それが嬉しい事だと気付かせてくれる。
君だけが私の良心。君だけが俺の心。
「これはグエンダル殿下。如何なさいましたか?」
「…っ貴様!恍けるな!
なぜ貴様がユリアの婚約者になっている!」
「おや、流石はグエンダル殿下。お耳が早いですね。先程ユリアから了承を頂けたので正式に婚約を結ぶ事が出来ました。陛下から、くれぐれも、ユリアを離すな…とのお言葉を頂いた所です。」
先程正式に陛下から教会を通した婚約の誓約書にサインを頂いた。
「呆れるほどの用意周到ぶりに恐ろしくなるが…」と言われたが、この日を逃すつもりは無かった。
他国の王族の介入や、利用価値の上がったユリアを私利私欲に使おうと考えた輩に奪われる前にさっさと動いてユリアを絡め取ってしまわなければならないと、今日という日の為に並々ならぬ気合いを入れていたのだから。
「くっ、ユリアはどこだ!今、どこにいる!」
この方は、本当に思考回路が単純だ。失脚を狙う男の前で数々の失態をこうも晒すなんて。
そう呆れながらもレオナーはゆっくりと、心からの笑みを浮かべ背後を振り返る。
美しいユリア。君はもう既に俺の檻に囚われているんだよ。
「騒がしいぞ、グエンダル」
「ち、父上!」
ユリアの手を引く陛下の姿にグエンダルの目が驚愕に開かれた。
その背後にはユリアの両親や私の父がいる。既に物語は次の章に進んでるんだ。しかも君が、いや、正確にはリュジェンヌ様が失脚する章に。
「殿下どうぞ落ち着いて」
「煩い!」
ざわざわとザワつく会場が一瞬で静まり返った。
王族は時に偉大で時に愚かだ。けれど貴族は彼らが偉大であれ愚かであれその声に耳を傾け従う。
しかし、その愚かな王族が陛下では無く、替えのきく王族であれば王族であれ、たちまち貴族達の食い物にされ潰される。
如何にして這い上がるか。如何にして取り入るか。如何にして失脚させるか。
自分の思うがままに。まるでチェスを指す様に。残酷な物語を作り上げるのも良い。悲劇の物語、悲惨な物語、絶望の物語。
けれど、初めて人の笑顔を見たいと感じた。苦痛に歪む顔でも、絶望に涙する顔でも、恐怖に歪む顔でも無く。
俺が唯一、笑顔を、笑い声を、幸せに緩んだ頬を想像した初めての人。
君が望むならば、全ての人を不幸にしてあげよう。
君が望むならば、全ての人に希望を与えよう。
君が俺を望むなら。君が俺を受け入れるなら。君が俺に囚われてくれるなら。俺は永遠に君の笑顔を守ると誓おう。
君があんなに甘い匂いをさせるから悪い虫が君の虜になってしまったんだ。
幼少期、俺は『私』になり、『グエンダル殿下の側近』になった。
騎士団で頂点に立てば私は『グエンダル殿下の側近』から切り離され『騎士団総団長』になる。
そうすれば『不要な先妻の息子』から『公爵家当主』となり、幼少期に散々折檻をして私を奴隷と言って笑っていた女を好きに始末する権利を手に出来る。
自由を昔は欲していた。だが時が経つ毎に私の心はひび割れ砕け散り空虚な空洞になってしまった。
痛覚が無くなり、感情も消えた。
しかし、無為に過ぎる時間に飽きてしまった。
罵り、自分の産んだ息子至上主義の女を突き飛ばし乱暴に髪を鷲掴みにゆっくりと恐怖を植え付ける様に女が許しを乞うても許すこと無く失禁するまで背を踏み付け嬲る様に何度も髪を掴み上げ揺さぶった。
夜更けに女の失禁する様を記録した魔道具の存在を仄めかしてやれば女はすっかりしおらしくなっていた。
騎士団でそれなりに実力を持つ者と周囲から認識される様になると私の嗜好は次第に残虐性が増して行った。しかし、それは専ら悪党や魔物を狩る残虐性を隠す必要の無い対象物に向けられていた。
しかし、私は耐え難い飢えと飽きに対象物を増やすのも良いかも知れないと思うようになっていた。
そろそろ人間を辞める時期なのかも知れない。
私はきっと幼少期に心を亡くしてしまったのだろう。
友人が恋愛結婚をし妻を娶る幸せを語るが全く理解など出来なかった。
恋に浮かれ色目を使い容易く股を開くあんな生き物を愛おしい?
殿下の素晴らしさを語り色目を使ったすぐ後で腰を振る様な奇妙な生き物を?
全く高尚なヤツだ。やはり低俗で人の心を持たない私には分からない気持ちなのだろう。
彼女が愛おしい。
そんな顔を見せる友人がどこか哀れで、どこか羨ましかった。
けれど、自分には一生縁のない気持ちなのだろう。
そう思っていた。
「レオナー!これは、これはどういう事だ!」
まるで妻の不貞相手を見つけた様なその顔を不快に感じる自分に驚きとやはりそうだと再認識させられた。
君だけが、俺の心を動かしてくれる。
俺の心が死んでいなかった事を感じさせてくれる。
それが嬉しい事だと気付かせてくれる。
君だけが私の良心。君だけが俺の心。
「これはグエンダル殿下。如何なさいましたか?」
「…っ貴様!恍けるな!
なぜ貴様がユリアの婚約者になっている!」
「おや、流石はグエンダル殿下。お耳が早いですね。先程ユリアから了承を頂けたので正式に婚約を結ぶ事が出来ました。陛下から、くれぐれも、ユリアを離すな…とのお言葉を頂いた所です。」
先程正式に陛下から教会を通した婚約の誓約書にサインを頂いた。
「呆れるほどの用意周到ぶりに恐ろしくなるが…」と言われたが、この日を逃すつもりは無かった。
他国の王族の介入や、利用価値の上がったユリアを私利私欲に使おうと考えた輩に奪われる前にさっさと動いてユリアを絡め取ってしまわなければならないと、今日という日の為に並々ならぬ気合いを入れていたのだから。
「くっ、ユリアはどこだ!今、どこにいる!」
この方は、本当に思考回路が単純だ。失脚を狙う男の前で数々の失態をこうも晒すなんて。
そう呆れながらもレオナーはゆっくりと、心からの笑みを浮かべ背後を振り返る。
美しいユリア。君はもう既に俺の檻に囚われているんだよ。
「騒がしいぞ、グエンダル」
「ち、父上!」
ユリアの手を引く陛下の姿にグエンダルの目が驚愕に開かれた。
その背後にはユリアの両親や私の父がいる。既に物語は次の章に進んでるんだ。しかも君が、いや、正確にはリュジェンヌ様が失脚する章に。
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